2ntブログ

インディー裏街道⑪

鬼神はまさにヒールだった。
いや、〝ただの〟ヒールと言った方がいいかもしれない。
レスリングには興味がないがプロレスのショー的な暴力に強く惹かれた。
ほとんど裸の男を衆人の前で痛めつけるというエクスタシー。
反社会的であるということを格好よしとする鬼神の幼い精神構造にぴったりとフィットした。
とは言え、本当のプロレスは〝職業〟であり社会規範の内で成り立っている。
永遠のチンピラでありたい鬼神としては、プロレス界に居場所を見つけるという道は見えなかった。
竜崎老人の元で、エロ・ヒール要員として飼われることになったのは鬼神にとってラッキーだったのかもしれない。
生来のナルシストで、鍛え上げた肉体を鏡に映して何時間でも過ごすことができた。
今も藤堂の首をチェーンで締めあげながら、股間の膨らみに触れモッコリ具合をチェックすることを怠らなかった。
「いいねえ、いい声で鳴くね~。俺みたいなビューティフルなボディーに責められると気持ちいいっしょ。」
藤堂のうめき声に合わせて自らの身体を撫でまわしている。
「ぐぐ・・・・がは・・・・・」
不意打ちの目潰しからチェーンに捕えられてしまった藤堂だが、早くこの「ジジイの余興」を終わらせたかった。
視界が戻ると鬼神を背負ったまま立ち上がった。
そのままコーナーまで後ろ向きに走り、鬼神の背中をコーナーに打ち付けた。
たまらず藤堂の背中から落ちる鬼神。
藤堂は首に巻きついたチェーンを取り払うと、鬼神の髪を掴んで立ち上がらせようとした。
ぼわっ!
突如鬼神の口から炎が噴き出し、藤堂の股間に激烈な熱さが伝わった。
「おわっ!何するんだ、この野郎!」
化繊のタイツが変質し金玉に張り付くのをあわてて引きはがす藤堂。
陰毛が焦げたのか、香ばしい臭いが立ち上る。
「くそ・・・顔を狙ったのに・・・・・」
よろよろと立ちあがりながら赤黒虎タイツの位置を整える鬼神。
「堪忍袋も限界だぜ!」
猛烈な勢いで突進してくる藤堂に、あわててリング外に逃げる鬼神。
リング下からなんとサーベルを取りだした。
「ふうっ・・・・・・・・・・・」
ため息をついて竜崎老人を振り返る藤堂。
「おいおい、これまだ続けるんすか?時間の無駄でしょう。」
藤堂が当初鬼神に感じた異質な雰囲気は、鬼神がまったくプロレスラーではないことから発していたのだと解った。
竜崎は静かに微笑んだままだ。
「さっさとカムイの居場所を教えてください!こんな試合いつまでやっても・・・・・・」
ガシャンッ!
いきなり後頭部に衝撃を受け、もんどりうった藤堂の背中に再び硬いものが打ち付けられる。
息を吹き返した邪鬼・餓鬼がパイプ椅子で襲撃してきたのだ。
椅子攻撃が藤堂をメッタ打ちにする。
「助けるのが遅いよ。君たち。」
鬼神がリング下でへらへらする。
「先輩、俺らがやばい時見てただけじゃないっすか。」
ぐったりした藤堂の首に再びチェーンが巻かれる。
邪鬼・餓鬼が2人掛かりで藤堂を持ち上げ、トップロープを越えて巨体をリング下に落とす。
「ぐわ・・・・・」
チェーン絞首刑にもがく藤堂。
正面では竜崎が微笑んでいる。
鬼神がサーベルを持って近付いてきた。
「古典的な反則技をどうぞ。」
サーベルの柄で、藤堂の額を殴りつける。
「あわっ・・・おうっ・・・・」
チェーンに首を絞められ、顔面が真っ赤に充血した藤堂の額から血が噴き出す。
「おお・・・いい!いいよー。サーベル攻撃で流血!昭和レトロだね~。」
自らの股間を揉みながら、狂ったように藤堂の額を殴り続ける鬼神。
「ぐふ・・・・・・・」
チェーンをトップロープに固定し、邪鬼・餓鬼もリング下に降りる。
「スゲー血だな・・・・。出血多量でやばくないっすか?」
少しも心配していない表情で邪鬼が言う。
「大丈夫、ダイジョーブ、ほら、オニイサン勃ってるもん。チンコに行く血は残ってるってことだろ。」
邪鬼の言う通り、藤堂は勃起していた。
火炎攻撃で少し溶けたようになっているオレンジタイツが透けるほど、藤堂の男根は威きり勃っていた。
(くそ・・・・こんな時に・・・・・どうして俺の身体はこんなに正直なんだ・・・・)
邪鬼・餓鬼が両脇から乳首をつまんできた。
「おあ・・・・んふ・・・・・うお・・・・・・・」
霞む目に竜崎老人が立ち上がるのが見えた。
「藤堂、まだまだ修行が足りないようじゃな。どんな相手でも油断は禁物ということじゃ。」
竜崎は藤堂の正面に立つと、おもむろに手を出し藤堂の金玉をグイッと握った。
ふたつの胡桃を手のひらで擦り合わせるように、金玉がグリグリと摩擦される。
「ぎぃっ・・・・・・!」
首に巻きつくチェーンを緩めようとしていた藤堂の両手がだらんと下に落ちた。
「うごが・・・・・・」
藤堂の口から泡が吹き出し、滴り落ちる鮮血と混ざってピンク色の流れを作る。
鬼神の赤黒虎タイツが先走りの染みを作っているのが見える
乳首の先端に邪鬼・餓鬼のゴツイ手が繊細にタッチする。
竜崎の手に力が入る。
ごりっ!
陰嚢のなかでふたつの玉が激しく擦り合わさった。
「んはっ!」
藤堂の男根がタイツの中でビクンと激しく振動し、先端から雄汁が噴き出した。
オレンジのタイツを流れ落ちる白い粘液を手のひらで受け止めた竜崎は、それを一舐めするとニタッと微笑んだ。
「濃い味じゃ。」
老人のこの世のものとは思えぬおぞましい笑みを最後に、藤堂の意識はプッツリと途絶えた・・・・・



竜崎が大理石張りの洗面所で手を洗っていると、執事が外から声をかけてきた。
元警察官のゴツイ体つきだが、声はもの静かで柔らかかった。
「お電話です。」
「だれじゃ。」
「〝旧友〟だと伝えてくれ、とのことです。」
竜崎の眉毛がほんの少し動いた。
「書斎で取る。」
「かしこまりました。」
書斎の重厚なデスクに身を落ち着けると、竜崎は軽く深呼吸した。
そして意を決したように受話器を取る。
「竜崎です。」
「・・・・・・ご無沙汰しています。誰だかお判りになりますか?」
「ワシがあなたの声を忘れられないことは承知じゃろ?」
「・・・・・そうですか。お互い歳をとったのに・・・・・・」
ほんの短い沈黙に、何十年という時間がかすかな風となって流れた気がした。
「私が困った立場に置かれていることはご存知でしょう?」
「はい。じゃから電話など思いもよらなかった。」
「手を尽くしてやっとご連絡できたのです。あまり長くは話せません。」
「いまさら一体ワシに何故・・・・」
「助けがいるのです。」
「・・・・・・・・・」
「私が失脚した時、あなたは何の手も差し伸べて下さらなかった。それは仕方のないことだと解っています。私たちの過去のことを想えば。ですがこのままでは、あなた自身の栄光の過去も汚されてしまう。」
「ワシの過去は栄光などではない。本能の赴くままに欲望の限りを尽くした、それだけじゃ。動物と変わらないのじゃ。」
「今、まさに本能のままに生きたいという男たちが迫害されようとしているのです。私があなたにお願いできる立場ではないことは承知しています。ですが、今こそあなたが求められていることをどうしてもお伝えしたかったのです。」
「・・・・・・・・・・」
「ご存知のように私は幽閉状態です。使いを伺わせます。」
「ワシは助けるとは言っておらん・・・・」
「いえ、助けるのではなく、あなた自身のために動かざるを得ないのです。」
「何を言っておるのじゃ・・・・」
「私は栄光だと思っています。伝説の地下レスラーのことを・・・・」
ブツッ・・・・・・・
電話が切れた。
竜崎はしばらく放心していた。
やがてデスクの引き出しの鍵を開けると額縁を取りだした。
そこには、マッチョ・ポーズをとるプロレスラーの写真が収められていた。
「ライディーン竜崎・・・・・」
そうつぶやくと竜崎は再び放心状態に陥っていった。


つづく



インディー裏街道⑫

11月某日、府中の居酒屋メンズ・バトルには、桜井勇治の猛者同盟゛卒業〟試合の予約限定チケットを購入した客が押し寄せていた。
客の9割以上が男である。
猛者同盟のこれまでの興行が、男心の何かに訴えてきていたのだな、と居酒屋店主ブッちゃんは感慨に浸っていた。
もともとプロレス狂いだったブッちゃんが、営業そっちのけで夜通し常連たちとプロレス談義をしていたのは何年前だろう。
そのうち無駄に広かった店の奥にリングが設置され、最初は常連たちがごっこ的なプロレスを楽しむ場であったのが、いつの間にか本格的なプロレス興行をするようになった。
桜井や酒屋の銀次郎が入団する頃には、猛者同盟のカラーのようなものが確固たるものになってきた気がする。
「男の情念を表現するプロレス」
言葉にするとそんなとこだろうか。
桜井のような所謂イケメンの部類に入るレスラーがいるのに、オンナコドモの黄色い声援が飛び交うような団体にはならなかった。
ここが古びた居酒屋だからということもあるかもしれない。
パイプ椅子を並べただけの客席で、目を輝かせてリングを見つめる男たちを眺めながら、ブッちゃんは(ありがとう・・・)と心の中で何度も呟いていた。
「やっぱり来ているな・・・・。」
背後の声に振り向くと銀次郎が立っていた。
「おいおい、メインのレスラーが軽々しく出てこないでくれよな。ありがたみが薄れるだろ。」
「わかったって。すぐ引っ込むよ。だけどほら、あのオヤジ、ハセベとか言ったかな。あれ、カタギの眼じゃないと思わないか?」
ブッちゃんは銀次郎が顎で指す方を見た。
地味な作業服のような格好の中年の男が隣の若い男と言葉を交わしている。
「そうか?ちょっと目つきが鋭いような気はするけど・・・・。あんまり見ない顔だな。こんなマニアックな催しに来る感じでもないけど・・・・・」
「まあ、いいや・・・・」
銀次郎はファンに気付かれる前に店の裏に姿を消した。


「長谷部さん、体調悪く見えるんですけど、大丈夫ですか?」
田代誠二は顔色の悪い中年男を気遣って声をかけた。
「あ、ああ・・・。ちょっと疲れているだけだ。この年で清掃員を始めるのは結構こたえるんだ。なにせあそこの地下施設は広いから・・・・」
「そうです・・・よね・・・・・。」
突然のクーデターとも言える組織の大変革で、慣れない仕事をすることになった長谷部の境遇に思いを馳せ、誠二は気まずさを感じるとともに、自分の大切な男の身を案じていた。
(瞬・・・・瞬もつらい思いをじっと耐えているのだろうか・・・・・)
自分と会う時にはいつも明るい笑顔を絶やさない男。
だが、あれは努めて明るく振る舞っているのではなかろうか。
俺のために・・・・・
「おっ、なんだか特別な趣向があるらしいいな。」
長谷部の声に、涙ぐみそうになっていた誠二は我に返ってリングを見た。
有刺鉄線ボードが何枚もリングに運ばれていく。
コーナー、リング下・・・・
目の前のリングは有刺鉄線のジャングルへと様相を変えていった・・・・・





