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インディー裏街道①

風に潮の気配がした。
藤堂猛はふと顔を上げた。
埋立地のタワーマンション建設現場。海はまったく見えない。
ここの上階に住む人間は東京湾を眺めながらの暮らしを営むことになるのだろう。
海を臨む生活。藤堂は少しだけ羨望を感じている自分に気付いていた。
潮の匂いは藤堂の「雄」を疼かせる。
木下啓吾が待機所に入ってきた。
「次のトラック、渋滞で遅れるらしいっすよ。」
ラークの箱を作業ズボンのポケットから出しながら、啓吾はため息をつく。
「今日は楽勝現場だから、早く上がれると思ってたのにな。」
藤堂のポケットでブルブルと振動音が鳴った。
「ちょっと出てくるぞ。」
待機所から出た藤堂はスマホの画面をタップした。
「猛者同盟、新木場、あと2時間で開場。行けますか?」
妙に勿体つけた若い声が告げた。
「了解。」
一言だけ答えると藤堂はスマホを切った。
待機所に入ると啓吾が自販でコーヒーのボタンを押すところだった。
「俺は上がるぞ。オヤジには〝本業〟が入ったからと伝えておいてくれ。」
「えっ、あと俺一人で納入っすか?」
「今日はたいしたことないから一人で大丈夫だ。」
さっさと着替えを始める藤堂。
黒いラッシュガードを脱ぐと、盛り上がった肩がむき出しになった。
ちょっとした動きに大胸筋がピクピクと脈打つ。
「ザ・男」的な上半身に思わず息をのむ啓吾。
ニッカポッカを脱ぐと黒いケツ割れのストラップが肉に食い込むデカ尻が現れた。
「す、すげーパンツっすね・・・」
ジョック・ストラップを見たこともなかった啓吾は心底驚いていた。
ポロシャツにチノパンの小ざっぱりした格好になった藤堂は、装備品で膨れるリュックを担ぐと、
「じゃ、頼むぞ。」と言い残すと、風のように待機所を出て行った。
入れ違いに入ってきたのは親方の手塚重雄だ。
「藤堂、行っちまったか・・・・。あいつが抜けると3人足りないと同じだな。」
「あーあ、俺ひとりで残り運ぶんすか?」
「俺も手伝うから、なんとかやろうや。」
「ったく・・・。藤堂さんの〝本業〟ってなんなんすか?よくいなくなりますよね。」
「んん・・・あいつの本業な・・・」
手塚は急に嬉しそうな顔を浮かべた。
「あいつは〝職人〟なんだ・・・・」


〝職人〟フラッシュ藤堂。
インディー・プロレスに明るい者は彼をそう呼ぶ。
ここ数年、あちこちのインディー団体にスポット的に出場する中堅レスラー。
一口にインディー・プロレスといっても、その興業のあり様は団体によって様々だ。
そのファイト・スタイルの多様性がインディー・プロレスにコアなファンを根付かせている。
逆に言うと、ファンは自分たちの望まないプロレスには非常に敏感で、ある意味排他的な空気を醸している。
そんな状況の中、どの団体の試合に出てもファンを納得させられる藤堂はまさに〝職人〟だった。
「でも藤堂の真価は〝やられ職人〟ってとこなんだよな~」
予定選手の欠場でフラッシュ藤堂の登板のアナウンスを聞いた田代誠二はニヤニヤした。
誠二はプロレスを見て欲情するという性癖の持ち主だった。
彼は高額の会費を払って闇の地下プロレスの会員になり、男同士の情念がぶつかり合う闘いを思う存分愉しんでいた。
だが、最近の団体の方向転換に伴い、いまひとつ地下リングに乗り切れずにいた誠二は、地上のインディー・プロレスに「ネタ」を求めて時々観戦に訪れていた。
「猛者同盟」はエースの桜井勇治が激エロで、誠二のマイ・ブームになっていた。
思いがけずフラッシュ藤堂の出場に出くわして「超ラッキーじゃん!」と大興奮だった。
地下プロレス会員の誠二は、藤堂の「過去」についてなんとなくだが知っていた。
藤堂は突然現れた謎のフリー・レスラーとして、そのプロフィールの詳細はほとんど表に出ていない。
歳は30歳前後だろうか。あれほどの技量を持ちながら、どこの団体にも属した経歴が見当たらない。
常にピン・スポット的に試合に出るため、これまで深く詮索されなかったのだろう。
表にはしたくない経歴がフラッシュ藤堂にはあった。
誠二が会員登録している団体とは別の地下プロレスで、フラッシュ藤堂はチャンピオンだった。
ある試合で新人に敗北し、その団体の掟で一晩客に凌辱されたのだという。
誠二は地下の噂話でそんなことを聞いていた。
それからどんな理由で地上に出てきたのかは解らないが、こうして藤堂のファイトを見ることができるので誠二は満足だった。
「さすが地下出身だけあって、藤堂のやられはエロエロだよな~。今日の対戦相手は阿木だろ。超ヒールじゃん。めちゃめちゃ愉しみ~。」
ポケットに手を突っ込み、ズボンの下に履いた競パンの股間を人知れず揉む誠二だった。


控室に走り込んできた藤堂は、手近なロッカーを開けると早速着替えを始めた。
試合開始まで30分程しかない。
「よかった。間に合いましたね!」
振り向くと猛者同盟の看板レスラー桜井勇治が微笑んでいた。
「ああ・・・。今日は呼んでもらってありがとうな。」
「いやいや、急なお願いですみません。本当はレギュラーで出て欲しいくらいなんですが・・・・」
「ん・・・・それは・・・」
「解ってますって。無理なことは言いませんよ。それじゃ今日はよろしくお願いします。」
「こちらこそ。」
「今、阿木を呼びますからチャチャッと打ち合わせしちゃってください。」
さわやかな笑顔の余韻を残し勇治が控室を出て行った。
彼は今日のメインに出るのだろう。青いショートタイツの股間が艶めかしかった。
(あいつは男を知っているな・・・)
ネイビーのショートタイツに足を通していると、ケツをピシャッと叩かれた。
「いいケツしてるじゃねぇか!こりゃ男でもグッとくるわな!」
今日の対戦相手、阿木銀次郎が嫌な笑みを張りつかせていた。
「今日はお前はヒールの餌食になる哀れなジョバー役だ。得意だろ?俺の恐ろしさを引き立てるようにしっかりやれよ。」
「了解・・・。」
無愛想に答える藤堂に阿木は少しムッとした表情になった。
「おまえ試合中に勃つんだって?」
一瞬びくっと背中を震わせた藤堂が鋭い視線を阿木に向ける。
その迫力に気圧された阿木が一歩後ずさる。
「おいおい怖い顔で睨むなよ。じゃ、今日は頼むぜ・・・・」
阿木が出て行くまで藤堂はその背中を睨み続けた。
一人になると黙々とリング・シューズを装着し始めた。
(やっぱり気付かれるよな・・・・)
プロレスの試合中に勃起することは無い話ではない。
男の生理現象はコントロール不能だ。選手同士の笑い話ではちょくちょく聞く話だ。
だが藤堂は毎試合確実に勃起した。
地下ではそれが普通だし、むしろ求められていた。
男の汗だくの肌に密着し、雄をいきり立たせながら闘うのがプロレスだと思っていた。
(しかたがない。それが俺なんだ・・・・)
「藤堂さん、そろそろ出番っす!」
係員が呼びに来た。
藤堂はタイツの股間の位置を整え、入場口に向かった。


つづく












インディー裏街道②

猛者同盟9月興業、第4試合は雨の幕開けとなった。
屋外特設リングは水浸しとなったが、中止にはならない。
客席、と言っても8割は立ち見だが、傘を開いてリングを見つめる観客からも文句は出ない。
むしろインディーならではのハプニングを楽しんでいるかのようだ。
会場には、リング上のレスラーたちと観客が同じ雨粒に打たれているという、ある種の一体感が生まれていた。
フラッシュ藤堂のタイツが濡れそぼり、陰毛が透けていることが解るほどリングと客の距離は近い。
エプロン・サイドでロープに首を挟まれ、圧迫された気道のわずかな隙間から酸素を確保せんとする藤堂の肺が呻くヒューヒューという音もはっきり聞こえる。
阿木は藤堂の髪を掴み、苦悶にゆがむ顔を観客に見せつけるようにした。
「いいぜ・・・お前最高だぜ・・・・このツラ・・・・たまんねぇぜ・・・・」
団体の看板ヒール阿木銀次郎は、都下で父親の跡継ぎとして酒店を営んでいる。
重い酒瓶の上げ下ろしで鍛えられた体躯は、地元ではマッチョ酒屋の兄ちゃんとして親しまれている。
健康な体と堅実な仕事ぶりで、今が男盛りの銀次郎が独り身なのは、趣味がプロレスであるせいかもしれない。
もともと嗜虐性があることは自覚していた。
何人か付き合ったオンナは銀次郎の本性を知るとことごとく逃げて行った。
半ば自暴自棄になり、持て余した体力を発散しようと好きだったプロレスを始めたのだが、ここで銀次郎は開眼した。
(男を痛めつけるほうが面白い。)
ある意味、約束事の範囲内であればいくらでも男を痛めつけることのできるプロレスという世界は、銀次郎にとって公開SMプレイの場だった。
しかも報酬つきで。
銀次郎の残虐かつどこか扇情的なヒールぶりは、猛者同盟のファンに強烈にアピールした。
グレーのつなぎは試合コスであると同時に普段の仕事着であり、男を痛めつけるための戦闘服でもあった。
雨に濡れたつなぎが身体に張り付き身動きが取りづらい。
銀次郎は不快をすべて藤堂にぶつけるように、残酷プレイを続けていた。
客席からパイプ椅子を持ち出すと、リングに戻り、ロープに首を挟まれたままでぐったりしている藤堂の身体を滅多打ちにし始めた。
「ごぅわっ!・・・おあっ!・・・・」
パイプ椅子を打ちつけられるたびに藤堂から悲鳴のような呻き声が漏れる。
筋肉が盛り上がる全身がのたうち、濡れたタイツがケツに食い込んでいく。
ひとしきり椅子打ち地獄が続き、藤堂の動きが止まった。
銀次郎は藤堂をロープからはずすと立ち上がらせ、股に頭を挟みパイルドライバーの姿勢を取った。
ゆっくりと首を掻き切るポーズで客にアピールする。
「おりゃっ!」
掛け声とともに藤堂の身体が真っ逆さまに抱えあげられる。
「おお~!」
観客席からどよめきが漏れる。
逆さになった藤堂の股間は見事に盛り上がっていた。
雨に濡れているためにその勃起は、男根の形をくっきりと浮き上がらせている。
パイル・ドライバーは受ける側の協力なしには成立しない技である。
抱えあげられる者の意思が無ければ、きれいな倒立姿勢にはならない。
藤堂は自らの意思で、モッコリパンツを客に見せつけているのだ。
「マジボッキじゃん・・・・」「すげー・・・・」「うわ~イヤラシイ」「デカいな・・・・」
ほぼ裸の大男が痛めつけられながら生殖器を肥大させている状況に、観客達は息をのんでいた。
否応なく「男」を見せつけられていた。
銀次郎は、勃起タイツを観客にゆっくり鑑賞させるように長い滞空時間を取ると、
「死ね!藤堂!」
と叫び、巨体を跳躍させた。
ドゴーンッ!!!!
ジャンピング・パイル・ドライバーがマットに突き刺さる。
大の字にダウンする藤堂は、時々痙攣するかのようにピクッと身体を震わせる他は動かない。
眼と口が半開きとなった表情は、敗北を悟った雄のそれだった。
銀次郎がフォールの体勢を取った。
「ワン!ツー!スリ・・・・」
「おっと、もう少し楽しませてくれ。お客さんも結構喜んでるみたいだしな。」
銀次郎は髪を掴んで藤堂の肩を上げた。
(お?思ったよりデキる奴かもな・・・)
藤堂は心のうちで思った。
今までの藤堂のやられは全て演技だった。
もちろん技の一つ一つは一般の人間が食らったら大怪我必至の危険なものだ。
だが、プロレスラーはそんな技に耐えるために厳しい鍛練を積んでいる。
今日の藤堂の仕事は、ヒールの餌食になるまさしくジョバーの役割だった。
技を受ける側のリアクションで、その技の生き死にが決まる。
プロレスの基本中の基本だが、これが上手くないとプロレスラーとしての本当の魅力が出ない。
地下では、いかにエロいやられを表現できるかが人気を左右する。
今日のような試合設定は、地下で修業を積んだ藤堂にとってまさにお手の物だったのだ。
とは言え、ヒールがショボくてはジョバーの腕が光らない。
酒屋の銀次郎にはそれほど期待していなかったのだが・・・
(意外とやるな・・・・)
雨の効果もあり、藤堂のやられマインドは活性化していた。
いつもは地上の客に勃起を悟られることを恐れていたが、今日はどこか吹っ切れていた。
銀次郎のSッ気たっぷりの責めに心地よく身をまかせることができた。
試合前には負の印象を抱いていた銀次郎に、好感すら持ち始めていた。
「これで終わりだ!」
銀次郎がフィニッシュとして選んだ技は、
リバース・レッグ・シザースだった。
相手の顔面を自分の股間に押しつけるかたちで挟み込む。
銀次郎の逞しい太ももが、ガッチリと藤堂の頭を締め付けた。
「んぐ・・・・っ」
口も鼻孔も濡れたつなぎに抑えつけられ全く息ができない。
窒息の恐怖を感じながら、藤堂はもだえる自分の身体が観客にどう映るかを計算していた。
濡れたタイツはすっかりケツの割れ目に食い込み、競パン日焼けの残る尻が丸見えになっている。
足を動かすたびに、うつ伏せの尻が穴が見えそうなほど広げられ、睾丸の丸いふくらみが蠢く。
ケツをのたうちまわらせながら、両腕は断末魔のマッチョ・レスラーの苦しみを表現する。
(ぐ・・・マジで苦しいかも・・・・い、息ができない・・・・)
雨が激しくなった。
競パン生地のタイツは、濡れて一層皮膚の一部になったかと思えるほど薄く感じられる。
マットに擦りつけられる男根が熱い。
(あ・・・イってしまいそうだ・・・・)
「おお・・・・お前のやられっぷり最高だ・・・・すげーぜ・・・すげー・・・・・」
銀次郎のイチモツも激しくいきり立っていた。
濡れたつなぎ越しにそれを感じた藤堂は、薄れゆく意識の中で
「太い・・・こんな太いものをぶちこまれたら・・・・」
などと思っていた。
「駄目だ・・・・イっちまう・・・・・」
(俺もだ・・・・・ううっ・・・!!!)
「おおうっ!」
二人はほぼ同時に昇天した。
射精の瞬間激しく収縮した藤堂の括約筋や、銀次郎のイク声も、ゲリラ雷雨の轟音にかき消された。
非常識な雨量に大混乱に陥った会場のドサクサに、二人は退場した。
藤堂と銀次郎の射精に気付く者はいなかったはずだった。
ただ一人、猛者同盟のエース、桜井勇治を除いては・・・・・


