バラ線ボードに挟みこまれていた時、桜井の脳内ではまるで幽体離脱したかのように自分自身の姿を俯瞰していた。
男臭い精悍な顔立ちが断末魔のように目を見開いて歪んでいる。
左右に突き出た太い両腕は虚空を掴み文字通りジタバタするのみだ。
そしてその客観の中の男の「痛み」だけが、主観となって桜井に突き刺さっていた。
身体じゅうに突き刺さる有刺鉄線の棘。
彫刻のような筋肉の繊維一本一本をブスブスと切り裂かれるような感覚だ。
サイボーグ戦士である自分が強大な力によって破壊されていく・・・・・
激烈な痛みは桜井の自己陶酔の導火線に着火させ、すでに勃起していた男根がさらに膨張した。
棘は薄い生地のタイツを貫通しカチコチの竿に容赦なく突き刺さった。
タイツの青が鮮血でどす黒く染まっているに違いない。
そして、睾丸。
サイボーグ戦士である自分の生身の部分。
自分が自分であるための核ともいえる部位にも悪の牙は噛みついた。
(金玉が・・・・俺の金玉が破壊されてしまう・・・・・・・おあ・・・・うお・・・・・・)
失禁した時、桜井は射精したのかと思った。
それほど快感が伴った噴射だったのだ。
長い放尿にようやく潮を噴いたのだと悟り、痺れるような興奮の中、桜井は痙攣し続けた。
銀次郎によってボードが剥がされた時、有刺鉄線の棘は青いタイツの生地を引っかけ、皮膚のように一体化していた男根とタイツを一瞬引き離した。
やがて棘が生地の繊維を引き裂きさいてタイツを解放すると、ピシッと音を立てて再び皮膚に戻るかのように男根に張り付いた。
青いタイツに小さな破れ目が無数にできた。
闘いの装束としてショートタイツを選ぶ男は、それに単なる装い以上の意味を込めているものだ。
肉体ひとつで闘いに臨む男を最大限に美しく見せる必要最小限の覆い。
その小さな覆いのみが自分を防御するバトルアーマーなのだ。
その鎧が傷つけられた時、男は無防備な自分に戦慄し、同時にこみ上げる解放感に戸惑うことだろう。
破れたタイツを纏いボードに磔になった自分を俯瞰した桜井は、そのあまりに荘厳な姿に眩暈を覚えた。
息も絶え絶えになりながら、桜井の身体じゅうにアドレナリンが駆け巡り、脳と股間が爆発しそうなほど熱くなっていた。
ほんの短い時間の中で妄想の旅人となってめくるめく物語の主人公となっていた桜井が、ようやく現実の世界に焦点を戻すと、リング下で猛者同盟の新人が数人、ビデオカメラで試合を撮影しているのが見えた。
(しっかり撮れよ・・・・・・俺のこの雄姿を・・・・・・・全て記録してくれよ・・・・・・)
前方のリング中央を見て驚いた。
銀次郎が黒いビキニタイツでマッチョポーズをとっている。
先日の下着姿よりも格段にエロい姿だ。
(ビルドアップに磨きをかけたな・・・・・・)
この試合のために銀次郎がストイックに準備をしてきたことを知り、桜井は胸が熱くなった。
そして背中から血を滴らせるハーネスとビキニのハンク野郎に、これ以上ないヒールの理想を見てさらに股間を熱くした。
ハイレグに履いた黒タイツがケツに食い込み、エロ尻がこれでもかというほど獰猛に揺れている。
(俺を葬ろうとしている暗黒の大魔王・・・・・)
またしても妄想世界に浮遊した桜井にとって、銀次郎はもはや仲間の銀次郎ではなくなっていた。
振りかえった大魔王の股間は黒タイツを透けさせるほど盛り上がっていた。
「覚悟はいいな、桜井!」
銀次郎が猛烈なダッシュとともに磔の桜井に突進し、跳躍した。
ダイビング・ボディー・プレスが大の字磔の桜井にぴったり重なるように激突した。
バラ線が桜井の背中、尻に更に深く突き刺さる。
銀次郎はそのままコーナー近くの左右のロープを掴み身体を押しつけてきた。
「おらっ!メジャー栄転の王子様はこんなもんか!?硬さが足りないんじゃねえか!」
桜井の男根に銀次郎の野太いモノがタイツ越しにグリグリと擦り合わされる。
失禁で濡れた桜井のタイツが銀次郎のタイツとの摩擦によって強烈な刺激を伴って男根を擦る。
(ぐがっ・・・・・こ、このままでは・・・・・イ、イってしまう・・・・・・くそ・・・・・・・)
絶体絶命のヒーローは昇天しかける自分を闘志によって奮い立たせる。
「うおおおりゃああああああ!!!!!!!!」
雄たけびとともに桜井の盛りあがった肩の筋肉が有刺鉄線の棘から離れて行った。
皮膚が切り裂かれるのも厭わず、桜井の両腕が銀次郎の首を掴んだ。
コーナーに固定されたボードから、桜井の全身が離れていく。
「うりゃあああああああっ!!!!!」
タイツの尻の部分が棘を引っかけ、桜井の臀部がほとんど丸見えとなった。
おおお~~~!!!!!