藤堂が意識を取り戻すと、リング中央に置かれた大画面のモニターが正面に見えた。
自分の身体はロープにチェーンで両腕、両足を大の字に固定されている。
「やっと目を覚ましたな。」
首だけを動かして後方に目をやると竜崎がエプロンサイドに立っていた。
なんと、上半身裸である。
老人とは思えない張りのある筋肉。
下半身に目を移して藤堂はギョッとした。
竜崎はショート・タイツのような緑色のパンツを履いていた。
明らかに勃起していると解る股間の膨らみが、薄そうな生地に不気味な照りを与えている。
「な・・・なんの真似だ・・・・」
思わず声が震える藤堂。
老人が自分を陵辱しようとしているのは間違いない。
竜崎は背後から藤堂の大胸筋に手を這わせてきた。
「そう心配するな。鮫島には会わせてやる。今日はワシも色々あってな。ちょっと若い頃を思い出したのじゃ。それで引き出しの奥からこんなものを引っ張り出して身に着けてみたのじゃ・・・・。」
「それは・・・ショート・タイツ・・・・・?」
「そうじゃ。実はな、ワシは昔プロレスラーだったのじゃ。地下のな・・・・・。」
「・・・・・・!?」
藤堂は驚きながらも、妙に納得していた。
年齢を感じさせない強靭な肉体、旺盛な精力。
元地下プロレスラーというのなら頷ける。
「まあワシの過去のことなどどうでもよいわい。ワシも時間があまりないのでな。ひとまずおぬしを掘らせてもらうぞ。」
「く・・・・!」
「ワシばかりが楽しむのもなんじゃから、おぬしにもとっておきのビデオを用意した。」
竜崎がリモコンをモニターにかざすと、そこには・・・・・・
「な・・・・!こ、これは・・・・・!?」
黒いショートタイツの藤堂が顔面血まみれで白いボックスパンツの鮫島に蹴られまくっている。
「そう、あの時の試合じゃ。」
鮫島の若い筋肉が、藤堂の完成された肉体を弄ぶかのように蹂躙していく。
リングに這いつくばりながらも必死に立ち上がろうとする藤堂。
残虐なスカッシュ・マッチと化したリング上の凄惨な光景に、観客がどよめいている。
もしかしたら常勝のチャンピオンが新参者に叩きのめされる姿を見て、自らの股間の熱さを制御できなくなっていたのかもしれない。
「おぬしは正真正銘の地下プロレスラーじゃな。ほれ見よ。王者の象徴、黒タイツが見事に盛り上がっておる。あれだけ痛めつけられても雄の本能が萎えないとは、流石じゃ。」
記憶の底に封印してきた光景が、映像としてまざまざと見せつけられている。
藤堂は軽いパニック状態に陥っていた。
「や、やめろ!!こんなものを見せないでくれ!!!」
「ふぉっふぉっふぉっ、口ではそう言っても眼は画面から離せないようじゃな。ん?ここもカチカチじゃぞ。」
竜崎の手が藤堂の股間に伸びる。 
もともとグレート・タスケのザーメンでカピカピになっていたタイツは、藤堂が鬼神たちに失神させられて射精したために、デロデロになっている。
粘液質に光るオレンジの隆起が、老人の手によって揉みしだかれる。
「んおっ・・・・ぐふ・・・・・」
思わず喘ぎ声を洩らす藤堂。
モニターでは仰向けにダウンする藤堂のタイツを引っ張り、わざとケツに食い込ませて残忍な笑みを浮かべる鮫島、うつろな目でケツをくねらせる血まみれの藤堂が映し出されている。
老人がオレンジタイツのケツを捲った。
「入れるぞ。」
硬く太いモノが藤堂の分厚いケツの肉をメリメリと音を立てるかのように分け入っていった。
「んぐあーーーーーっ!!!!」
藤堂の絶叫がだだっ広い部屋に反響した・・・・・・





「桜井勇治選手の入場です!」
コールとともに桜井の入場テーマ『誰がために』が大音響で流れ出した。
コテコテのアニソンは桜井の熱いプロレスにぴったりだ、とリング上で待ち受ける銀次郎は思う。
~サイボーグ戦士 誰がために闘う~
(桜井、お前は自分のために闘え。せめて今日だけは・・・・・)
今日を最後に猛者同盟を離れ、メジャー団体の桧舞台で闘うことになる桜井。
めでたく誇らしいことであるはずなのに、この虚しい気分はなんだ・・・・?
その理由は桜井自身も銀次郎も解っていた。
(全部この試合にぶつけろ。そして想いを葬り去るんだ。)
銀次郎は対角のコーナーの奥を見つめた。
カーテンの奥から桜井勇治が姿を見せた。
おーっ!!!!!!!!
野太い大歓声が響く。
桜井はカーテンの前で立ち止まり会場を見渡した。
青いリングシューズ、ニーサポーター、そして青いショートタイツ。
パセリ製の際どいカットのタイツを履いて客の前に出るのは初めてだ。
インナーを着けず直に履く薄い生地のタイツは、桜井の男を顕わに盛り上げていた。
リング上の銀次郎と眼が合う。
銀次郎は手に持った有刺鉄線バットを桜井に向けて突き出した。
最後の〝男の闘い〟・・・・・
桜井の股間に熱い血液が集中し、みるみる硬くなっていく男根がタイツの生地を押し上げていく。
おお~・・・・・・・・・・!!!!!
勃起タイツをまったく隠そうともせず、それどころか客に見せつけるように仁王立ちする桜井に、会場中から感嘆のため息が漏れる。
「すげー・・・・・」「男だ・・・・・・」「ごくっ・・・・・」
全身これ〝ザ・男〟と言える桜井の姿に、観客達は完全に息をのんでいた。
嘲笑や揶揄はまったく聞かれなかった。
花道、といっても3メートルほどの通路を、桜井はゆっくりと歩み出した。
割れ目がクッキリと食い込んだケツを堂々と振り歩く桜井の行く手には、有刺鉄線のジャングル、そして地獄の死刑執行人・銀次郎が待ち受けていた・・・・・・


つづく
付録 桜井の入場テーマ



インディー裏街道⑬

桜井勇治の〝インディー卒業試合〟は異例の厳戒態勢下での開催となっていた。
居酒屋メンズ・バトルの通常営業は休み、予約限定チケット購入者のみの入場、桜井vs銀次郎のワンマッチ興行、試合途中の入退場禁止、18歳未満入場不可と、様々な制約が設けられていた。
いつもの興行は酒を飲みながらの気軽な観戦スタイルだったので、このものものしい雰囲気に観客は最初は戸惑っていた。
だが、リング上で対峙する桜井と銀次郎から立ち上る「男のオーラ」に、この試合の〝特別な意味〟が会場全体に染みわたっていくようだった。
桜井の、ビキニタイツをハイレグ気味に履いた神々しいまでに研ぎ澄まされた肉体。
しかも勃起している。
桜井は「男」をさらけだしてこの闘いに臨んでいるのだ。
リングには4コーナーに有刺鉄線ボードが配置され、リング下にもマットのかわりに有刺鉄線ボードが敷き詰められていた。
銀次郎は有刺鉄線バットを持ち込んでいたし、デスマッチであることは一目瞭然だった。
しかし、桜井はまったくそんなことを気にしていないように、先ほどから非常にオーソドックスなレスリングで銀次郎を攻めこんでいた。
グラウンドでヘッドロックを極める桜井は大股を開き、力を込めるた度に雄々しく盛り上がった股間が強調された。
「銀次郎、俺はこのリングでプロレスを学んだんだ。今日はその全てをお前にぶつけるからな。覚悟しろよ!」
「ぐぐっ・・・・・、そ、それは俺も同じだぜ・・・・・俺なりの学習は・・・・・こうだ!」
銀次郎は両手で桜井の顔面を掻き毟った。
ヘッドロックが緩んだところで素早く立ち上がる銀次郎。
顔面を押さえている桜井の背中に強烈なキックを叩きこんだ。
「がっ!!!」
自らロープに走る銀次郎、反動を着けた低空ドロップキックが桜井の顔面にヒットした。
「ぐぐう・・・・・・」
のたうちまわる桜井。タイツの食い込みが深くなる。
銀次郎はコーナーに置いてあったバットを持つと、上段の構えから桜井の背中にバットを振り下ろした。
「があっ!!!!」
バットに巻きつけられた有刺鉄線が、皮膚に突き刺さり抉りとって再び上空に高々と構えられた。
2発目が打ち付けられる寸でのタイミングで桜井が俊敏な動作でローリングし、銀次郎の足を取った。
アンクル・ホールドがガッチリと極まり、悲鳴を上げる銀次郎の手からバットが離れた。
ほぼリング中央、必死にもがく銀次郎からロープは遠い。
「ぎげおーっ!!!!!」
言葉にならない呻きをあげる銀次郎の額から脂汗が滲んでいる。
さすが、メジャーから声がかかるのは納得だ。ラフファイトにもクールに正当技で返す桜井の格好よさに観客は惚れ惚れした。
「おらっ!逃げてみろ!俺の実力を今更ながら思い知ったか、ん!」
桜井は銀次郎の足首を決めながら踵を自分の股間に擦りつけていた。
その眼は異様な光を帯びている。
銀次郎は桜井が本気で自分を潰す気でいるのを悟った。
(上等じゃねえか・・・・・ならば俺様のヒール道を思い知ってもらおうじゃねえか・・・・・)
銀次郎のツナギの下で「雄」がむくむくと膨張し始めた。





代々木の竜崎邸の前に黒塗りの高級車が止まった。
門から執事とともに姿を見せた竜崎老人は、ひとりで後部座席に乗り込んだ。
音もなく走り去った高級車を、元警察官の執事は車陰が彼方に消えるまで見守った。

竜崎邸の広大な敷地の一角にある離れで、藤堂は目を覚ました。
でかいクシャミが出た。
コンクリートの床にショートタイツ一枚で倒れていたのだ。
オレンジのタイツの股間は精液でグショグショで陰毛が透けるほどだ。
ケツに異物感がある。
竜崎の巨大なイチモツで長時間掘られていたためにまだ突っ込まれているような感覚が残っている。
中出しされたザーメンがケツから溢れ、タイツの後ろもべとべとだった。
「いい犯されっぷりだったよ。」
声に振り向くと、鬼神・邪鬼・餓鬼の虎パン3人衆が立っていた。
「あんたも日に何度もイかされ大変だな~。」
「隈ができてるぜ。」
「俺たちも別室で鑑賞させてもらったよ。いや~興奮した!」
精魂突き果てた藤堂は言葉を返す気にもなれずぐったりしていた。
「そうそう、親父さんから託だ。これを渡せって。」
鬼神が虎パンに突っ込んでいた封筒を藤堂に手渡す。
藤堂は無言で受け取り、中の便箋に目を通した。
『○○市民球場 22時 』
ワープロの素っ気ない文字。
2枚目の便箋を見て藤堂の眉が動く。
『もう逃げられないぞ。試合の用意をしてこい。』
肉筆で書かれている。
(鮫島・・・・・!)
これを書いたのは間違いなく鮫島だ。
鮫島の文字など見たこともないが、藤堂は直感で解った。
肉厚だがどこか尖った文字。サディスティックな微笑みが文字から浮かんできそうな気がする。
(カムイ・・・・、待ってろよ、助けに行くぞ・・・・・・)
藤堂は鉛のように重い身体を気力を奮い起こして立ち上がらせた。
「あんた、また闘いにいくんだな・・・・・」
鬼神が真剣なまなざしで問いかけた。
「・・・・・・・プロレスラーだからな・・・・・・・・・・」
藤堂は答えると、よろよろと出口に向かって歩き出した。
「出たとこにシャワーあるから。着替えもそこに・・・・・・」
虎パン3人衆は藤堂の後ろ姿を静かに見送った。
ケツからトロトロとザーメンを滴らせながら歩み行く男の後ろ姿を・・・・・





桜井の華麗で力強いプロレス技の妙技と、銀次郎のどこまでも卑劣で、だからこそプロレスらしい残虐プレイの一進一退の攻防に、観客は我を忘れて引き付けられていた。
この試合のクオリティーの高さは、こんな場末の居酒屋の小規模興行には勿体ない。
田代誠二はこの場にいることに感謝した。
男同士の闘い、言葉にすると陳腐だが、リングから臭い立つような雄のオーラが陽炎のように立ち上っている様は、まさに〝男同士の闘い〟としか言いようがなかった。
「この環境だからアイツは光っているんだ。」
隣の長谷部が呟く。
まるで誠二の心を読んだような発言にビックリしながらも、その通りだと誠二は思う。
桜井はずっと勃起しっぱなしだ。
薄いタイツが透けそうなほどギンギンにそそり立つ男根を隠そうともしないで闘い続けるなんて、地上のプロレスではまずあり得ないことだ。
プロレスを股間中心で鑑賞するクセのある誠二は、時々地上のレスラーが勃起しているのを発見することがある。
だがインナーをしっかり履きこんだレスラーの勃起は、そこを注視している人間にしかわからないささやかな盛り上がりを見せるのみだ。
桜井のモッコリはそれとは明らかに次元の違うものだ。
(闘うことに興奮している。いや、欲情している・・・・・・)
そしてその桜井の発情が観客にも感染しているのだ。
会場全体が今にも子を孕みそうなほど情欲の坩堝と化しているのが誠二には感じられた。

