「権田さんっ!!」
緒方たちが地下施設のパーキング・エリアにたどり着いた時、権田は救急車に搬入されるところだった。
額からの夥しい流血は固まりかけている。
顔の形が変わるほどの痛々しい姿の権田は完全に意識を失っていた。
小便の匂いが鼻をつく。
権田の黒いショートタイツは自らの失禁でぐっしょりと濡れていた。
薄い生地のタイツは、濡れることによって権田のゴツい男根を一層くっきりと浮き上がらせていた。
「長谷部さん、僕も一緒に病院に行きます。」
新垣が真っ青になりながら救急車に乗り込む。権田の手を握って、祈るような眼差しをその動かない顔に向けている。
THPW指定病院に向けて急発進した救急車を、緒方たちは声もなく見送った。
(権田さん・・・・・!!)
今夜は何度、イったのだろう・・・・
僕は送りのリムジンを目指して、文字通り空っぽになった体を引きずっていた。
緒方の試合でもう満足って感じだったのに、権田の悲惨な負けっぷりは凄すぎだよ。
ションベン漏らしちゃうチャンピオンって・・・・
ああ・・また勃ってきた・・・もうチンポが痛いよ・・・・
メガ・バズーカ黒杭は強ぇな~。次はやっぱ緒方とやるのかな?
僕がようやく自分に指定されたリムジンにたどり着くと、そこに立っていたブラック・スーツ姿の男に声をかけられた。
「田代さん。次回ご来場の際にはメイン・イベントに新趣向が取り入れられますので、あらかじめご了承いただけますようお願いします。」
「新趣向・・・?」
男が手渡した大きめのカードのような紙に目をやると
『ブラック・パイル維新軍vsTHPW正規軍』
と書かれているのが見えた。
「こちらの試合で、勝利するチームと、勝敗を決める選手を予想していただきます。一口1万円からとなっております。参加拒否は受け付けておりません。」
「えっ・・・!」
いちまんえんって、僕は普通のサラリーマンだよ。ここの会費だってやっと捻出しているのに、これ以上の出費はイタすぎる。
「あの・・」
「必ずご来場いただきます。来ていただけない場合は、田代様の社会生活は保証しかねます。」
な、なんだこれは。脅迫なのか!?
突然の脅しに、口をパクパクさせることしかできない僕に、威圧感たっぷりの一礼をすると、黒服の男はスタスタと去っていった。
スラックスの下の、ザーメンまみれの競パンが急に冷たく感じられた。
「これは・・・・・!?」
長谷部が入手してきた、編集前の権田と黒杭の試合のビデオを見て、緒方たちは言葉を失っていた。
深夜になり、病院の新垣から連絡があり、権田の意識はまだ戻らないということだった。
モニターには、急所にコブラクローをカマされ絶叫する権田が写っている。
メガ・バズーカ黒杭はふてぶてしい程の涼しい笑顔で、悶絶する権田の姿を見て、明らかに楽しんでいた。
権田の黒いタイツ越しに、金玉の変形が確認できる。
権田が白目を向き、失神すると思われた直前、黒杭はコブラ・クローの手を離した。
「真性のサディストだな、こいつは・・・」
長谷部が眉間に皺を寄せてモニターを見つめている。
メガ・バズーカがコーナーに向き合うように追い詰められた権田のケツに地獄突きを打ち込んでいる。
的確にアナルを捉えた太い指は、タイツを巻き込んで何センチかは確実にケツの穴をエグっていた。
タイツがケツの割れ目にあらかた飲み込まれ、ほぼ褌状態になったところで、黒杭は権田の髪を掴み、そのまま後頭部からマットに叩きつけた。
大の字に倒れる権田の股間はタイツを突き破らんばかりに怒張している。
その股間に黒杭がニードロップを叩き込むと、権田の口から「ぶしゅーーっ!」と音を立てて涎が吹き出した。
「あの権田さんが・・・ヤラレまくっている・・・・」
強い権田を知っている朝倉と大岩が、信じられないという表情で首を振る。
黒杭がいよいよチェーンを取り出した。
チェーンを拳に巻くと、権田の全身をメッタ打ちにし始めた。
パンチを喰らうたびに権田の体は宙に浮き、マットに這いつくばった。
しかし権田はその度に立ち上がった。
全身迷彩服の屈強な敵に、倒されても倒されても立ち上がる、黒タイツ一枚のレスラー。
緒方の目から、いつしか涙が溢れていた。
「権田さん・・・・もう・・・もう充分だ・・・」
額にヒットしたパンチで、流血する権田。
その目はもはや正常に焦点を結んでいない。
リングに這い蹲るTバック状態のケツが、悲劇のヒーローの最期を予感させる。
黒杭は権田をチェーンにまたがる形にすると、そのままトップロープ越しにリング下に放り投げた。
「うがーーーーっ!!!!」
権田の悲鳴がスピーカーから響く。
チェーンによって、急所を強打した権田の口からは泡が吹き出している。
黒杭はチェーンの端をトップロープに結びつけ、ロープごとゆさゆさと揺さぶった。
チェーンが権田の金玉を圧迫し、ケツの割れ目にギリギリと食い込んだ。
またしても権田が意識を失う前に、黒杭はチェーンを離した。