つづく




インディー裏街道③

東京都赤羽。駅北口を降りてウネウと毛細血管のように伸びる坂道を登る。
高度成長期の象徴だった古い団地群が取り壊され、こぎれいなデザイン公団へと次々と建て替わっていくため、3か月も来ないとすっかり風景が変わっていたりする。
藤堂猛は先ほどから目的地にたどり着けずに巨体のTシャツに大汗をにじませていた。
今日は暑い・・・・・
東京特有の粘つく残暑が猛威をふるっていた。
「おっ、ここは見たことのある道だ・・・・。」
時代を感じさせる大きな貯水塔には確かに見覚えがある。
「と、いうことは・・・・」
しばらく歩くといまだ古いままの団地が立ち並ぶ一角にたどり着いた。
三方に棟が張り出した独特の形状の建物があった。
かつては時代の最先端を行く建築物だったのであろうが、今では心霊スポットにでもなりそうな佇まいだ。
24号棟の5階、そこにパセリさんの工房があった。
「おう、久しぶり~。出来てるよ。」
藤堂が入っていくと、パセリさんがこれまた古いミシン台から顔をあげた。
パセリさんは「タイツ職人」だ。
プロレスのショート・タイツのみを作り続けている。
「昔はFナキやKキハラなんかもここでタイツ作ったけどな・・・最近は俺のエロ・タイツは人気がなくて・・・・」
いつだったか焼き鳥屋で飲んだ時にパセリさんは寂しそうに言っていた。
藤堂はパセリさんのタイツ一筋でやってきた。
彼の作るタイツの質感、形状は他では得られない。
レスラーひとり一人の男根のサイズに合わせて微妙に変える裁断により、最高にエロいモッコリを演出する。
藤堂のために作られたタイツは藤堂が履いて初めて真価を発揮する。
まさにテーラード・タイツなのだ。
「これこれ。この赤、いいだろう。藤堂ちゃんご要望の〝たぎる赤〟だろ?」
パセリさんが真っ赤なショート・タイツを引き出しから取り出した。
「うーん!いいねー。」
黒やネイビーなどの暗色系のタイツを好んでいた藤堂だったが、なぜか急に派手なタイツが欲しくなり、パセリさんに発注していたのだった。
「早速、履いてみるかい?」
「ぜひ!」
藤堂はその場で下半身丸出しの格好になった。
新しいタイツに足を通す時は、いつも格別の胸の高鳴りがあった。
収縮性のある薄い生地が、藤堂の逞しい下肢の筋肉によって引き伸ばされる。
それは臀部の丸みに張り付くと、吸いつくように尻の割れ目に生々しく食い込んだ。
すでに半勃起状態の藤堂の男根は、赤い生地に心地よく押しつけられ、外側の表面に非常に扇情的なふくらみを形作った。
部屋の壁一面に張られた鏡に映る自分の姿に、藤堂はめまいを覚えた。
汗で張り付き乳首が透ける白いTシャツ。その下は真っ赤なビキニがかろうじて陰部を覆うのみである。
(エロい・・・・・)
自分に酔いしれるあまり鏡に吸い込まれそうな感覚に陥っていると
「よしよし!ばっちりだぞ!さすが俺!」
パセリさんの声で我に帰ることができた。
「このモッコリ、芸術作品だろ?」
パセリさんが股間を揉んできた。
「おあ・・・・」
思わず感じてしまい声を漏らす藤堂。
「折角だからここでこのタイツの筆下ろししちゃう?」
尻の割れ目に指が入ってきた。
「うお・・・ああ・・・・・」
〝タイツ職人〟ならではの絶妙なタイツいじりに藤堂の興奮が高まる。
「ぬ、抜いてくれ・・・・・」
「いいよ~。精子が染みてやっと俺の作品は完成だからな・・・・・」
パセリさんがTシャツの上から乳首に触れてきたその時・・・・・
「こんにちは。」
玄関から声がする。
その声の主は、
桜井勇治だった。


「すみません。お取り込み中でしたか?」
〝客間〟に通され二人きりになると桜井はタイツ姿の藤堂に言った。
「い、いや・・・別に・・・」
パセリさんはコーヒーをテーブルに置くと出て行ってしまった。微妙に不機嫌だった。
「申し訳なかったかな。でもあの方が伝説のタイツ職人なんですね。俺も作ってもらいたいな。」
屈託なく話す桜井を、藤堂はコーヒーをすすりながら観察する。
「もしかして、俺をつけてきたってこと?」
桜井は一瞬間を空け、真顔で答えた。
「そうです。すみません。」
「何でまた・・・・?」
「実は・・・・。」
「どうした?何かあったのか?」
深刻な様子の桜井に、藤堂も真剣な表情になった。赤パン姿だったが。
「藤堂さんと阿木の試合のことで・・・・」
「えっ?!」
先週のあの試合のことか?射精がバレた?
「あの試合が何か問題でも?」
内心どぎまぎしながら藤堂は平静を装った。
桜井は藤堂をまっすぐ見つめた。
「ええ。それに2ラウンド目も。」
「なっ・・・!?」
藤堂は持っていたコーヒーカップを落としそうになった。
「み、見ていたのか・・・・?!」


あの日、ゲリラ豪雨の混乱にまぎれ退場した藤堂と銀次郎は、お互い興奮が収まりきらずに会場裏に転がりこんだのだった。
広い駐車場に設置された特設会場の裏手。
幕に仕切られたそのスペースはカラーコーンやら何やらが置かれた一角だった。
むき出しのアスファルトに息苦しいほどの激しい雨が打ち付けられている。
走りこんできた二人はアスファルトの上で絡み合う。
銀次郎が藤堂の髪を掴み、資材置き場に投げ飛ばす。
ガッシャーン!
派手な音を立てて交通資材が崩れ藤堂を下敷きにする。
「まだくたばるなよ。」
銀次郎は黄色いプラスチックのチェーンを藤堂の首に巻きつけ、力任せに引っ張った。
「うぐっ・・・・!」
アスファルトに引きずられた藤堂の背中に尻に血がにじむ。
銀次郎はカラーコーンを立てると、ぐったりする藤堂を持ち上げ、コーンの先端に腹から落とした。
「ゲボッ!」
藤堂の胃液が逆流する。
のたうちまわる藤堂。
だが股間はネイビーのタイツを突き破らんばかりに怒張している。
銀次郎は黄色と黒の縞模様のバーを藤堂の背中に横にしてあてがい、チェーンで両腕を固定した。
案山子のようになった藤堂に、怒涛のストンピング地獄が襲う。
全身の至るところを踏みつけられるたびに、藤堂の股間ににエクスタシーの電流が走った。
「お前は最高の変態マゾ野郎だな!」
銀次郎の声も興奮で上ずっている。
「めちゃくちゃにしてやる・・・・・」
銀次郎の眼に怪しい光が宿る。
地面に磔になった如くの藤堂の両足を、両腕で開脚させ持ち上げる銀次郎。
タイツはアスファルト上で引きずられたためところどころ破れている。
「ここを痛めつけられたいんだろ!」
銀次郎の急所ストンプが始まった。
「うぎゃっ!いぎ!ごわっ・・・・」
声にならない悲鳴を上げる藤堂。
金玉の猛烈な痛みに意識が飛びそうになりながら、天国にでもいるような極上の快感も襲いかかってくるのだった。
豪雨が銃弾のように全身に降り注ぐ。
鍛え上げた肉体がズタボロに破壊されていく感覚に、藤堂は酔いしれた。
「金玉ぶっ潰すぞこら!これで終わりだ。死ねっ!藤堂!!」
銀次郎渾身の一発が藤堂の睾丸にヒットした。
「ぎゅぅわっー!!!」
藤堂は白目をむいて失神した。
同時にタイツの股間からは白い雄汁がドクドクとあふれだした。
銀次郎はつなぎのファスナーを荒々しく下ろすと、失神している藤堂に馬乗りになり、鬼頭を藤堂の顔面に向けた。
「ぬぅおうっ!!!」
夥しい量のザーメンが、口を半開きにした藤堂の顔面にぶっかけられた。
滝のような雨が、高粘度の精子をたちまち洗い流した・・・・・

「あれを見ていたのか・・・・」
藤堂は改めてカップを持ち直すとコーヒーを静かに一口飲んだ。
「で、俺はクビか・・・」
桜井は相変わらずまっすぐ藤堂を見つめている。
「いいえ。そうではありません。俺は・・・」
藤堂も桜井の眼をしっかり見据えた。
「俺はあれを見て勃起しました。いえ、イッてしまったんです!」
今をときめく人気レスラーの告白の瞬間だった。


つづく










インディー裏街道④

「俺、プロレスで勃つんです。というかもうプロレスでしか興奮できない。」
桜井勇治の悲痛とも言える告白を反芻しながら、藤堂猛は深夜の建築現場のゲートをくぐった。
今夜は荷受けバイトの夜勤だ。
(人には知られたくない内なる本性・・・・)
藤堂自身は思春期の頃から、男同士の闘いに昂る自分に気付いていた。
特に、勝ち目のない闘いに挑みそして破れ去る男や、痛めつけられながも闘志の炎を燃やし続ける男の心がぽきっと音を立てて折れる瞬間などに、異常な興奮を覚えた。
衣服の上から伺える男性器の存在、つまりモッコリを見ると鼓動が速くなり、平静ではいられなくなった。
TVでプロレスを初めて見たのはいつだっただろう。
そこで繰り広げられる衝撃的な光景はたちまち藤堂の情緒を狂わせるため、誰かと一緒にプロレス番組を見ることは不可能だったほどだ。
大勢の人達の前で、陰部の存在を隠すことなく闘う半裸の男たち。
藤堂にとって、それはもはや自分の人間としての本能に直結する世界だった。
だが、その素晴らしい世界が他の人間には違って見えていることにも、藤堂は早くから気付いていた。
このことは隠しておかなければ・・・
中学の時の相撲部、高校ではレスリング部、藤堂は格闘技の習熟に熱中することで、内なる炎を周りに悟られずにやり過ごすことができた。
だから、桜井の葛藤は手に取るように解るのだ。
(アナザー・ワールドの本能のスイッチが入ったか・・・・あいつにとってはタイミングが悪かった。)
藤堂のように初めからこの道しかないと覚悟を決めていれば、地下プロレスで生きていくことは充分可能だった。
だが今、桜井にはメジャー団体から正式に入団のオファーが来ているというのだ。
「プロレス界でスーパースターになる、それが俺の夢でした。」
表の世界での成功、裏の世界での悦び。
桜井の心はまさに引き裂かれそうになっているのだろう。
(一線を越えた男は必ず苦悩を抱えることになる。この社会では。)
どんな男でも、闘いの魅力には少なからず囚われている。
実際に闘いの道を歩むと決めた男はなおさらだ。
裸で、互いの肉体をぶつけ合いこすり合わせる内に、桜井のように眠っていた遺伝子が発動してしまうことがある。
それを藤堂は「一線を越える」と呼んでいた。
一旦欲望に気付いてしまったらもう後戻りはできない。
(さて、どうするかな・・・・)
思案しながら歩くうちに、待機所の入り口に着いた。
深夜の建築現場には警備員の他人影もない。
ドアを開けると木下啓吾が畳の上に寝そべってスマホをいじっていた。
藤堂に気付くと、起き上がって笑顔を見せた。
「お疲れっす!いや~藤堂さん来てくれてよかったっすよ。オヤジさんと二人じゃ大変だもの。」
「この間は悪かったな。」
猛者同盟の試合に出るために現場を離れたことを詫びた。
「いえ、あの時は大した資材は来なかったんすよ。それよりオヤジさんから聞きましたよ。藤堂さんプロレスラーなんですって?俺、プロレス好きなんすよ~!」
目をキラキラさせながら藤堂を見つめる啓吾に、思わず苦笑する。
(お前が思ってるようなプロレスじゃないけどな・・・・)
「この間は猛者同盟に出たんですって?一度見たいと思ってたんすよ猛者同盟。すごいっすよ藤堂さん!」
「あ、ああ。オヤジはどこいったんだ?」
何となく話をそらしたかった藤堂だが、啓吾の興味津々な追及は止まらなかった。
「夜食の買い出しっす。藤堂さん誰とやったんすか?俺も知ってるレスラーかな。ときどきネットにアップされてるんすよ、猛者同盟。俺、結構見てるんだけどな~。」
「きっとお前は知らない奴だよ。メインじゃないからな。」
「ねえねえ、藤堂さんどんなコスで試合出てるんすか?」
作業着に着替えようとチノパンを脱いでいた藤堂の動きが止まった。
黒いケツ割れの尻が裸電球に照らされる。
「さ、さすがプロレスラー、いいケツっすね。」
藤堂の眼に怪しい光が宿り始めていた。
「見たいか?俺の試合着。」
「え・・・、ええ。あるんすか?今・・・」
藤堂の雰囲気が変わったことに少し戸惑いを覚えながらも、啓吾は答えた。
藤堂は無言でリュックから赤いショートタイツを取り出した。
今日、パセリさんから渡されたタイツだ。
「これだよ。」
昼間、藤堂が直穿きして雄臭がほのかに香るタイツを啓吾に手渡した。
「え・・・ええ・・・!こんな際どいやつ・・・・マジすげー・・・・うっすいなー、透けそう・・・・」
心なしか怖々している啓吾に、藤堂が怪しい笑みを湛えながら言う。
「履いてみるか?」