「死ねやー!桜井ー!」
銀次郎が桜井を有刺鉄線ボードに振る。
桜井は銀次郎の腕を離さず逆に振り返した。
がしゃーん!!!!
銀次郎が背中からボードに激突する。
おおーーーっ!!!!!
今日初めての有刺鉄線ボードへの接触に客が沸き立つ。
第一の犠牲になったのは皮肉にもボードを用意した銀次郎だった。
「ははは、墓穴を掘ったな、銀次郎。自分の作品の味はどうだ!?」
桜井はその場で跳躍すると、息をのむような美しいドロップキックを銀次郎の胸板に放った。
「ビューティホー・・・・・」
観客の金髪外人の男がため息を漏らす。
有刺鉄線の棘が背中に一層深く刺さり、銀次郎は絶叫している。
桜井のドロップキックは3連発で放たれた。
顔を真っ赤にした銀次郎は般若の形相だ。
「んなろーっ!舐めた真似しやがって・・・・。もう許せん!」
うおりゃーーーー!!!!!
銀次郎が咆哮とともにボードを背中に張り付かせたまま桜井に突進した。
「うおっ!?」
虚を突かれた桜井は銀次郎のがぶり寄りで反対側のコーナーに追い詰められ、ボードに背中から突っ込んだ。
「うぎゃーっ!!!!!」
ツナギを着た銀次郎と違い、桜井はショートタイツ一枚だ。
有刺鉄線の棘が直に背中の皮膚に突き刺さり引き裂いた。
全身の後ろ半分の焼けるような激痛に、桜井の頭は一瞬真っ白になった。
と、銀次郎が後ろ向きに体当たりしてきた。
銀次郎の背中にも有刺鉄線ボードが張り付いている。
しかもそれには両面バラ線が張り巡らせられているのだ。
ぐしゃっ!!!!!
桜井は有刺鉄線ボードにサンドイッチにされてしまった。
コーナー、ボード、桜井、ボード、銀次郎という5層構造のスペシャルサンドイッチには、鮮血のケチャップが挟みこまれていた。
銀次郎は自分の背中に棘が食い込むのも厭わず、力任せに桜井を圧迫した。
「ぎゃあーーーっ!!!!!!」
桜井の絶叫が響き渡る。
ボードからはみ出すのは桜井の首から上、両腕、リングシューズだけだ。
「おらーっ!俺様の苦心作をたっぷり味わえよ!おらっ!もっと鳴けよ!おらっおらっ!」
銀次郎は自分も痛みを味わいながら桜井を攻めているのだった。
(桜井・・・・、いいだろ・・・・・このヒリヒリする感じ・・・・チクチクかな・・・・うおー痛えぜ!・・・・・たまんねえ!)
桜井のジタバタともがいていた腕がだらんと垂れさがった。
心なしかぴくっと痙攣するような動きも見える。
銀次郎はようやく力を抜いた。
そしておもむろにツナギのチャックを下ろした。
おおーーーーー!!!!!
観客からどよめきが起きる。
ツナギの下の銀次郎の強靭な肉体、そして・・・・・・
革のハーネス、黒いショートタイツ。
さなぎから成虫が羽化するように、バラ線に絡めとられたツナギから銀次郎がすっぽりと抜けだした。
背中が血まみれのその姿は、まさにSM大魔王といった趣だった。
銀次郎の黒タイツの股間も見紛うことなく勃起していた。
顕わになった銀次郎のマッスル・ボディーに観客は狂喜した。
「さてさて・・・・これからがショーの始まりだぜ!桜井を葬る儀式だ!よーく見とけよ!」
銀次郎はツナギの張り付いた有刺鉄線ボードを桜井から引っぺがした。
ビリッ!
バラ線が桜井のタイツを引き裂きながら剥がされる。
「おやおや・・・・・!!!」
血まみれの桜井の全身が現れる。
「お客さん!見て頂戴よ!あんたがたのヒーローのこの姿!なんと、ちびっちゃってますぜ!」
高笑いをする銀次郎が指す、傷だらけのマッチョ・ヒーローは失禁していた。
勃起はいよいよ最高潮に青いタイツを突きあげ、小便がテラテラと光沢を与えている。
足元には血と混ざりあった異様な色の水たまりができていた。
標本の昆虫のように有刺鉄線ボードに張り付けられた青タイツのガタイ野郎。
その前で高笑いをするSMビルダー。
「面白くなってきたな・・・・・」
ほくそ笑む長谷部を横目に、誠二はポケットに手を突っ込み競パンの股間を激しく摩擦していた。





タクシーのヘッドライトが○○市民球場の入り口を闇に浮かび上がらせる。
東京のはずれの球場には、この時間人影はない。
「お客さん、着きましたよ。」
まだ若いタクシー・ドライバーは後ろを見ないようにして客に声をかける。
「これで。釣りはいい。」
後ろから手渡された紙幣が、客が唯一身に着けている赤いビキニパンツから取り出されたことをドライバーはバックミラーで見ていた。
「あ、ありがとうございます・・・・・」
つまむように金を受け取り、客を下ろすとタクシーは急発進で夜の闇に消えていった。
降り立った男は赤いショートタイツに黒いニーサポーター、リングシューズといういで立ちだった。
○○市民球場は東京都下の一般施設としては大規模なもので一応スタジアムの体裁を整えている。
鍵の掛かっていない入り口を抜け、男はアリーナに向かう。
誰もいない観客席に囲まれた球場は真っ暗だった。
男が中央に歩いていこうとすると、いきなり照明が煌々と球場を照らし出した。
リングがあった。
広い野球場の真ん中に設置されたリングは、そこだけが別次元の入り口になっているように浮いて見えた。
そしてそのリングの上には・・・・・
「来たな。藤堂サン。」
金色のロングガウン姿の鮫島周星が立っていた・・・・・・


つづく







インディー裏街道⑭

バラ線ボードに挟みこまれていた時、桜井の脳内ではまるで幽体離脱したかのように自分自身の姿を俯瞰していた。
男臭い精悍な顔立ちが断末魔のように目を見開いて歪んでいる。
左右に突き出た太い両腕は虚空を掴み文字通りジタバタするのみだ。
そしてその客観の中の男の「痛み」だけが、主観となって桜井に突き刺さっていた。
身体じゅうに突き刺さる有刺鉄線の棘。
彫刻のような筋肉の繊維一本一本をブスブスと切り裂かれるような感覚だ。
サイボーグ戦士である自分が強大な力によって破壊されていく・・・・・
激烈な痛みは桜井の自己陶酔の導火線に着火させ、すでに勃起していた男根がさらに膨張した。
棘は薄い生地のタイツを貫通しカチコチの竿に容赦なく突き刺さった。
タイツの青が鮮血でどす黒く染まっているに違いない。
そして、睾丸。
サイボーグ戦士である自分の生身の部分。
自分が自分であるための核ともいえる部位にも悪の牙は噛みついた。
(金玉が・・・・俺の金玉が破壊されてしまう・・・・・・・おあ・・・・うお・・・・・・)
失禁した時、桜井は射精したのかと思った。
それほど快感が伴った噴射だったのだ。
長い放尿にようやく潮を噴いたのだと悟り、痺れるような興奮の中、桜井は痙攣し続けた。
銀次郎によってボードが剥がされた時、有刺鉄線の棘は青いタイツの生地を引っかけ、皮膚のように一体化していた男根とタイツを一瞬引き離した。
やがて棘が生地の繊維を引き裂きさいてタイツを解放すると、ピシッと音を立てて再び皮膚に戻るかのように男根に張り付いた。
青いタイツに小さな破れ目が無数にできた。
闘いの装束としてショートタイツを選ぶ男は、それに単なる装い以上の意味を込めているものだ。
肉体ひとつで闘いに臨む男を最大限に美しく見せる必要最小限の覆い。
その小さな覆いのみが自分を防御するバトルアーマーなのだ。
その鎧が傷つけられた時、男は無防備な自分に戦慄し、同時にこみ上げる解放感に戸惑うことだろう。
破れたタイツを纏いボードに磔になった自分を俯瞰した桜井は、そのあまりに荘厳な姿に眩暈を覚えた。
息も絶え絶えになりながら、桜井の身体じゅうにアドレナリンが駆け巡り、脳と股間が爆発しそうなほど熱くなっていた。
ほんの短い時間の中で妄想の旅人となってめくるめく物語の主人公となっていた桜井が、ようやく現実の世界に焦点を戻すと、リング下で猛者同盟の新人が数人、ビデオカメラで試合を撮影しているのが見えた。
(しっかり撮れよ・・・・・・俺のこの雄姿を・・・・・・・全て記録してくれよ・・・・・・)
前方のリング中央を見て驚いた。
銀次郎が黒いビキニタイツでマッチョポーズをとっている。
先日の下着姿よりも格段にエロい姿だ。
(ビルドアップに磨きをかけたな・・・・・・)
この試合のために銀次郎がストイックに準備をしてきたことを知り、桜井は胸が熱くなった。
そして背中から血を滴らせるハーネスとビキニのハンク野郎に、これ以上ないヒールの理想を見てさらに股間を熱くした。
ハイレグに履いた黒タイツがケツに食い込み、エロ尻がこれでもかというほど獰猛に揺れている。
(俺を葬ろうとしている暗黒の大魔王・・・・・)
またしても妄想世界に浮遊した桜井にとって、銀次郎はもはや仲間の銀次郎ではなくなっていた。
振りかえった大魔王の股間は黒タイツを透けさせるほど盛り上がっていた。
「覚悟はいいな、桜井!」
銀次郎が猛烈なダッシュとともに磔の桜井に突進し、跳躍した。
ダイビング・ボディー・プレスが大の字磔の桜井にぴったり重なるように激突した。
バラ線が桜井の背中、尻に更に深く突き刺さる。
銀次郎はそのままコーナー近くの左右のロープを掴み身体を押しつけてきた。
「おらっ!メジャー栄転の王子様はこんなもんか!?硬さが足りないんじゃねえか!」
桜井の男根に銀次郎の野太いモノがタイツ越しにグリグリと擦り合わされる。
失禁で濡れた桜井のタイツが銀次郎のタイツとの摩擦によって強烈な刺激を伴って男根を擦る。
(ぐがっ・・・・・こ、このままでは・・・・・イ、イってしまう・・・・・・くそ・・・・・・・)
絶体絶命のヒーローは昇天しかける自分を闘志によって奮い立たせる。
「うおおおりゃああああああ!!!!!!!!」
雄たけびとともに桜井の盛りあがった肩の筋肉が有刺鉄線の棘から離れて行った。
皮膚が切り裂かれるのも厭わず、桜井の両腕が銀次郎の首を掴んだ。
コーナーに固定されたボードから、桜井の全身が離れていく。
「うりゃあああああああっ!!!!!」
タイツの尻の部分が棘を引っかけ、桜井の臀部がほとんど丸見えとなった。
おおお~~~!!!!!
競パン日焼けが鮮烈な逞しいケツに、観客達は息をのみ釘付けとなった。
ほとんど脱げそうなタイミングでビリッと音を立ててタイツが破れ、パツンッと尻に再び張り付いた。
前部と違って派手に破けたタイツの尻は、ケツの割れ目が見えるほど裂けていた。
ついに棘から解き放たれたマッチョ・ヒーローが、大魔王の首を掴んだまま持ち上げた。
両者血まみれのネック・ハンギング・ツリーのド迫力に、観客は弾かれたように大声援を送る。
「いいぞー!桜井ー!」
桜井はそのまま銀次郎をリングに叩きつけ、目にも留らぬスピードでエルボー・ドロップを首に落とす。
まったく休まず銀次郎を立ち上がらせた桜井はバックにまわり腰をホールド。
「てやっ!!!」
美しい弧を描いてジャーマンが炸裂した。
血に染まったリングに肉体の橋のオブジェが完成した。
カウントを待つ桜井はハッと気付いた。
(そうだ、レフェリーなんていないんだった・・・・・・)
「ぐぐ・・・・・馬鹿目が・・・・・この試合はどっちかが駄目になるまで決着がつかないセメントマッチなんだよ!」
ブリッジが解かれると銀次郎は頭を押さえながら立ちあがった。
リング中央で睨みあう仁王立ちのマッチョ2人。
やがて張り手合戦がはじまり、お約束的な展開が復活したことに少しほっとする観客達。
ところが銀次郎はタイツから栓抜きを出すとそれを桜井の額に打ち付けた。
「ぐはっ!!!!」
たまらず蹲る桜井。
「なんて古典的な・・・・・・・」
呆気にとられる観客の田代誠二。
隣でニヤニヤ顔の長谷部。
栓抜き攻撃に身をくねらせのたうちまわる桜井。
懐かしくもこれぞプロレス!ともいえるシーンだった。
しかし銀次郎は古典を愛しつつも革新的なプロレスを探求するパイオニアでもあったのだ。
桜井の敗れたタイツの尻に、なんと栓抜きの柄を突きたてた。
「うぎやーーーっ!!!!!」
悲鳴を上げてリングを転げまわる桜井。
とうとうリング下に転がり落ちた。
そこに待っていたのは絨毯よろしく敷き詰められた有刺鉄線ボード。
桜井は再び棘地獄に自ら堕ちてしまったのだ。
うつ伏せに落ちたためにバラ線の棘が胸、腹、そして男根に突き刺さる。
呻きながら棘のために思うように身体を起こせない桜井の尻に観客の視線が集中する。
引き締まっていながらはち切れそうなほど豊満なケツが目の前で蠢いている。
しかもタイツの破れ目から括約筋の収縮まで見てとれそうな至近距離だ。
最前列の男性客が貧血でも起こしそうな顔色で股間を押さえている。
「がははは!桜井、墓穴を掘ったな。それともチクチクするのがすきなのかな?」
エプロンサイドで銀次郎が呼吸を整え、気合とともに尻から落ちてきた。
ヒップ・スタンプが桜井を地獄に落とす寸でのところで桜井は棘絨毯から脱出した。
「うげぇっ!!!!!!」
有刺鉄線の上にまともに尻を落とした銀次郎が絶叫する。
急激に棘から身を剥がしたために桜井のタイツの前はさらに破け、陰毛が覗いていた。
ひらりとリングに舞い戻る桜井。
銀次郎を攻撃するには絶好のチャンスにも関わらず、場外でのラフファイトは仕掛けないという正統派レスラーたる流儀を貫いたのだ。
こんな無茶苦茶なデスマッチにおいてもクリーン・ファイトにこだわる桜井の姿に、観客は尊敬を通り越した畏怖の念を抱いた。
サードロープを手掛かりに有刺鉄線から尻を引きはがした銀次郎がようやくリングに戻った。
そしてその手には有刺鉄線バットが握られていた。
ばっとをブンブンと振りまわしながら桜井を追い詰めにかかる銀次郎。
それを優雅にかわす桜井の格好よさに会場中から大歓声の嵐だ。
雑なアクションの隙を突き、桜井のタックルが銀次郎をマットに倒す。
そのままマウント・ポジションで顔面に掌底の雨が降り注ぐ。
やんやの喝采の中、銀次郎がぐったりとしていく。
正義のヒーローが暗黒大魔王を倒す時が来た。
誰もがそう思った。
「あぐわーっ!!!!!!」
桜井が突然絶叫した。
銀次郎が手を伸ばし、桜井のケツの中心に指を突き刺していたのだ。
中指と人差し指、2本の太い指が桜井の肛門をグリグリと抉っている。
「うげっぷ・・・・・・」
桜井は口から泡のようなものを吹き出して後ろに倒れた。
指を突き立てたまま上半身を起こした銀次郎は、傍らに落ちていたバットをもう一方の手でつかんだ。
「ヒーローレスラーさんよ、正義面してたらセメントマッチでは勝てねぜ。」
「く・・・・くそ・・・・・お、俺はまけねえ・・ぐおっ・・・・・があっ・・・・・・」
大股開きで身をくねらせる桜井の股間に、バットの先端を垂直に打ちおろした。
「があっ!!!!!!」
バットの打撃と有刺鉄線の鋭い痛みが、桜井の急所から脳髄へと電流のように駆け抜けた。
「潰してやるぜ!貴様がメジャーに行けなくなっても知ったことじゃねえ!お前はここで終わりだ!」
狂ったように急所に打ちおろされるバットの鉄槌。
ケツが指に捕えられているために脱出もままならない桜井は、バットが金玉を直撃する度に白目を剥いて絶叫した。
「がはははははっ!!!!!バッド・エンドだったな!桜井!悪く思うなよ!」
あまりの凄惨な光景にシーンと静まり返る会場に、銀次郎の高笑いと、桜井の絶叫だけが響き渡っていた・・・・・





