「桜井が行方不明!?」
家業の酒屋で荷降ろし中だった銀次郎は、軽トラックの荷台から飛び降り、肩と首で挟んでいたガラケーを持ちなおした。
「どういうことだよ!?真日の試合は大晦日だろ?」
12月31日に紅白にぶつけて行われる真日の、いやプロレス界の大イベントで、桜井勇治は華々しくメジャー・デビューを飾ることになっている。
先日、古巣の猛者同盟の卒業試合も終え、今頃は晴れの舞台に向けて鋭意調整中、といったところだとばかり思っていたのだが・・・・
電話をくれた居酒屋メンズ・バトルのマスター、ブッちゃんによると、桜井はあの卒業試合後から、真日本プロレスに姿を見せないばかりか全くの音信不通状態なのだという。
業を煮やした真日側が、ブッっちゃんに問い合わせてきたというのだが、
「まあウチは真日から移籍料とかもらってるワケでもないから、知らんよって言っといたけどね。」
しかしブッちゃんも桜井の行方は大いに気になるようで、年末の稼ぎ時で大忙しの銀次郎に連絡してきたのだ。
(桜井・・・・・・)
プロレスを単なる格闘技とも興業とも違う世界として捉えてしまった男。
銀次郎自身もそうなのだが、プロレスに欲情してしまう体質?性癖?の持ち主である桜井が、メジャー進出に不安を感じていたことは銀次郎も知っていた。
(まだ吹っ切れていなかったのか・・・?桜井・・・?)
卒業試合で桜井のタイツを引き千切り、客の前で射精させ、猛者同盟での桜井を完全に葬り去ったと銀次郎は感じていた。
それは銀次郎なりの、大きな舞台に羽ばたく桜井を後悔なく送るための儀式、プロレスへの妖しい想いを封印するための毒抜きだった。
だが、桜井の〝毒〟は完全に抜けていなかったのか?
(お前の道はそっち側に伸びていたんだな・・・・・)
銀次郎には、桜井が姿を消した理由が解る気がした。
そして、もう二度と戻ってこないことも何故かはっきり確信していた。
電話を切り無言で酒店の裏手の倉庫に向かう銀次郎。
倉庫のシャッターを開け、中に入ると再びシャッターを下ろす。
奥にある冷蔵庫からビニール袋を取り出し、中に入っていた青い布を両手に持つと顔に近付けた。
それは、あの日桜井から毟り取ったショートタイツだった。
冷蔵庫に保管されていたとは言え、布に染みついた数週間前の体液や血液はカピカピに乾き、変色し、もはや饐えた臭いを放つのみだ。
銀次郎はショートタイツに顔をうずめると深く呼吸した。
「桜井・・・・・桜井・・・・・・・」
銀次郎は泣いていた。
精子と血が染みついた青い生地に、新たな分泌液が染み込んでいった。
ショートタイツの残骸に顔をうずめて涙する屈強な男は、ツナギのジッパーをおろし自らの怒張した男根を握りしめ擦り続けた。
「それで、鮫島は納得したんですか?」
代々木の竜崎邸の大広間、会議室のような巨大な机の上座にでんと構える竜崎老人に向井卓は尋ねた。
「納得するも何も、決まったことなのじゃ。この大きな流れには誰も逆らえまい。」
長い長い机の向こう側にいる向井は今日は警察官の制服を着ている。
少なくとも竜崎からはそう見えた。
しかし机の下に隠れている下半身は、警察公認印のネイビーのショートタイツ姿だった。
警察上層部にはプロレスにどっぷりと浸かってしまっているキャリアが少なくない。
そのほとんどが地下プロレスの会員であり、いつしか警察組織内部でレスラーを育てようという極秘の動きができていた。
ただ、地下プロレスのレスラーというのはただレスリングができるだけでは資質不足だ。
プロレスによって雄の本能を輝かせることができる男が求められた。
そうして試行錯誤の末、〝完成〟したのがこの向井卓である。
向井はその特殊任務?に就くことで、階級は実は警視にまで上り詰めていた。
その任務の実態は、地下プロレスに警察代表として出場するために日夜鍛錬に励む、ということのみだった。
向井はトレーニング時のみならず、日常生活もショートタイツで過ごした。
地下レスラーとしての感性を養うためだった。