K王線、F中駅を降り立った桜井雄二は、ゴツイ身体を南に向けて歩いていた。
(藤堂さんに話せてちょっとスッキリしたかな・・・・)
心は葛藤していても、実は進むべき道はもう決まっているのだ、と桜井は解っていた。
メジャー団体で再デビューする。
このチャンスを棒に振ることなど考えられなかった。
大きな鳥居をくぐり夜の神社の境内を歩く。
そもそも自分は男になど興味は無かったはずなのだ。
猛者同盟でプロレスを始めたばかりの頃、まだプロレスでは食っていけなかった。
割のいいバイトは無いかな、と探していた時に見つけたスポーツ紙の広告。
〝逞しい男性求む レスラー優遇 高額報酬〟
これに応募したことが全ての始まりだった。
男色家の出した広告だとは解っていた。だが金が欲しかった。
いや・・・そうじゃない・・・
あの時、すでに俺は何かの期待を抱いてあの雑居ビルの地下に向かったのではなかったか・・・?
結局、異様に強いオヤジにプロレスで負かされた揚句、犯されまくったのだった。
桜井雄二は男の味を知った。
皮肉なことに、それ以来桜井のレスラーとしての人気が急上昇したのだった。
「ふふふ・・・ストレートを気取っていてもレスラーというのは潜在的に男を求めているものじゃ。おぬしも心の壁を取り払うがよい。プロレスラーとして成長したければなおさらじゃ。」
あの時の怪老人の言葉が脳裏に焼き付いている。
(確かに俺はレスラーとして一皮むけた。あの日がきっかけで・・・・。しかし・・・・)
競馬場方面に向かう坂道を下っていくと、看板の灯を落とした一軒の店があった。
居酒屋 「メンズ・バトル」
鍵の掛かっていない引き戸を開け、奥に声をかける。
「こんばんはー。ブッちゃんいる?」
奥の厨房から太った男が以外に機敏な動作で姿を現した。
「おーサクか。今夜は誰も稽古にきてないよ。」
「そう。別にいいんだ。一人で練習したい気分なんだ。」
「ほーい。ボクは明日の仕込みやってるから。ごゆっくり~。」
テーブルが並ぶ店内を奥に進む。
床が2、3段下がった広いスペースがあり、なんとそこにリングがあった。
ここは猛者同盟のホーム・グラウンド。
何カ月かに一度のペースで広い会場を借りて興行するが、普段はここで金曜と土曜の夜に試合を見せるのが、猛者同盟の主要な活動だ。
もともとプロレス狂いのマスター「ブッちゃん」が地元の力自慢を集めて始めたのが猛者同盟だ。
阿木銀次郎も居酒屋に酒を卸していた繋がりで、プロレスを始めたのだった。
今ではコアなファンがつき、金土の夜はかなりの賑わいを見せる。
火曜の今夜は店は定休日だ。
暗いリングで明かりもつけず、桜井は裸になった。
いつもはトレーニングの時はTシャツ、短パンだったが、今日はショート・タイツを履いた。
試合の時はしっかりしたサポーターを着ける。勃起を悟られないためだ。
昼間、パセリさんの工房でもらったタイツを直穿きする。
「これ桜井ちゃんにサイズ合うんじゃないかな。試供品ってことでどうぞ。こんどバッチリ採寸してジャスト・フィットなの作らしてよ。」
いつものタイツよりサイドが細い。生地もかなり薄い。だがこの収縮性と皮膚に張り付く感じが絶妙の心地よさを生む。
(噂どおり〝魔性のタイツ〟だな・・・・)
パセリさんが渡してくれたのは真っ青なタイツだった。
桜井は普段の試合でも青いタイツを履く。
だがこの青は、なんというか一段上の青とでも言おうか、淫靡な光沢を放つ青だった。
見る間に桜井の男根が硬くなっていく。
「ああ・・・・」
思わず腰の力が抜け、その場で股間をさすりたくなる。
桜井は意志の力でその欲望を抑え、リングに上り、黙々と受け身をとり続けた。



「履いてみろよ。プロレス好きなんだろ?」
藤堂の様子が有無を言わさぬ感じになってきて、啓吾は少し怖くなってきた。
「オ、オス。じゃあちょっと履かせてもらいます・・・・」
タイツを持って仕切りの向こうに行こうとする啓吾を藤堂が止める。
「ここで着換えろよ。恥ずかしがらなくてもいいだろ。風呂も一緒に行ったのに。」
「え、えと・・・そ、そうすか?なんか恥ずかしいけど・・・」
おずおずと作業ズボンを脱ぐ啓吾。
照れながらボクサーパンツも脱ぐと、
「じゃ、じゃあ履きます・・・ね・・・」
向こうを向いた啓吾の尻がささっと赤いタイツで隠れる。
「上も脱げ。」
藤堂の強い口調にビクッとした啓吾は反射的に着ていた長Tを脱いだ。
藤堂には遠く及ばないものの、啓吾の身体も肉体労働で鍛えられている。
若くきれいな筋肉が赤いタイツで卑猥なオーラを放ち始めた。
パセリさんのタイツは非常に収縮性に優れているため、履いていない状態ではとても小さく見える。
藤堂の下半身のサイズでジャストな伸びになるのだが、一回りサイズが小さい啓吾が履いてもそれなりにフィットしていた。
「うわ~・・・思いっきりモッコリじゃん。これヤバイっすよ。恥ず~。」
顔を真っ赤にしつつ、変なテンションの啓吾に、いきなり藤堂が襲いかかった。
「何が恥ずかしいんだ?俺達プロレスラーはこれで人前で試合やってんだ!」
ケツ割れ姿の藤堂のコブラツイストがあっという間に完成する。
「ぎゃー!!!!!!!い、痛いっす!!!!!がー!!!!!」
絶叫する啓吾を人形のように扱う藤堂は、今度はアルゼンチン・バックブリーカーだ。
「うぎっ!!!い、息ができない・・・や、やめて・・・ゆるして・・・・」
「プロレス好きなんだろ?こんなんで音をあげるな!」
アルゼンチンをかけながら啓吾の睾丸を握る藤堂。
「ぎえーっ!!!!!だ、だめ・・・がっ・・・・いてっ!・・・・・ぎゃーっ!!!!」
もはや涙声の啓吾。
藤堂は金玉を握る手を離して竿に手をあてた。
男を知り尽くした藤堂の絶妙な指技が、タイツ越しに啓吾の「男」を刺激する。
「あ・・・な・・・なにを・・・・あが・・・」
アルゼンチンに苦しみながら啓吾の男根が硬くなっていく。
藤堂はぐったりした啓吾を肩から下ろすと、フルネルソンに決めたまま、詰所の入り口に近づいた。
そこには、作業時の服装チェックのための全身が映せる鏡があった。
「おら!啓吾、見ろ!自分の無様な姿を!プロレスラーはいつもこんな姿を人に見せて稼いでんだよ!」
啓吾のうつろな目が涙をぽろぽろ流しながら鏡を見つめる。
「モッコリが恥ずかしいだ?お前勃ってるじゃねえか!お?これは何だ!?」
藤堂はフルネルソンを片方解くと、啓吾の股間をタイツ越しにしごき始めた。
「あ・・・ああ・・・うおお・・・」
啓吾の泣き声とも喘ぎ声ともつかない声が漏れる。
(こいつイッちまうな・・・・)
藤堂はここでようやく我に返った。
木下啓吾はまだ20歳そこそこの若造だが、嫁さんも、生まれたばかりの赤ん坊もいる。
いつもケータイで娘の画像を見せびらかしている。
(こいつに一線を越えさせちゃだめだよな・・・・・)
藤堂は力を抜くと啓吾を畳の部屋に連れ戻した。
「な~んて!マジ・モードのプロレスごっこでした!」
突然不自然なキャラ・チェンジをする藤堂に、啓吾はイラっとしながらも心底安堵し、号泣した。
「ひ、ひどいっすよ!ヒクッ、マジヤバイっすよ。ヒクッ、もう!※○×※☆・・・・・」
泣き続ける啓吾を着換えさせ、藤堂はひたすらお茶らけ続けた。
夜食調達から戻ってきた手塚重雄は、訳のわからない空気にあてられ、持病のリウマチが痛み出す始末だ。
(ノンケすら勃起するプロレス・・・・そこで俺たちは生きているんだものな。桜井・・・・・)
藤堂は再び桜井の苦悩に思いを馳せていた。



「サク、ボク先に帰るよ~。鍵だけよろしく~。」
何やらいつもと違う雰囲気の桜井に声だけかけてブッちゃんは店を出て行った。
もう何十回、いや何百回受け身をとっただろう。
桜井は汗だくでリングを転げまわっていた。
パセリさんのタイツが汗で一段と淫靡に股間を浮き立たせる。
桜井は受け身をやめると、ロープに近付いて行った。
先週の新木場興行での藤堂と阿木の試合が脳裏に浮かぶ。
ロープに首を挟まれ苦しむ藤堂。
その神々しいまでにエロい姿・・・・・
桜井はトップロープとセカンドロープを交差させ、自分の首を挟んでみた。
硬いワイヤーロープが首を締め付け息苦しくなる。
サードロープに跨ぐ形で尻を乗せる。
「おあっ・・・」
ロープの硬さがケツの穴に伝わり思わず声が出る。
桜井は両足をエプロンサイドからリング下に投げだした。
たちまち首に体重がかかり顔面が充血する。
同時に股間にロープが食い込み、睾丸とケツの割れ目をワイヤーが猛烈に刺激する。
「おあ・・・おお・・・あが・・・・・」
桜井は自重でロープを激しく揺さぶり、「ひとり絞首刑」の快感に悶え狂った。
(ああ・・・俺の鍛え上げた体が・・・・筋肉が・・・・ああ・・・・痛めつけられている・・・・・おお・・・・・)
硬いワイヤーが上下するたびに金玉がグリグリと圧迫され激烈な痛みが股間を襲う。
ケツに食い込んだ時には、前立腺が刺激されるのかチンポの先から我慢汁が溢れ、青いタイツに卑猥な染みを広げていく。
(あお・・・・桜井、ロープ攻撃に苦しんでいます・・・うぐ・・・・これは危ないぞ・・・・・桜井、イってしまうのか・・・・・・あぐ・・・・桜井とうとうリングに沈むのか・・・・・ああ・・・おお・・うおおおおお・・・・・・)
「うがぅおおおおお!!!!!!」
ひとり絞首刑、ひとり実況で桜井は昇天し、ひとり敗北、ひとり失神でしばらくロープにぶら下がっていた。
白濁液が青いタイツの股間を伝い滴り落ちる。
(俺は本当にこのままメジャーに行っていいのだろうか・・・・・?)
意識を取り戻した桜井は、答えが出ていたはずの問題に、悶々と自問自答を繰り返すのだった。
どこまでも「ひとり」な桜井の夜だった。


つづく








インディ裏街道⑤

未明、スマホが振動した。
「鮫島が来たよ・・・・」
パセリさんの声が告げた。
心の奥に封印していた名を突然聞かされ、藤堂の呼吸が一瞬止まった。
窓の外を、救急車がけたたましいサイレンを鳴らし過ぎ去っていった。
音が消え去った後も、藤堂は頭の中で非常灯が激しく回転している気がしていた・・・・


後○園ホール。 
格闘技の殿堂と呼ばれ、男どもの情念が渦巻き染みついた、ある意味でパワー・スポットと言える場所だ。
だが、今夜はそんな厳かな空気は微塵も無い。
ホールの8割は醜悪な香水の臭いを振りまく若い女たちに占拠されていた。
リンクラス・インター 。
(ふざけた名前だ・・・・)
藤堂は不機嫌なオーラを隠すこともせず、ロッカーを乱暴に開けた。
゛職人〟藤堂はどんな依頼でも受ける。
今日のようにまったく魅力を感じない団体の試合だったとしても。
90年代にプロレスと総合格闘技を融合させる、といったテイストの興行がもてはやされた時代があった。
「興行」と言ったら彼らは怒るかもしれない。
一切のエンターテイメント性を排除し、あくまで真剣勝負である、というのが彼らの売りだった。
当時としては新鮮な発想であり、演出が加えられた従来のプロレスより人気があった時代が確かに存在した。
「秒殺」と言って試合開始直後に関節技で勝負が決するなどということが頻発し、むしろそれが真剣勝負である証であるかのように観客たちは〝錯覚〟し、驚嘆のため息をついたものだ。
だが、ただでさえ競技人口の少ない゛スポーツ〟が地味な試合を続けていても、客に飽きられるのは当たり前だ。
一部の熱狂的格闘技ファンと従事者以外は、早々と゛錯覚〟状態から覚めた。
一時は東京ドームを満杯にした疑似格闘技プロレスの団体は、ことごとく分裂、解散した。
ただ、エンタメと格闘技を分けて考えたい人間がいるのは当然であるし、現在でもストイックに格闘技に向き合う団体は確かに存在する。
「生き方」を商売にするようなもので、当たるかどうかは時代に左右されるだろう。
リンクラス・インターはそんな「真面目な」団体とは明らかに違っていた。
一応「真剣格闘技集団」を標榜していたが、質はかなり低い、と藤堂は感じていた。
90年代の所謂「U系」の選手は、鍛え上げられた素晴らしい身体をしており、それが人気の源になっていたことは間違いない。
男たちは逞しく美しい選手に魅了され、味も素っ気もない試合に熱狂したのだ。
だが、リンクラス・インターの選手たちといえばまるでダンス・ユニットのメンバーだ。
「やせマッチョ」がイケている時代なのだそうで、彼らにとって格闘技はオンナに受けるための手段にすぎないのでは、とすら思える。
実際、今夜の入りでも解るように、リンクラス・インターのファンは男率が非常に低い。
真黒なショート・タイツをリュックから出していると、後ろから声をかけられた。
「こんばんは、藤堂さん。今日はヨロシク。」
名は忘れたが、団体のマネージャーだった。
「今日の対戦相手のATARUは今売り出し中の有望株なんですよ。藤堂さんにはそこんところよく加味してもらってお願いしますよ。」
八百長をしろ、と暗に言っている。
(真剣格闘技集団が聞いてあきれるぜ・・・・)
藤堂は思ったが、黙っていた。
゛職人〟藤堂だからこそ入った仕事だ。
仕事に選り好みはしない。
それに今日の藤堂はどこか上の空だった。
夜明け前のパセリさんからの電話が気になっている。
「鮫島が夜中にいきなりやってきて、藤堂ちゃんはよく来るか、なんて聞いてくんの。こっちは寝てるところ起こされてなんだよって感じでいたんだけどね。」
藤堂は黒いタイツに足を通しながら、苦い記憶の海に溺れそうになっていた。
(あの時も黒タイツだった。)
鮫島の若く残酷な表情が脳裏に浮かび、藤堂は頭を激しく振った。
ニーパッドとシューズを装着し、そのままリングに向かう。
(とりあえず仕事だ・・・・・)