雨・・・・・・・
屋外グラウンドを季節外れのゲリラ豪雨が見舞った。
ロープに手錠で繋がれリング下で試合を見守るカムイは、瞬く間にずぶ濡れになった。
(いけない、ここで雨が降ってしまったら、鮫島のエロが強化されてしまう・・・・・)
自分を助けるために、生涯の天敵である鮫島と闘うハメになった藤堂は先ほどから非常に劣勢に追い込まれている。
ただでさえトラウマの元凶となった鮫島が、紫色のショートタイツを履いてきた。
藤堂の心は完全に乱されてしまっている、とカムイには解った。
このうえ雨が降ってはパープル・タイツがより艶めかしくなってしまう。
鮫島のハイキックが藤堂の顔面を的確に捕えた。
スローモーションのようにリングに弧を描いて倒れゆく藤堂の視線は、鮫島のキックの瞬間からゆさゆさと揺れる股間に集中していた。
若く、あまりにも美しくエロい鮫島のカラダに、藤堂は心を奪われてしまっているのだ。
赤いタイツの股間が傍から見ても痛く感じるほどいきり立っている。
(藤堂・・・・・・立ちあがってくれ・・・・・・また鮫島に負けたら・・・・・お前は、お前は・・・・・・・・)
カムイは轟音を響かせる雨の中、祈りにも似た念を藤堂に送り続けていた・・・・・・・・。


つづく






インディー裏街道⑮

鮫島のゴールド・ガウンがナイター照明を反射して、まるで光を纏ったようだ。
ガウンから覗く足には、金色のリングシューズが装着されている。
そして金髪。
鮫島は髪を染めていた。あるいは脱色したのだろうか。
ベリー・ショートにカットされた今風のヘアースタイルは、時代にそぐわない完全な金髪だった。
キメの細かい肌を持つ端正な、だがどこか剃刀を連想させる顔立ち。
顔だけ見ると、韓流スターだと思うかもしれない。
「来たな、藤堂サン・・・・・」
ブロマイドの口が動いた。
次の瞬間、光のガウンが脱ぎ棄てられた。
神話の神々の完璧な肉体、発達した筋肉が物理的な機能だけでなく「官能」という意味を兼ね備えた肉体、がそこにはあった。
神の肉体は局部を紫色の布で覆っていた。
(あれがパセリさんに発注したというタイツか・・・・・・)
極薄の生地に鮫島の〝モノ〟がくっきりと浮かび上がっている。
レスラーひとり一人の男根に合わせて作られるパセリさんのタイツ。
この鮫島の紫タイツはパセリ史上の最高傑作かもしれない・・・・・
藤堂は、目の前の眩暈を覚えるような光景に我を忘れた。
「ははは!オッサン、もう染み作ったのか!?まさかイッちゃたんじゃないだろうな!」
若者の高笑いにハッと我に返る藤堂。
己の下半身に目を移して愕然とした。
同じくパセリ製の赤いタイツが勃起を隠すどころか一層強調して盛り上がり、その先端が濃い赤となって染みを広げている。
「つーかオッサン、赤パン似合うね!ホントにようやるよ、アンタは。」
知的にさえ見える風貌から、品のない言葉が吐き出される。
(鮫島だ・・・・・)
記憶の底に封印し続けた憎い仇が今まさに目の前にいる、という実感がようやく藤堂に沸いてきた。
以前は藤堂のショートタイツをモッコリパンツと嘲笑のネタにしていた鮫島。
(お前こそ、その・・・・そのやらしいタイツはなんだ!?)
喉まで出かかった言葉をなんとか飲み込み、藤堂は尋ねた。
「カムイはどこだ?」
鮫島がリングを横切ってロープまで近づいてきた。
歩行に合わせて形を変える股間の膨らみに、藤堂は思わず生唾を飲み込んだ。
「そこにいるよ。」
鮫島が顎で指したのは藤堂から向かって右側のリング下だった。
そこには、カムイが手錠で両手をロープに繋がれ、万歳のポーズで膝を折っていた。
「カムイ!」
「藤堂・・・・俺のことは放っておけと言ったのに・・・・・・・」
言葉ではそう言いつつも、カムイは嬉しさで胸が張り裂けそうになっていた。
(藤堂・・・・・俺のために来てくれたのか・・・・・・・)
「はいはい、感動のご対面はそこまでにしてくれよ。面倒くさい奴らだぜ。俺はオッサンと試合がしたかっただけなのに、オッサンが逃げ回ってるからこんな手の込んだことしなきゃならなかったんだからな。」
鮫島が大袈裟にため息をつきながらコーナーに戻る。
カムイと見つめあっていた藤堂だが、鮫島の後ろ姿にまたしても目を奪われる。
(な、なんというエロいケツだ・・・・・・)
藤堂が自分ではない男に引きつけられる姿を見て、カムイは唇を強く噛む。
夢遊病者のようにふらふらとリングに上る藤堂。
黒いリングシューズとニーサポーター、そして深紅のショートタイツ。
カムイが愛してやまない正義のマッチョ・レスラーは、今や暗黒の神の股間に突起する食虫植物に誘い込まれる虫のように非力な存在に見えた。
(目を覚ませ藤堂!コイツの魂の奴隷に成り下がるつもりか・・・・・!)
カムイの悲痛な心の叫びは藤堂には届かなかった。
「オッサン、アンタを叩きのめした時ほど興奮したことはなかった。俺にはアンタが必要だと解ったんだ。」
愛の告白ともとれる台詞を、若者特有の呆けた表情でさらりと吐く鮫島。
(俺は・・・・俺はお前に負けたことがトラウマになり、そして・・・・そしてそれが忘れられない想い出になってしまったんだ・・・・・・)
視線をどうしても鮫島の股間から離せない藤堂は、カウパーの染みを一層濃くしていく。
あまりにも異様な三角関係を孕み、運命の決戦が幕を開けた・・・・・