リング下に大の字に倒れる権田。
黒杭は半死半生の権田に、コーナートップからあろうことか急所めがけてダイビングヘッドバットだ。
ピクリとも動かない権田。
黒杭は相変わらず涼しい笑顔で権田の首にチェーンを巻きつけ、もう一方の端を権田のショートタイツのサイドをくぐらせると、自分はリング上に戻り、チェーンを引き上げた。
緒方たちが前に見た、死刑執行のシーンが再現されている。
チェーンに吊るされた権田はぐったりとして明らかに失神していた。
そして黒いタイツの盛り上がりの先端から、湧水のように小便が吹き出している。
タイツの片側のサイドはチェーンによって釣り上げられ、濡れたタイツの股間を一層強調させている。
王者の、あまりに残酷な敗北を再び目にした緒方たちは、映像が終わって砂嵐を映しているモニターにもしばらく気づかずにいた。
悪夢のような夜が明け、翌日はめまぐるしいほどの急展開が緒方たちを待っていた。
まず、朝一番で不破が黒杭の組員たちに引っ張られてやってきた。
控え室でそのまま雑魚寝で朝を迎えた緒方たちに、不破は涙を流して土下座をした。
「すみません・・・俺なんかのために・・・・」
深夜に行われた、鷲号会長と黒杭組長の会談で、不破と佐田のいわゆるトレードが成立したのだった。
佐田はTHPWの支配人を解雇。後任に長谷部が就くことが、その後やってきた鷲号会長の秘書から伝えられた。
昼前に新垣から連絡が入り、ようやく権田が意識を取り戻したということだった。
依然、面会謝絶状態ではあるものの、緒方たちはひとまずほっと胸を撫で下ろした。
そして夕方になり、新支配人となった長谷部から、次のカードが告げられた。
「エンペラー権田の再起の目処が立たない今、THPWは事実上チャンピオン不在となるわけだ。」
昨日の試合はタイトル・マッチではなかったので、王座の移動は無いのだが、権田があのような敗北を喫した以上、ブラック・パイルからなんらかのアクションがあることは緒方たちも覚悟していた。
「バズーカ緒方VSメガ・バズーカ黒杭という試合で、新チャンピオンを決めようということになった。」
長谷部は厳しい顔で緒方を見つめた。
「チャンピオンが所属する組織が、この地下施設の実権を握ることとなる。」
(いよいよ黒杭が牙を剥いてきたか・・・・)
緒方も真剣な表情で、長谷部の言葉を受け止める。
「どうやら黒杭組は、ここの会員のVIPたちに圧力をかけ始めているらしい。奴らに会員情報が握られてしまう前に歯止めをかけないと、大げさではなく、国家の危機なのだ。」
国家の危機・・・・
自分に課せられた使命の重さに、緒方の股間が熱くなる。
「俺は必ず勝つ!この雄どものパラダイスを奴らに渡しはしない!」
長谷部が緒方の目を真っ直ぐ見つめて頷く。
朝倉と大岩も同様に緒方の両脇で闘志をあらわにしている。
「タイトルマッチの前に、前哨戦のような形で、対抗戦が組まれることになった。」
「対抗戦?」
「ブラック・パイル軍はメガ・バズーカ黒杭、暗黒仮面、スコーピオン桐谷の3人。」
「桐谷?あいつまだいたのか?」
「そしてTHPW正規軍として、緒方、朝倉、大岩の3人だ。」
「よっしゃー!」
大岩が声を上げて、控え室のロッカーに走っていく。
「やっと俺の出番が来たぜ!こんな時のために用意しておいて良かったー!」
大岩が出してきたのは、スカイ・ブルーのショートタイツ3着だった。
「せっかくだからお揃いのタイツで試合に出ましょうよ!」
「大岩、いつの間にこんなもん作ってたんだ?」
「へへ・・。あ、ごめん。お前の分はまだ無いんだ・・・・」
大岩が不破を気遣う。
「い、いや俺は大丈夫だから・・・」
「早速、履いてみるか?」
朝倉が早くも服を脱ぎ始める。
「よし!」
緒方と大岩もあっという間に素っ裸になり、たちまち青パンツ一枚の男たちが出来上がった。
「青パンもなかなかいいな。」
「似合うか?」
先程までの緊張感漂う雰囲気は何処へやら、男たちは少年のようにはしゃぎ始めた。
「じゃあ、ジャンケンで敗けたヤツが勝った二人からチンポを揉まれて、先に勃ったら負けってルールでどうですか?」
「受けてたとう!」
「最初はグー、ジャンケンポン!」
「かーっ!負けちまったよ。お、ヤバいよ、あ、ああ、・・・」
「緒方さん、感じやすすぎ!」
長谷部は半分呆れながらも、騒ぎ続ける男たちを頼もしそうに見つめていた。
打倒黒杭!この一念が3人の心をさらに強固に団結させた。
連日の激しいトレーニング。
3人は身も心も、最高潮に仕上がりつつあった。
ドンドン!
ある夜、宿舎で休む緒方と朝倉の部屋のドアが荒々しく叩かれた。
「なんだ・・・こんな時間に・・・」
ジョック・ストラップ姿の朝倉がドアを開けると、そこには簀巻きにされた大岩が放り出されていた。
「大岩っ!!!!」
地下施設の闇が、3人を飲み込もうとしていた。
つづく