「愚かな奴め・・・・
この俺に抱かれ雄汁を注入されるのが、キサマのような雑魚にとってどれだけの僥倖か理解できないとは。
馬鹿はきらいだ。
消す。」
水に沈んだコンクリの空間は耐えがたい湿気に満たされていた。
黒杭大凱は汗ひとつない涼やかな表情で朝倉の左腕を取った。
右腕は紫色に変色し、だらーんとぶら下がっている。
黒杭に腕を折られた衝撃で、ほぼ気を失いかけている朝倉の眼は虚ろだ。
ただ、ケツだけが恐怖と絶望でピクピクと震えている。
捲れ上がった白い競パンからはみ出るケツタブが、生命の最後の一滴を主張するように、艶やかに光っていた。
「や・・・や、やめろ・・・・・」
今にも朝倉のもう片方の腕を折ろうとしていた黒杭は、壁際の暗がりから聞こえる声に目を向けた。
血だるまの緒方大輔が、這いつくばりながらもこちらに進もうとしていた。
「おまえの・・・・相手は、お、俺・・・・だ・・・・・・」
黒杭は場違いな清涼感をたたえた顔をかしげた。
「ん・・・・・?なんだ?
少し待て。
お前を犯すのはコイツを始末してからだ。」
眉一つ動かさず、掴んだ腕を膝に落とす。
ボキッ・・・・
鈍い音がエコーする。
「大悟ーーっ!!!!」
緒方が叫び、黒杭はゴミを扱うように朝倉をコンクリの床に放り捨てた。
どさっと倒れた朝倉の腕はあり得ない方向に曲がっている。
白目を向いた表情は、もはや意識がないことを物語っていた。
「大悟・・・・大悟・・・・すまん・・・・・」
緒方の血まみれの顔面に涙が混じった。
「おやおや、この男のためにお前は泣くのか?
意味不明な奴だ。
こいつはお前を裏切ったんだぞ。
お前のソ粗末なモノより俺の極マラを選ぶのはしかたないことだがな。
そうか、そんなにもこいつのケツが恋しかったのか。
涙ぐましいな。
てっきり俺にお情けを注入してもらうために地獄から帰ったのかと思っていた。」
匍匐前進する緒方の競パンは捲れ上がり、逞しいケツにギシギシと食い込んでいる。
WASE○Aのマーキングが読み取れないほど歪んでいる。
「そうだ。お前の目の前でこいつを犯してやろう。
知ってるか?こいつはいい声で鳴くぞ。
お前が聞いたこともないような声でな。」
黒杭は朝倉の髪を掴んで上体を立ち上がらせた。
膝立ちにさせられた身体は完全に脱力し、黒杭に掴まれた頭部にぶら下がっているように見える。
黒杭は髪を持っていない方の手を緒方に向かってひらひらさせた。
「ゴールドフィンガーならぬブラックフィンガーだ。」
長くしなやかで、かつ逞しい指が朝倉のケツに伸びる。
中指と人差し指が白競パンの上からケツ穴に突きたてられた。
収縮性のある競パン生地もろとも男道を掘り進む〝黒指〟。
「んああ・・・・」
「ふっ、指技に意識を取り戻すとは。
どこまでも淫乱な豚だ。」
宙を泳いでいた朝倉の眼が、やがて焦点を結んだ。
「大輔・・・・・」
緒方は血と涙と涎でぐしゃぐしゃになった顔で朝倉の視線を受け止めた。
「大悟・・・・大悟・・・・今、助けるからな・・・・・」
コンクリの床を腹這いに進む緒方の競パンは股間部分が擦り切れそうになっていた。
熱く怒張する男根は、摩擦にせいのみだろうか?
「うーむ、いいな、このシチュエーション。
キサマらが愛などという曖昧なもので結ばれているというのなら面白いぜ。
俺が現実的、かつ即物的な力でその繋がりを断ち切ってやるまでだ。」
黒杭の指の動きが激しくなった。
緩急を付けた出し入れ。
第一関節の角度が絶妙に男の核を刺激する。
「んんっ・・・・おおあ・・・・・」
朝倉が顔を歪ませて悶絶する。
競パンのみの下半身は、男の欲情を隠すすべもない。
バックが生地ごとケツに飲み込まれているために、フロントが引き伸ばされ、ビンビンに勃起した男根が完全に形を表出させている。
「緒方、見ろ。
こいつは俺の性奴隷だ。
指だけでこのよがり様だぞ。
俺もこいつのケツは知り尽くしている。
お前よりもな。」
黒杭は自分の股間を緒方に見せつけるように腰を反り返らせた。
黒いティアを透けさせそうなほど、黒杭の男根も活きり勃っていた。
全人類の男を怯ませるに違いない凶暴なマラが、ティアの光沢を伴って淫靡さを増している。
「大輔・・・・逃げろ・・・・・
コイツは人間じゃない・・・・
あ、悪魔なんだ・・・・・」
折れた両腕をブラブラさせ、黒杭の指技に悶絶しながら朝倉が言葉を振り絞る。
「大輔・・・・・・」
「大悟・・・、俺はもう、絶対にお前を離さない・・・・・・」
歯を食いしばる緒方だったが、頭と心はグシャグシャだった。
恋人を巨根一本で奪った男が、今また目の前で同じことをしようとしている。
自らもその餌食となった獰猛なマラが、目の前でドクドクと脈打っている。
俺の勃起は一体何に反応しているんだ!?
エンジの競パンが破け始めたのが男根の感覚で解かった。
ケツの食い込みが足を動かすたびに肛門を刺激する。
「だ・・・大輔・・・・に、逃げ・・・・ろ・・・・んあ・・・・」
涎を流し始めた朝倉は、黒杭の陵辱の嵐に飲み込まれようとしていた。
ただ、目だけは必死で緒方の姿を捕らえようとしていた。
黒杭は髪を持つ手を放し、立ち上がった。
ケツに差し込まれた指が鉤となって朝倉も釣り上げられた。
倒れる上体を支えた黒杭はそのまま朝倉の乳首を強く摘まんだ。
「おおあっ!!!!」
乳首がスイッチだったかのように朝倉が射精した。
全身の痙攣を伴った長い射精が止まった時、朝倉の首がガクッと堕ちた。
ボタボタと滴り落ちるザーメンを見て、緒方は強烈な既視感に捕われていた。
またしても目の前で犯られてしまった・・・・・
また助けられなかった・・・・・
凄まじい無力感に、緒方は気を失いそうになった。
(だめだ・・・・ここで倒れたら・・・・・こいつを・・・・・黒杭を・・・・・許せねえ・・・・・・)
緒方を現実に繋ぎとめるのは黒杭への憎悪のみだった。
朝倉は再び放り捨てられ、小便に沈む権田に重なって倒れた。
「さて・・・・、お待たせしました。
次はお前を犯ってやる。
もちろん指なんかじゃなくて、これを使ってやるぜ。」
黒競パンの上から巨大なモッコリを撫でさする黒杭。
緒方の競パンを後ろから掴むと、グッと引っ張った。
エンジ競パンがケツにあらかた食い込み、ケツ穴を締め付けた。
パシッ
黒杭は逞しいケツタブに一発平手打ちをした。
「うーん、ケツは良くなってるな。
前よりデカいし形もいい。
これは犯りがいがあるぜ。
プロレスはいまひとつだったがな。」
緒方は絶体絶命の状況にも一向に衰えない自分の勃起男根に戸惑っていた。
(俺は犯されたいのか・・・・・?)
ケツに食い込む競パンの刺激が、思考を散漫にさせて自分が掴めない。
黒杭は緒方の腰を抱えて立ち上がらせた。
身体を反転させ、ベアハッグを完成させた。
交差させた腕は緒方の競パンを掴み、Tバック状になったスピードを一層ケツに食い込ませる。
「競パン越しの兜合わせは最高にエロいだろ?」
「おああっ・・・」
悪夢に何度も現れ、緒方を苛み続けた悪魔の男根が、今2枚の薄い競パン生地越しに自分のマラと接触している。
男根の熱さと腰への強烈な圧迫で、緒方はエビ反りになって悶えた。
「おらおらっ!」
黒杭が身体を揺さぶるたびに男根が擦れる。
(く・・・くそ・・・んああっ・・・・・い・・・イッテたまるか・・・・おあ・・・・・・)
心とは裏腹に、緒方の身体は限界を超えていた。
射精と失神の時ははすぐそこまでやってきていた。
「そこまでじゃ。」
突如響き渡る声。
黒杭が目を向けると、3人の男が立っていた。
二人はウェットスーツ姿。
中心の男はグリーンの競パンだった。
顔は3人とも老人。
だが、競パンの男の身体は筋肉がパンパンに張っていた。
「ここは勝負の場ではない。
・・・・・・息子よ・・・・・・」
競パンの老人が言った。
つづく
THPWの事務局は、どんよりとした空気に覆われていた。
誰もが苦虫を噛み潰したような表情で俯いている。
精力的に動き回っているのは二人だけ。
負傷したレスラーの手当てに忙しいラー医師と、もうひとりは田代誠二だ。
「と、藤堂さん、お疲れ様でした。
足、大丈夫ですか?