股間に有刺鉄線バットを打ちつけられるた度に聞こえていた桜井の絶叫は、もはやか細い呻き声となって観客には届かなかった。
両腕は無様にリングに放り出され、目は虚ろで、バットが打ちおろされた時のみビクっと痙攣するかのように全身が大きく震えた。
誰もが、桜井が失神してしまったのだと思った。
だが、桜井は覚醒していた。
凄まじい快感地獄の中で脳内に楽園を築き上げていたのである。
バラ線バットの先端が金玉に叩きつけられる時の猛烈な痛み、いや痛みなどというものではない、文字通り天地がひっくり返るほどの衝撃に桜井は酔いしれていた。
青いタイツの股間部分は有刺鉄線によりズタボロになり、腫れあがった睾丸が破れ目から覗いている。
(お、俺のタマが・・・・暗黒の大魔王によって破壊されようとしている・・・・・・おあ・・・・・タマを保護するバトル・アーマーも限界だ・・・・・うお・・・・・とうとう俺は負けるのか・・・・・)
観客は気付いていなかった。
インディー卒業記念という輝かしい舞台が、桜井の自慰劇場に変貌していたことに。
いや、たったひとり、そのことを手に取るように理解していた男がいた。
「おい、まるで地下のようじゃないか。あいつのよがりようは最高だな。」
「え・・・・・・」
桜井のピンチに固唾をのみつつ股間をギンギンにしていた田代誠二は、長谷部の言葉に驚いた。
「よがってるって・・・・桜井が・・・・・・?!」
リングの照明にぼおっと照らされた長谷部の笑みは、まるで狂人のそれだった。
誠二は背筋に薄ら寒い物を感じて、あわててリングに目を戻した。
「おらっ桜井!そろそろ降参しねえと玉が潰れるぞ!おー?それともケツが感じすぎて声も出せねえか!」
相変わらず桜井のケツに突っ込んでいる指をいやらしくくねらせる銀次郎。
(んぐお・・・・・おあ・・・・最強のサイボーグ戦士であるこの俺が・・・・・悪の力に屈しようとしている・・・・・・ああ・・・・だ、だめだ・・・・・おお・・・・んぐっ!)
「んぐっ!」
桜井の股間から透明な液体がタイツ越しに噴き出した。
「おーっ!またションベン漏らしたか!?ダセー奴だぜ!おっ?それともガマン汁が噴き出したのか?面白れー!男の潮吹きたあ、最高だな!」
「ぐおおっ・・・・・むお・・・・・」
大量の潮で、小便が乾きかけていた桜井のタイツは瞬く間にグショグショになった。
「おら!この情けねえ姿をお客さんに見てもらえ!ええ?!メジャー栄転のヒーローさんよ!」
銀次郎はケツに突っ込んだ指を鉤のようにしてケツを持ち上げ、もう片方の手で髪を掴んで桜井を膝立ちにさせた。
黒ビキニのマッチョに仕留められた獲物のように、クタっとした桜井の全身が晒しものにされる。
全身傷だらけで、乾いた血が身体に描かれた前衛絵画のようだ。
青いタイツはもはやボロ布同然で、陰毛や睾丸が破れ目からのぞく。
潮を吹いてなお勃起し続ける男根だけが、タイツの内側でピクピクと激しく扇動するのがわかる。
「んん?ここもいい具合に硬くなってるんじゃねえか?」
銀次郎はケツから二本の指を乱暴に引き抜いた。
「あがっ・・・・!」
呻き声を漏らす桜井の見事に張りつめた大胸筋の先端を、ケツから引き抜かれた指が摘む。
「んぐう・・・・・」
桜井が喘ぎ声ともとれる声を出し身をくねらせる。
「コリッコリじゃねえか~!お前の乳首!おおっ?感じんのか?」
乳首から電流のように全身に駆け巡る新たな快感に、桜井の呼吸が荒くなる。
完璧にエロ試合と化したこの惨状に、一般の客はどう反応するのだろう?
田代誠二はおそるおそる周りを見回す。
9割以上男性で占められた会場は水を打ったように静まり返り、全ての目がリング上に釘づけになっている。
聞こえるのは銀次郎の言葉攻めと桜井の喘ぐ声だけだ。
いや・・・・、会場中から漏れるため息?鼻息・・・・?明らかに乱れた呼吸音がそこかしこから聞こえている。
繁殖態勢の人間の雄が死闘を繰り広げる様など、普通の生活の中ではまず見ることはないだろう。
ここに集った者は、文明生活に置き去りにされた雄の本能を否応なく呼び覚まされているのだ。
後ろを振り向くと20代後半と思しき男が鼻を押さえている。鼻血が出たのだろう。
斜め前の男はポケットに突っ込んだ片手を激しく動かしている。
自分自身もまた、ズボンの下の競パンの股間を愛撫し続けていた誠二は、(解るよ・・・・)と心の中で頷いた。
「お前のこのエロい身体.面・・・・、苛めても苛めても苛め足りねえ。キサマがここを去るなんて我慢できねえ。いっそ再起不能にしてやる・・・・・・」
ひとしきり乳首を弄んだ銀次郎は、膝立ちの桜井を無理やり立ち上がらせ腰を抱え込んだ。
「ぅおりゃっ!」
ヒールだけでなく、猛者同盟屈指のスープレックスの使い手と呼ばれる銀次郎のバックドロップが桜井の後頭部をリングに叩きつけた。
血や体液でじっとりとしたリングに湿った衝撃音が鳴り響く。
朦朧とした表情の桜井をなおも立ち上がらせ、バックドロップが連続で放たれた。
地獄の連続バックドロップは都合5回に及んだ。
桜井は叩きつけられるたびに派手なアクションでマットに跳ね返り、技の破壊力をやられる側から表現していた。
(プロだ・・・・)
田代誠二は感動していた。
本来なら、あのように完璧にバックドロップを極められていたらダメージの深さからリアクションまで気が回らないだろう。
実際、桜井の表情を見るといつ気を失ってもおかしくないほど弛緩している。
桜井のプロレスラーとしての本能が、身体を勝手に動かしているのだろう。
ボロボロのタイツの盛り上がりが強調されるようにのたうつ桜井の姿はまさにプロレスラーだった。
リング中央に大の字にのびる桜井の胸を銀次郎の太い足が踏みつける。
「・・・・・・終わりだな・・・・・・」
肩で息をする銀次郎が、桜井の顔面に唾を吐きかける。
「この試合を覚えておけよ。メジャーで華々しく活躍したって、キサマはこの汚い居酒屋のリングで敗北したってことを忘れるんじゃねえぞ!」
銀次郎は胸を踏む足を股間に移動した。
「しかもションベン漏らして潮まで噴いて、男として完全に負けたということをチンポに刻んでおけよ。」
おお~!!!!!!!
会場からため息にも近い感嘆の声が漏れる。
あちこちで人が立ち上がり、拍手を始めた。
やがて会場中がスタンディングオベーションの嵐となった。
泣いている男もいる。
ズボンを気にしながら立ち上がる男はまだ勃起しているか出してしまったのだろう。
桜井を踏みつけたまま両手を揚げる銀次郎。
黒いビキニのビルダー・マッチョは汗にてらてらと光り、彫刻のようだった。
「・・・・・待てよ・・・・・」
銀次郎の足もとで声がする。
「ん・・・・?!」
桜井が股間を踏む銀次郎の足を両手で掴んでいる。
「・・・・か、勝手に終わらせんじゃねえ・・・・・・」
桜井の両腕に力が込められ、上腕二頭筋に太い血管が脈打った。
銀次郎の足が持ち上げられていく。
「うおー!!!!!」
桜井の渾身の力は銀次郎の足を払いのけ、ついにボロボロの青タイツのヒーローが立ち上がった。
おおおおおお!!!!!!!!
会場中が熱狂している。
「銀次郎、俺がメジャーに行くのはお前らより強いからなんだよ!」
呆然とする銀次郎にダッシュで突進した桜井のラリアットが炸裂した。
「がっ・・・・!!!!!!」
一回転してリングにダウンする銀次郎。
桜井は全く休まず銀次郎の首と黒タイツの後ろを掴んで立ち上がらせ、至近距離からラリアットを叩き込む。
今度は桜井の連続ラリアットがマッチョヒール成敗の火を噴く番だ。
ぐったりする銀次郎の頭を股に挟み、桜井が首を掻き切るアピールを見せた。
大歓声の中、パワーボムが銀次郎の後頭部をマットに叩きつけた。
完全に脱力して倒れるマッチョ・ヒールの股間を踏みつける桜井。
「銀次郎、お前もカチコチだな。俺を痛めつけてさぞ気持ちよかったろうな。最期にもっと気持ち良くなってくれ。」
桜井のシューズが、黒タイツの上から男根を扱くように銀次郎の股間を踏みにじった。
(桜井・・・・・おあ・・・・桜井が俺のチンポを踏んでいる・・・・・・ああ・・・・そんなに動かさないでくれ・・・・・んご・・・・・が、我慢できねえ・・・・・・)
「おわ・・・・ぅんぐ・・・・・ああっ!」
銀次郎の黒タイツの盛り上がりの先端から白く濃い精液がぶっ放された。
「やゅおーーーー!!!!!!」
奇声を発しながらの長い長い射精だった。
他人の射精を生で見ることなどあるはずのない観客たちは、まさに息をのんでその光景を見守った。
「銀次郎・・・・・・お前には心から感謝する。・・・・・なにか俺も吹っ切れた気がするよ・・・・・・」
銀次郎の股間から足を下ろした桜井は観客席に向かって両腕を高く揚げた。
「桜井勇治は、本日、猛者同盟を卒業します!」
ふたたびスタンディングオベーションが沸き起こり、桜井の頬を涙が伝い落ちた。
と、股間に重い痛みが走った。
「お前はえーけーびーか!?ふぉーてぃーえいとかっつーの!」
銀次郎が背後から股間アッパーを食らわしていた。
「んなキレイな終わらせ方するかよ!」
股間を押さえて崩れ落ちる桜井の髪を掴むと、怪力マッチョは瞬く間にアルゼンチンバックブリーカーに担ぎあげた。
「一生のトラウマにしてやる・・・・・・・」
銀次郎は桜井の金玉を渾身の力を込めて握りつぶそうとした。
「いぎゃあっ!!!!!」
肩に担がれたまま激しく身もだえする桜井だが、股間と首をガッチリとホールドした腕はびくともしない。
「うおらっ!!!鳴け!桜井!泣いて許しを乞え!絶対力は緩めねえけどな!」
銀次郎の力瘤が最大のパンプを見せ、鬼の形相の顔面も赤く充血している。
「があああおっ!!!!!!!」
万力のような銀次郎の握力が二つのタマをグリグリと擦れ合わせ、変形しそうなほど締め付ける。
(ああ・・・・・・サイボーグ戦士の最大のピンチだ・・・・・・・急所を責められては・・・・・おあ・・・・・・・・・・も、もう駄目だ・・・・・・お、俺は負ける・・・・・・・俺は、悪の力に勝てなかった・・・・・・・・)
「うぃぐっ!!!!!!!」
桜井のボロボロの青タイツ越しに雄汁が盛大に噴きだした。
それはタイツ越しにもかかわらず、銀次郎の頭を越え、桜井の顔のあたりまで弧を描いて飛び散った。
「全部ぶっ放しやがれ!!!!!!桜井ーっ!!!!!!!!」
金玉からザーメンを絞りだそうとするかのように、銀次郎は睾丸を握る手に力を込めた。
「ぐぎゃあっ!!!!!!!」
桜井の脳内に真っ白な閃光が爆発し、そのまま暗転した。
桜井は昇天しながら失神した。
股間から真っ白な精液を滴らせた黒ビキニマッチョは、肩の上のヒーローが力尽き、ぐったりした後もしばらくそのままの姿勢を崩さなかった。
ゆさゆさと揺すっても、ヒーローの身体は木偶のようにだらんと弛緩しきっていた。
銀次郎はどさりと桜井の身体を放り捨てた。
「最期の儀式だ。」
銀次郎は桜井の足を持ってロープまで引きずると、ガムテープを使って桜井の身体をロープに磔にした。
両腕はトップロープに、大きく開脚させられた脚はサードロープに、観客のほうを向く形でヒーローの磔が完成した。
「そろそろ目を覚ませ。栄転レスラーさんよ。」
頬を張られた桜井が覚醒した。
「お客さん、今日はこんな試合を見せられてさぞ驚いたでしょう。でも、俺とコイツにはこれが必要だったんです。猛者同盟の桜井勇治は今日、この瞬間をもって永久に滅びます。」
短いスピーチの後、銀次郎は桜井の青いタイツの左右のサイドを背後から掴み、力任せに上に引っ張った。
ビリビリッ
タイツの生地が悲鳴を上げ、桜井の胸のあたりまで引き延ばされた。
ケツには一本の紐のようになったタイツがギチッと食い込み、肛門を締め付ける。
散々痛めつけられた睾丸が、締め付けによって再び重い痛みを伴い、薄い生地に二つの玉が判別できるほど浮き出ている。
ビリッ・・・ビリビリ・・・・・・
有刺鉄線によってすでにボロボロになっていたショートタイツがとうとう引き裂かれようとしていた。
(おあ・・・・・敗北したサイボーグ戦士をさらに辱めようと言うのか・・・・・こバトルアーマーが破壊されたら・・・・・・俺は・・・・・二度と戦士として復活できないだろう・・・・・・・うお・・・・・や、やめてくれ・・・・・・タイツだけは・・・・・・)
朦朧とした桜井の脳内では、妄想と現実がごちゃまぜになっていた。
だが、自分が正真正銘の最期のシーンに身を置いていることははっきり自覚していた。
民衆が(観客が)無様な俺の敗北を見ている・・・・・・
すまない・・・・・みんなの期待に応えられなかった・・・・・・
ビリッ!!!!!!
青いショートタイツが引きちぎられた。
単なる青い布と化したタイツは、スローモーションで銀次郎の手から背後のリングに捨て去られ、ひらひらとマットに落ちて行った。
むき出しになった桜井の男根が大きく波打つと雄汁を噴きあげた。
2度目の射精にもかかわらず、その白い粘液は大量に勢いよくぶっ放され、最前列の客にかかるほどだった。
(本当に終わったな・・・・・・・)
桜井は長い射精の快感に酔いしれながら、充実感なのか喪失感なのか解らない感情の激流に飲み込まれ、再び意識を失った。