リングに向かう通路で藤堂に向けられる視線は寒々しかった。
ハンク・マッチョのビキニ・パンツ姿に熱い声援を送る者はいない。
あからさまに顔をしかめて顔をそむける者、恥ずかしそうにチラ見する者、じっと凝視する者、その3種類に反応は分かれるようだった。
確実に解るのは、自分は完全にアウェーであることだ。
突如チャラけたJポップが流れ、藤堂と反対の入場口にスポットライトが当てられた。
「ATARU入場!」
会場のスクリーンにタレントのような風貌のスポットが映し出され、黄色い声援の嵐に迎えられてATARUが姿を現した。
「キャーッ!アタルーッ!」
普段慣れている周波数とは全く別のわめき声に、藤堂は頭がクラクラした。
(なにがアタルだよ、お前らはラムかっつうんだよ・・・・)
派手なサテン地のガウン姿でATARUがひらりとリング・インした。
浅黒い肌と、今風に決めた髪型、ささやかな顎鬚、人を小馬鹿にしたような笑み。
AV男優のようだったが、藤堂はノンケAVを見ないのでそうは思わなかった。
ATARUがガウンを脱ぐと会場からひと際甲高い歓声が沸き起こった。
贅肉ひとつない絞られた身体。だが細い・・・・
藤堂は一瞬呆然となった。
ATARUのつまらない身体にはまったく興味はない。
藤堂の心に刺さったのは、白いボックス・パンツだった。
(鮫島・・・・)
藤堂が初めて本気で負けた相手、鮫島は、あの日白いボックスだった。
ゴングが鳴った。
ATARUはボクシングのフットワークと構えで間合いを詰めてくる。
あまりに隙だらけなその姿に藤堂はうんざりしたが、心は別のことに奪われていた。
学生時代、レスリング部とラグビー部を掛け持ちしていたという噂の鮫島。
まだ20歳を少し超えたくらいだろうに完璧なボディーだった。
(奴もボクシングの構えで俺に向かってきた・・・・)
ハッと気付くと藤堂はATARUにタックルをかましていた。
ATARUの゛やせマッチョ〟な身体が吹っ飛んでいた。
「ダウン!」
レフェリーがあわてて藤堂を止める。
ダウン・ポイントだかなんだか煩わしいルールは全く頭に入っていなかったが、(まずかったかな・・・・)と藤堂は内心で舌打ちした。
「ちょっと・・・・アンタ役目解ってんのか?」
団体員のレフェリーが小声で言う。
藤堂は(すまん。)と眼で合図して、コーナーで待機姿勢を取った。
ATARUがよろよろと立ちあがる。
タックル一発で相当ダメージがあったらしい。
鮫島は藤堂のタックルを真正面から受け、そして跳ね返した。
真に強い男の出現に藤堂の心は震え、歓喜した。
(いかん、いかん・・・仕事に集中!)
ATARUのへなちょこパンチに合わせて身体をくねらせる。
〝やられ職人〟藤堂にかかればチャラ男のパンチもタイソンのそれに見せることができる。
あの日、藤堂は最後までやられ演技をすることがなかった。
演技ではなく本当にやられていた。
強い男に叩きのめされる自分を初めて真に実感した。
あの屈辱、あの快感・・・・・・
気付くとATARUがリングに這いつくばっている。
(げっ・・・またやっちまったか・・・・?)
「あと一度のダウンで藤堂選手の勝利です。」
アナウンスが流れ、黄色い罵声の雨が藤堂に降りかかる。
「モッコリ野郎!しねー!」「ゴリラー!」「アタシのATARUになにすんのー!」
キーキー言いながらも、傷つくアイドルに激しく母性本能を呼び起こされる者もいるらしく、うっとりと涙ぐむ姿もチラホラ見られた。
「アンタがその気ならこっちも手があるから。」
レフェリーが憎悪のこもった目で藤堂を睨み、ATARUになにやら耳打ちしている。
(今日の俺はどうかしている・・・・)
パセリさんの電話のせいだ。
鮫島を忘れるため、鮫島から逃げるため、地下プロレスを去った俺なのに・・・・・
(鮫島が俺のことを聞いていた・・・・!?)
完膚無きまでに叩きのめされリングに倒れる俺の股間を踏みにじった鮫島・・・・
憎い鮫島・・・・・
突然股間に衝撃が走った。
ATARUの膝が股間にのめり込んでいる。
「ぐっ・・・・!」
全身を鎧のように鍛えあげた藤堂でも、金玉は強くできない。
藤堂の痛がりようにレフェリーがニヤッとする。
「ファール・カップしてないのか?どうりでヤラシイ股間だと思った。」
反則を取る気は無いらしい。
「手」ってこれか・・・・?
その場で跳躍して上がった金玉を落ち着かせる。
(解ったって。ちゃんと負けてやるから。)
ATARUのダンスのような足払いに大げさに倒れて見せる。
(さあ、へなちょこ関節技でもかけてくれ。痛がって見せるから。)
心のざわつきを抑えられない藤堂は早く試合を終わらせたかった。
ところがATARUはなんとうつ伏せの藤堂の股間を蹴りあげた。
「ごあっ!!!」
急所の激痛に藤堂はのたうった。
「キャー!ATARUひっどーい!」「ATARUエッチー!」
キンキン声と金玉の痛みにクラクラする。
レフェリーは一応ATARUを止めようとする仕草を見せる。
リングでくの字になりながら藤堂は鮫島に股間を踏みつけられた時の屈辱と、そしてなぜか甘い痛みを思い出していた。
『今時ブーメラン・パンツなんて、オッサンよく恥ずかしくないなぁ。それとも、このモッコりを見せたかったのか?んん?オラ、どうだ?』
鮫島の声と、精悍な、しかしどこまでも酷薄な面がはっきりと脳裏に浮かび上がる。
(ああ・・・・・・)
立ち上がった藤堂の眼に、ATARUが怯む。
明らかに目つきが違う。
そして目線を下方にやってさらにギョッとした。
藤堂は勃起していた。
黒いビキニ・タイツが卑猥な光沢を放って隆々と盛り上がっていた。
「イヤーッ!」「キーッ!」「なになになに!?」
客席は明らかに動揺し、混乱していた。
「さあ、ここに打ち込め!モヤシ野郎!」
藤堂は大股開きで仁王立ちになった。
呆然とするATARUとレフェリー。
「早くしろっ!!!」
藤堂の喝にATARUがハッとして突進してきた。
「わーーーーーー!!!!!」
涙目のイケメン野郎が奇声を上げながらジャンプした。
ATARUのジャンピング・ボール・バスト・パンチが藤堂の二つの玉にのめり込んだ。
「ぐふぅ・・・・・!!!!」
藤堂の勃起タイツが弧を描いてリングに倒れて行った。
ATARUのKO勝ちで試合は幕を下ろした。
明らかにロー・ブロウの反則なのだが、この団体ではそんなことはどうにでもなるらしい。
金玉の痛みによろよろと退場する藤堂に、
「オニイサン、カッコよかったよ!」「オトコラシイ!」
などと声をかける客も少数ながらいた。
(今日は職人藤堂、最悪の仕事ぶりだったな・・・・)


帰りの電車に揺られながら、藤堂はパセリさんの電話の続きを思い起こしていた。
「俺が不機嫌でいたらさ、鮫島の野郎、タイツ作るとか言い出してさ。こっちも商売だからありがたくお受けしましたけどね。夜中に採寸。俺の採寸は知ってるだろ?細かいからさ。大変だったけど・・・・・」
パセリさんのところで作るタイツは、ショート・タイツだけだ。
鮫島がショート・タイツ!?
「あの野郎、いい体だな~!あのエロさ。チンコ見たことある?すげーよ。あれは凶器だな!」
地下でチャンピオンだった藤堂を実力で負かした鮫島。
そのショックで地下を去った藤堂。
今、藤堂は何故自分が鮫島から逃げているのかはっきり自覚した。
(俺はあいつに犯されたいと思っているのだ・・・・・)
初めて自分を本当に痛めつけた生意気な若造。
よりにもよってそんな憎い敵に自分は欲情していたのだ・・・・
「鮫島の指定した色解るかい?なんと紫だよ!パープル!タカダ・パープル!エロいよね~!」
鮫島が紫のショート・タイツ!?
藤堂には眩しすぎて想像することもできなかった。
その後光が射すエロいシルエットに、藤堂は嵐のような嫉妬を覚え、あらゆる点で自分を凌駕する男の存在に恐れおののき、そしてどうしようもなく引き付けられた。
(鮫島・・・・もう俺を放っておいてくれ・・・・・・)
藤堂の煩悩まみれの苦悩を含め、何百という苦悩を詰め込んだ電車が都会を引き裂いて疾走していった。


つづく













インディー裏街道⑥

「真日本プロレスTJPW」はお台場に自社ビルを構えている。
深夜枠とは言え地上波TVにレギュラー番組を持つ国内最大手のプロレス団体だ。
桜井勇治は、つい今しがた洒落たオフィスでそのTJPWへの入団契約を正式に交わしてきたのだった。
「我々は年末のビッグ・エッグ興行の目玉のひとつと考えているのだ。君のことを。」
笹口社長はそう言って、ゴツイ掌で桜井の両肩を叩いた。
(ついに俺はプロレス界のスターの仲間入りを果たすんだな・・・・・)
幼いころからの夢が今まさに実現しようとしている。
(ビッグ・エッグって・・・・。俺の親父でも言わねえぜ・・・・)
ゆりかもめの車窓からスカイツリーを眺めながら、桜井は苛立つ自分を持て余していた。
TVにも映るかもしれない試合で勃起は晒せない。
メジャーに移ったら、コスチュームをショートタイツから身体の線が出ないズボン系に変えようと考えている。
(ふう・・・・。)
何かが違う。自分が憧れていたプロレスラー像とは。
変なダボダボのパンツを履いた自分が、大観衆の声援を受けリングで闘っている。
その夢想は桜井の心を躍らせない。
(俺はスターなんだぞ。みんな俺の強さに魅了されている。華麗な技に酔いしれている・・・・・)
駄目だ・・・これっぽっちもアドレナリンが分泌されないみたいだ・・・・
桜井の心は、知らぬ間に暗いうらぶれた場末の居酒屋のリングに浮遊する。
誰もいないリングでショートタイツ姿の自分が〝ひとりやられ〟を演じている。
桜井の「自慰行為」は日に日にエスカレートしていた。
パイプ椅子を空中にほおり投げ、落下地点に横たわる。
予測不可能な角度で桜井の身体に激突するパイプ椅子。
それをヒールの反則攻撃と想像しながら痛みを受け止める。
『桜井、椅子攻撃の嵐に苦しんでいます!あーっついに膝から崩れ落ちたーっ!大ピンチだーっ!!』
ひとり実況は最近、声に出ていたりする。
ある時、股間にもろに椅子の足の部分が直撃し、目から火花が散るような衝撃に桜井は失神した。
視界が真っ白にフェード・アウトする瞬間、強烈なエクスタシーが股間に走り、ザーメンがタイツの中に盛大にぶちまけられるのを感じた・・・・・
「まもなく浜松町・・・・・」
車内アナウンスにはっと我にかえる。
見事にテントを張った短パンの前を、リュックで隠しながら桜井はモノレールを降りた。
(次はどんな方法でやろうか・・・・・)
すこしキョドりぎみの厳つい男が、前のめりになりながら人ごみの中に消えていった・・・・・



「今週の土曜、18:00、ZPW、うりうりランドプール、行けますか?」
金属的な声が告げる。
「プール?そんなとこでプロレスやんのか?ま、ZPWだからアリか。」
「ゾンビ・プロレスリング」、ZPWのスタイルを思い出し、藤堂は納得した。
「行ける。」
「海パン・・・・水着を持参するようにということです。」
「海パン?なんで・・・・?」
「・・・・・・・・、興行名〝夏の終わりにプールでプロレス大暴れ〟。情報は以上。」
(夏の終わりって・・・・、10月だぜ・・・・秋じゃん。)
藤堂は内心ため息をつきながら答えた。
「了解。」
いつものように電話はそこで終わるのかと思った。
「藤堂さん・・・・・」
無機質な声がまだ続いている。
電話の主、カムイは藤堂の地下時代からの付き合いだ。
素性は藤堂も知らないが、藤堂が地下を去る時にプロモーターを買って出てくれた。
地下プロレスの会員はほぼ富裕層で占められている。
カムイもそういった金持ちのヒマ人なのだろうと藤堂は推測していた。
だが、今では藤堂のプロレス活動に無くてはならない人間だ。
「藤堂さん、また地下でやる気はありませんか?」
「なっ・・・・・・」
いきなりの言葉に藤堂は二の句が継げないでいた。
「突然すみません。忘れてください。」
「ま、待て・・・・どうしてそんなことを言い出したのか教えてくれ。」
カムイはしばらく黙り、やがてトーンの下がった金属声が聞こえた。
「鮫島が・・・・・」
「えっ・・・・!」
「いえ、何でもありません。忘れてください。」
唐突に電話が切れた。
スマホを耳にあてたまま、藤堂は立ち尽くした。
(また鮫島か・・・・・・)
台風が接近する東京の街に雲がかかり、急に日が翳った。
藤堂には、それが背後に立つ鮫島の影のように感じられ、はっと振り向き誰もいない虚空を見つめ続けた・・・・・



《男を痛めつけてストレス発散したい野郎求む。当方、頑健な体につき少々のことではくたばらず。秘密厳守でやれる男限定。》
《日頃の鬱憤を、暴力で解消しませんか?俺の身体を使ってください。》
品川のネットカフェの個室で、ゴツイ男が背中を丸めて一心不乱にキーボードを叩いている。
無精ひげが浮かぶその表情は、なんの感情も表出していない。
ただ、目だけが爛々と燐光を放っているようにパソコンの画面を反射していた。



東京都下にある「うりうりランド」は普段家族連れやカップルでにぎわう遊園地だが、今日はむさくるしい男たちが大挙して押し寄せていた。
ZPW秋興行「夏の終わりにプールでプロレス大暴れ」目当ての観客たちである。
この団体はプロレスをとにかく楽しもうというコンセプトのもと、試合会場をホールに限定せず、それどころかリングすらもない場所でのゲリラ的な興行が受けている。
工事現場、キャンプ場、商店街などなど、この団体にかかればどんな場所もプロレス・ワンダー・ランドにされてしまう。
今日はプールとは言え、特設リングがあるだけマシだな、と藤堂は思った。
まあリングとは名ばかりで、50メートル大プールの中央にポリウレタンの巨大なボードがワイヤーで固定され、ぷかぷか浮かんでいるだけだったが。
コミック色が強いと思いきや、なかなか玄人っぽい基本のできたプロレス集団で、ファン層は圧倒的に男が多い。
まだ半袖で外出する陽気ではあっても、さすがにプールは寒かろうと藤堂は予想していたが、これまでの試合では海パン姿のレスラーたちが熱気あふれる試合で観客を沸かせ、湯気でも立ち上りそうな勢いだ。
藤堂のテンションも次第に上がってきた。
水着で出ろ、という指定なので藤堂はもちろん競パンを持参した。
90年代に製造されたもので、ネット・オークションで購入した。 
学生時代にプールでのトレーニングに使用していたのですっかりクタパンになっていたが、当時よりサイズアップした下半身に丁度いい具合にフィットした。
エメラルド・グリーンのスピード。
股間の当て布は遠の昔に取れてしまい、濡れたら陰毛が透けることは間違いない。
(いやチンポも透けるかな・・・・・?)
Vラインからも毛がはみ出ていたが、藤堂はこれで出ることにした。
プールの中央のリングは観客から充分離れているし、TV中継があるわけでもない。
露出度の高い競パンでのプロレスは藤堂をわくわくさせた。
リング・インは一旦プールに入って中央の浮き島を目指す格好だ。
ウレタン・ボードに両腕の力でぴょんとジャンプして立ち上がった藤堂の姿に、観客達から「お~っ!」というため息にも似た声が上がる。
それはこれでもかというほど「男」を強調した男の姿だった。
筋骨隆々の逞しい身体を覆うものは、小さなエメラルド・グリーンの布のみだ。
その三角形の布の中央は、ある意味哲学的な膨らみをしてそれを見る者の心をざわつかせた。
対戦相手は半沢魚樹(ハンザワウオキ)というレスラーで、実はこれは本名だった。
「ふふ・・・・俺の名は伊達じゃないぜ。故郷の長崎では〝半漁人〟の愛称でプールを荒らしたスイマーさ。」
レーザー・レーサーを着こんだ肩が厳ついガタイは、確かにスイマーだった。
「そんなインチキ水着は認めない。俺にとってスピードとはミズノのスピードのことだ。」
「国産崇拝主義者だね・・・・。さてはTPPにも反対したクチだな。」
「ほざけ、競泳くずれが。せいぜいケツが破れないように用心することだな!」
舌戦を繰り広げた両者が、ついに濡れたウレタン・ボードの上で組み合った。