あ、あの・・・・
こんな時になんですけど・・・・
きょ、競パン・・・・
僕の競パン返してもらってもいい・・で・・・すか?」
イ・サンウの水中四の字で痛めつけられた足を、さらにサソリ固めで折られる寸前だった藤堂。
ついには射精までしてしまい、救出された後もずっと無言だった筋肉男が顔を上げた。
「あ?お、おう・・・・
競パン、貸してくれてありがとな・・・・
これ、ちょっと汚しちまってな・・・
洗って返す・・・」
「いいんです!
洗わなくていいんです。
それ、ください。
今脱いで下さい!」
大岩があきれ顔で田代をつつく。
「誠ちゃん、ザーメン競パンが欲しいんだろ?
でも今はちょっとやめときなよ。
藤堂さんも疲れてるんだし。」
「そ、そうだよね・・・・
すみませんでした。藤堂さん。」
「いや、いいんんだ。
でもホントにいいのか?
こんな汚れたやつで。」
藤堂は無理やり穿いていたサイズの小さいアシックスを脱ぎ始めた。
「だいぶ伸びちゃったかもな・・・・」
足を痛めた藤堂は座ったまま競パンをずり下げていく。
皮膚に張り付いている時には透けていたハイドロCDが、本来のピンクを取り戻す。
藤堂の雄汁の臭いと塩素臭がぷーんと立ち込める。
苦労して脱がされた競パンは、藤堂の体温で軽く湯気が出ていた。
「あ、ありがとうございます!」
田代誠二は目をキラキラさせて藤堂の射精競パンをジップロックに入れた。
「変態。」
大岩が睨んでいるが、こればっかりはしょうがない。
「ごめん・・・瞬。
でもこんなお宝をゲットするチャンスを棒に振れないよ。
さて、と。
お次のお宝は・・・・
桜井さんのは破られてグドーが持ってっちゃったし・・・・
權田さんの失禁パンツはさっき回収したし・・・・
そうだ!
あれだ!」
いそいそと立ち去る田代と入れ替わりにラーが現れた。
「まったく・・・・
なんだよーあいつはー。
ボクの手伝いでもしてほしいよー。
でー?
藤堂ちゃん、足どう?」
ラーは先刻応急処置をしておいた藤堂の足の包帯を外しにかかる。
「だいぶ痛みは引いたようだ。
ラー先生のおかげだよ。」
「またまたー、皮肉を言わなくてもいいよー。
それよりもー、藤堂ちゃん、アレでしょー?
出しちゃったのは。」
ラーのいつにない真剣な眼差しに、藤堂も真面目な表情になった。
「うん・・・・そうだ。
アイツが・・・・
鮫島がいたんだ。」
「そっかー・・・・」
ラーがうなだれる。
藤堂とラーは、鮫島によるトラウマを克服するべく特殊な療法に取り組んできた。
今回の藤堂の射精は、それが無駄だったということになるのだろうか。
「いや、先生、治療の成果はあったよ。」
「えっ?」
「確かに俺は鮫島の姿を見てぶっ放しちまった。
でも、それは今までのとは違うんだ。
上手く言えないんだが…・
なんというか、能動的な射精というか、鮫島にやられちまったっていう感じではないんだ。
それに、鮫島があそこに現れたのは、実は俺を助けるためだったような気がするんだ。」
「助けるー・・・?」
サンウに足を折られそうになっている藤堂に、紫のモッコリを見せつけて去っていった鮫島。
あれのどこが助けるための行動だったというのか。
「まー・・・・
ボクにはハッキリ言って解からないけどねー。
でもー、藤堂ちゃんとサメっちの関係性がー、すこし変化したのかもねー。」
ラーは微笑むと包帯を取りかえ始めた。
「ちょっとー!センセイったらー!
もう、こんな時にアタシを呼ばないってどういうことー!」
突如けたたましい声が、重苦しい雰囲気の部屋に入ってきた。
「ゴリ子ーっ!?」
ピッチピチの看護師服を着たバルクマッチョ坊主はラーの後輩だった。
「ゴリとラーはスペクトルマンの時代から一心同体でしょー!」
ゴリ子は風貌とは裏腹に非常に優秀な看護師だった。
実にテキパキと、傷ついたレスラーたちの手当てをこなしていく。
意外な再会があった。
ゴリ子は、山の特訓場のオネエトリオの一人と男子高時代の同級生だったのだ。
桜井の周りにたちまち黄色い会話の花が咲き乱れた。
「やれやれ・・・・」
桜井は雑音に辟易しながらも、部屋の雰囲気が明るくなったことに安堵していた。
そして腫れあがった睾丸をさすりながら、自分の世界に埋没していった。
グドー・・・・
恐るべき奴だった。
あらゆる金的攻撃に対応するべく訓練を積んだ俺の金玉が、アイツのクローで潰されかけた。
あの快感・・・・・
これまでのものとはまったく違う。
もし今、アイツが目の前にいたら、俺は股間を突きだして言うだろう。
掴んでくれ、と。
もう一度・・・・もう一度アイツに掴まれたい。
俺の金玉力の全てをかけて、アイツの急所クローを受けてみたい。
たとえ男の核を握り潰されたとしても・・・・
腫れの引かない睾丸が疼きはじめ、桜井の陰茎は膨張していった。
「やだー!
桜井ちゃん、なにボッキさせてんのー!?
もしかしてゴリ子のヒョウ柄パンツに興奮?」
「アラ、透けてたかしらー?やだわー。」
看護師がケツを突きだし、白いズボンにブリーフラインを浮き立たせる。
キャー!と一層盛り上がるオネエたち。
「本当ですか!」
オネエの喧騒を凌ぐ大声は田代誠二だ。
「緒方さん、その競パン、僕にくれるんですか!?
やったー!
その大学マーキング競パン、オークションでもすっごく高いんですよね!
しかも緒方さんの直穿きだよ!
チョー嬉しいっす!」
「そんな奴のパンツが欲しいのか!」
オネエも黙る険しい声が響き渡る。
藤堂だ。
「だいたいそいつは俺らの仲間なのか?
なんでこの部屋にいるんだよ?」
部屋の隅の壁にもたれかかった緒方は顔を上げない。
「救急車で地上の病院に運ばれた朝倉は、黒杭側の人間だろ?
こいつも朝倉とセットじゃないのかよ?」
腰にタオルを巻いた権田がよろよろと立ち上がる。
「藤堂・・・・
違うんだ・・・・
ちょっと複雑な事情があるんだ・・・・」
「権田さん!
いくら権田さんの言うことでも俺は納得できません!
コイツは俺や桜井を見捨ててったんですよ。
そりゃ、俺たちが情けなかったのかもしれないけど、もし仲間だったらあれはないでしょう。」
桜井は無言で目を伏せる。
オネエ達のおかげですこし明るくなった部屋が、再び剣呑な空気に支配された。
「最終決戦の段取りが決まった。」
新たな風を運んできたのは部屋に走り込んできた長谷部だった。
つづく
「ここは勝負の場ではない。
・・・・・・息子よ・・・・・・」
競パンの老人が言った。
顔はお爺さんなのに身体はバルクマッチョ。
そのアンバランスさが卑猥だ。
この筋肉翁はもちろんライディーン竜崎だ。
「・・・・
アンタに息子と呼ばれるのは居心地が悪いな。
この俺が、手淫の残滓と狂人から生れ出たことを想い出してしまう。
そっちこそ、まさかショートタイツに擦りつけたザーメンが俺のような悪魔になるとは思っていなかっただろうに。」
黒杭大凱は、瀕死の緒方から視線を3人の爺さんに移した。
「確かに。
ワシの遺伝子は強靭な筋肉の情報は伝えても、精神までは遺せなかったようじゃ。
おぬしがあの獣人から生まれたのは6月6日午前6時。
ワシが黒杭からおぬしの存在を初めて聞かされた日じゃ。
あの時、現実から逃げたことを悔やんでも悔やみきれない。」
「オウ!メーン!