つづく

インディー裏街道⑯

ふいに空が水漏れを起こしたかのようにわずか数分で地表を水浸しにした雨は、先ほどまでの轟音が空耳だったかと思うほどすっかり止み、今では星の瞬きが見える。
その数分のうちに、水芸人の舞いのごとく長い手足から水のひれを伴った鮫島の打撃技が、藤堂の肉体に何発も打ち込まれた。
バシッ!ゴスッ!と確実にヒットしている音が雨の音に負けじと響き渡り、そのたびに盛大な水飛沫を上げて藤堂がリングにダウンした。
赤いタイツが捲れ上がったまま皮膚に張り付き、豊満な大臀筋が8割がた顕わになった筋肉野郎は、倒されても倒されても立ち上がった。
雨のベールの向こうで繰り広げられている死闘を、カムイは文字通り固唾を呑んで見守っていた。
(藤堂、勝ってくれ・・・・・・!)
そして雨雲が去った今、水浸しのリングには、こちらに背を向けるかたちで片膝をつき両腕を踏ん張ってまたも立ち上がろうとする赤タイツの姿があった。
その向こうには完璧な肉体に紫のタイツを張りつかせ、それ自体凶器のような膨らみを誇示する若者が仁王立ちしていた。
「オッサン・・・・いいぜ。前より耐久性が増したんじゃないか?楽しみがいがあるぜ。」
精悍なマスクに残虐な笑みを浮かべる鮫島。
「・・・・・・・・・・・・」
藤堂は言葉を発することさえままならないのか、肩で息をしながら目の前の若者を見据えるのみだ。
自我のようなものが芽生えはじめた少年期、たまたまテレビで見たプロレスに衝撃を受け、以来プロレス漬けの人生を歩んできた藤堂。
男の闘いを見世物にするプロレスという文化。
そのあまりにも俗にまみれ、あまりも崇高な世界。
雄の性を根源から突き動かすエロティシズム。
『そこに携わる者は心身ともに強靭でなければならない』
誰よりも鮮烈なやられを演じられる者は、誰よりも強いことが前提条件なのだ。
藤堂はそのことを信条として生きてきた。
『俺は最強でなければならない。』
ところが数年前、鮫島に実力で敗れたことにより、藤堂の心は粉々に砕かれた。
ジグソーパズルのようにバラバラになった心のピースが再構築された時、それは以前とは形を変えていた。
『俺は自分よりも強い男を求めていたのかもしれない。そしてその男に征服されたいと望んでいるのだ。』
藤堂は自分の心変わりを直視することが出来なかった。
一生の居場所と決めていた地下プロレスを去り、地上のインディー・レスラーとなったのは実は逃避だったのだ。
鮫島からの逃避行。
(俺は今日、ここでまたこいつに負け、そして陵辱されるのか?それが俺の望みなのか?)
確かに鮫島の拳が腹にのめり込む度、蹴りが骨を砕かんばかりに打ち込まれる度に、藤堂の肉体は悦びに打ち震えているかのようだ。
もともと総合格闘技系のファイトスタイルを得意とする鮫島の打撃技は的確で重い。
前回の闘いではなすすべもなく翻弄された藤堂だったが、一度対戦した相手の動きはある程度見切ることができる格闘技センスを藤堂は持っていた。
(わざと技を受けている・・・・!?)
藤堂は自分が解らなくなっていた。
もちろん見切ることができても鮫島の打撃技は容易にかわすことのできる代物ではない。
やられを楽しむにはあまりにダメージが大きく、そんな余裕などない。
だが藤堂は鮫島に痛めつけられることに確かに悦びを感じていたのだ。
膝立ちの藤堂の髪を掴み立ち上がらせる鮫島。
膝蹴りが藤堂の腹にのめり込む。
「ごふっ・・・」
思わず前かがみになる藤堂の顎を超高速のアッパーが抉る。
バシャーン!!!
派手な水しぶきを上げ、仰向けにダウンする藤堂。
鮫島は不敵な表情で藤堂の股間を踏みにじった。
「オッサン、あんたは痛めつけがいがありすぎるぜ。おら、またこうして踏んで欲しかったんだろ?自慢のモッコリを。」
「おわ・・・・んぐ・・・・・・」
あの屈辱の敗北の記憶が蘇る。
トラウマとなった股間踏みつけが今また再現されている。
(おあ・・・イッてしまいそうだ・・・・・)
藤堂の男根が波動砲のように雄汁を噴きあげようとする1秒前、鮫島の金色のブーツが股間を離れた。
「やっと実現したスペシャル・マッチだ。もっと楽しませてもらうぜ。」
鮫島はダウンする藤堂の頭部側に移動すると、反動を付けず重力に任せるように膝を落とした。
「ぐえ・・・・」
首元にヒットするニードロップ。
のたうつ藤堂を無表情で追う鮫島。
今度は腰に膝が落とされた。
「あがっ・・・・!」
瀕死の獅子をじわじわと絞め殺す大蛇のように鮫島が寝技を仕掛けてきた。
STF。
がっちりとホールドされた足は鎖で縛りつけられたかのように少しも動かせない。
不自然に折り曲げられた関節が悲鳴を上げる。
そして気道をふさぐ太く弾力性のあるモチ肌の筋肉。
(鮫島なのにモチ肌とは・・・・)
霞んでゆく意識の中で藤堂はそんなことを想っていた。
鮫島の顔が、自分の頭のすぐ後ろに密着している。
荒い吐息が藤堂の耳の後ろに感じられる。
「オッサン・・・・、俺に痛めつけられて嬉しいか?俺はすっげー嬉しいぜ。」
囁くような声が吐息とともに耳を刺激する。
鮫島が首を極める手を片方解いた。
再び気道を確保した呼吸器官が酸素を求めて忙しく収縮する。
解かれた片腕は藤堂の上半身を這いまわり、パンパンに張った大胸筋の先端にたどり着いた。
「ここの感度もよさそうだな。」
「ああっ・・・!」
乳首に鮫島の指が触れただけで藤堂の全身がびくっと痙攣した。
「ふふん・・・年下に乳首をいじられて悶絶するとは、無様なオッサンだな。」
絶妙な緩急をつけて乳首を弄ぶ武骨な指。
藤堂の両手はフリーなので鮫島の片腕の動きを阻止しようともがくのだが、乳首から全身に走る電流のような刺激に抗えない。
カムイはリング下で快感に酔いしれる藤堂を複雑な思いで見ていた。
今日の藤堂のやられ姿は間違いなく最上級だ。
藤堂のエロやられを長年自慰の材料にし続けていたカムイから見てもそれは言える。
だが・・・・何かが違う・・・・・
藤堂の強さが見えない・・・・・・
(俺が愛してやまないのは、強い藤堂だ。強い藤堂のやられが俺を興奮させるんだ・・・・・)
あの数年前の敗北以来、若造に辱められる快感の幻想に囚われてしまった藤堂は、今まさにその幻想の中で自慰行為に及んでいるのだ。
カムイはそう悟った。
だめだ・・・・藤堂をこんなところで堕落させるわけにはいかない!
「藤堂!目を覚ませ!本当に鮫島はお前より強い男なのか!?一生こいつの性奴隷に成り下がってもいいのか!?」
カムイの悲痛な叫びも、鮫島の吐息に完全に麻痺状態に陥った藤堂の耳には届かなかった。
冬の雨に濡れそぼったリングで2人の筋肉野郎が湯気を上げて絡み合っていた・・・・・


人気のないスタジアムの外に、轟音を響かせて一台のバイクが現れた。
白バイだ。
だがそれに跨る男は、白バイ隊員とは明らかに様子が違っていた。
上半身裸!?
見事に鍛え上げられた筋肉の盛り上がりが、スタジアムの外に漏れる照明によって陰影を作っている。
降り立った男の下半身は・・・・・・
なんと明るい紺色のビキニパンツだった!?
同系色のブーツを履いた男の姿はまさにプロレスラーのそれだった。
静かに球場の入り口に向かう男のショートタイツのケツには「POLICE」の文字が黄色く浮かんでいた・・・・・


つづく






インディー裏街道⑰

鮫島の武骨でありながら、まるで節足動物の足のように怪しく動く指が、藤堂の大胸筋の上を這いまわる。
官能的なアールを描く丘の頂上にちょこんと突起する乳首は感電装置だ。
指が先端をそっとかすめただけで藤堂の全身に電流が走る。
「ああっ・・・・・んぐっ・・・・・・おあ・・・・・・・・・・・」
片腕で首をホールドされた藤堂の顔面は、苦痛と快感に歪み、涎まで垂らしている。
後頭部に密着した鮫島の吐息がさらに忘我の世界へと藤堂を追い詰める。
「オッサン・・・・あんたエロすぎだよ。俺は理性を狂わされるのを好まない性質なんだ。あんたは俺を落ち着かなくさせる唯一の男だ。残念な気もするが排除するぜ。」
鮫島はそう言うと、藤堂の乳首を突然もの凄い力で摘まんだ。
「うぎゃーーーっ!!!!!!!!!」
乳首の細胞を壊死させるがごとくの指万力に、マッチョ野郎は絶叫する。
赤いタイツの中でビクンと脈打った男根の先端から透明な液体が溢れだした。
(藤堂が・・・・・・壊される・・・・・・・)
カウパーが止まらない藤堂の無様な艶姿を目の前にして、カムイは鮫島の真意を悟った。
自分を拉致するような手の込んだことをしてまで藤堂をおびき出したのは、藤堂を排除するため・・・・潰すため・・・・。
鮫島の目的はただ藤堂を痛めつけて犯したいのだと最初は思っていたが、どうやらそれだけでは収まらないらしい。
若さゆえの歪な完璧主義が、己を惑わす藤堂の存在そのものを許さなかったのだ。
STFの快感地獄に藤堂は木偶のように痙攣し続ける。
遅かれ早かれ、藤堂はタイツの中に雄汁をぶちまけるのだろう。
そして自分より10歳近くも下の若造に陵辱しつくされ、文字通り性も根も付き果て廃人に成り果てるのだ。
(藤堂・・・・・目を覚ましてくれ・・・・・・)
カムイは唇を強く噛む。
藤堂がここに来た〝目的〟も今となっては解る。
自分を助けに来たわけではないのだ。
鮫島に痛めつけられ犯されるために来たのだ。
潰されるためにやって来たのだ・・・・・・・・・・・
(藤堂!それでいいのか?お前のゴールは本当にここなのか!?)
鮫島の目つきが変化していた。
獲物を弄ぶ悦びの色は影をひそめ、どこか切羽詰まった〝雄〟の光を宿している。
おもむろにSTFを解いた鮫島は立ち上がった。
パープル・タイツの股間には信じられない隆起が形作られ、先端には染みが浮かんでいる。
うつ伏せに倒れる藤堂のタイツを掴んで引っ張り上げる。
赤いタイツが最大限に引き伸ばされ、藤堂の白いケツにギリっと食い込んだ。
「うお・・・・・・」
ケツの刺激に喘ぎ声を洩らすマッチョ野郎の髪を掴み、無理やり立ち上がらせる。
「てやっ!!!」
棒立ちの藤堂の顎に足刀蹴りが叩きこまれる。
ガクッと膝から崩れ落ちる藤堂の頭頂部に、間髪いれず踵落としが振り下ろされた。
前のめりに倒れていく藤堂の髪を掴む鮫島。
藤堂は脳震盪を起こしたのか全身が脱力し、両腕はだらんと垂れさがっている。
そんな戦闘不能の木偶人形の顎に膝蹴りがアッパーに叩きこまれた。
膝を軸に弧を描いて後ろに倒れる藤堂。
もはや目は虚ろで何も映していない。
正座をしたまま寝転がったかのような姿勢でのびる藤堂。
鮫島はゆっくりと歩み寄ると藤堂のタイツのサイドに下から腕を差し入れた。
両方向からタイツが引っ張られ、藤堂の陰茎が透けるほど生地がのばされた。
鮫島は肘の関節までタイツに差し込まれた左右の腕を、藤堂の腰の辺りでクロスさせるとそのまま持ち上げた。
タイツによる拘束が加えられたベアハッグが完成した。
ケツはもはや褌状態で、白く鋭角な競パン日焼けが丸見えだ。
半失神の藤堂は腰が破壊される痛みにも満足に反応きない。
弓のように反り返った上半身には力が入らず、腕も頭部もゆさゆさと揺れるに任せている。
通常の試合なら間違いなくレフリーストップになるだろう。
だが、非情なセメントマッチにはそんな救済は望むべくもなかった。
「おらーーーーーーっ!!!!!!!!」
鮫島の咆哮とともに腰をホールドした腕に力がこめられ、神懸かりのようなパンプアップが前腕に、上腕二頭にもたらされた。
ブチッ!!!!!
布が裂けるような音がしたかと思うと、次の瞬間藤堂の赤いタイツが引きちぎれ、密着する2人の筋肉男の足元に落ちて行った。
(藤堂・・・・・!?)
カムイは目を疑った。
自分のヒーロー、フラッシュ藤堂が、タイツを破り取られた!?
プロレスラーの唯一の鎧、誇りの象徴であるタイツが!?
「藤堂ーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!」
カムイは絶叫していた。知らぬ間に涙が頬を伝っている。
鮫島がベアハッグを解くと、藤堂はどさっとリングに崩れ落ちた。
シューズとニーサポーター以外何も身に着けていないマッチョ野郎が横たわる。
身体じゅうを破壊しつくされ立ち上がることもできない筋肉野郎は、男根だけを盛大にいきり勃たせていた。
その哀れな姿を見下ろす彫刻のような肉体。
鮫島は無言で自分のパープルタイツを脱いだ。
その股間にそびえ立つモノの大きさたるや!
ギーガーがデザインし、リドリー・スコットが映像に残したあの異星人のように、黒く粘液質に光る〝生物〟。
そう、それはそれ自体が邪悪で危険な生き物のようだった。
鮫島は脱いだタイツを、ダウンする藤堂の頭にすっぽりとかぶせた。
鮫島の股間の辺りが藤堂の鼻孔と口元にくるように。
鮮烈な雄の臭いに朦朧としていた藤堂の意識が呼び覚まされる。
タイツの足を入れる部分から覗く目に僅かな光が戻ってきた。
宿敵の、あろうことかパンツを頭から被せられる屈辱。
そしてその快感に抗うことのできない弱い自分。
藤堂は自分が死んだのかと思った。
この恍惚は、天国にいるとしか説明できないではないか!?
「オッサン、犯し倒すぜ・・・・・・」
鼻息が荒い鮫島は、柄にもなく冷静さを失っているように見えた。
目の前に横たわる三十男が発散するあまりに強烈なエロ。
自分が履いていたパンツを被って興奮している無様で妖艶なその肢体。
(こいつは・・・・・やはり俺を狂わせる。このまま放置できない・・・・・)
その時、
「うっ!」
ギーガーの先端から白い液体がほとばしった。
鮫島があまりの興奮にトコロテンで発射してしまったのだ。
濃い雄汁は藤堂の顔面に達した。
異星人の体液は強烈な酸性で全てを溶かし尽くすという。
顔面に降りかかったザーメンはまさに藤堂の魂を溶かしにかかった。
紫のタイツに落ちた雄汁は生地に浸透し、やがて藤堂の皮膚に生暖かい感触をもたらした。
もともとタイツに付着していた雄の臭いに一層鮮烈な要素を加えて藤堂の鼻腔に襲いかかる。
(鮫島のザーメンパンツを被って嗅いでいる淫乱な俺・・・・・)
「うおっ!!!!!!」
藤堂の身体が弓なりに痙攣し、ハンズフリーの射精がまたしても爆発した。
互いにトコロテンで果てた2人の筋肉野郎。
「くそ・・・・俺としたことが、一生の不覚だ。この野郎、生かしちゃおけねえ!」
鮫島がスカした仮面をかなぐり捨て藤堂に襲いかかろうとした。
(鮫島、俺を殺してれ。やり殺してくれ・・・・・・・・・)
藤堂の括約筋がひと際激しく収縮した時だった。
「ちょっと待ってくれ!」
鮫島の背後で声がした。
振り向くと、いつの間に現れたのかネイビーのショートタイツの素晴らしい肉体の青年が立っていた。
「なんだテメーは!!!!?」
気色ばむ鮫島をかざした掌で制す青年。
「俺は向井卓。あるところではポリスマン向井で通っている。今日は竜崎のオヤジさんの使いで出来た。」
「ジジィの!?」
「トードーさんをまだスクラップにはしないでくれってさ。」
「何を言っていやがる!好きにしていいって約束だ!」
「まあ落ち着け。この数時間で状況が大きく変わったんだ。君にも関係あることだ。もう一発出せたことだしここは納めてくれ。」
「な・・・・・・・!?」
先出しの失態を見られていたということか・・・・・・・・!?
「テメーっ!!!!!!」
憤怒に顔を真っ赤にした鮫島が全裸で向井に襲いかかろうとした。
すると向井はタイツから黒い手帳を取り出した。
「公務執行妨害になるよ。」
それは警察手帳だった。
謎の大富豪、竜崎が裏で国家機関と繋がっていることは鮫島も薄々勘付いていた。
この手帳は本物かもしれない。
だが・・・・こんな奴が警察官!?パンツ一丁のこいつが・・・・・・!?
「ど、どこが公務だよ!」
「いやいや立派な公務だよ。警察と地下プロレスとの関係について明るくないようだね、君は。」
ほら、と言って向井はくるっと振りかえってケツを突き出した。
形のよいブリケツには『POLICE』の文字が黄色くプリントされていた。
「これだって警察公式のショートタイツなんだぜ。作ったのはパセリさんだけど。」
「ぐっ・・・・・・・・・・・・!」
鮫島は拳を握りしめてぶるぶると体を震わせていたが、やがてリングに唾を吐き捨てると去っていった。
「代々木でオヤジさんが待ってるよ。」
怒りの後ろ姿に声をかけると、向井はまずカムイの手錠を解いた。
そして藤堂をリングから下ろすと両腕で抱いた。
「オヒメサマ抱っこするには相当な重量オーバーだな。」
カムイが近付いてきて藤堂の頬を思いっきりはたいた。
パシッという乾いた残響音の中、カムイは無言で立ち去った。
「あーあー、超怒ってるね。無理もないか。あんた楽しみ過ぎだよ。」
急展開についていけない藤堂は再び混沌の世界に落ちて行った。
向井はそんな藤堂の顔を見下ろしながらスタジアムの外に向かって歩いて行った。
「今は眠るといい。目が覚めたら違った世界に巻き込まれることになるからな。」
パンツ一丁の向井とフルチンの藤堂が、白バイでどうやって街に戻ったのか誰も知らない・・・・・