競パン日焼けが鮮烈な逞しいケツに、観客達は息をのみ釘付けとなった。
ほとんど脱げそうなタイミングでビリッと音を立ててタイツが破れ、パツンッと尻に再び張り付いた。
前部と違って派手に破けたタイツの尻は、ケツの割れ目が見えるほど裂けていた。
ついに棘から解き放たれたマッチョ・ヒーローが、大魔王の首を掴んだまま持ち上げた。
両者血まみれのネック・ハンギング・ツリーのド迫力に、観客は弾かれたように大声援を送る。
「いいぞー!桜井ー!」
桜井はそのまま銀次郎をリングに叩きつけ、目にも留らぬスピードでエルボー・ドロップを首に落とす。
まったく休まず銀次郎を立ち上がらせた桜井はバックにまわり腰をホールド。
「てやっ!!!」
美しい弧を描いてジャーマンが炸裂した。
血に染まったリングに肉体の橋のオブジェが完成した。
カウントを待つ桜井はハッと気付いた。
(そうだ、レフェリーなんていないんだった・・・・・・)
「ぐぐ・・・・・馬鹿目が・・・・・この試合はどっちかが駄目になるまで決着がつかないセメントマッチなんだよ!」
ブリッジが解かれると銀次郎は頭を押さえながら立ちあがった。
リング中央で睨みあう仁王立ちのマッチョ2人。
やがて張り手合戦がはじまり、お約束的な展開が復活したことに少しほっとする観客達。
ところが銀次郎はタイツから栓抜きを出すとそれを桜井の額に打ち付けた。
「ぐはっ!!!!」
たまらず蹲る桜井。
「なんて古典的な・・・・・・・」
呆気にとられる観客の田代誠二。
隣でニヤニヤ顔の長谷部。
栓抜き攻撃に身をくねらせのたうちまわる桜井。
懐かしくもこれぞプロレス!ともいえるシーンだった。
しかし銀次郎は古典を愛しつつも革新的なプロレスを探求するパイオニアでもあったのだ。
桜井の敗れたタイツの尻に、なんと栓抜きの柄を突きたてた。
「うぎやーーーっ!!!!!」
悲鳴を上げてリングを転げまわる桜井。
とうとうリング下に転がり落ちた。
そこに待っていたのは絨毯よろしく敷き詰められた有刺鉄線ボード。
桜井は再び棘地獄に自ら堕ちてしまったのだ。
うつ伏せに落ちたためにバラ線の棘が胸、腹、そして男根に突き刺さる。
呻きながら棘のために思うように身体を起こせない桜井の尻に観客の視線が集中する。
引き締まっていながらはち切れそうなほど豊満なケツが目の前で蠢いている。
しかもタイツの破れ目から括約筋の収縮まで見てとれそうな至近距離だ。
最前列の男性客が貧血でも起こしそうな顔色で股間を押さえている。
「がははは!桜井、墓穴を掘ったな。それともチクチクするのがすきなのかな?」
エプロンサイドで銀次郎が呼吸を整え、気合とともに尻から落ちてきた。
ヒップ・スタンプが桜井を地獄に落とす寸でのところで桜井は棘絨毯から脱出した。
「うげぇっ!!!!!!」
有刺鉄線の上にまともに尻を落とした銀次郎が絶叫する。
急激に棘から身を剥がしたために桜井のタイツの前はさらに破け、陰毛が覗いていた。
ひらりとリングに舞い戻る桜井。
銀次郎を攻撃するには絶好のチャンスにも関わらず、場外でのラフファイトは仕掛けないという正統派レスラーたる流儀を貫いたのだ。
こんな無茶苦茶なデスマッチにおいてもクリーン・ファイトにこだわる桜井の姿に、観客は尊敬を通り越した畏怖の念を抱いた。