俺を殺したかったかのような口ぶりだな。
酷い親父だぜ。
だが俺は生まれた。
現代のダミアン・ソーンとして。」
ウエットスーツの老人のひとりが前に出る。
「大凱、お前は最強だ。
緒方大輔など指一本で殺すことが出来る。
儂は、あの時竜崎のタイツをキ○ガイの性器に擦りつけたことを誇りに思っている。
儂の行動が無ければお前はこの世に存在しなかったのだからな。
あれはまさに天啓だったのだ。」
「天啓なものか。
奈落が仕掛けた罠にまんまと引っかかっただけだ。」
もう一人のウェットスーツが吐き捨てる。
言い争う二人は黒杭嘉右衛門と鷲号だ。
「このクタバリゾコナイが、儂に懸想しておったくせに何を・・・・」
「若いころの私のなんと愚かなことよ!
タイムマシンに乗って殴り飛ばしに行きたいわ。」
竜崎も参戦する。
「ワシは警告したんじゃ。
黒杭は信用できんぞ、と。
それをおまえは聞かなかったから・・・」
ジジイどもがガヤガヤと口論を始めた。
「ウルセーッ!」
黒杭大凱の一喝で老人たちが静かになる。
「アンタら何しに来たんだ?
俺はコイツを犯すとこだったのに、邪魔しに来たならさっさと何処かへ行ってくれ。」
ウホン…
竜崎が咳払いして場を整えようとした。
「そうじゃった。
ワシらは大事なことを伝えにきたのじゃ。
THPWと黒杭の決着は、しっかり会員の前で着けるべきだとな。
ここはカメラも入っておらん。」
黒杭組長も口をはさむ。
「大凱、もはやブラックパイルは勝利したも同然だ。
国も会員リストさえ渡せば、この地下施設は儂らに譲ると言っている。
緒方を完璧に葬って手ごめにするのは客の前でやるのが望ましい。
一種の儀式(セレモニー)としてな。」
黒杭大凱は目を伏せ、黙り込んだ。
そして振り返り、うつ伏せに倒れる緒方を見つめた。
エンジの競パンが捲れ上がり食い込んだケツがヒクヒクと痙攣している。
「・・・・・・
解かったぜ。
お楽しみは待たされた方が喜びが増幅するものだしな。
だが、今俺のいきり立ったコレは処理しとかないとな。」
黒杭大凱は反失神状態の緒方の顔に馬乗りになった。
そして黒い生地が透けそうなほど盛り上がった股間を、顔面に押し付けた。
「緒方ーっ!
これが俺の雄汁の味だ!
想い出したかーっ!
うおおっ!」
野太い喘ぎ声と共に、黒い競パンから真っ白な粘液が噴きだした。
「おぅらーっ!
いっぱい出たぜ!
俺様の雄汁で顔面パックとは、お前は贅沢な奴だな、おい!」
黒杭のザーメンが緒方の失神顔になすり付けられた。
黒杭大凱が部屋を去った跡、警察の潜水班が緒方と朝倉と権田を、水中から搬出した。
両腕を折られた朝倉はそのまま地上の病院に直行した。
水上では、藤堂と桜井も助け出され、吊り下げられていた太助も救出された。
「・・・
大輔・・・・
死なないでくれ・・・・・
アイツは・・・・
黒杭は・・・・もう・・・・
に、人間じゃないんだ・・・・・・
大輔・・・・・だ・い・す・け・・・・・・・」
救急車の中で意識を取り戻した朝倉大悟は、うわごとを呟きつづけた。
そして、ギンギンにテントを張った白い競パンの中に大量に射精すると、再び失神した。
白い精子、白い競パン、白い救急車・・・・・
真っ白な世界の中で、赤色灯だけが血のような赤を鳴り響かせながら、都会の夜を疾走していった。
つづく
長谷部から知らされたTHPWとブラックパイルの最終決戦の概要はこうだ。
5対5の勝ち抜き戦。
5人の戦士を先に倒した方が勝ち。
控え選手の試合介入はNG。
ただしリング外はその限りではない。
凶器の使用は基本認められる。
10カウントKO、失神等による戦闘不能状態をレフェリーが見た目た場合、の2点のみで試合が決する。
射精は何度しても敗けにはならない。
会場は地下施設メインリング。
ブラックパイルのメンバーはすでに発表されていた。
先鋒 不破晃司
次鋒 グドー
中堅 イ・サンウ
副将 鮫島周星
大将 黒杭大凱
5人が5人ともTHPWのファイターをリングに沈めたことがある。
不破はポリスマン向井を「華の間」にて下した。
緒方大輔のリングでの初射精もこの男が関与している。
グドーはレスキュー太助、桜井勇治の急所を弄んだ。
サンウと藤堂の試合も、事実上サンウの勝利と言っていい。
鮫島は藤堂を絞め落とし、地下プロレスを追わせた張本人だ。
そして黒杭は緒方大輔に完全勝利し、地下施設をTHPWから奪い取った。
つい最近の対戦でも緒方を歯牙にもかけず、その強さを見せつけた。
(はあぁ~・・・・)
田代誠二は内心ため息をついた。
(全然勝ち目無いじゃん・・・・)
大体、THPWには戦士を5人擁立することさえ難しい。
權田は、朝倉との対戦による負傷が思いのほか深刻で、おそらく無理。
向井はまだ入院中。
それに、
(なんだって鮫島がブラックパイル軍にいるんだよ?)
誠二は唇を噛んだ。
もともと光の戦士としてTHPWに招かれたのでは?
(やっぱりあんなやつ信用しちゃダメだったんだ。)
THPW事務局では、皆が決戦の概要のコピーを見つめて黙り込んでいる。
誠二は恐る恐る藤堂を見た。
藤堂はレジュメから顔を上げるところだった。
そしてびっこをひきひき長谷部の元に向かった。
「俺を鮫島と当たるようにしてください。」
新垣や権田と話していた長谷部が振り返る。
「・・・・・大丈夫か?」
黙って頷く藤堂。
「鮫島の前にサンウもいるぞ。」
包帯でぐるぐる巻きになってミイラ男のようになっている権田が呟く。
「権田さんの心配はごもっともです。
でも、サンウのことも含めて、俺は今度こそ鮫島と決着を着けたい。
これは、THPWのため以上に、俺自身の闘いなんです。」
藤堂、鮫島、サンウの複雑な三角関係はリングの上で解消されるのだろうか?
「俺は・・・・
俺はグドーとやりたい。」
桜井が独り言のようにつぶやく。
「俺の全金玉力を賭けて、アイツと闘いたい。」
早くも半勃起になって爛々と眼光を発する桜井の後ろで、オネエトリオが涙ぐむ。
「そうよ・・・桜井ちゃん。
アタシたちが鍛えた金玉はゼッタイ負けないんだから!」
長谷部は桜井を見据えて力強く頷いた。
「アイツに対抗できるのはお前だけだ。」
しかし・・・・
と長谷部は内心頭を抱えた。
こちら側で戦力と呼べるのは、藤堂、桜井、そして・・・・
そして緒方だけだ。
たった3人で5人の強敵を相手に勝つことができるのだろうか?
しかも3人は手負いの状態だ。
「俺が行きます!」
大岩瞬だ。
「解かってます。
俺がブラックパイルのレスラー相手にならないことは。
でも、藤堂さんたちが闘う前に少しでもダメージを与えられたら・・・・
長谷部さん、お願いします!」
大岩の相方である田代誠二は驚いた。
「瞬!
だめだよ!
殺されちゃうよ!」
「誠ちゃん、俺も男だ。
行かなきゃならないんだ。」
「瞬・・・・・・」
泣き崩れる誠二の肩に手を置いて、大岩は長谷部に向き直った。
長谷部は黙って頷いた。
(大岩・・・死ぬなよ・・・・)
だが、まだ4人だ。
「俺は闘えるぜ!」
陽気な声に皆が振り向く。
ポリスマン向井だった。
常にキメキメで颯爽と登場する向井。
今回もそのヒーロー然とした姿を想像した一同は落胆した。
權田以上のミイラ男状態の包帯、松葉杖すらついている。
ただ、そんな状態でもネイビーのショートタイツ姿だった。
「お願いだ。
俺も出してくれ!