つづく





インディー裏街道 最終回

「桜井が行方不明!?」
家業の酒屋で荷降ろし中だった銀次郎は、軽トラックの荷台から飛び降り、肩と首で挟んでいたガラケーを持ちなおした。
「どういうことだよ!?真日の試合は大晦日だろ?」
12月31日に紅白にぶつけて行われる真日の、いやプロレス界の大イベントで、桜井勇治は華々しくメジャー・デビューを飾ることになっている。
先日、古巣の猛者同盟の卒業試合も終え、今頃は晴れの舞台に向けて鋭意調整中、といったところだとばかり思っていたのだが・・・・
電話をくれた居酒屋メンズ・バトルのマスター、ブッちゃんによると、桜井はあの卒業試合後から、真日本プロレスに姿を見せないばかりか全くの音信不通状態なのだという。
業を煮やした真日側が、ブッっちゃんに問い合わせてきたというのだが、
「まあウチは真日から移籍料とかもらってるワケでもないから、知らんよって言っといたけどね。」
しかしブッちゃんも桜井の行方は大いに気になるようで、年末の稼ぎ時で大忙しの銀次郎に連絡してきたのだ。
(桜井・・・・・・)
プロレスを単なる格闘技とも興業とも違う世界として捉えてしまった男。
銀次郎自身もそうなのだが、プロレスに欲情してしまう体質?性癖?の持ち主である桜井が、メジャー進出に不安を感じていたことは銀次郎も知っていた。
(まだ吹っ切れていなかったのか・・・?桜井・・・?)
卒業試合で桜井のタイツを引き千切り、客の前で射精させ、猛者同盟での桜井を完全に葬り去ったと銀次郎は感じていた。
それは銀次郎なりの、大きな舞台に羽ばたく桜井を後悔なく送るための儀式、プロレスへの妖しい想いを封印するための毒抜きだった。
だが、桜井の〝毒〟は完全に抜けていなかったのか?
(お前の道はそっち側に伸びていたんだな・・・・・)
銀次郎には、桜井が姿を消した理由が解る気がした。
そして、もう二度と戻ってこないことも何故かはっきり確信していた。
電話を切り無言で酒店の裏手の倉庫に向かう銀次郎。
倉庫のシャッターを開け、中に入ると再びシャッターを下ろす。
奥にある冷蔵庫からビニール袋を取り出し、中に入っていた青い布を両手に持つと顔に近付けた。
それは、あの日桜井から毟り取ったショートタイツだった。
冷蔵庫に保管されていたとは言え、布に染みついた数週間前の体液や血液はカピカピに乾き、変色し、もはや饐えた臭いを放つのみだ。
銀次郎はショートタイツに顔をうずめると深く呼吸した。
「桜井・・・・・桜井・・・・・・・」
銀次郎は泣いていた。
精子と血が染みついた青い生地に、新たな分泌液が染み込んでいった。
ショートタイツの残骸に顔をうずめて涙する屈強な男は、ツナギのジッパーをおろし自らの怒張した男根を握りしめ擦り続けた。



「それで、鮫島は納得したんですか?」
代々木の竜崎邸の大広間、会議室のような巨大な机の上座にでんと構える竜崎老人に向井卓は尋ねた。
「納得するも何も、決まったことなのじゃ。この大きな流れには誰も逆らえまい。」
長い長い机の向こう側にいる向井は今日は警察官の制服を着ている。
少なくとも竜崎からはそう見えた。
しかし机の下に隠れている下半身は、警察公認印のネイビーのショートタイツ姿だった。
警察上層部にはプロレスにどっぷりと浸かってしまっているキャリアが少なくない。
そのほとんどが地下プロレスの会員であり、いつしか警察組織内部でレスラーを育てようという極秘の動きができていた。
ただ、地下プロレスのレスラーというのはただレスリングができるだけでは資質不足だ。
プロレスによって雄の本能を輝かせることができる男が求められた。
そうして試行錯誤の末、〝完成〟したのがこの向井卓である。
向井はその特殊任務?に就くことで、階級は実は警視にまで上り詰めていた。
その任務の実態は、地下プロレスに警察代表として出場するために日夜鍛錬に励む、ということのみだった。
向井はトレーニング時のみならず、日常生活もショートタイツで過ごした。
地下レスラーとしての感性を養うためだった。
竜崎のもとへ警察官僚から正式に向井の地下デビューの要請が為された。
そしてとうとう、念願の地下リングに立つ日が決まった矢先、地下団体の首領、竜崎が自身の団体を別の地下団体と合併させると発表したのだった。
「俺のデビューはそっちのリングで、ってことになるんですね。」
準備万端、いつでも来いといった気迫のこもる目で、向井が聞く。
「そうじゃ。そしてそれは警察組織の威信をかけた闘いにもなる。おぬしには重荷を背負わすことになるが。」
「いいえ団長、極道と闘って、しかも連中を犯せるなんて、私にとっては願ったりかなったりですよ。」
向井は立ちあがり、勃起した男根がタイツ越しに光沢を放つ姿を竜崎に見せた。
「ふぉっふぉっ・・・元気がいいのう。頼もしいかぎりじゃ。だが油断は禁物じゃ。黒杭組を侮ってはいかん。」
「黒杭・・・・・・・」
向井は、この日本において闇という闇を牛耳る大暗黒組織の名を改めて胸に刻んだ。
「おぬしも知っているとおり、THPWはいまや黒杭組に乗っ取られている。そこの会員にはこの国の権力者が多数おる。権力者のプロレスに欲情する性癖を握り、黒杭は国家権力まで手に入れようとしているのじゃ。」
「恐喝・・・・ですか?」
「いまのところ直接的に恐喝された者はおらん。しかしそこが不気味でな。実際黒杭が動かなくても権力の方で暗黒組織に遠慮する空気が出来上がってしまっている。このままでは日本は極道の手に落ちてしまう。」
「暗黒組織に乗っ取られたTHPWに竜崎団長が乗り込んで、日本を救うわけですね。」
「日本を救う・・・・か・・・・。ふぉっふぉっふぉっ、実はワシはそんなことはどうでもいいのじゃ。」
「え・・・・?」
「ワシは昔、THPWのレスラーだったのじゃ。」
「存じ上げています。伝説の地下レスラー、ライディーン竜崎。」
「鍛えあげた肉体を敵の攻撃に晒し、痛めつけられる男の美しさ・エロさを極限まで追求し、最期には敵を打ち負かし犯す、という地下ヒーローの黄金パターンはワシが確立したと言っても過言ではない。おや、ワシとしたことが、くだらん自慢話になってしまったわい。」
「いいえ、おっしゃる通りだと思います。ですが、そんなライディーン竜崎がなぜ、〝殉職〟したということになっているのですか?現に団長はこうして生きてらっしゃる。」
「それはな・・・・・」
竜崎は静かに目を閉じ、封印していた記憶の彼方に想いを巡らせた。
(それは、想い人に想いが届かなかったからじゃ・・・・)
竜崎が地下レスラーとして、男としてもっとも脂の乗っていたあの頃。
地下組織のマネージャーとしてきびきびと采配を振るう若き美青年に、竜崎は密かな想いを抱いていた。
(ワシゴウ・・・・・)
しかし竜崎の想いは鷲号には届かなかった。
彼の心は別の男に完全に囚われていた。
よりにもよって〝あの男〟に・・・・・・・・
絶望した竜崎はある試合で何十発も射精をし、〝殉職〟という形を偽装しリングを去った。
THPW側が、会員を納得させるための苦肉の策でもあったのだ。
THPWと袂を分かった竜崎は、自身で別の地下組織を立ち上げた。
鷲号はTHPWの会長になった。
日本の2大地下プロレス組織はこれまで交流を持つことがなく、竜崎と鷲号が会うこともなかった。
そんな鷲号が、先日突然電話をしてきた。
今は地下施設に幽閉されているという鷲号。
電話を一本かけるだけでも大変な危険を冒してのことに違いない。
「あなたの力が必要なのです・・・・・」
あの日、自分を袖にした男が助けを求めている・・・・・
竜崎は閉じていた目を静かに開いた。
「まあその話はおいおい、な。」
向井は重大な告白を聞きそびれて落胆したが、それは仕方がないか、とすぐに納得した。
「で、この間おぬしを藤堂の救出に向かわせたのも、もちろんそれがらみなのじゃ。」
「団長、正直に申し上げてあの男が戦力になるとは思えません。ひどいありさまでしたよ、あいつ。」
「ふむ、確かに今のままではただの発情筋肉じゃな。」
「でも、団長には何かお考えがあるのでしょう。私はそれを信じています。」
「さしあたってヤツをラーのところに送っておいた。鮫島に随分痛めつけられたようじゃからな。怪我をまず治さんと。」
「げっ!・・・・・し、失礼しました。あのラー医師のところに?逆効果なのでは?」
「いやいや、少々荒療治が必要なのじゃ、藤堂には・・・・・・」
竜崎の笑みは怪老人のそれになっていた。