夜の採石場。
作業員たちはふもとの町に引き上げ、しーんと静まりかえっている。
駐車場に1台だけ止まった車の中で桜井勇治は闇を見つめていた。
すると遠くからエンジン音が聞こえ、やがてライトの光が駐車場を照らした。
何分かの間隔を空け、都合3台の車が山を登って採石場の駐車場に現れた。
腕時計が10時を指した。
それぞれの車から黒い影が降り立つ。
3つの影を認め、桜井もドアを開け車外に出る。
4人は無言で暗闇の中を歩いて行った。
「ここが〝リンチ会場〟だ。」
桜井はそう言って、金網に設置されたスイッチをオンにした。
採石場が照明に明るく照らし出される。
そして黒い影の姿が明らかになった。
キャップを目深に被ったTシャツに迷彩ズボンの固太りの男、ワイシャツにスラックスの神経質そうなメガネ男、高校の制服と思しきブレザーに赤ネクタイの若い男。
そして桜井は青いショート・タイツにニーパッド、リングシューズ、そして頭にはプロレス・マスクという格好だった。
「ひゅ~。オニイサン随分刺激的だな。」「いいガタイ!」「もしかしてプロレスラー?」
「メールでも言ったが、お互いの素性は聞かないルールだ。たとえ俺が怪我を負っても君たちに責任は無い。」
「オッケー。じゃ遠慮なくやらしてもらうぜ。」「ほんとに無料だな?」「体育のゴリ先ムカツクぜ!」
3人が目をぎらつかせて桜井ににじり寄っていった。
桜井の青タイツは早くも先走りで染みが浮き上がっていた・・・・・



半沢はレスリング巧者のスイマーだった。
スイマーくずれと高をくくっていた藤堂は、慣れていない水に囲まれたリングで苦戦していた。
自慢のパワーでアルゼンチンに担ぎあげようとすると、浮島リングがぐらつきバランスを崩す。
その隙にすかさず背後に周った半沢が藤堂の後頭部に至近距離からのラリアットだ。
「おわっ!」
もんどりうって前に倒れる藤堂。
首が狭いウレタンボードからはみ出て水面を見下ろす形になる。
そこに半沢のギロチン・ドロップ。
藤堂の身体は首を中心に回転しながらプールに落下した。
水中では、やはり元スイマーの半沢に分があった。
1.5メートルほどの深さしかないプールだったが、身長180センチの藤堂の頭は30センチ下がっただけで水中に沈み、呼吸ができなくなる。
水中グラウンド・コブラが藤堂の身体をからめ捕る。
「がぼっ!ごぼっ!・・・・」
藤堂の呻きが泡となって水面に浮かんでいく。
「へへっブーメラン・マッチョさんよ、どうだいプール・デスマッチの味は?」
ようやく技から解放された藤堂がウレタンボードの縁につかまり激しく咳込む。
ひょいっと身軽にボードに上がった半沢はそんな藤堂の髪を掴み、リングに引き上げようとする。
「お客さん、楽しんでるーっ?」
おーっ!!!!!
半沢の呼びかけに野太い歓声が上がる。
「もっと楽しませちゃおう。」
上半身がようやくボードに上がった藤堂の競パンを掴む半沢。
「ほーら!ゴリ・マッチョのTバックだーっ!」
エメラルド・グリーンの競パンがふんどし状態になって、藤堂の身体がボードに戻された。
しこたま水を飲んだ藤堂は咳込み続け、競パンの食い込みを直すことすらままならない。
「後ろだけじゃ物足りない?そーか。じゃ、前も!」
半沢は藤堂の腰を後ろから抱えあげると、ウレタンボードをプールの縁と繋いでいるコースロープのワイヤーの真上にそのまま落とした。
「ぐわぁっ!!!!」
藤堂の金玉がワイヤーに付いている浮きに直撃した。
半ば失神しかけながら、再び藤堂は水中に沈んでいった。
口から鼻から塩素臭のする水が入り込んでくる。
(昔はこの臭いで何故か勃起したな・・・・・)
意識が遠のく中、藤堂はそんなことを思い出していた。
髪が掴まれ、凄い力で引き上げられた。
藤堂の肺が忙しく酸素を取り込み始めた。
「沈んだままくたばったら、お客さんに見えないだろ?ブーメラン・マッチョさん。」
リングに上げられた藤堂の姿は、濡れた競パンが乱れた状態で身体に張り付き亀頭の形がわかるほどで、陰毛ははみ出しまくっていた。
「ん~セクシー!それじゃフィニッシュといきますか。」
半沢は藤堂の両足を持ち、「おりゃっ!」とたちまち逆エビ固めを完成させた。
「ぐぅおっ!がは!・・・・・」
咳込む藤堂は、腰の強烈な痛みにもがき苦しみロープを求めるがこのリングにロープは存在しない。
「うぉらっ!ギブか?おら!背骨折るぞこら!」
「うぎゃ!ぐぎ!・・・・」
鯱鉾のように反り返るマッチョ・ボディ。
陰毛が透け、はみ出した股間が晒し物にされ、今にも泡を吹きそうな藤堂。
「ん・・・・?」
半沢は素足に温もりを感じて下を見た。
藤堂が失禁していた。
プールの水を散々飲み、いまや不自然に身体を捻じ曲げられた藤堂の膀胱が耐えきれなくなったのだ。
「はははは!ブーメラン・マッチョさん、お漏らしとは笑わしてくれるぜ。」
もともと濡れた環境での試合で、客からは藤堂の失禁は見えなかった。
半沢は逆エビを解いた。
「折角だからもっと恥辱にまみれてもらっちゃおう。」
仰向けにした藤堂の胸に馬乗りになった半沢。
「ふんっ!」と力むと、レーザーレーサーの股間から液体がにじみ出し、藤堂の顔面にボタボタと降りかかった。
「ははっ!どうだいションベンを顔面にかけられるなんて、なかなかできない経験だろ?」
その時、リキむ半沢のケツで「びりっ」と音がした。
レーザーレーサーが裂けたのだ。
「げっ!」
尻が丸見えとなった半沢は慌てた。
「そのインチキ水着はよく破れるんだよな。」
半沢が藤堂に目を戻すと、先ほどまでの半死半生的な表情と打って変わったニヤケ面があった。
「だから気をつけろって言っただろ。」
「げっ!なんだよお前元気じゃん。」
「俺が競泳くずれなんかに負ける訳ないだろ。たっぷりやられも堪能したし、そろそろ終わりにすっか!」
むっくりと起き上がった藤堂は恐ろしいパワーで、半沢の身体を逆さに持ち上げた。
「あわ・・・・あら・・・・」
「今日は勝ち負け指定がないもんで、悪いな。」
たっぷり滞空時間を取った後、藤堂が叫んだ。
「競泳は競パンを履けーボムッ!!!!」
ドガーン!!!!!
プールの水面が波打つほどの衝撃を伴い、パワーボムが半沢をウレタンボードに叩きつけた。
完全に伸びた〝半漁人〟の胸に片足を乗せ、エメグリ・ビキニの筋肉男が両腕を上げた。
ぅおおーーーーっ!!!!!!
大歓声の中、藤堂は考えていた。
(しかしこの試合、レフェリーも居ないしどうやって決着するつもりだったんだろう?)



「いいものを見つけたよ。」
メガネ男がチェーンをじゃらじゃらさせながら引きずってきた。
「おっいいね!」
迷彩ズボンが肩で息をしながら微笑む。
「プロレスラーさん、まだまだ痛めつけさせてね。」
ブレザーを脱ぎ、ネクタイをゆるめながら高校生が言う。
「もちろん・・・・こんなんじゃ俺も満足できないぜ・・・・・」
マスクの額から血を流し、ブルトーザーのバケットに倒れる青タイツの男は言った・・・・・・