あのヤク中野郎に一矢報いなきゃ警察の威信が保てねえ。」
長谷部は首を振った。
「向井、退院おめでとう。
だが、そんな身体で試合は無理だ。」
地下施設の廊下を、コツコツと靴音が近づいてくる。
足音にさえ年季と威厳が備わっているような大きな影が、事務局のドアを開ける。
「ワシが闘う。」
ライディーン竜崎翁だった。
地下プロレス最終決戦。
THPWのメンバーが決まった。
先鋒 大岩瞬
次鋒 桜井勇治
中堅 フラッシュ藤堂
副将 ライディーン竜崎
大将 緒方大輔
つづく
THPWの地下道場リングで、もう何十分も首ブリッジを続ける男。
ダークレッドのショートタイツは緒方大輔だ。
黒杭大凱にやられた身体中が痛む。
その痛みによって自分を戒めるかのように、緒方は体重を痛覚に合わせて移動させた。
(あいつは強い・・・・俺よりもはるかに・・・・)
緒方の人生は、己を強くするための道のりだった。
男の筋肉が発する、野性の記憶、本能の源。
その美しさに魅せられ、虜になった。
ミケランジェロが石の塊から超絶肉体美を掘り出すように、緒方は己の肉体を理想の型枠にジャストフィットさせるよう肥大させ、そぎ落とした。
完璧な肉体はそれ自体思想を持つ。
形だけは整っても、それが作為的な重りだけを相手にしてきたものなのか、男同士の筋肉をぶつけさせてきたものなのか、発せられるオーラで解かる。
緒方の男道は自然とプロレスに向かっていった。
肌と肌が直に触れ合い、互いの体液にまみれつつもつれ合う。
男にしか理解し得ない激烈な興奮、崇高なステージ。
ステージ・・・・
そう、プロレスは闘う姿を人に見せるものだ。
闘いを娯楽として他人に提供しようとした時、そこに生じるドラマチックな演出。
それにはだた単に相手を叩き潰すより、ずっと高度な身体能力が要求される。
相手の技を受け、傷つく自分を美しく見せる。
このあまりに人間的で雄々しい行為が、プロレスを単なる格闘技とは一線を画す要素となっている。
そこに、さらに男の情欲という側面に光を当てたのが地下プロレスだ。
地下プロレスラーとして生きていくことで、緒方の肉体は艶を増していった。
理想の「男」に近づいていく実感を得ることが出来た。
最強で最エロの男へ。
黒杭大凱が現れるまでは・・・・
黒杭に敗れ、リング上で犯された時、緒方は知ってしまった。
圧倒的な力に征服される悦びを。
自我が崩壊するほどの屈辱がもたらす淫靡な快楽を。
東京湾に沈められるところを田代誠二に助けられ脱出した夜。
氷のような海を必死で泳いだ時、緒方の胸に去来したものは何だったか。
黒杭大凱に対する怒り、憎しみ、そして・・・・・
自分が敗残者になってみて、絶対許せないと思っていた朝倉大悟への気持ちに揺らぎが生じた。
悪魔の男根に突かれ苛まれた朝倉は、地獄に引きずりこまれたのだ。
自分はそれを救わなければならなかったのに・・・・
俺は理想の男になどなっていなかった。
近付いてすらいなかったのだ・・・・
全裸で岸にたどり着いた緒方は、早朝にたまたま行われていた寒中水泳の一団から赤褌を拝借し、集団に紛れた。
「オーウ!ジャパニーズ・フンドシ!グレイト!」
写真撮影を求めてきた外人の観光客にケータイを借り、長谷部に連絡した。
そして山の特訓場に身を隠し、一から己を鍛えなおす日々が始まった。
朝から晩までショートタイツで過ごし、男の感度を研ぎ澄まさせた。
自然を相手にする特訓は、緒方の野性を存分に引き出した。
ショートタイツは擦り切れ破れ、穿けなくなると街からパセリが呼ばれた。
タイツ職人のパセリの採寸は精緻を極める。
「緒方ちゃん、すごいな~!前よりチンコが大きくなってるよ。
測るたび大きくなってく。
大きさだけじゃなくて、形も・・・・
エロくなっていってるよ。」
普通の人間なら一瞬で失神しそうな水圧の滝に打たれながら、緒方の男根はショートタイツの中でビンビンに怒張した。
(待っていろよ・・・・黒杭・・・・・・!)
満を持して臨んだはずの黒杭との再対戦は、
最悪の結果となった。
まったく反撃できなったばかりか、またしても朝倉大悟を目の前で汚された。
強大な力に踏みにじられる自分の姿を俯瞰して、緒方の股間は熱くなる。
ブリッジで反り返った汗だくのタイツが、盛り上がった男根の部分だけ体液が蒸発し乾いている。
(俺は結局、奴の慰み者でしかない存在なのか・・・・?)
マットに広がる汗だまりに、人影が映った。
ライディーン竜崎だった。
「やっぱグリーンかな~。」
パセリが持ってきたタイツの生地のサンプルを見て大岩瞬がはしゃぐ。
「俺はいつもはブルーなんだけど桜井さんとかぶっちゃうだろ?
緑が若々しくていいんじゃないかな。
レスラー・ファーストの理念を掲げて、みたいな。」
ちょっとした躁状態の大岩に、田代誠二は泣きたくなる気持ちをグッとこらえた。
「うん!瞬にはグリーン、似合うと思うよ。」
(瞬・・・・絶対無事で帰ってきて・・・・・・)
「アイツはもはや改造人間の域に達しておる。
超成長水という悪魔の薬品を、黒杭は開発したのじゃ。
それに浸かると、人間の潜在能力、特に男の部分を最大限に高めることができるのじゃ。
大凱は一日の大半を超成長水の中で過ごしている。
無論、そんな薬品が人体によかろうはずもない。
だが、ヤツは魂を悪魔に売り渡したのじゃ。」
竜崎はショートタイツ姿だった。
軍隊色を思わせるモスグリーンのタイツはモッコリを野性的に見せている。
とても老人と思えない張りとボリュームのある筋肉。
顔と声だけが爺さんなのが不気味で、同時に卑猥な雰囲気を醸し出していた。
竜崎はタイツにたくし込んでいた小さなボトル容器から液体を手に取ると、ペタペタと身体中に塗っていった。
「この歳になると保湿がかかせなくてな。
アンチエイジングは面倒だが、はまると楽しいものじゃの。
じゃが、大凱はやりすぎじゃ。
人の領域を逸脱しておる。
まあ、そもそもアイツはヒトとして生まれてこなかったのかもしれんがな・・・・・」
ブリッジを止め、汗の水たまりに正座する緒方に向かって、竜崎は話し続ける。
「実は・・・・、儂は大凱の種となった射精を覚えておるのじゃ。
試合の後、昂った状態でタイツの中に射精をするのはあの頃の儂の習慣じゃった。
対戦相手の肌の感触、嗜虐的な眼の光、儂の股間に注がれる観客の視線、そういったものを想い出しながら至福の時を過ごしたものじゃ。
じゃが・・・・
あの日、射精の瞬間、儂の視界が真っ黒になったのじゃ。
目を瞑っていたからではない。
いつもはむしろ真っ白く脳内にはじけるような感覚の中で絶頂を迎えるのじゃが、あの日は漆黒の闇じゃった。
胸騒ぎを覚えた儂はザーメンの付着したタイツをほうり捨てその場を立ち去った。
まさか嘉右衛門の奴がそれを基地外の局部になすり付けるとは・・・・」
竜崎はしばらく一点を見つめて固まっていた。
やがて顔を上げ、正座をする緒方を真っすぐ見た。
「アイツの責任は儂がとる。
じゃが、儂一人では無理かもしれん。
緒方、おぬしに儂の究極の技を伝授する。」
竜崎がリングに上がり、緒方の眼前に逞しい下肢が近づいてきた。
ほのかに加齢臭がした。
つづく
真っ白な空間。
キューブリックのセットを思わせる影の無い部屋。
床にも光源があるのだろうか。
ただただ白く広い部屋の中央に、黒くそびえ立つのはマルチ・トレーニング・マシン。
無機質な冷たい風景の中、生命体の気配を空しく発するのは不破晃司だ。
ここは黒杭組のウェイト・トレーニング・ルーム。
はあっ・・・くっ・・・・・はあーっ・・・・・・くっ・・・・・
不破の荒い息遣いは、音響を制した室内でどこにも跳ね返ることなく、白い空気の中に散っていった。
迷彩柄のビキニパンツとスニーカーのみで黙々とベンチプレスに励む不破。
大胸筋が、この部屋の有機物の象徴であるかのように躍動する。
汗の吸収能力の飽和に達したビキニパンツから滴が落ちる。
ピシャ・・・
僅かな音に反応した掃除ロボットが、これまたささやかな機械音をたてて床を滑るように近づいてくる。
ういーん
地上のルンバによく似たロボットが、あっという間に不破の汗を除去する。
まるで生命の痕跡を消すように。
まおーん
壁の一角が奇妙な音とともに四角く切り取られた。
そこから入ってきたのは黒杭大凱だ。
光沢のある漆黒のビキニパンツ。
「大凱さん・・・・!」
不破はベンチを直ちにやめ、黒杭の元に走っていった。
滴る汗をロボットが忙しなく追いかける。
「仕上がりはどうだ?」
黒杭に言葉をかけられたことに舞いあがる不破は、黒杭の前に跪き、上気した顔を上げた。
「バッチリ・・・い、いや・・・完璧です。大凱さん。」
黒杭は無表情のまま不破を見下ろす。
「そうか。」
やにわに、黒杭は不破の金髪を掴んで自分の股間に押し付けた。
「ふんぐっ・・・」
不破は、黒杭大凱のモッコリに自分の顔面が触れていることに歓喜し、そして慄いた。
地球上のあらゆる雄の頂点を勝ち取るためのリーサル・ウェポン。
薄ーい布を隔てたそこに在るモノは、禍々しい神器だった。
「コウジ、今度の決戦では期待しているぞ。
お前のイカれた感性を思う存分発揮するがいい。」
ビキニパンツの中の〝モノ〟が直接脳内に語りかけている・・・・。
不破にはそう感じられた。
「ただし・・・・・
不甲斐ない試合をしたら、お前を消去する。」
えっ・・・・!?