「うっ・・・・・・・・!?」
意識を取り戻した藤堂は、自分が拘束されていることを悟った。
自由に動くのは首から上だけ。
その頭部を動かして見ると、レスリング場のようなマット敷きの部屋に大の字に手足を拘束されていることが解る。
全身裸だ。
ただ、黒いショートタイツを履かされている。
この形、感触、これはパセリ製のタイツだ。おそらく自分のものだ。
一体、誰がこんなものを履かせて、俺をこんな状態にしているんだ・・・・!?
「あー、目が覚めたねー。じゃ、さっそく治療を始めようかー。」
声とともに白衣の男が現れた。
上背のある、ガッチリとした体つきで、歳は30歳前後といったところか。
童顔にもじゃもじゃヘアーが妙に似合っているような、逆にバランスを欠いているような・・・・・
どこか奇妙な白衣男が呑気な口調で話し続ける。
「あー、心配はいらないよー。君は竜崎さんのはからいでここに運ばれてきたんだよー。ここはこれでも病院。プロレスラー専門の病院なんだよー。僕はラー。みんなラー先生とかドクター・ラーって呼ぶよー。」
(竜崎のじいさんが?・・・・・そうか俺は警察野郎に助けられて、あいつはじいさんがよこした奴で、それで・・・・)
まだ混乱が続いていて口をパクパクさせるだけの藤堂に、ラーが説明を続ける。
「まー後で竜崎さんが教えてくれると思うけどー、君は選抜メンバーなんだな。だからここできっちり治療して復帰してもらわなきゃならないんだよー。」
「あ、え・・・と・・・・、ラ、ラー先生、選抜メンバーって、い、一体なんの・・・・・うごっ!!!!」
やっと声を出せた藤堂の腹ににいきなりラーのエルボードロップが落とされた。
「が・・・・な、なにをしやが・・・・うげっ!!!!!」
今度は喉元に地獄突きだ。
顔を真っ赤にして咳込む藤堂を無表情で見下ろすラー。
「これは治療だよー。メンタル・ケアってやつ。」
大の字拘束の藤堂の視界いっぱいと思えるほど巨大なモニター画面が天井から下りてきた。
そこに再生された映像とは、またしても地下プロレス時代の鮫島vs藤堂の一戦だった。
「君はー、トラウマを克服できないとんでもなくダメダメな男なんだよー。でも大丈夫。僕が治してあげるからー。」
「や、やめろ・・・・やめてくれ・・・・」
鮫島との再戦でトラウマ克服どころか、さらに傷を深くした藤堂にとって、あの試合を見せられるのは拷問だった。
「やめろってー、君、勃起してるじゃんー。」
ラーが黒タイツの上から藤堂の股間を撫でる。
と、次の瞬間思いのほか強い握力で睾丸を握られる。
「ぎゃーっ!!!!!」
たまらず悲鳴をあげる藤堂。
「いい声だねー。じゃ、僕を鮫島だと思ってさらに鳴いてみてー。」
ラーが白衣を脱ぎ棄てた。
もじゃもじゃ頭の童顔の下は、そこそこ筋肉質だが中年にさしかかる男特有のエロいだぶつきが見え始めた、成熟した男の体だった。意外に毛深い。
なんと、ショッキング・ピンクのショートタイツを履いている。
「僕はプロレスラー専門の医者だからー、プロレス技にもくわしいんだよー。」
藤堂に馬乗りになったラーは、クロスした両手を藤堂の首に押しつけた。
「落とすよー。落ちたら水かけて起こすからー。そしてまた落とすからねー。」
頸動脈をしっかり圧迫するところは、さすが医者ならではか、藤堂の意識が遠くなり始める。
完全に落ちる寸前、ラーが手を離した。
「おっとー、まだ説明がおわってなかったねー。君はビデオをみながら、僕に痛めつけられてー、そいで犯されるんだよー。
これは治療だからねー。でも僕は鮫島君のような立派なチンポじゃないからこれを使うよー。」
ラーが手にしているのは極太のディルドだった。
「これでも鮫島君のよりは小さいかなー。まー我慢してよー。イメトレ、イメトレー。」
再び藤堂の頸動脈に圧力が加えられた。
画面にはまさに鮫島に落とされんとする自分の苦悶の姿が映っていた。
タイツの中で男根がビクンビクンと脈打ち、亀頭が極薄の生地に擦れる。
「ああっ・・・・・!」
切ない声をあげ、藤堂は白濁した世界へと落ちて行った・・・・・



「どこに向かっているんですか・・・・?」
桜井勇治が後部座席から声をかける。
えらく年季の入ったハイエースのハンドルを握るのは、卒業試合を見に来ていた謎の男、長谷部だった。
「・・・・・山奥だ。山の奥の奥にある特訓場だ。」
あまりに情報量が少ないその返答に、桜井はさらに問いかけようと口を開きかけたが、結局それ以上なにも聞かなかった。
(聞いてどうなる。俺の人生をこの男に委ねると決めたのは自分だ。もう疑念を持つのはよそう。)
車内には再び沈黙が訪れ、ハイエースが山道をガタガタと登っていく音だけが響いていた。
手持無沙汰を感じた桜井は、知らず知らずのうちに自らの睾丸をズボンの上から揉んでいた。
金玉に心地よい刺激が加えられることで、体全体が熱を帯びてくる気がする。
活性化された脳細胞は、現在の自分がなぜ〝山奥〟に向かっているのか、その理由となった成り行きを反芻し始めた。

銀次郎とのデスマッチで、文字通り精も根も、いや性も魂も尽き果てた状態となった桜井は控室の長椅子に横たえられていた。
周りでは、猛者同盟のレスラー仲間や有志のスタッフたちが忙しそうに立ち回っているのを意識の隅で感じていた。
観客の前でショートタイツを破り取られた時の最高にヘヴンな気分は凄まじかった。
その余韻で身体中がまだ痺れているようだ。
いや、実際相当ダメージを負ってもいるのだろう。
あちこちがズキズキと痛む。
だが、あの快感の余韻の中では痛みさえも心地よい気がする。
(俺の『プロレス人生』はあれが頂なんだろうな・・・・・)
最高の体験をしたのに、心は寂しさを感じている。
(もう二度と、あんな快感は味わえない・・・・)
ほぼ全裸で、死んだようにぐったりとしている桜井の頬に涙が伝った。
「オマエはもっと輝ける。輝ける世界がある。」
突然声がした。
目を開けようとするが、瞼を動かすこともままならない。
「オマエ自身のリアル・ワールドを見たくないか?」
身体に残る全ての力を使ったような苦労の末、桜井の目が半開きになった。
涙で滲むぼやけた視界に、男の顔が映っていた。
「地下プロレスに来い。オマエの居場所はそこにしかない。」
これは天啓なのか・・・・
俺にはまだ進むべき道が残っているというのか・・・・・

御宣託の主は長谷部だった。
翌日、再び現れた長谷部は自身が関係する地下プロレス組織について語った。
雄の本能をさらけ出す場所、プロレスの究極を突き詰める場所、それが地下プロレスだ。
だが、彼の所属する組織は悪の力によって崇高な理念から完全に乖離してしまった。
今、新たな戦士たちとともに、悪の手から地下プロレスを取り戻す計画が進行している。
「オマエにもその戦士になってほしいんだ。」
長谷部はそう言った。
桜井は頷いた。
それが契約となり、桜井は山に向かっている。
いつの間にか車窓から積もった雪がちらほら見え始めた。
雪は山に分け入るほど量を増し、ついに車が止まった時、そこは完全な雪景色の中だった。
「ここからは歩きだ。」
長谷部が言う。
桜井は無言でハイエースから降りると、リュックザックを肩に担いだ。
「着替えてから行け。」
再び長谷部の声。
「着替え・・・・?」
一体何に着替えろと言うのか。
「ここからは神聖な雄の世界だ。レスラーは試合のコスチュームで進むしきたりだ。」
「・・・・・・・・・・」
思わず絶句する桜井。
試合のコスチューム?
俺はショートタイツ一枚で闘うレスラーだ。この雪の中をそんな恰好で?
だが、桜井は一言も返さず、リュックからタイツとリングシューズを出し、黙々と着替え始めた。
青いショートタイツはパセリ製だ。
銀次郎に一枚破り取られたが、予備があった。
準備が整うと、長谷部は黙ってけもの道に入って行った。
極寒の中、タイツ一枚の桜井が後に続く。
ケツに食い込むタイツがキリキリと引き締まっていたのは寒さのせいだけではなかった・・・・・                 



暮れも押し迫った日曜日、田代誠二はあるインディー団体の試合観戦に来ていた。
この日を最後に、しばらく地上のインディー・プロレスを見ることはないだろうな、と誠二は思っていた。
それは、誠二が会員登録している地下プロレスの団体で新たな動きがあるからなのだ。
そのことを、誠二は付き合っている地下レスラーから聞いた。
極道たちとの最終プロレス決戦。
自分はそこに単なる観客以上の関わりを持つのだろう。
漠然とだが、誠二にはそんな予感があるのだった。
目の前のリングの上では、レスラー達が実に活き活きとプロレスを〝楽しんで〟いる。
そう、プロレスはレスラー自身が楽しむ場なのだ。
観客である自分たちは、レスラーが発散する生命力の恩恵を求めて集うのだ。
雄の生命力に惹かれて。
今日、日本には多種多様なインディー・プロレス団体が乱立している。
その中にはメジャーと比べても引けを取らない規模のものもあるが、多くは細々と同好会のようなノリで営まれている。
生業としてのプロレスでなければ、それはもはや〝プロ〟ではないのだが、『プロレス』という固有名詞の文化に惹かれ、〝疑似プロレス〟に身体を張る男たちは、プロレスで生活の糧を得ないまでも、〝生きる糧〟を確かにそこから得ているのだ。
フラッシュ藤堂と、桜井勇治という二人のインディー・レスラーの今後の進む道のことを長谷部から聞いた誠二は思う。
この、決して楽ではない兼業レスラーを続けている男たちは、皆どこかで藤堂や桜井に通ずる感性を持っているのではないだろうか。
裸の男と男が四角いリングで闘い、それを見世物にするプロレスというもの。
考えてみればプロレスは見る者がいないと成立しない。
レスラーは闘う自分を見られたがっている。
見られて闘志を燃やし、時には闘志ではない別の欲望を発散しているのだろう。
ならば観客もプロレスの立派な構成要素なのだ。
折しも、リング上では黒いショートタイツのレスラーがロングタイツの巨漢に踏みつけられ苦しんでいた。
その苦悶の表情に、ある特権的な悦びを見た気がした誠二は、微笑んで会場を後にした。


インディー裏街道 -完ー




読んで下さった皆様、駄文に付き合っていただき感謝します。






<<PrevPageTop

プロフィール

washigo

Author:washigo
プロレス、競パン、逞しくてエロい男が大好きな野郎です!
俺の妄想世界にお付き合いのほど、よろしくお願いします!

最新記事
カテゴリ
抜けるCG

画像をクリック☆ [Wrestling Club] の【キ○肉マン エロレスリング! -スカル・デビル&ヘル・ロック編-】 [まらぱるて] の【KILL&SEX】 [いたちごっこ] の【トーキョー・ボーイ】 [Bravery ] の【蘇生強化式有機生命体 トラストマン3】 [うらはら亭] の【マッスルコング!】 [無味無臭] の【Enty♂絵まとめCG集】 [おタケ☆ナンゴクボーイズ] の【エロティック☆ヒーローズG Vol.03】 [MGStudio] の【みるつべ2DX -MilkTube2DX-】 [我武者ら!] の【ひーろーの諸事情】 [Bravery ] の【クロススピリッツ Episode4. 数多なる刻のゆくえ】 [無味無臭] の【S-izm】 [あんかけチャメシ] の【第一次にゃんにゃんWARS!!開戦前夜はザーメンヨコセ】 [無味無臭] の【トラ☆レス】 [無味無臭] の【エロ☆レス8】 [偏愛ヒーロー] の【【30%OFF!】崩壊【年末年始フェア】】 [べあている] の【プロレスラーの末路】 [へっこき部屋] の【痛プロ!01】 [我武者ら!] の【メタルワン#7】 [我武者ら!] の【メタルワン#6】 [漢度抜群] の【野外露出の代償】 [新・敗北日和] の【【50%OFF!】EpisodeXX デンジャラス・シップ【年末年始フェア】】 [ふくろう太郎] の【ガチムチ恥辱訓練】 [THEやっつけ] の【只今横乗り中】 [atelier MUSTACHE 菅嶋さとる] の【ノーサイド】 [CLUB-Y] の【Scrum!】 [無味無臭] の【水際ボーイズ2】 [LARZ-SILT AG+] の【tame fishes】 [GO! SHINGO] の【コーチと俺!vol.2】 [ハスタードケーキ] の【B・B SALVATION】 [ハスタードケーキ] の【B・B】 [べあている] の【地下プロレス】 [RYCANTHROPY] の【GRATEHEAVEN】 [六角武陣] の【厳狗(GONG!)】 [こまぎれ] の【啄系】 [無味無臭] の【エロ☆レス6】 [無味無臭] の【エロ☆レス5】 [無味無臭] の【エロ☆レス4】 [無味無臭] の【エロ☆レス3】 [♂めんたいこ♂] の【月刊めんたこ Vol.005】 [ごまさば] の【NURU-1ビーチ】 [ごまさば] の【にくづめ】 [まらぱるて] の【バックヤードレスラー】 [♂めんたいこ♂] の【ガチンコバトル】 [撲。] の【oops!】 [GOHC] の【重量戦士リフトマン】 [アタマヌルイMIX-eR] の【秘密の戦隊サンカクレンジャー】 [根雪堂] の【獣人の森─第一章─】 [G-DRIVE] の【BUSTER HERO!】 [ケモつぼ] の【レオvs黒丸(3)】 [あかはち] の【ドキドキ水泳部男】 [MEN'S GJ!!] の【ファンクラブナイト】 [我武者ら!] の【絶滅寸前ブーメラン】 [てるじろう印のきび団子] の【下克上に挑戦!】 [六角武陣] の【辱】 [撲。] の【DUXI2】 [Teenage Fanclub] の【Star Tours】 [きのこ亭] の【Shock Shooter】 [虎出没注意] の【凌辱征服】

最新コメント
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

プロレスラーに変身

エロパンツ

月別アーカイブ
訪問者

リンク
リンクフリーです

arena for rape

検索フォーム

RSSリンクの表示
QRコード

QR