つづく






インディー裏街道⑦

「それでは、我が『猛者同盟』初のメジャーデビューを決めた桜井勇治の大活躍を祈念して、乾杯!』
「カンパーイ!!』
居酒屋「メンズ・バトル」では、貸切の宴が催されていた。
一介の格闘技オタクだった桜井青年が、ついに檜舞台に上がるのだ。
地元のプロレス仲間として苦楽を共にしてきた猛者同盟のメンバーたちの感慨はひとしおだった。
「勇治、卒業試合をパーッとやらなきゃな!」
桜井の肩を勢いよく叩いたのは酒屋の銀次郎だ。
「お、おう。そうだな・・・・」
桜井の顔が一瞬歪んだことを銀次郎は訝しんだ。
「どうした?肩が痛むのか?」
「いや、あ、ちょっとな・・・・大したことないけどな。」
「メジャー・デビューを控えて怪我とかやめてくれよ~。」
「あ、ああ・・・そうだよな。いきなり欠場とか即クビにされちまうよな。ははっ・・・・」
(無理に明るく振る舞おうとしている・・・・?)
日頃他人の感情の動きなどに感心がない銀次郎にでさえ、桜井の様子は奇異に感じられた。
今晩は桜井を祝う会だ。主役がなんで無理に笑わなきゃならないんだ?
冬でもTシャツなくらい肉体を誇示する格好を好む桜井が、今日はネルシャツなんか着ている。
いつもの桜井だったら今頃パンツ一丁で飲んでいるだろうに・・・・
上座に大人しく収まって酒をちびちび舐めている桜井の姿はかなり変だ。
(真日入りで、プレッシャーがすごいのかもな。)
他のメンバーも気付いているのだろうか?明らかに様子の違う桜井に戸惑いつつ、今はそっとしておこうという気持ちが、皆に暗黙のうちに共有されているようだった。
ブッちゃんの音頭による一本締めで宴は終了した。
2次会になだれ込むメンバー達。
桜井は「風邪をひいたから。」と言ってカラオケ参加を固辞した。
皆がいなくなった店内。
ひとりになった桜井は店の照明を落とすと、奥にあるリングに向かった。
リングを照らすライトを点灯する。
男たちの汗や血、その他もろもろの体液が染みついた白いリングが浮かび上がる。
初めてここに立って試合をした日が思い出される。
あの頃は観客といっても店に飲みに来た客だけで、あまりプロレスに関心の無い客はむしろ迷惑そうにしていた。
人前にショート・タイツ姿で登場することに桜井は子供の頃から強い憧れを抱いていたが、いざその時がやってくると、あまりに無防備な自分の姿に顔から火が出そうなほど恥ずかしさを覚えたものだ。
酔っ払いが野次(声援?)を飛ばす。
「ヒュー!モッコリ兄ちゃん、頑張れよー!」
それでも試合が始まると無我夢中で、客の存在など忘れてしまった。
頭は真っ白で、散々練習した決め技やアピールのポーズなど、半分も出せなかった。
(だけどあれは爽快だったな・・・・・)
リングでパンツ一丁でプロレスをする。
それこそが、それだけが自分が生きている実感を得る手段なのだと改めて思い知った。
「猛者同盟」が少しずつプロレス・ファンに認知されてくるようになり、メンバーたちは必死で練習した。
バイトとトレーニングの日々。
そんなに前のことではないが、今では遠い遠い昔のことのように感じられる。
桜井はシャツを脱ぎ、カーゴパンツのベルトを外した。
パンツの下は青いショートタイツだった。
シューズも履かず、タイツ一枚でリングの中央に立つ。
身体の至る所に生傷があった。
いまだ血が滲む傷もある。
全身が打撲で痛む。
青いタイツはところどころが裂けたり、破れたりしていて、股間はパリパリになっていた。
プーンとカビ臭いような饐えた臭いが立ち上る。
採石場のリンチ・プレイの痕跡だ。
桜井はあの夜からタイツを洗っていない。
めくるめく快感の記憶をタイツに留めて置きたい気持ちがあったのかもしれない。
(ああっ・・・・)
桜井の右手が股間の膨らみを揉み始める。左手は自然と乳首を愛撫し始める。
素人の男たちの暴力にさらされながら、悲壮な英雄を演じる自分・・・・・
チェーンでぐるぐる巻きにされた桜井を狂ったように蹴り続ける男たち。
それぞれの抱える捌け口のない鬱憤を桜井の肉体にぶつけるかのように、男たちは息を切らして蹴り続ける。
「おあっ・・・うおっ・・・・ああっ・・・・・・」
深夜の採石場に桜井の悶え苦しむ声が響く。
「おいおい勃起してんのかよ!変態だなあ!」
桜井のタイツの膨らみに、迷彩ズボンの嗜虐心が煽られる。
「デカイもん持ってるな・・・・・」メガネ野郎が憎々しげにつぶやく。
「数学の嫌味じじいムカツク!」高校生は完全に情緒の安定を欠いている。
3人は桜井の足を持つと地面の上を引きずって行った。
何に使うのか濁った水が貯められた巨大なコンクリートの水槽の前で止まる。
桜井を立たせると、水面に頭を近づける。
「お顔拝見といきますか!」
迷彩ズボンがプロレス・マスクの結び目に手をかける。
「マスクは取るな!」
桜井の思いがけぬ強い声に、一瞬怯む迷彩ズボン。
「な、なにを生意気な・・・・・この変態野郎が!」
桜井の頭をマスクごと水槽の水に沈めた。
息ができずじたばたともがく桜井。
高校生が桜井の頭を押さえつける迷彩に加勢した。
「アンタ、ホモなんだろ?ホモはケツに突っ込まれたいんだよな!」
メガネが落ちていたモンキー・レンチの柄を、桜井のタイツが食い込むケツの割れ目にあてがった。
「おら!突っ込んでやるぜ!」
モンキーの柄がタイツごとケツに突き刺さっていく。
「おが・・・ごぼが・・・がぼ・・・・・・・」
チェーンに拘束されながら必死で身をよじっていた桜井の動きが次第に緩慢になってくる。
「おっと死んじゃったら面倒だぜ。」
迷彩は桜井の頭を起こすとそのまま後ろに引き倒した。
ケツに刺さったモンキーが、地面に激突したはずみで一層桜井のケツ穴を抉り、跳ね返って飛んで行った。
「あぐあ・・・・!」
肛門の激痛に悲鳴を上げた桜井は、そして咳込み始めた。
「水いっぱい飲んだもんな。」
高校生が桜井の腹を踏みつけグイッとスニーカーの踵を押しこむ。
「うげっぷ・・・・」
水を吐き出しぐったりする桜井のチェーンを解く迷彩。
「俺、高校の時柔道部だったんだぜ。このプロレス野郎を柔道技で痛めつけていい?」
ふたりの答えも聞かず、立たせた桜井を一本背負いで投げ捨てる迷彩。
素人柔道に桜井を投げられるはずはなかったが、プロである桜井は、「投げられるコツ」を身体で覚えていた。
それを自分が投げたと疑わない迷彩は、嬉々として桜井を硬い地面に叩きつけ続けた。
「がはっ・・・・!ぐおっ・・・・・!」
桜井はやられを演じる快感に恍惚となりながら地面をのたうちまわった。。
「おいおい、アンタだけ楽しむなよ。」
メガネが、横四方固めに捕えられた桜井の腹に革靴をたたきこんだ。
「・・・どいつもこいつも能無しどもが・・・俺の能力を妬んでんのか・・・・・くそっ・・・・・なんであいつがチーフなんだよ・・・・・甲斐性なし?・・・オマエ今なんつった?・・・・・結婚を早まった?俺のセリフだ、このドブス!!!!」
ぶつぶつ呟きながら一心不乱に腹を踏みつけるメガネ。
桜井の鎧のような硬い腹筋から血が滲み出してきた。
「スゲーまだ勃起してるよ!進路指導がなんだっつーの!こんなでけーチンポ初めて見た。」
相変わらず支離滅裂な高校生は、桜井の股間を撫でたりさすったりしている。
病んだ男どもに痛めつけらけながら興奮が収まらない桜井は、自分もまた救いようもなく病んでいることを思い知って愕然とし、ますます自暴自棄の快感に飲み込まれていくのだった・・・・・
永遠に続くかと思われたリンチの狂宴は、素人野郎の体力の限界とともに終焉を迎えた。
「はぁはぁ・・・・ああ・・疲れた・・・・兄さんありがとな・・・ストレス発散になったよ・・・・」
「ふぅ・・・・汗をかくのもいいものだな・・・・・病みつきになりそうだ・・・・」
「赤点上等じゃん。補習!補習!」
地面に横たわる桜井を残し車に戻ろうとする3人。
「待て・・・・・。」
桜井が呼び止める。
「俺の金玉を殴ってから帰ってくれ。」
「はぁ?もういいよ。満足できたから・・・・・」
「頼む!金玉を潰してくれ!」
3人は顔を見合わせ、面倒くさそうな表情ながら桜井の前に戻ってきた。
「よし、いくぞ。」
両足を踏ん張って立つ桜井の股間に迷彩がアッパーを打ち込んだ。
「うっ!」
ガクッと膝を折って崩れる桜井。
「もういいか?じゃあな。」
「次!」
再び踏ん張る桜井の姿に3人は恐怖を感じ始めていた。
青いタイツの股間は信じられない盛り上がりで、先端に染みが滲んでいる。
「お・・・・おらーっ!!!」
メガネの革靴の先端が青タイツの膨らみの下方にのめり込む。
「ふぐっ!」
白目を向いた桜井が後ろにバターンと倒れた。
全身が小刻みに痙攣している。
「つ・・・次・・・・・」
まだ意識のある桜井が声を絞り出す。
「うわーーーーーっ!!!」
奇声を上げながら高校生が大股開きで倒れる桜井に突進する。
高校生の手にはいつの間にか大きな石が握られていた。
「お、おいよせ・・・・・」
迷彩の言葉も届かず、高校生の石が桜井の至近距離で投げ放たれ、股間の膨らみを直撃した。
「ぎぎゅぅわっ!!!!」
断末魔の叫びとともに桜井の股間の先端から真っ白い雄汁が噴出した。
眩い閃光の中での長い長い射精の快楽に桜井は失神した。
気付くと山の稜線が朝日に浮かび上がり、3人の姿は無かった。
「ああ・・・・おあ・・・・・」
リングの中央で、恍惚の記憶に酔いしれる桜井の右手が、二つの玉をそっと握る。
甘い痛みを伴い睾丸が手の中でグリグリとこすりあわされる。
(これが無くなっても俺は人生に生きる価値を見出せるだろうか・・・・?)
絶対に無理だ。
それゆえに破壊の危険にさらしたくなるのだろうか?
「うんぐ・・・・むあ・・・・・・」
桜井の呼吸が激しくなる。
まだ痛む金玉を握りつぶしたくなる衝動に駆られる。
俺を滅茶苦茶にしてくれ・・・・・!
「桜井・・・・・!?」
突然の声にビクッとする桜井。
リングの外の暗闇から現れたのは酒屋の銀次郎だった。
「桜井・・・・・お前・・・・・・・。」
桜井は何と言っていいのか解らず、呆然と立ち尽くしていた。
(見られてしまった・・・・・)
銀次郎はギンギンに勃起した桜井のタイツの膨らみを見て、一瞬のうちに全てを悟り、そして次の瞬間には我を忘れてリングに飛び上っていた。
「桜井・・・・桜井・・・・・!」
銀次郎は桜井に思い切りタックルして押し倒した。
桜井に馬乗りになりながら普段着でありリングコスでもあるグレーのつなぎのチャックを荒々しく下ろし、上半身裸になると桜井にむしゃぶりついた。
「桜井・・・・・・お前・・・・・そうだったのか・・・・・・!?」
銀次郎は桜井の顔面にパンチを何発も浴びせた。
「ぐはっ!」
桜井のリアクションに興奮がますます高まる銀次郎。
髪を掴んで立ち上がらせ、ロープまで移動するとトップロープとセカンドロープで桜井の両腕を挟み、磔状態にした。
つなぎは腰からストンと下に落ち、いまや銀次郎の下半身はC-IN2のオレンジのビキニ下着だけだった。
(こんなの履いてたのか・・・・・)
ロープに磔になりながら桜井は銀次郎の男道を垣間見た気がした。
銀次郎はリングを降りると、ビール瓶を持って戻ってきた。
「桜井・・・・・思い切りやるぞ・・・・・いいか?」
桜井は銀次郎をまっすぐ見つめ、うなずいた。
「うおら!」
オレンジのビキニをビンビンにして、銀次郎がビール瓶で桜井を殴りつけた。
桜井の額が割れ、夥しい血が噴き出した。
「メジャーでは味わえないヒール攻撃を食らえ!」
銀次郎は桜井のタイツにビール瓶をねじ込んだ。
睾丸の上に瓶の本体が来るようにあてがい、そこを蹴り始めた。
「がっ!ぐっ!ああっ!」
冷たいビール瓶が睾丸を圧迫し激烈な痛みをもたらした。
桜井の悶え苦しむ姿と、一向に衰えない男根の勃ちっぷりに、銀次郎の興奮もマックスに達していた。
「桜井ーっ!死ねーっ!!!!」
銀次郎の踵がタイツと男根に挟まれるビール瓶に爆裂ヒットした。
「うぎゃーっ!!!」
桜井の絶叫とともにビール瓶が跳ね上がり、リング下の床に落ちて粉々に割れた。
銀次郎の眼は血走り、C-IN2には染みができている。
「お前をぶっ壊してやる・・・・」
桜井をロープから外すとリング下にほおり投げ、自分もリングを降りた。
「これがインディーのデスマッチだ!」
桜井を逆さに持ち上げた銀次郎は、ピール瓶の破片が散らばる床にパワーボムで叩きつけた。
マットもない床にしたたかに叩きつけられた衝撃と、瓶の破片が背中に突き刺さる激痛で、桜井の意識が遠のいた。
完全にノびた団体のチャンピオンを見下ろし、銀次郎はその悲惨な姿に途方もない興奮を覚えた。
「おぅわーーーー!!!!」咆哮にも近い声を上げ、銀次郎はビキニから男根を取り出し勢いよく射精した。
大量の精子が放物線を描いて桜井の全身にぶちまけられた。
血と精子の海に横たわる桜井。
「お前の卒業試合は俺がやってやる。一生忘れられない試合をしような。」
意識が朦朧とする中、桜井は銀次郎が泣いていることに気付いていた。
そして泣きながら銀次郎が股間を踏みつけて来た時、瓶のかけらがケツに刺さる痛みと睾丸に響く鈍痛の中で一気に果てた。
精子はタイツを貫通し胸まで飛んだのが感覚で解った。
「猛者同盟」はいつの間にか、次の季節へと移り変わっていたのだな・・・・・と桜井は思った。



「なまはげプロレス、火曜、19:00、北千住、行けますか?」
新宿御苑の千駄ヶ谷寄り、鬱蒼と茂る木立の中、カムイは藤堂に連絡を入れていた。
「了解。」
まだなにか言いたそうな藤堂の次の言葉を待たず、カムイはガラケーをパチンと閉じた。
長身でスマートなカムイは、まるでモデルのような身のこなしでひらりと駐車場方面に向きを変えた。
カムイは藤堂のプロレスに魅せられていた。
知的で都会的な容貌でも、自分の部屋では男たちの闘いを見ながらセンズリにふける只の男だった。
藤堂の地下時代には必ず観戦し、会員限定で法外な値段で販売されるDVDも全て持っていた。
地上の藤堂には今一つ興味が持てない。だが、手に入る映像はことごとく入手していた。
カムイは自分では気付いていなかったが、藤堂に恋していたのである。
明らかに庶民の持つ車ではない外車に近づき、鍵を出そうとポケットに手を入れた時、背後に立つ人影に気づいた。
「探したよ。」
振り向くと逆光にシルエットになったでかい男の姿があった。
「鮫島・・・・・・」
「行こうか。」
勝手に車に乗り込もうとする男に、カムイは観念したような表情を浮かべると、外車のロックを解除した。


つづく

インディー裏街道⑧

「よお!久しぶり!」

神埼太助と会うのは何年ぶりだろう。
藤堂はそれほど前のことではないのに遠い昔に感じられる学生時代を思い起こしていた。
サークルに属さず一般の道場やジムで鍛練を積んでいた藤堂、一方神埼はプロレス同好会で活動し、ある意味とても学生らしい生活を送っていた。
そんな二人が無二の親友となったのは、ゼミのクラスが同じだったことと、なによりプロレスの趣味が似かよっていたからだろう。
当時の藤堂がプロレスの話を他人とするのは珍しかった。
藤堂にとってプロレスとは、己の本能に直結することであり、単なる娯楽としてプロレスを捉えている人間とは話が合うはずもなかった。
学生時代の藤堂がプロレスに傾倒していたことを知っているのは神埼だけかもしれない。
「あの頃は社会人になってもプロレスやってるなんて思いもしなかったけどな~。あ、お前は違うか。お前はプロレスやってないと息ができないもんな。がははは!」
なまはげプロレス、通称「なまプロ」の代表である神崎が笑う。
「俺は卒業後すぐに地下に潜っちゃったからな。お前は消防庁。まさか今頃になってお前とプロレスすることになるとは・・・・人の運命なんて解らないものだな・・・・・」
しみじみ語る藤堂の胸には、プロレスと自分の性癖について初めて他人に話したあの日が蘇っていた。
『お前にはお前しか行けない道があるんだな。羨ましいよ』
神埼は藤堂の告白を聞いてもまったくショックを受けていないようだった。それどころか重大な秘密を打ち明けた藤堂に対して、より心を開き、自分のことも話してくれた。
若い二人は将来について語り合い、悩みを打ち明け、ふざけあい、まるで双子の兄弟のように連れ添っていたものだ。
卒業後、消防庁に入庁した神崎と、地下プロレスラーとして歩み出した藤堂は住む世界のあまりの違いからか次第に疎遠になっていった。
「やっぱ俺には役人は勤まらんよ。つくづく現場向きなんだな。俺は。」
どういう経緯があったのかは知らないが、神埼はいつしか特別救助隊に入隊し、現在では小隊長を務めるようになっていた。
「なまプロ、絶好調じゃないか。レスキューと二足のわらじは大変だろう?」と藤堂。
なまプロは地方を拠点とする地域密着型のプロレス団体で、今では人気は全国区だ。東京興行もここ数年毎年行われている。
所属レスラーは神埼のような兼業がほとんどだ。
「レスキュー・タスケ」これが神埼のリングネームだ。
「俺は一応公務員だからノー・ギャラなんだぜ。ボランティアって扱いなんだ。代表でしかも一番人気なのに。」
神埼は楽しそうに笑う。
「お前も結局、プロレスしてないと息ができないクチだったな。はははは!」
二人は肩を組んで笑い転げた。
時の隔たりなど一瞬で無くなってしまった。
「藤堂、よく来てくれたな。」
神埼は真顔になって言った。
「学生時代でさえ一度も同じリングに上がったことのないお前を呼んだのには、わけがあるんだ。」
「ああ。」
藤堂にも解っていた。
地下に潜って男の欲望を貪っていた自分を、今になって神埼が呼ぶということは、なにか重要な意味があるに違いないと。
「なまプロは俺が一から作り上げた団体だ。レスキューも俺にとって大事な仕事だが、なまプロはそれ以上、いや、俺の生きがいそのものなんだ。」
真剣な表情で話す神崎に藤堂は頷く。
「俺はここでチャンピオンとして君臨してきた。もしかしたらチャンピオンであり続けることが目的でプロレス団体を始めたのかもしれない。俺は・・・・王者の座を追われるのが怖いんだ・・・・」
藤堂には神埼の気持ちが痛いほどよくわかった。
地下チャンピオンの座を奪われた自分・・・・・
「学生の時も俺はチャンピオンだった。社会人になって〝俺が一番〟が常に通用しないことはすぐに理解した。だが俺にはたとえ〝お山の大将〟だとしてもそういうポジションがないと自分を保てないことも解ったんだ。」
「お前は今、そのポジションを手にしてるじゃないか。」
「今日、お前とタッグを組んで対戦する邪鬼・餓鬼コンビは本気で俺を落とそうとしている。これまでも負けそうな試合が何度かあった。実は団体一の人気者の俺を勝たすシナリオがあって、奴らは今までそれを律儀に守ってきた。だが、今日は違う。本気の宣戦布告をしてきた。」
「彼らが実力で王座を勝ち取るなら、それも仕方がないんじゃないか。」
「解っている。俺もインチキで王者でいたって嬉しくないからな。だからお前を呼んだんだ。お前とタッグを組んでそれでも負けたなら、俺は潔く負けを認めるよ。だが、俺は勝つ気だ。」
「タッグ試合なら万が一負けたとしてもお前の王座は関係無いのでは。」
「いや、タッグで勝ちを拾ったら奴らはますます勢いに乗って俺を潰しに来るだろう。逆に今日を取れなかったらしばらく大人しくなると思うんんだ。」
「・・・・・解った。勝つぞ。初タッグ、よろしくな!」
「こちらこそ!」
旧友タッグがガッチリ腕を組んだ。