竜崎のもとへ警察官僚から正式に向井の地下デビューの要請が為された。
そしてとうとう、念願の地下リングに立つ日が決まった矢先、地下団体の首領、竜崎が自身の団体を別の地下団体と合併させると発表したのだった。
「俺のデビューはそっちのリングで、ってことになるんですね。」
準備万端、いつでも来いといった気迫のこもる目で、向井が聞く。
「そうじゃ。そしてそれは警察組織の威信をかけた闘いにもなる。おぬしには重荷を背負わすことになるが。」
「いいえ団長、極道と闘って、しかも連中を犯せるなんて、私にとっては願ったりかなったりですよ。」
向井は立ちあがり、勃起した男根がタイツ越しに光沢を放つ姿を竜崎に見せた。
「ふぉっふぉっ・・・元気がいいのう。頼もしいかぎりじゃ。だが油断は禁物じゃ。黒杭組を侮ってはいかん。」
「黒杭・・・・・・・」
向井は、この日本において闇という闇を牛耳る大暗黒組織の名を改めて胸に刻んだ。
「おぬしも知っているとおり、THPWはいまや黒杭組に乗っ取られている。そこの会員にはこの国の権力者が多数おる。権力者のプロレスに欲情する性癖を握り、黒杭は国家権力まで手に入れようとしているのじゃ。」
「恐喝・・・・ですか?」
「いまのところ直接的に恐喝された者はおらん。しかしそこが不気味でな。実際黒杭が動かなくても権力の方で暗黒組織に遠慮する空気が出来上がってしまっている。このままでは日本は極道の手に落ちてしまう。」
「暗黒組織に乗っ取られたTHPWに竜崎団長が乗り込んで、日本を救うわけですね。」
「日本を救う・・・・か・・・・。ふぉっふぉっふぉっ、実はワシはそんなことはどうでもいいのじゃ。」
「え・・・・?」
「ワシは昔、THPWのレスラーだったのじゃ。」
「存じ上げています。伝説の地下レスラー、ライディーン竜崎。」
「鍛えあげた肉体を敵の攻撃に晒し、痛めつけられる男の美しさ・エロさを極限まで追求し、最期には敵を打ち負かし犯す、という地下ヒーローの黄金パターンはワシが確立したと言っても過言ではない。おや、ワシとしたことが、くだらん自慢話になってしまったわい。」
「いいえ、おっしゃる通りだと思います。ですが、そんなライディーン竜崎がなぜ、〝殉職〟したということになっているのですか?現に団長はこうして生きてらっしゃる。」
「それはな・・・・・」
竜崎は静かに目を閉じ、封印していた記憶の彼方に想いを巡らせた。
(それは、想い人に想いが届かなかったからじゃ・・・・)
竜崎が地下レスラーとして、男としてもっとも脂の乗っていたあの頃。
地下組織のマネージャーとしてきびきびと采配を振るう若き美青年に、竜崎は密かな想いを抱いていた。
(ワシゴウ・・・・・)
しかし竜崎の想いは鷲号には届かなかった。
彼の心は別の男に完全に囚われていた。
よりにもよって〝あの男〟に・・・・・・・・
絶望した竜崎はある試合で何十発も射精をし、〝殉職〟という形を偽装しリングを去った。
THPW側が、会員を納得させるための苦肉の策でもあったのだ。
THPWと袂を分かった竜崎は、自身で別の地下組織を立ち上げた。
鷲号はTHPWの会長になった。
日本の2大地下プロレス組織はこれまで交流を持つことがなく、竜崎と鷲号が会うこともなかった。
そんな鷲号が、先日突然電話をしてきた。
今は地下施設に幽閉されているという鷲号。
電話を一本かけるだけでも大変な危険を冒してのことに違いない。
「あなたの力が必要なのです・・・・・」
あの日、自分を袖にした男が助けを求めている・・・・・
竜崎は閉じていた目を静かに開いた。
「まあその話はおいおい、な。」
向井は重大な告白を聞きそびれて落胆したが、それは仕方がないか、とすぐに納得した。
「で、この間おぬしを藤堂の救出に向かわせたのも、もちろんそれがらみなのじゃ。」
「団長、正直に申し上げてあの男が戦力になるとは思えません。ひどいありさまでしたよ、あいつ。」