思う間もなく、黒杭はビキニパンツをずり下げ、怒張した〝モノ〟を不破の喉深く突き刺した。
「んぐぅっ!」
あまりに巨大なモノが、錨のように口内に根を張り、不破の顎は完全にロックされた。
苦痛と恐怖で、涙が溢れる。
だが、同時に鼻腔内を暴力的に刺激する野性の臭いと、味蕾がひれふすほどの〝モノ〟の味に、不破の男根は瞬く間にフル勃起し、迷彩パンツの柄を歪ませた。
「お前は悪の使途たるレスラーなのだ。
それ以外存在価値はない!」
黒杭が腰をグラインドさせる。
〝モノ〟の錨に捕らえられた不破の首が左右に振られる。
次第に大きくなる腰のうねり。
遂に不破は身体ごとブンブンと振り回されていた。
首を守るため必死で頭を両手で押さえる不破。
(こ、この方は・・・・本当に神なのか・・・・!?)
陰茎一本に振り回される木の葉のごとき己の身体。
常軌を逸した男根式ジャイアント・スイングに、不破の思考は停止し、あっというまにトランス状態となった。
(ああっ!大凱様!ああああっ!俺を、俺を食ってーっ!)
迷彩ビキニの盛り上がりの先端から夥しい量のザーメンが吹き出した。
汗の一粒もない黒杭が呟いた。
「壮行の気持ちだ。受け取れ。」
〝モノ〟が一瞬さらに膨張したかと思うと、不破の構内に熱い液体が抽入された。
ずぽっ!
不破の口が〝モノ〟から抜け、部屋の隅に飛ばされていった。
「俺の味を忘れるな。」
〝モノ〟を黒ビキニにしまった黒杭が去ると、壁はふたたび閉じた。
ういーん
ロボットが飛散した精液を回収に回る。
バキッ!
不破の鉄槌が機械を破壊した。
「神のエキスは俺のものだ・・・・・」
不破は白い床に飛び散った白い液を求めて、床を這いずり舐め回った。
「ぐおぅーっ!」
リンゴがくしゃっと握りつぶされた。
大きな拳から果汁を滴らせているのは玉砕坊主グドーだ。
白い越中ふんどし一丁だ。
足元はおろか、10畳ほどのその部屋は、様々なものが散乱していた。
ガラスの破片、プラスチックの破片、何やら機械。
そのすべてが破壊されたなにかであったのだろう。
ミカンやリンゴなども原型をとどめず、その甘ったるい匂いで判別できるのみだ。
四方の壁一面に設えられた棚に、グドーの「餌食」が置かれている。
グドーはそれを次々と手に取り握りつぶしていた。
胡桃を二つ、しばしグリグリと弄んだあと、バキッと音を立てて握りつぶした。
「好調なようだな。」
グドーが振り向くと、いつの間に入ってきたのか黒杭大凱が黒ビキニ姿で立っていた。
「俺の金玉を握れ。」
黒杭が無表情で言う。
「うぬ・・・握れというなら喜んで握ろうぞ。」
グドーの手が黒ビキニの豊かな膨らみに伸びた。
大きな掌があと1㎝で急所に、と言うところでぴたっと止まる。
「・・・・・・・・・」
「どうした?ほら、握れよ。」
黒杭が股間を突きだすとグドーの手も下がる。
グドーは黒杭の急所を見つめたまま大汗をかいている。
「なんだ?俺の玉を握れないのか?
玉砕坊主のが泣くわ。」
「うんぬ・・・・・っぐぐ・・・・・・」
グドーは伸ばした右手に左手を添えて金玉を握ろうとする。
(うう・・・、何故俺はこの金玉を掴むことが出来ないのだ?
あのそそる膨らみを見よ。
実に潰しがいのある玉だというのに・・・・・
だが・・・だがこの玉は・・・・・
なんという不吉なオーラを発しているのだ?
うぐ・・・手が伸びん。
俺の身体が拒否している。逃げろと警告している。)
「お前は役立たずなようだな。」
黒杭の無表情が、目の色だけ変化した。
びくっ!
グドーは部屋中の空気が一変したことを察知した。
充満する殺気。
(ダメだ・・・・逃げることなど不可能だ。)
「ソモサン!」
グドーの右手がついに黒杭の急所を掴んだ。
「おおっ・・・・」
声を漏らしたのはグドーだった。
(な、なんだ?この感触。
あああっ!すごい!
全身がとろけるようだ。
この玉を潰したい!)
極上金玉の握り心地にグドーは我を忘れて右手に力を込める。
指の形に睾丸がひしゃげていくのが解かる。
(ああっ・・・たまらない!
雄の証を破壊するこの感覚!
そして己の雄が潰される恐怖に悶える男の表情・・・・・
・・・・・・?)
グドーは目を疑った。
玉を潰されんとしている黒杭は、眉一つ動かしていない。
「な、ななな・・・ん・・で・・・」
すると、指に伝わるタマの感触が変化した。
指を押し返している・・・・?
キンタマが・・・・・?
あれよと言う間に黒杭の睾丸は鋼鉄のような硬度になっていた。
「ぐぐっ・・・・!どんな術なのだ・・・?」
鉄の塊を空しく握り続けるグドーの手を、黒杭は振り払った。
「まあまあ気持ち良かったぞ。
その調子で奴らのタマを握りつぶせ。」
呆然とするグドーを残し、黒杭は部屋を去った。
褌の中に盛大に射精していることに気付いたのは、数分後だった。
つづく
グレーのグラデーションがカーテンのように垂れ込める空。
黒い点がポツンと現れたかと思うと、見る間に大きくなっていった。
雲を切り裂いて落下してくるのは、あれは・・・!?