邪気・餓鬼のヒールコンビは黄色と黒の虎柄のショートタイツだった。
競パンなみのサイドの細いタイツをハイレッグ気味に履いている。
「うーむ・・・・」
そのエロい履きこなしに藤堂は唸った。
「あいつらいつもはあんな格好じゃないのに・・・・・」
若い極悪コンビの気迫を感じて、神埼、いやレスキュー・タスケも息をのんでいる。
二人とも短く刈った髪を金髪に染めている。
(いいエロ・ヒールになれるな・・・・・)
藤堂はそんなことを思いながらグレー・シルバーのタイツに半勃起の膨らみを作っていた。
「あいつらは正攻法で攻めてくるのかな?実力でお前に勝ちたいんだろ?」
オレンジのレスキュー隊員仕様のツナギに、おなじくオレンジのマスクをつけたタスケが答える。
「いや、反則の限りを尽くしてくるだろう。ウチには反則負けは無いんだ。」
「なるほど・・・・たとえ相手が汚い手を使っても、それに耐え打ち勝つのが正統派のチャンピオンってわけだな。」
「そういうことだ。クリーンなファイトだけのプロレスなんてつまらん。ま、俺たちは役柄上、反則はしないけどな。」
学生時代のプロレス談義が思い出される。
どういうプロレスが美しいか、男の血をたぎらせられるか・・・・神埼の理想は変わっていなかった。
コールを受け、スポットライトの中、タスケがツナギを脱ぐ。
日本人離れした見事な体躯、人命救助のため日夜鍛錬に励む鉄人の身体。
オレンジのリング・シューズとニーパッド、そしてオレンジのショート・タイツ。
「神埼、お前・・・・」
その挑発的なビキニ・パンツに藤堂は驚いた。
(こいつにはこっちの気は無いはずだが・・・・・)
いつもは浮き気味の藤堂のエロタイツも、今日は普通に感じてしまうほどリング上の露出度は高かった。
4人のビキニ・パンツが男根の盛り上がりが触れ合うほど近付いてガンを飛ばし合う。
「タスケさん、今日は恥をかいてもらいますよ。アンタの時代はそろそろ終わりにしなきゃ。」
「まだまだ小僧どもに〝なまプロ〟は任せられん!」
「そっちのオニイサンも折角来てもらったけど、残念なことになるから覚悟してね。」
「おとといきやがれ!」
苦笑してコーナーに引き上げる虎パンツ・コンビ。
タイツからはみ出すケツタブがふてぶてしい。
まずは藤堂と餓鬼がリング・イン。
なるほど、タスケが脅威を感じるのもよく解る、と藤堂は思った。
若い獰猛なパワーに、巧みなヒール攻撃がプラスされ、単なる金髪マッチョではない「強さ」を感じさせる。
サミングや地獄突きがタイミングよく繰り出される。
藤堂は派手なリアクションでエロやられを演じながら、決定的なダメージを受けないよう注意した。
今日の藤堂の〝仕事〟は神埼を光らせつつ、あくまで試合に「勝つ」ことだった。
「オニイサン、いい声で鳴くね~。すっげー上がるぜ!」
グレーのタイツの光沢が、藤堂のモッコリをより立体的に浮かび上がらせる。
調子づく若造にさりげなく足払いをかまし、藤堂はコーナーにローリングで移動した。
タスケにタッチする際、「気をつけろ、あいつらの目当てはあくまでお前なんだからな。」と耳打ちした。
「解っている。」とタスケ。
藤堂の足払いの思いがけない鋭さに、足をさすりながら餓鬼もコーナーに引き上げる。
「なんだよアイツ・・・結構ウザいかも。」
「まあイザとなったらあの手があるから。それよりタスケを痛めつけるぞ。」
邪鬼がリング・インし、タスケと睨みあう。
因縁の二人の登場に場内が湧きたつ。
声援は圧倒的にタスケの方が多い。
まだまだ正統派ヒーロー・レスラーを愛するファンがたくさんいるのが「なまプロ」のいいところだ。
場内の声援に答えるためポーズをとるタスケの背後から、邪鬼がいきなりハイキックでタスケの後頭部を蹴り飛ばした。
ハイキックで大股開きになった虎柄タイツの膨らみが重力で形状を変える。
(あいつインナーを履いていないな・・・・・)
藤堂の観察眼は鋭かった。
やり方は卑劣だが、真っ当な技で不意打ちされたタスケはマットで頭を抱えてのたうちまわった。
「おら!格好つけてるからこんな目に会うんだぜ!」
邪気のエルボーがさらに後頭部を狙う。
「ぐあっ!」
邪気の猛烈なエルボー・ドロップのラッシュに、身体をくねらせて苦しむオレンジのマスクマン。
身体が弓なりになる度に、オレンジのタイツの膨らみが誇張される。
ほんの少しの布のズレで男根が見えてしまいそうなタスケの艶姿に思わず目を奪われる藤堂。
藤堂は、タッグマッチの際にコーナーで待機しているのが好きだった。
エロケツを客席に向けて見せつけるのが楽しかったのだ。
「誰が男のケツなんか見るかよ!」
そんなことを言うノンケがいる。
しかし藤堂は知っていた。
ブリケツに視線が集中していることを。
常に食い込ませぎみにしているタイツの縦の筋が、足の位置を変えたりすることでそれ自体生き物のように蠢く。
リング内の試合を気にする体で上体を前のめりにしてケツを突き出す。飛び出す絵本のように接近する迫力のケツに、鼻血を抑える客が必ずいるという確信がある。
それほど藤堂は自分のケツに自信を持っていた。
そしてプロレスを見に来る客が男の裸に興味がないはずがないと思っていた。
今、タスケのピンチに藤堂は興奮し、我を忘れてケツをくねらせていた。
(神埼・・・・エロいぞ・・・・お前、美しいぞ・・・・)
ガチャンッ
突然の異音に振り向くとコーナーから伸びたチェーンが見えた。
そしてその先端は足枷となって藤堂の足に装着されていた。
「なんと!」
いつのまにかリング下を移動して藤堂の背後に周った餓鬼の仕業だった。
「お、おまえ・・・・・これは中世の時代のものなのか?!」
「?・・・・そこかよ。ただのSMグッズだよ。オニイサン邪魔だからそこで見ていてよ。」
(しまった・・・・・神埼・・・・・スマン!)
ひとりになったタスケは極悪コンビにいいように蹂躙され続けた。
パイプ椅子が脳天に打ちつけられ、膝を折った先には縦に置かれたパイプ椅子があり、金玉をしたたかに打つ。
ロメロに決められ悶絶するマッチョボディにチェーンの鞭うち。
タスケのワーキング・マッスルから鮮血が滲み出した。
コーナーに逆さ吊りにされ、ポストに上った邪鬼が上から股間を踏みにじり、リング下の餓鬼がチェーンで首を締めあげる。
二人の極悪人は虎タイツをケツに食い込ませながら、正義のオレンジ・マスクマンを破壊していった。
(神埼・・・・お前最高だ・・・・・最高のエロ・チャンピオンだ・・・・・)
コーナーに捕えられた藤堂は完全にフル勃起状態だった。
リンチにさらされる親友の姿のあまりのエロさに感動していた。
「タスケさんよ、いいザマだな!こんなにやられて悔しくねえのかよ!え?人気者さんよ!ほら俺たちにダメージの一つでも与えて見ろっつーンだよ!」
リング中央でノビているタスケを言葉で責める地獄の鬼ども。
半分食い込んだオレンジ・タイツのケツがヒクッと動いた。
「く、くそ・・・・・お前たちに〝なまプロ〟は好きにさせねえ・・・・・!!!!!」
タスケが力を振り絞って立ち上がろうとしていた。
「レ・ス・キュー!レ・ス・キュー!レ・ス・キュー!・・・・・・・」
場内に割れんばかりのレスキューコールが沸き起こった。
タスケがついに立ち上がった。
「さ、最後は正義がか、勝つってパターンがみ、みんな好きなのさ・・・・」
タスケの決めのポーズ「ファイヤーマン・マッチョ」が決まった。
「タスケー!!!!」
場内大興奮。
その後光が射す半ケツレスラーの姿に、いつしか藤堂は涙を流していた。
と、
「死ね!タスケ!!!」
邪鬼・餓鬼のハイキックが前後ろ両方向からタスケの頭部に炸裂した。
一瞬の間。
タスケの膝がガクッと折れた。
バターン!
リングに大の字にダウンするタスケ。
(か、神埼・・・・・・!)
「神埼ーーーーっ!!!!!」
藤堂は絶叫していた。
「うるさいよ。アンタ脇役なんだから静かにしてよ。」
極悪コンビはもはや意識も定かではないタスケの頭部と、足の先にそれぞれ立った。
「再起不能にしてやる。」
餓鬼が四の字固めを決めると、タスケがわずかに呻いた。
「偉いぞ。まだ気を失ってなかったか。」
邪鬼がタスケの首に腕をまわした。
スリーパー・ホールドと四の字固めで、哀れなマッチョ・マスクマンは息の根を止められるらしい。
上腕二頭筋がタスケの気道を圧迫し、やがてふさいだ。
「ぐふ・・・・・・」
正義のヒーロー、レスキュー・タスケの最後は、泡吹き失神で幕を下ろした。
水を打ったように静まり返る場内。
「まだまだ終わってないぜ。」
勝利の興奮に顔をゆがませた邪鬼が笑う。
「これ以上何をするつもりだ!」
藤堂が叫ぶ。
若手が足枷のチェーンを外そうとしてコーナーに2,3人で群がっている。
「は、早く外してくれ!アイツラ神崎を・・・・・!」
餓鬼がペットボトルの水を倒れているタスケの顔にかけた。
「あぐ・・・・ああ・・・・」
タスケが意識を取り戻した。
「恥はちゃんと記憶に残さないとな。」
邪鬼がタスケのオレンジのマスクに手をかける。
「や、やめろー!!!それを取られたら・・・・・・!!!」藤堂が叫ぶ。
「知ってるよ。国家公務員様の素顔がバレたらもうプロレスできないよね。」
冷酷な邪鬼の手がマスクを一気に剥ぎ取った。
場内にあがる悲鳴のような叫び。
藤堂も叫んだ。
「神埼!」
ガチャリ
足枷の鎖が外れた。
「タオルを貸せ!」
若手からタオルを奪い取ると藤堂はタスケの元に走った。
タオルで暴かれた素顔を隠すのかと思いきや、藤堂が隠したのは股間だった。
「担架!」「救急車!」
怒号が飛び交う中、タスケは運び出され病院に搬送された。
リング上では虎柄タイツがケツにギッチリ食い込んだエロ・ヒールが勝ち名乗りを上げていた・・・・・


数日後、藤堂は入院している神埼を見舞った。
「神埼・・・・役に立てなくてすまない。」
「・・・・・・・お前、ホンットにサイテーだったな。」
「申し訳ない・・・・・!」
神埼は頭を上げない藤堂から視線を外し、窓の外を見た。
その表情はとても穏やかだった。
「でも・・・・でも、ありがとな。」
「えっ?」
思いがけない言葉に顔を上げる藤堂。
「あの時・・・・俺の射精を隠してくれた。」
「あ・・・ああ・・・・」
「あいつらにボコボコにされて・・・・負けて・・・・・とうとうマスクを剥がされた時、スゲー快感というか体験したことのない興奮が訪れて、あっという間に出しちゃってたんだ。」
「う、うん・・・・」
「お前が昔言ってたことが、やっと理解できたよ。レスラーは負けて光るって。」
「そんなこと言ってたよな、俺。」
「おう、いつも言ってた。」
二人の間に笑い声が戻ってきた。
「いや~、カイシャから大目玉だよ。プロレスで怪我して欠勤って、子供かよ!ってね。」
「もうプロレスできないのか?」
「おれも覚悟したけどな。ところが!これまでの地域への貢献が評価されて、やめなくていいってさ!」
「神埼!」
「でも降格っす。ま、これまでよりプロレスに専念できていいか。」
「よかったな。」
「ああ。でももう〝なまプロ〟にはお前は呼ばない。」
ふたたび笑い声が病室に響き渡り、二人は看護師に叱り飛ばされる。

その時、電源を切ったスマホに留守電メッセージが吹き込まれていることを藤堂は知らなかった。

・・・・ピーッ・・・・・・
僕だ・・・・カムイ・・・・・藤堂・・・・・俺のことは放ってお・・ブチッ
ツー・・・・・・・


つづく

インディー裏街道⑨

10月の爽やかな秋晴れの日曜日。
居酒屋「メンズ・バトル」の前には、午前中から男たちの行列ができていた。
桜井勇治の猛者同盟卒業試合の先行販売チケットを求める集団である。
先着100名、当日券無しということで、古くからの猛者同盟ファンが詰めかけていた。
しかも今回は18歳以上男子限定という異例の制限が設けられていた。
販売元としては、人権団体から抗議が来るかと警戒していたが、もともとファン層は男ばかりだったせいか、これといって悶着が起こりそうな気配はなかった。
店内で受付を担当しているのは酒屋の銀次郎と若手の直樹だった。
毎週末の興行時によく見かける常連のファンたちと言葉を交わしながら和やかに予約受付が行われていった。
時々サインを求められて照れながら色紙にペンを走らせる銀次郎。
極悪ヒールの微笑ましい姿を見ることができて、ファン達も嬉しそうだ。
「桜井さんメジャーに行っちゃうんですね。インディーの桜井さんが好きだったのに・・・・・」
予約名簿に記入しながら、ちょっと鍛えた感じの青年が寂しそうに言った。
「真日での桜井も応援してやってくださいね。」
銀次郎が言う。
「真日でもショート・タイツ履いてくれるかな・・・・・」
ひとりごとのようにつぶやく青年に、銀次郎がハッと顔を上げて青年の顔を見る。
青年は連れらしい後ろの中年男性と言葉を交わしていた。
(桜井はきっとメジャーではショート・タイツを履かない。それに気付くファンがいるとは・・・・。ってかタイツのことを気にしているファンがいるとは猛者同盟らしいというか、やはりプロレスにエロを求める人間がいるということだな・・・・・)
銀次郎はしみじみ思い、自分たちが男臭いプロレスを続けてこれたんだなと実感した。
青年の記入した名簿を見ると、「田代誠二」とあった。
会場でよく見かける顔だ。桜井が抜けた後も見に来てほしい。
青年の次に名簿にペンを走らせる中年男性はおそらく初めて見る顔だ。
田代に誘われて列に並んだのだろうか。
「ハセベ」とだけ書いたその中年男性は、料金を支払うとチケットを受け取りながら銀次郎をまっすぐ見据えた。
その眼光の思いがけない鋭さに、銀次郎は一瞬全身が緊張した。
「裏を知った人間が、表の世界でやっていけるかな。」
「えっ・・・・・・!?」
虚を突かれた銀次郎が戸惑う間に、中年男性と青年は列の人ごみに消えていた。
(なんだ・・・・・?あいつら・・・・・・。)
爽やかな日曜日に、突然湿った風が吹いたように感じた銀次郎だった。



代々木の邸宅街。
「竜崎」と掘られた表札の前で、藤堂猛はインターフォンのカメラを睨みつけていた。
カチャリ
巨大な門の、メインゲートではない隅の入り口が解錠された。
大柄な藤堂は身を屈めるようにして小さな入り口をくぐった。
邸の敷地内には鬱蒼と生い茂る木立があり、母屋の姿は確認できなかった。
さて、どちらに進もうか。
藤堂が考えあぐねていると、シュッという一瞬の音とともに首の後ろに痛みが走り、藤堂はその場に倒れ意識を失った。
視界が真っ黒にフェード・アウトする直前、青空を横切る真っ黒なカラスが見えた・・・・・