「ふむ、確かに今のままではただの発情筋肉じゃな。」
「でも、団長には何かお考えがあるのでしょう。私はそれを信じています。」
「さしあたってヤツをラーのところに送っておいた。鮫島に随分痛めつけられたようじゃからな。怪我をまず治さんと。」
「げっ!・・・・・し、失礼しました。あのラー医師のところに?逆効果なのでは?」
「いやいや、少々荒療治が必要なのじゃ、藤堂には・・・・・・」
竜崎の笑みは怪老人のそれになっていた。
「うっ・・・・・・・・!?」
意識を取り戻した藤堂は、自分が拘束されていることを悟った。
自由に動くのは首から上だけ。
その頭部を動かして見ると、レスリング場のようなマット敷きの部屋に大の字に手足を拘束されていることが解る。
全身裸だ。
ただ、黒いショートタイツを履かされている。
この形、感触、これはパセリ製のタイツだ。おそらく自分のものだ。
一体、誰がこんなものを履かせて、俺をこんな状態にしているんだ・・・・!?
「あー、目が覚めたねー。じゃ、さっそく治療を始めようかー。」
声とともに白衣の男が現れた。
上背のある、ガッチリとした体つきで、歳は30歳前後といったところか。
童顔にもじゃもじゃヘアーが妙に似合っているような、逆にバランスを欠いているような・・・・・
どこか奇妙な白衣男が呑気な口調で話し続ける。
「あー、心配はいらないよー。君は竜崎さんのはからいでここに運ばれてきたんだよー。ここはこれでも病院。プロレスラー専門の病院なんだよー。僕はラー。みんなラー先生とかドクター・ラーって呼ぶよー。」
(竜崎のじいさんが?・・・・・そうか俺は警察野郎に助けられて、あいつはじいさんがよこした奴で、それで・・・・)
まだ混乱が続いていて口をパクパクさせるだけの藤堂に、ラーが説明を続ける。
「まー後で竜崎さんが教えてくれると思うけどー、君は選抜メンバーなんだな。だからここできっちり治療して復帰してもらわなきゃならないんだよー。」
「あ、え・・・と・・・・、ラ、ラー先生、選抜メンバーって、い、一体なんの・・・・・うごっ!!!!」
やっと声を出せた藤堂の腹ににいきなりラーのエルボードロップが落とされた。
「が・・・・な、なにをしやが・・・・うげっ!!!!!」
今度は喉元に地獄突きだ。
顔を真っ赤にして咳込む藤堂を無表情で見下ろすラー。
「これは治療だよー。メンタル・ケアってやつ。」
大の字拘束の藤堂の視界いっぱいと思えるほど巨大なモニター画面が天井から下りてきた。
そこに再生された映像とは、またしても地下プロレス時代の鮫島vs藤堂の一戦だった。
「君はー、トラウマを克服できないとんでもなくダメダメな男なんだよー。でも大丈夫。僕が治してあげるからー。」
「や、やめろ・・・・やめてくれ・・・・」
鮫島との再戦でトラウマ克服どころか、さらに傷を深くした藤堂にとって、あの試合を見せられるのは拷問だった。
「やめろってー、君、勃起してるじゃんー。」
ラーが黒タイツの上から藤堂の股間を撫でる。
と、次の瞬間思いのほか強い握力で睾丸を握られる。
「ぎゃーっ!!!!!」
たまらず悲鳴をあげる藤堂。
「いい声だねー。じゃ、僕を鮫島だと思ってさらに鳴いてみてー。」
ラーが白衣を脱ぎ棄てた。
もじゃもじゃ頭の童顔の下は、そこそこ筋肉質だが中年にさしかかる男特有のエロいだぶつきが見え始めた、成熟した男の体だった。意外に毛深い。
なんと、ショッキング・ピンクのショートタイツを履いている。
「僕はプロレスラー専門の医者だからー、プロレス技にもくわしいんだよー。」
藤堂に馬乗りになったラーは、クロスした両手を藤堂の首に押しつけた。
「落とすよー。落ちたら水かけて起こすからー。そしてまた落とすからねー。」
頸動脈をしっかり圧迫するところは、さすが医者ならではか、藤堂の意識が遠くなり始める。
完全に落ちる寸前、ラーが手を離した。
「おっとー、まだ説明がおわってなかったねー。君はビデオをみながら、僕に痛めつけられてー、そいで犯されるんだよー。