サードロープを手掛かりに有刺鉄線から尻を引きはがした銀次郎がようやくリングに戻った。
そしてその手には有刺鉄線バットが握られていた。
ばっとをブンブンと振りまわしながら桜井を追い詰めにかかる銀次郎。
それを優雅にかわす桜井の格好よさに会場中から大歓声の嵐だ。
雑なアクションの隙を突き、桜井のタックルが銀次郎をマットに倒す。
そのままマウント・ポジションで顔面に掌底の雨が降り注ぐ。
やんやの喝采の中、銀次郎がぐったりとしていく。
正義のヒーローが暗黒大魔王を倒す時が来た。
誰もがそう思った。
「あぐわーっ!!!!!!」
桜井が突然絶叫した。
銀次郎が手を伸ばし、桜井のケツの中心に指を突き刺していたのだ。
中指と人差し指、2本の太い指が桜井の肛門をグリグリと抉っている。
「うげっぷ・・・・・・」
桜井は口から泡のようなものを吹き出して後ろに倒れた。
指を突き立てたまま上半身を起こした銀次郎は、傍らに落ちていたバットをもう一方の手でつかんだ。
「ヒーローレスラーさんよ、正義面してたらセメントマッチでは勝てねぜ。」
「く・・・・くそ・・・・・お、俺はまけねえ・・ぐおっ・・・・・があっ・・・・・・」
大股開きで身をくねらせる桜井の股間に、バットの先端を垂直に打ちおろした。
「があっ!!!!!!」
バットの打撃と有刺鉄線の鋭い痛みが、桜井の急所から脳髄へと電流のように駆け抜けた。
「潰してやるぜ!貴様がメジャーに行けなくなっても知ったことじゃねえ!お前はここで終わりだ!」
狂ったように急所に打ちおろされるバットの鉄槌。
ケツが指に捕えられているために脱出もままならない桜井は、バットが金玉を直撃する度に白目を剥いて絶叫した。
「がはははははっ!!!!!バッド・エンドだったな!桜井!悪く思うなよ!」
あまりの凄惨な光景にシーンと静まり返る会場に、銀次郎の高笑いと、桜井の絶叫だけが響き渡っていた・・・・・
雨・・・・・・・
屋外グラウンドを季節外れのゲリラ豪雨が見舞った。
ロープに手錠で繋がれリング下で試合を見守るカムイは、瞬く間にずぶ濡れになった。
(いけない、ここで雨が降ってしまったら、鮫島のエロが強化されてしまう・・・・・)
自分を助けるために、生涯の天敵である鮫島と闘うハメになった藤堂は先ほどから非常に劣勢に追い込まれている。
ただでさえトラウマの元凶となった鮫島が、紫色のショートタイツを履いてきた。
藤堂の心は完全に乱されてしまっている、とカムイには解った。
このうえ雨が降ってはパープル・タイツがより艶めかしくなってしまう。
鮫島のハイキックが藤堂の顔面を的確に捕えた。
スローモーションのようにリングに弧を描いて倒れゆく藤堂の視線は、鮫島のキックの瞬間からゆさゆさと揺れる股間に集中していた。
若く、あまりにも美しくエロい鮫島のカラダに、藤堂は心を奪われてしまっているのだ。
赤いタイツの股間が傍から見ても痛く感じるほどいきり立っている。
(藤堂・・・・・・立ちあがってくれ・・・・・・また鮫島に負けたら・・・・・お前は、お前は・・・・・・・・)
カムイは轟音を響かせる雨の中、祈りにも似た念を藤堂に送り続けていた・・・・・・・・。
つづく
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頑張れ桜井!