緒方大輔と黒杭大凱だ。
全身を鎖でグルグルに巻かれた緒方を逆さに抱える黒杭。
緒方の後頭部は丁度黒杭の黒タイツの股間に当たっている。
タイツはグッショリと濡れ、信じられない大きさの盛り上がりをヌラヌラと淫靡にテカらせている。
ビクビクと落ち着きなく動くモッコリから、カウパー氏腺液が止め処もなく溢れ出しているのだ。
緒方のダークレッドのタイツのケツに埋められた黒杭の顔は、表情こそケツに阻まれ伺えないものの、その眼光が至高の喜びに満ち満ちているのが解かる。
緒方の股間は・・・・
きっと何度も射精したのだろう。
タイツの赤が見えなくなるほど白い粘液がべったりと付着していた。
そして、今もなおフル勃起状態でショートタイツに卑猥な突起を形作っている。
半開きの口からは涎がすごい勢いで上空に吹き飛ばされている。
白目を向いた眼は、緒方の意識が危ういことを物語っていた。
凄まじい速度で落下しているはずの二人の様子が、こんなに克明に見えるのはどうしてだろう?
視点は一定せず、まるで画面が切り替わるモニター画像を見ているようだ。
落下する二人を見上げる位置に視点が戻る。
黒い点がぐんぐん大きくなる。
まもなく墜落だ。
ここは・・・・?
ここはリング?
周りは奥行きも定かでない白い空間だ。
空中に浮かんでいるかのような不思議なリングに自分はいる。
ドガシャーンッ!!!
自分の立ち位置に戸惑っている間に二人がリングに激突したようだ。
チェーンで拘束された緒方が、文字通り脳天杭打ちの形でリングにめり込む。
その光景はスローモーションで、緒方の吐く血反吐の飛沫までハイビジョンで捉えていた。
黒杭の狂気に満ちた、それでいて獲物を仕留めた雄の、興奮と冷徹さが一体となった獣の眼光まで。
ズゴーンッ!!!!
隕石の落下のような衝撃が後からやってきた。
リングは二人の衝突点から波紋のように崩壊していった。
バラバラと降り注ぐリングの破片。
瓦礫に半ば埋もれた全裸の男が見える。
下半身は複数の男のものと思われる夥しい量の精液にまみれている。
その表情から意識は無さそうだが、陰茎は激しく勃起している。
あれは・・・・あれは俺だ・・・・・・・
がばっ!
悪夢から目覚め跳び起きた藤堂猛は、ゼエゼエと荒い呼吸だった。
特訓場の煎餅布団は汗でぐしょぐしょになっている。
(な、なんなんだ今の夢は・・・・・・?)
「どうしました?随分うなされていたみたいですが。」
隣では桜井勇治が青いタイツのまま仰向けに横たわり急所マッサージを受けていた。
揉んでいるのはラーの弟子のマッチョ看護師、ゴリ子だ。
日夜激しい「金トレ」に励む桜井は、睾丸のメンテナンスにも気を抜かない。
男の精巣を熟知するゴリ子は、桜井にはうってつけのトレーナーとなった。
「うーん、この大きさと硬度はなかなかいいわね。
順調よ。桜井ちゃんのタマタマ。
でももうちょっと柔軟さもほしいわ。
あんまり硬すぎると逆に耐久性が落ちるもの。
あ、ゴメンナサイ。
お話を邪魔しちゃったかしら。」
ゴリ子の的確な施術により、桜井の青タイツは盛大に盛り上がっていた。
「藤堂さん、寝言を言ってましたよ。
オガタ、オガタ・・・・って。」
「俺が・・・・?あんな奴の名を・・・・?」
あいつを仲間とは認められない。
藤堂の胸の内には緒方に対する不信感がつのっていた。
だが・・・今の夢は・・・・
まさか俺はあいつを心配しているのか?
それとも・・・
あの夢は虫の知らせ・・・・正夢・・・・・
藤堂は、太助から託されたオレンジタイツの股間にそっと手を置いた。
自分のモノは、ビンビンに勃起していた。
桃の花が香る美しい広場で、大岩瞬は一心不乱にスクワットを続けていた。
可憐なピンクの花に囲まれて、新調したグリーンのタイツが若々しく映える。
はっはっ・・・と規則正しい呼吸、乳酸のたまり具合が心地いい。
イメージするのは古いビデオで見た地上のレスラーのトレーニング風景。
ハワイだかサイパンの海辺で、黒い超ビキニでスクワットをするガチムチ野郎。
子供心に衝撃を覚えた映像だ。
ケンスケはエロいなー。
ああいう固太りのボディーって、男らしさがムンムンでむせちゃいそうだよ。
おんなじDEBUでも、相撲取りチックな毬っぽい身体は最悪だもんな。
おまけに白かったりするとキモくて・・・・
まあ性嗜好はそれぞれだけど、俺はごめんだな。
ケンスケの日焼けしたガチムチボディーに抱かれる夢想で何度ヌいたことか。
大岩がトレ中に雑念を抱くのは、無心になろうとすると、ある考えが心を支配してしまうからだ。
リング上でぼろ雑巾のように叩きのめされ、陵辱される自分の姿。
圧倒的な雄の力を見せつけられ、敗残者として身体を汚される惨めさ。
しかも、それを俯瞰するのは自分の意識だけではない。
誠二が、自分の愛する者がそれを見るのだ。
おっと危ない・・・・ケンスケのあのビキニは際どかったな~
チン毛とか剃ってたんだろうな。
後輩に剃らしてたりしたかな。
その場合は後輩はチンコつまんで持ったりしたよな。
ケンスケ、勃起したかな・・・・・
「不安だよな。」
大岩の夢想を断ち切るように声をかけたのは、桃の木立から現れた朝倉大悟だった。
松葉杖を突いているが、白いタイツ姿だった。
山の特訓場に入る男はショートタイツしか身に着けることを許されない。
大けがを負っていても、レスラーならばなおさらだった。
「愛する男の前で、他の男に犯される屈辱。
しかしそこに潜む淫靡な快楽の罠。
並みの男には耐えられない。
俺は良く知っている。」
淡々と語る朝倉の端正なマスクには、以前には見られなかった陰が浮かぶ。
かつて地下の練習場で、緒方と朝倉と大岩と3人で笑い転げた日々が大昔のようだ。
大岩はスクワットを止め、思わず込み上げた涙を拳で乱暴に拭った。
「俺は・・・・
俺はたとえ陵辱の限りを尽くされたとしても、心は誠二にあります。」
「甘い。
お前、犯されるだけでなく殺されるぞ。
このままでは。」
「ぐ・・・・」
大岩は心の奥底に封印していた恐れを突かれ絶句した。
「大岩、もう俺の事なんか信用できないかもしれない。
だが、一度だけ俺に仕事をさせてくれ。
お前には絶対生きて戻ってきてほしいんだ。」
大岩はもう溢れる涙を止めることが出来なかった。
「大悟さん。俺はずっと大悟さんを信じてたっす。」
「瞬・・・・」
さーっと吹いてきた春の風に、桃の花弁が二人を囲んで渦を巻いた。
「俺の必殺技をお前に伝授する。」
運命の決戦まで、あと一週間だった・・・・・
つづく
「いよいよ明日、黒杭との最終決戦に臨むため、地下に乗り込む。」
山奥の特訓場のメイン・リング、コンクリ打ちっぱなしの箱型の建物内で、長谷部が宣言した。
長谷部も掟に則って黄色いショートタイツ姿だ。
アスリートには程遠い中年体形ではあるものの、がっしりとした骨太な体格のせいか、リアルな男のエロさを醸している。
「光の戦士の5人には、ここで最後の儀式に参加してもらう。」
ライディーン竜崎翁が頷き、後を続ける。
「この戦いは、男の情念のぶつかり合いじゃ。
最期には、より貪欲に性をさらけ出し貪った者が勝つじゃろう。
敵は化け物並みの、いわば絶倫獣じゃ。
しかし、我々の雄性がそれに勝てないはずはない。
おぬしたちのプロレスに寄せる溢れんばかりの情念を、今こそ解き放つのじゃ。
この道場が設立された当時の、〝雄の儀式〟を今夜執り行う。」
かつて地下プロレスの神と謳われたライディーン竜崎。
顔だけ老人で身体は筋肉マン。
長い白髪と白い髭の効果で一層神がかった風貌の竜崎の言葉を、
緒方、藤堂、桜井、大岩は神妙な面持ちで聞き入っている。
4人の背後の壁際には、鷲号や権田、朝倉をはじめオネエトリオ、ラー、ゴリ子、新垣、そして包帯姿の向井と太助、カムイとパセリも、もちろん田代誠二、その他の地下プロレスラーたち、THPWの関係者全員が揃っていた。
もちろん、皆ショートタイツ姿。
パセリが徹夜続きでで全員分作ったのだ。
「ここにいる全ての者が心を一つにして立ち向かわなければ、強大な悪には勝てん。
今宵、〝白き血判〟を皆に記してもらう。」
竜崎翁の合図で、戦士たる5人がリングに上がる。
「それでは、・・・」
「あっと、すみません!忘れてました。
特別な人をお呼びしてたんだった。」
竜崎は儀式の開始を遮られて少しだけ憮然とした表情になった。
口を挟んだのは長谷部だった。
「も、申し訳ありません。
でも、彼を連れてくるのに犯罪スレスレまでやったんで・・・・」
長谷部の合図で道場に入ってきたのは、阿木銀次郎だった。
「銀次郎・・・・!?」
「オマエ!な、なんでここに・・・・!?」
桜井と藤堂が驚きの声を上げる。
フロントに「酒」と染め抜かれた白いタイツ姿の銀次郎が頭をかく。
「いや~、配達中にいきなりクスリ嗅がされてバンに拉致されて・・・・
酒屋の営業妨害だよな。
でも、長谷部さんに事情を聞かされて、俺は来なくちゃって思った。
桜井・・・・、オマエ、やっぱり自分の道を見つけたんだな。
ホント良かった。
でも・・・大変なことになっちゃってるんだっけ・・・
大丈夫!オマエなら乗り越える。
俺はお前の強さをよーく知ってる。」
「銀じ・・・・ろ・・・」
桜井の頬を大粒の涙が伝う。
「おー、藤堂!久しぶりだな!