これは治療だからねー。でも僕は鮫島君のような立派なチンポじゃないからこれを使うよー。」
ラーが手にしているのは極太のディルドだった。
「これでも鮫島君のよりは小さいかなー。まー我慢してよー。イメトレ、イメトレー。」
再び藤堂の頸動脈に圧力が加えられた。
画面にはまさに鮫島に落とされんとする自分の苦悶の姿が映っていた。
タイツの中で男根がビクンビクンと脈打ち、亀頭が極薄の生地に擦れる。
「ああっ・・・・・!」
切ない声をあげ、藤堂は白濁した世界へと落ちて行った・・・・・
「どこに向かっているんですか・・・・?」
桜井勇治が後部座席から声をかける。
えらく年季の入ったハイエースのハンドルを握るのは、卒業試合を見に来ていた謎の男、長谷部だった。
「・・・・・山奥だ。山の奥の奥にある特訓場だ。」
あまりに情報量が少ないその返答に、桜井はさらに問いかけようと口を開きかけたが、結局それ以上なにも聞かなかった。
(聞いてどうなる。俺の人生をこの男に委ねると決めたのは自分だ。もう疑念を持つのはよそう。)
車内には再び沈黙が訪れ、ハイエースが山道をガタガタと登っていく音だけが響いていた。
手持無沙汰を感じた桜井は、知らず知らずのうちに自らの睾丸をズボンの上から揉んでいた。
金玉に心地よい刺激が加えられることで、体全体が熱を帯びてくる気がする。
活性化された脳細胞は、現在の自分がなぜ〝山奥〟に向かっているのか、その理由となった成り行きを反芻し始めた。
銀次郎とのデスマッチで、文字通り精も根も、いや性も魂も尽き果てた状態となった桜井は控室の長椅子に横たえられていた。
周りでは、猛者同盟のレスラー仲間や有志のスタッフたちが忙しそうに立ち回っているのを意識の隅で感じていた。
観客の前でショートタイツを破り取られた時の最高にヘヴンな気分は凄まじかった。
その余韻で身体中がまだ痺れているようだ。
いや、実際相当ダメージを負ってもいるのだろう。
あちこちがズキズキと痛む。
だが、あの快感の余韻の中では痛みさえも心地よい気がする。
(俺の『プロレス人生』はあれが頂なんだろうな・・・・・)
最高の体験をしたのに、心は寂しさを感じている。
(もう二度と、あんな快感は味わえない・・・・)
ほぼ全裸で、死んだようにぐったりとしている桜井の頬に涙が伝った。
「オマエはもっと輝ける。輝ける世界がある。」
突然声がした。
目を開けようとするが、瞼を動かすこともままならない。
「オマエ自身のリアル・ワールドを見たくないか?」
身体に残る全ての力を使ったような苦労の末、桜井の目が半開きになった。
涙で滲むぼやけた視界に、男の顔が映っていた。
「地下プロレスに来い。オマエの居場所はそこにしかない。」
これは天啓なのか・・・・
俺にはまだ進むべき道が残っているというのか・・・・・
御宣託の主は長谷部だった。
翌日、再び現れた長谷部は自身が関係する地下プロレス組織について語った。
雄の本能をさらけ出す場所、プロレスの究極を突き詰める場所、それが地下プロレスだ。
だが、彼の所属する組織は悪の力によって崇高な理念から完全に乖離してしまった。
今、新たな戦士たちとともに、悪の手から地下プロレスを取り戻す計画が進行している。
「オマエにもその戦士になってほしいんだ。」
長谷部はそう言った。
桜井は頷いた。
それが契約となり、桜井は山に向かっている。
いつの間にか車窓から積もった雪がちらほら見え始めた。
雪は山に分け入るほど量を増し、ついに車が止まった時、そこは完全な雪景色の中だった。
「ここからは歩きだ。」
長谷部が言う。
桜井は無言でハイエースから降りると、リュックザックを肩に担いだ。
「着替えてから行け。」
再び長谷部の声。
「着替え・・・・?」
一体何に着替えろと言うのか。
「ここからは神聖な雄の世界だ。レスラーは試合のコスチュームで進むしきたりだ。」
「・・・・・・・・・・」
思わず絶句する桜井。
試合のコスチューム?