2時間前、藤堂はパセリさんの工房にいた。
カムイの留守電を聞き、カムイが鮫島に拉致されたことを悟った藤堂は手掛かりを求めてやってきたのだった。
「鮫島の居場所を知らないか?」
切羽詰まった様子の藤堂に気押されつつ、パセリさんは答える。
「俺は知らないよ。鮫島ともこの間会ったのがすげー久しぶりだもの。」
「あいつ、ここでタイツ発注したって言ってたよな。完成したのか?取りに来たか?」
「あ、ああ。何をそんなに焦っているの藤堂ちゃん。鮫島のタイツは出来上がってもう発送したよ。」
「発送?そんなサービスがあったのか?い、いやそんなことはどうでもいい。ど、どこに発送したんだ?鮫島の自宅か?」
パセリさんは机の引き出しをごそごそとやって1枚の紙切れを取りだした。
「あったあった、伝票。えーと鮫島の自宅じゃないみたいだよ。別の名前だもの。」
「ちょっと見せてくれ!」
パセリさんから伝票をふんだくる藤堂。
そこに記載された名前を見て、藤堂の下半身に衝撃が走る。
「竜崎・・・・・・臥門・・・・・!?」
呆然と立ち尽くす藤堂に、パセリさんが聞く。
「知ってる名前なの?」
「知ってるもなにも・・・・・・・」
藤堂は竜崎臥門に陵辱されたことがあるのだった・・・・・


気付くと、藤堂は頑丈な椅子に手足を縛られていた。
コンクリートむき出しの暗い部屋。
正面と横しか確認できないが、かなりの広さがある空間のようだった。
「久しぶりじゃな。藤堂。」
背後から和服姿の老人が現れ、藤堂の正面に立った。
顔は老人のそれではあったが、まっすぐ伸びた背筋、和服を着ていてもなお窺い知れる筋肉の盛り上がりは、まるで若い盛りの男のようだ。
「竜崎さん、これは一体何のマネですか?」
「ふぉっふぉっふぉっ・・・・おぬしがそろそろ来ることは解っておったのじゃ。折角の再会なのじゃから趣向を凝らそうと思ってな。わしが生来の演出家なのは知っておるじゃろ?」
「俺が来ることが解っていた・・・?ではやはりあなたが関係しているのですね?」
「そう急くな。」
老人は懐からプラスチックの瓶のような形をした容器を取り出すと、中のカプセル錠剤を口に放り込んだ。
「若さを保つためにはサプリが欠かせないのう。」
L-アルギニンと書かれた容器を再び懐にしまい、老人は微笑みながら藤堂を見た。
「鮫島周星の行方を捜しにきたのじゃろう?」

2年前、地下プロレスのチャンピオンだった藤堂は新人の鮫島周星に惨敗した。
地下の掟で、敗者となった藤堂は客に犯された。
高倍率のオークションを高額で落札したのは竜崎臥門という謎の富豪だった。
彼の老人とは思えない精力に、試合に負けて打ちのめされていた藤堂は、さらに駄目押しの屈辱を味あわされたのだった。

「カムイの失踪には鮫島がからんでいる。そしてあなたも1枚噛んでいる。そういうことですね。」
老人は笑顔を崩さなかった。
「正確には、鮫島の動きを察知したわしが、久しぶりにおぬしと遊んでみたくなって割り込んだ、というところじゃな。」
「鮫島の目的は何なんですか?カムイは無事なんですか!?」
「カムイさんとやらの安否はわしにもわからん。ただ、鮫島の目的はおぬしは解っておるはずじゃ。」
「・・・・・・・・・・・・」
「鮫島はおぬしを犯したいのじゃ。」
「・・・・・・・・・・・・」
藤堂の股間が意思とは関係なく硬くなる。
自分を負かした相手、鮫島に犯されたいと思っている自分。
そんな願望に恐れをなし地下から逃げた自分。
そしてそんな自分を追いかけてくる鮫島。
「おっ勃てたようじゃな。望み通り鮫島の居場所は教えてやろう。わしをつてにおぬしが追ってくることは鮫島の計画通りなのじゃから。ただ、わしにも少し楽しませてもらう権利はあるはずじゃ。」
「また俺を陵辱するつもりですか・・・・・?エロじじいめ。好きにしろ!」
「ふぉっふぉっふぉっ・・・・・いい覚悟じゃ。だがただ犯してもつまらんからな。久しぶりにおぬしのプロレスを見せてくれ。勝てたらわしはおぬしに指一本触れずに鮫島の居場所を教えよう。だが、負けたら・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「負けたら、その時はおぬしの雄汁を一滴残らず搾り取ってやろう。安心しろ鮫島には会わせてやるから。」
藤堂の身体が椅子ごと持ち上げられた。
椅子を持つ二人の大男を見て藤堂は驚いた。
「お前ら・・・・・!?」
それは先日、親友の神埼太助をボコボコに痛めつけた餓鬼・邪鬼コンビだった。
黄色と黒の虎タイツがケツに食い込んでいる。
「俺たちの裏のバイトを知られちゃったね。オニイサン。」
椅子が180度回転し、今まで見えなかった背後が明らかになった。
リングがある。
そしてリングの上には、赤と黒の虎模様のビキニ・タイツを履いた筋肉隆々の大男がいた。
「はじめまして~。鬼神と申します~。」
虎柄がゆがむほどの股間の膨らみは凶器を思い起こさせた。
「ふぉっふぉっふぉっ!藤堂、おぬしはこの鬼神、邪鬼、餓鬼の3人と闘うのじゃ。エロい闘いを見せてくれよ。ふぉっふぉっふぉっ!」
老人の笑い声が響き渡り、藤堂は額から流れる冷や汗に視界を滲ませていた・・・・・



真夜中のバッティング・センター。
1か所だけ明かりが灯された緑色の網の内側で、ビキニ・パンツ一丁の男が悶え狂っていた。
意思を持たない冷酷なマシンが等間隔でボールを吐き出す。
空気を切り裂いてボールが失踪する先には、鍛え上げられた男の筋肉がある。
白球が生身の筋肉にのめり込む度に、男の呻きが周囲の闇の密度を濃くしていく。
「おあっ・・・・・!ああっ・・・・・・!次が・・・・留めの一撃だ・・・・・・!」
ホームベースの上に足を開いて踏ん張る青パンツの男。
ブンッ!
ど真ん中のストライク球が投げ放たれ、それはまっすぐに男の股間を直撃した。
「ぐふぅー!!!!」
白目をむいて倒れる男の股間にみるまに染みが広がってゆく。
(俺は・・・・金玉潰しジャンキーだ・・・・・・ボール・バッシュ・ホリックってやつ・・・・・・?)
桜井勇治は壊れていく自分を自覚しつつ、そんな自分を止められない自分を自嘲して笑った。
卒業試合まで、あと2週間・・・・・・・


つづく


インディー裏街道⑩

― 3年前、都内某所地下リング ―
「ああっ!なんということでしょう!藤堂ダウンです!鮫島の足刀3連発で大の字に倒れてしまっています!」
・・・・・・フォー!、ファイブ!、シックス!・・・・・・・
レフェリーのカウントがやけに遠くに聞こえる。
立たなければ・・・・
俺はチャンピオンだ・・・・
「藤堂、立ち上がりましたーっ!無敗の王者の意地でしょうか!?地下の英雄、フラッシュ藤堂、立った―っ!場内は割れんばかりの大歓声です!」
ぐっ・・・・焦点がうまく合わない・・・・・鮫島はどこだ?・・・・・あの生意気な小僧は・・・・・?
「あーっと!鮫島、足取りがおぼつかない藤堂のバックを取った!何を狙っている?あーっ!ジャーマンだ!投げっぱなしのジャーマン・スープレックスだーっ!リング中央の硬い部分に藤堂の脳天が叩きつけられたーっ!」
・・・・ぐは・・・・ん?・・・・ここはどこだ?・・・・照明?・・・・リングか?・・・・あ・・・・俺は意識を無くしていたのか・・・・?
「藤堂、ピクリとも動きません!お客さんの藤堂コールは届いているか!?無敵の象徴、黒いショートタイツは息を吹き返せるのか!?」
シックス!、セブン!エイト!ナイ・・・・・
「おっとー!鮫島、レフェリーのカウントを制止したーっ!藤堂の髪を掴んで、あーっ!チョーク・スリーパーだ!しかも無理やり藤堂を首から持ち上げてスタンディングの形に持っていくつもりか!?藤堂の全体重が首にかかっている!これは危険だ!あーっ!鮫島、なんというパワーでしょう!藤堂が吊りあげられていくーっ!弱冠19歳の鮫島、地下プロレスの王者、藤堂を人力絞首刑に処するつもりかーっ!藤堂の膝にはまったく力が入っていません!おおっ!鮫島片手を解いて藤堂のタイツを掴んだ!あくまで立たせた形でトドメを刺す気だ!無敵の象徴の黒タイツが引っ張りあげられて、ああっ!藤堂の陰毛が見えています!王者藤堂、陰毛を曝して19歳に片手スリーパーに吊られています!なんという衝撃的な光景でしょう!あーっ!藤堂、口から泡を吹いている!完全に白目を剥いています!これは危険だーっ!もう決着はついているでしょう!レフェリーが止めにはいっているが、鮫島、技を解きません!王者の無残な姿を観客に見せつけているようです!これは危ない!藤堂が死んでしまうーっ!!!」



餓鬼にバックから首を取られ、邪鬼のパンチを腹に受けながら、藤堂は鮫島との屈辱の闘いを思い出していた。
それまでプロレスで自分より強い男はいないと思い込んでいた藤堂の心は、ズタボロに引き裂かれた。
(そして俺はその挫折から逃げた・・・・・)
邪鬼のパンチはタイツを掴んで反動をつける、アメリカン・プロレスでよく見る典型的なヒール・スタイルだった。
タイツを引っ張られるたびに、インナーを履いていない藤堂の男根が上から丸見えになった。
竜崎老人以外客もいないリングでショー的なプロレスをしてしまうのは、プロレスラーの性だろうか?
鬼神はまったく動かず、コーナーで不気味に邪鬼・餓鬼を見守っている。
「オニイサン、このパンツ、もしかしてタスケの?」
藤堂のオレンジのタイツを引っ張りながら邪鬼が笑う。
そう、このタイツはレスキュー・タスケのものだ。
神埼太助を病院に見舞った際に、洗濯を頼まれていたのをすっかり忘れてリュックに入れっぱなしになっていたのだ。
突然試合をすることになってそれを思い出し、履いたのだが・・・・・
「これザーメンの染みだろ?あの時タスケの野郎イっちゃってたもんな。」
タスケの射精タイツは1週間以上たってカピカピになっていた。
饐えた臭いが立ち上っている。
「キッタネエ~!オニイサンよくこんなの履けたな。チンコ病気になるぜ。」
「う、うるせー!俺と神埼は兄弟も同然なんだ!このタイツはお前らへの神埼のリベンジだ!」
藤堂は後ろの餓鬼の腕を取ると、眼にも留らぬ速さで背負い投げに放り捨てた。
餓鬼の身体が、前にいた邪鬼に激突する。
ダウンした餓鬼の首に藤堂の太い足が絡みつく。
レッグ・シザースで餓鬼の動きを止めた藤堂は、両腕を伸ばし倒れている邪鬼の首を引きよせた。
万歳をする格好で邪鬼の首を締めあげる。
邪鬼にはスリーパー、餓鬼にはレッグシザースで、リングの上に人体の直線が出来上がった。
2人を同時に責める藤堂の身体は、仰向けにガラ空き状態で、今鬼神に攻めてこられたらひとたまりもない。
だが、鬼神はコーナーにもたれかかったまま動く気配はない。
薄く笑みさえ浮かべている。
赤と黒の虎柄タイツの膨らみが大きくなったような気もする。
(あいつは只者ではないな・・・・)
藤堂は〝只者〟な2人を締めあげながら鬼神との闘いに思いをはせた。
「オ、オニイサン・・・強いじゃん・・・・・」
邪鬼が呼吸困難に喘ぎながら驚いている。
「おい、俺を誰だと思っているんだ?」
俺は地下プロレスのチャンピオン・・・・・とは言えない自分に気付く。
今はインディー・プロレスを〝職人〟として渡り歩く日蔭のレスラー・・・・・
(くそっ・・・・)
やり場のない苛立ちに、藤堂の全身に力が入る。
「おいおい、2人が死んじゃうよ。もういいから俺の相手してよ。」
鬼神の言葉に我に返る藤堂。
邪鬼・餓鬼は失神して伸びていた。
藤堂は邪鬼・餓鬼を蹴り転がしてリングの外に落とすと、鬼神と向き合った。
「さて、いよいよ本番じゃな。」
パイプ椅子に腰かけた竜崎老人が不気味に笑う。
鬼神が腕のストレッチをしながらコーナーからリング中央に歩いてくる。
「あいつらはガキの頃の後輩だ。アンタのお手並み拝見ってことで先にやらしたけど、よくもまあ痛めつけてくれたね。ふふふ・・・・。あいつらは鬼じゃないよ。俺が本当の『鬼』を見せてあげるよ。」
「鬼だか何だか知らないが、俺は急いでいるんだ。チンピラはさっさっと片付けるぜ。」
藤堂は竜崎老人を睨みつけた。
「今日は俺を犯すことは出来なさそうですよ。悪いけど。」
「ふぉっふぉっふぉっ」
竜崎から鬼神に顔を戻した藤堂は、突然視界が真っ白になり顔を抑えた。
「うっ!」
眼が猛烈に痛む。
鬼神が何か粉状のものを藤堂の顔面に撒きつけたのだった。
間髪いれず腹に重い痛みが走る。
「ぐぼっ・・・・・」
衝撃に備えていない腹筋に、鬼神の膝蹴りがめり込んでいた。
身体をくの字にしてリングを転げまわる藤堂。
「チンピラにはチンピラのやり方があるんでさあ。」
赤黒虎タイツが、ゆっくりとオレンジタイツに歩み寄っていった・・・・・




「えーっと、これは一体何を作っているのかな?」
ブッちゃんが、店の裏でトンテンカンテン始めた銀次郎の様子を見に来て戸惑っている。
「見りゃあ解るだろ!〝有刺鉄線ボード〟だぜ。猛者同盟初のハードコア・デスマッチで桜井を送るのさ。」
畳一畳はあるかという大きなコンパネ板一面に有刺鉄線が張り巡らせられたものが、何枚も出来上がっている。
「あのな、一応ウチは飲食店なんだよ。ただでさえ保健所がうるさいのに、流血はまずいっしょ~。」
「うるせー!当日は貸切で予約チケット持ってる客しか来ねえだろ。保健所が来ても入れなきゃいいだろ!」
「んな無茶苦茶な・・・・・」
「バットも作るぜ。いいか、桜井は死ぬんだ。猛者同盟の桜井は死んで、真日で復活するっていうストーリーだ。ゾクゾクするだろ!」
ブッちゃんはため息をついて店の中に戻っていった。
(桜井・・・・・最高の幕切れを飾ってやるからな!俺とお前の最後の闘いだ。男と男のな・・・・・!)
ワイヤー・カッターを握る銀次郎の繋ぎはギンギンにテントを張っていた。


つづく






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