お前とのあの雨の絡み合いは忘れられねーぜ。
今だにネタにしてるぜ!がはは!」
地上メジャー団体を蹴って、たった一人地下プロレスに身を投じた桜井。
銀次郎を連れてきたのは、桜井をスカウトした長谷部の気持ちだった。
「おい長谷部、段取りが台無しじゃわい。
まあよい。
この際、儀式の前に皆心の内を語り合うのもよいかもしれん。
いや、これも立派に儀式の一環じゃわい。」
一旦リングに上がった戦士たちが、皆の輪に入っていった。
抱き合う桜井と銀次郎。
「おー、オマエそのタイツどうしたんだよ?」
「なんかパセリとかいう人が勝手に作ってくれてたみたいなんだよ。
ショートタイツは初めてだったから、ちょっと照れるな。」
「あら、ちょっとー。
アナタが地上で桜井ちゃんのタマタマを弄んでたヒト?
やだー、いい男じゃないー。
嫉妬しちゃうー。
過去に嫉妬するオカマよ、アタシは。」
たちまちオネエ軍団に囲まれる銀次郎。
「ちょっといいか?」
カムイが藤堂のタイツを引っ張って隅に連れていく。
「これ、鮫島から・・・・・」
カムイが手渡したのは、紫の小さな布だった。
「こ、これは・・・?」
「鮫島のタイツの股間部分。」
藤堂の顔が見る間に真っ赤になっていく。
「あ、あの野郎・・・・!
どこまで俺を愚弄する気だ!
この期に及んで俺が惑わされると思っているのか!」
カムイは藤堂の眼を真っすぐに見た。
「・・・・いや、そういうことじゃないと思う。」
「えっ・・・?」
カムイの眼から涙が一粒落ちた。
どんなときも感情を表にださない能面男が泣いている・・・・?
「カムイ・・・・?」
「藤堂、好きだ。」
「・・・・・!?」
カムイの気持ちには気付いていたのかもしれない。
だが、気付かないふりをした。
何故なら・・・・・
「解かっているんだ、藤堂。
お前の心はいつだって鮫島一色だ。」
「そ、それは違うぜ、カムイ・・・」
「もう誤魔化すな。」
「え・・・・」
「今度の闘いで決着を着けるんだ。
お前の心に。
曖昧な気持ちで挑んだら、お前は鮫島に勝てない。
このタイツの切れ端は、鮫島の送った塩だ。
奴も真剣なんだ。
悔しいけど・・・・・」
「カムイ・・・・」
「嗅げよ・・・・、鮫島の股間の臭いを。」
タイツ・・・・鮫島の・・・・その股間の部分・・・奴の男自身が触れていた部分・・・・・
小さな紫の布を持つ藤堂の腕がわなわなと震えだした。
そしてゆっくりと、鼻に・・・・
「藤堂!
そのタイツ、お前に託したぞ!」
後ろから太助に急に声をかけられ、藤堂はさっとタイツの布を自らのタイツに入れた。
「あ、ああ、太助。
お前のタイツで闘うのは2度目だな・・・・ははは・・・・」
乾いた笑いで動揺を隠す藤堂の股間には、カウパーの染みが滲んでいた。
「竜崎、とうとうこの時が来たな。」
「ああ、鷲号、儂にとっては積年の恨みをはらすチャンスじゃ。」
「・・・やはりお前はあの時のことを恨んでいるのか。
では、私のことも許せないだろうな。
お前を袖にした憎い男。
もしも・・・・もしも時が戻せたら・・・・」
「よせよせ、儂はお前と黒杭がチチクリあってる様を想像して手淫に励んだものじゃ。
ある意味、儂の地下プロレスラーとしての成功は嫉妬の炎によるものじゃったかもしれん。
にしても、おぬしのショートタイツ姿、イタイな・・・・・
なんじゃそのヨボヨボの情けないボデーは。
百何の恋も一辺に醒めるわい。」
「な・・・、し、失敬な・・・・・、私はそもそもレスラーじゃないのだから・・・・」
「ん?この臭いはもしや加齢臭?」
「な、なんだと、この筋肉ジジイめ!」
竜崎は色をなす鷲号の腰をそっと抱いた。
「今度、筋トレを一緒にやろう。
ジジイ・マッチョはこれからの時代、流行るぞ。」
「竜崎・・・・・」
鷲号の男根が、十数年ぶりに疼いた。
加齢臭の風下で苦笑いをする若い二人。
大岩と田代は穏やかな表情だった。
「俺、競パンフェチだけど、自分用のショートタイツって初めてだ。」
「似合ってる。俺とお揃いのグリーンにしたんだな。」
「うん。すごいよ、このタイツ。
前布なしの競パンよりエロい感触だ。」
「パセリさんのタイツだからな。
今度、このタイツ穿いたままSEXしよう。」
「うんうん!やろうやろう!」
抱き合う二人の男根同士がタイツ越しに激しく摩擦する。
誠二の涙は、顔だけでなく股間もびしょびしょに濡らしていった。
お互いの身体を密着させて、皆を微笑んで見守る權田と新垣。
松葉杖を放り投げてポリスマン・ポーズを敢行し、あえなく転倒して皆の笑顔に囲まれる向井。
男根の構造について熱く語り合うラーとパセリ。
酒やオードブルがあったら、まるで男だらけの立食パーティーだ。
リングの裏手、皆から少し離れた場所に、
向かい合う赤いタイツと白いタイツ。
白タイツは松葉杖をついている。
「大輔・・・・」
「大悟・・・・」
時が戻せたら・・・・
鷲号は言った。
だが、決してリセットされない時間の堆積の表層で、
誰もが積み重ねた土壌に足を取られもがいている。
そして新しい地層が生まれ、両足はますますそこから抜け出せなくなるのだ。
人生とはそんなものなのかもしれない。
たとえそうだとしても、今この時を、刹那を生きる男たちにとって、地上にはあくまで澄み切った空があるだけだ。
自らが重ねる時の層は、とんでもない泥沼かもしれない。
でも、それはまだ無いのだ。
時は巻き戻せないと同時に早送りもできないのだから。
つづく
「儀式」が始まった。
リングの中央で向かい合って立つ緒方と藤堂。
静謐な眼差しで藤堂を見つめる緒方とは対照的に、藤堂の視線は刺々しく怒りを秘めているように見えた。
「はじめっ!」
竜崎の合図の声。
二人の筋肉男がショートタイツを脱ぎ始めた。
シューズやニーパッドを着けていないため、タイツを脱ぐと一糸纏わぬ姿となる。
この10日間あまり、特訓場に入ってからは完全には脱ぐことのなかったショートタイツ。
当然洗濯などしておらず、雄の様々な体液を吸い取り続け蓄積させた小さな布。
藤堂は、太助から託され今回の闘いに穿くことを決めたオレンジのタイツを、正面に立つ緒方に手渡した。
緒方からは、ダークレッドのタイツが手渡された。
ほのかに湿ったそれを手にした時、藤堂は図らずも動悸の高鳴りを覚えた。
地下プロレスの新レジェンドの一翼を確実に担う男のショートタイツ。
初めて会った時からこれまでの緒方の振舞いに拭いきれない不信感を持っているとは言え、噂の男の下半身から放たれるオーラには藤堂も唸らざるを得なかった。
あの見る者を惹きつけてやまない股間の膨らみ、間違いなく創造主の作品の最高峰と言える堂々たるケツ。
このタイツは、その一部なのだ。
「次っ!」
再び竜崎の掛け声。
緒方がさっと藤堂から渡されたタイツに足を通す。
その優雅な動きに、藤堂は一瞬我を忘れた。
竜崎の射るような視線を感じ、藤堂は赤いタイツを急いで穿いた。
(な・・・・、ん・・・だ・・・・こ、この感覚・・・・・)
タイツにはまだ緒方の体温が残っていた。
まさに人肌の暖かさで、己の男根に吸い付くようにフィットする薄い布。
ケツノ割れ目に自然に食い込んでくる感触は、まるで生地が意思を持っているかのようだ。
同じパセリ製のタイツなのに、自分のや太助のタイツを穿いたときとはまるで違う。
はっと藤堂は気付いた。
これは緒方のためのテーラード・タイツ。
自分の下半身にぴったり張り付くようでいながら微妙に感じる違和感の正体は、タイツが緒方の男根とケツを記憶しているからなのだ。
この感触は、言わば、緒方の下半身に包み込まれている、そういうことなのか?