俺はショートタイツ一枚で闘うレスラーだ。この雪の中をそんな恰好で?
だが、桜井は一言も返さず、リュックからタイツとリングシューズを出し、黙々と着替え始めた。
青いショートタイツはパセリ製だ。
銀次郎に一枚破り取られたが、予備があった。
準備が整うと、長谷部は黙ってけもの道に入って行った。
極寒の中、タイツ一枚の桜井が後に続く。
ケツに食い込むタイツがキリキリと引き締まっていたのは寒さのせいだけではなかった・・・・・
暮れも押し迫った日曜日、田代誠二はあるインディー団体の試合観戦に来ていた。
この日を最後に、しばらく地上のインディー・プロレスを見ることはないだろうな、と誠二は思っていた。
それは、誠二が会員登録している地下プロレスの団体で新たな動きがあるからなのだ。
そのことを、誠二は付き合っている地下レスラーから聞いた。
極道たちとの最終プロレス決戦。
自分はそこに単なる観客以上の関わりを持つのだろう。
漠然とだが、誠二にはそんな予感があるのだった。
目の前のリングの上では、レスラー達が実に活き活きとプロレスを〝楽しんで〟いる。
そう、プロレスはレスラー自身が楽しむ場なのだ。
観客である自分たちは、レスラーが発散する生命力の恩恵を求めて集うのだ。
雄の生命力に惹かれて。
今日、日本には多種多様なインディー・プロレス団体が乱立している。
その中にはメジャーと比べても引けを取らない規模のものもあるが、多くは細々と同好会のようなノリで営まれている。
生業としてのプロレスでなければ、それはもはや〝プロ〟ではないのだが、『プロレス』という固有名詞の文化に惹かれ、〝疑似プロレス〟に身体を張る男たちは、プロレスで生活の糧を得ないまでも、〝生きる糧〟を確かにそこから得ているのだ。
フラッシュ藤堂と、桜井勇治という二人のインディー・レスラーの今後の進む道のことを長谷部から聞いた誠二は思う。
この、決して楽ではない兼業レスラーを続けている男たちは、皆どこかで藤堂や桜井に通ずる感性を持っているのではないだろうか。
裸の男と男が四角いリングで闘い、それを見世物にするプロレスというもの。
考えてみればプロレスは見る者がいないと成立しない。
レスラーは闘う自分を見られたがっている。
見られて闘志を燃やし、時には闘志ではない別の欲望を発散しているのだろう。
ならば観客もプロレスの立派な構成要素なのだ。
折しも、リング上では黒いショートタイツのレスラーがロングタイツの巨漢に踏みつけられ苦しんでいた。
その苦悶の表情に、ある特権的な悦びを見た気がした誠二は、微笑んで会場を後にした。
インディー裏街道 -完ー
読んで下さった皆様、駄文に付き合っていただき感謝します。
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こうして話はつながっていたんですね〜。
終わりでありながら続きがとても気になります。
桜井君は本当にキンタマが好きですね笑