藤堂はたちまち勃起した。
ぐんぐんと膨張する海綿体が、タイツの赤い生地を伸ばし、その伸び具合が緒方の勃起男根を再現する。
緒方のマラと自分のマラが擦れ合っているような幻想にに陥っていく。
未体験の快感にクラッっとなりながら、藤堂はかろうじて立ち姿勢を崩さずにいた。
向かいに立つ緒方に目をやると、自分のオレンジタイツを穿いた緒方は、
勃起していた。
藤堂の男根からカウパーが潮吹き並みに溢れ出た。
「タイツは男の闘いの装束。
余分な着衣を省くことで野性を呼び覚まし、また衣を纏うことで人間の人間たる感性を研ぎ澄ます。
生物の雄として、人間の男として、もっとも最適で神聖なアイテムなのじゃ。
そのタイツを共有する。
儀式はそこから始まるのじゃ。」
儀式に先立ち、竜崎は皆にそんな説明をしていた。
男の象徴を守り、飾る、ショートタイツ。
ここに集うものは誰もがそれの持つ崇高な意味を理解していた。
「次っ!」
3度目の合図で、緒方と藤堂の腰は密着した。
先ほどタイツの感触によって疑似体験した男根接触が、ほぼ現実となった。
二枚のタイツ越しに触れ合う二本の男根。
緒方の掌が藤堂のケツをガシっと掴んだ。
より強く擦り合わされるモッコリどうし。
「あおおっ・・・・」
藤堂はあまりの刺激にたまらず声を上げた。
緒方の指がタイツに侵入し、より深く藤堂のケツを掴み揉む。
「ああっ・・・!」
藤堂は知らぬ間に緒方のケツに手を回していた。
ケツ肉を掴むと強靭で柔らかな筋肉が指先を跳ね返す。
「んぬお・・・」
忘我の境地で藤堂は緒方の腰を乱暴に引き寄せた。
兜合わせがより強固に完成された。
「藤堂さん、アンタのプロレス魂が伝わったよ。
タイツを穿けば解かる。
アンタのプロレス道が、男道が・・・・」
この声は・・・・
緒方が喋っているのか・・・?
目を開けると、緒方は軽く眉間にしわを寄せて喘いでいるように見えた。
(緒方が・・・・感じている・・・・?)
さっきの声は一体どこから?
まさか、俺の脳内に直接語りかけてきたというのか?
「ああっ・・・」
緒方の喘ぎ声だ。
緒方が、俺のタイツを穿いて、俺とチンポをこすり合わせて感じている・・・・。
藤堂は、突如自分が完全に理解されたことを知った。
自分が性に目覚めてから、ひたすらプロレスに心血を注いできた今までの道のり。
プロレス人生が、ダイジェストではなく完全なディレクターズ・カット版で超スピードで脳内再生された。
これが・・・・走馬灯?
ぶびばっ!
場にそぐわないお茶目な音を立てて、
二人の筋肉男の密着する腰の隙間から、夥しい量の精子が溢れ出た。
つづく
暗闇に切り取られた輝く入り口をくぐると、そこはリングに一直線に続く花道だった。
ウワーッという大歓声。
何百という目が、自分の身体を品定めする。
ショートタイツとニーパッド、リングシューズのみの姿は、なにひとつ誤魔化すことなく男の身体を見せつける。
男根が、緑色のタイツの中で疼きはじめる。
大岩瞬はプロレスラーとしての喜びを思いっきり享受した。
レスラーの身体は、レスラー自身の男道を文字通り体現する。
このカラダひとつで闘いに臨むのだ。
どうだ、このボディー。
お前ら羨ましいか?
もっと見ろ!もっとため息をつけ!
この地上でもっともエロい姿にひれ伏すのだ!
プロレスラーになった男にしかしか歩くことが許されない、モッコリ・ランウェイ。
この道がたとえ死への滑走路だったとしてもかまわない。
破滅に突き進む男の雄姿はさらにセクシーさを増すのだから。
大岩は昨夜見た夢を想い出す。
ホテルらしいゴージャスなエレベーター。
映画「シャイニング」のワンシーンが再現されているらしい。
あのエレベーターの扉が開くと夥しい血液が溢れだすのだ。
だが、夢の中で洪水を起こしたのは、真っ白い粘液だった。
ザーメンの奔流はカメラに到達し、画面を真っ白く塗りつぶしていった。
「儀式」で大岩は桜井勇治とタイツを取り換えた。
蒼いタイツは生き物のように大岩の睾丸を圧迫し、捻じり、愛撫した。
おそらくそれは大岩の脳が創りだした幻想だっただろう。
だが、プロレスラーのタイツに宿る記憶は、プロレスに生きる男にとって紛れもなく現実だった。
桜井の青タイツを穿き、その桜井にケツを揉まれ、兜合わせに男根が激しく擦り合わされた時、
大岩にもたらされた絶頂感は、己のプロレスラーとしての人生をすべて肯定された悦びだったのではなかったか。
精液にまみれたスパーリング、いや、あれは互いの身体を一体化せんとするがごとく、溶け合おうとする行為だった。
数メートル先では、緒方と藤堂が絡み合っている。
やがて4人は合流し、さらに竜崎が加わり5人はネトネトにもつれ合った。
リングの外にいた男たちがエプロンサイドにズラッと並ぶ。
皆、ショートタイツの股間に手を当て自身の男根をまさぐっている。
そして全員がリング内に射精した。
男達の精液が潤滑油になったかのように、5人はさらに激しく絡み合う。
大岩自身も何度射精したかわからない。
桜井のタイツがケツに食い込み肛門を刺激する。
それはまるで桜井自身の指で菊門をまさぐられているかのようだった。
緒方のタイツを穿いた藤堂の股間に顔を埋める。
倒錯した快楽が大岩の理性を粉砕する。
エプロンに立つ田代誠二と刹那目が合う。
身体の中心から快感が皮膚を食い破って迸る。
いつしか大岩瞬は意識を失った。
夢は、儀式の名残だろう。
俺は生まれ変わった。
もう死ぬことなど恐るるに足りない。
むしろ、リングで殉死してこそ本望だ。
誠二、俺の死に様を見て目に焼き付けろ。
そしていつまでもそれをネタにオナってくれ。
誰よりもエロく散ってやるからな!
リング上に待つのは、薬物によって彼岸に渡ってしまったゾンビ。
不破晃司は股間に髑髏をあしらった黒いロングタイツで獲物を品定めする。
以前よりキレのあるバルキーな肉体はステロイド投与によるものか。
いい色に日焼けしたマッチョボディーは、さながらダーティー・ランボーだ。
カーンッ!!!
地下プロレスの命運を決するゴングが鳴った・・・・
つづく
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