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インディー裏街道⑫

11月某日、府中の居酒屋メンズ・バトルには、桜井勇治の猛者同盟゛卒業〟試合の予約限定チケットを購入した客が押し寄せていた。
客の9割以上が男である。
猛者同盟のこれまでの興行が、男心の何かに訴えてきていたのだな、と居酒屋店主ブッちゃんは感慨に浸っていた。
もともとプロレス狂いだったブッちゃんが、営業そっちのけで夜通し常連たちとプロレス談義をしていたのは何年前だろう。
そのうち無駄に広かった店の奥にリングが設置され、最初は常連たちがごっこ的なプロレスを楽しむ場であったのが、いつの間にか本格的なプロレス興行をするようになった。
桜井や酒屋の銀次郎が入団する頃には、猛者同盟のカラーのようなものが確固たるものになってきた気がする。
「男の情念を表現するプロレス」
言葉にするとそんなとこだろうか。
桜井のような所謂イケメンの部類に入るレスラーがいるのに、オンナコドモの黄色い声援が飛び交うような団体にはならなかった。
ここが古びた居酒屋だからということもあるかもしれない。
パイプ椅子を並べただけの客席で、目を輝かせてリングを見つめる男たちを眺めながら、ブッちゃんは(ありがとう・・・)と心の中で何度も呟いていた。
「やっぱり来ているな・・・・。」
背後の声に振り向くと銀次郎が立っていた。
「おいおい、メインのレスラーが軽々しく出てこないでくれよな。ありがたみが薄れるだろ。」
「わかったって。すぐ引っ込むよ。だけどほら、あのオヤジ、ハセベとか言ったかな。あれ、カタギの眼じゃないと思わないか?」
ブッちゃんは銀次郎が顎で指す方を見た。
地味な作業服のような格好の中年の男が隣の若い男と言葉を交わしている。
「そうか?ちょっと目つきが鋭いような気はするけど・・・・。あんまり見ない顔だな。こんなマニアックな催しに来る感じでもないけど・・・・・」
「まあ、いいや・・・・」
銀次郎はファンに気付かれる前に店の裏に姿を消した。


「長谷部さん、体調悪く見えるんですけど、大丈夫ですか?」
田代誠二は顔色の悪い中年男を気遣って声をかけた。
「あ、ああ・・・。ちょっと疲れているだけだ。この年で清掃員を始めるのは結構こたえるんだ。なにせあそこの地下施設は広いから・・・・」
「そうです・・・よね・・・・・。」
突然のクーデターとも言える組織の大変革で、慣れない仕事をすることになった長谷部の境遇に思いを馳せ、誠二は気まずさを感じるとともに、自分の大切な男の身を案じていた。
(瞬・・・・瞬もつらい思いをじっと耐えているのだろうか・・・・・)
自分と会う時にはいつも明るい笑顔を絶やさない男。
だが、あれは努めて明るく振る舞っているのではなかろうか。
俺のために・・・・・
「おっ、なんだか特別な趣向があるらしいいな。」
長谷部の声に、涙ぐみそうになっていた誠二は我に返ってリングを見た。
有刺鉄線ボードが何枚もリングに運ばれていく。
コーナー、リング下・・・・
目の前のリングは有刺鉄線のジャングルへと様相を変えていった・・・・・





藤堂が意識を取り戻すと、リング中央に置かれた大画面のモニターが正面に見えた。
自分の身体はロープにチェーンで両腕、両足を大の字に固定されている。
「やっと目を覚ましたな。」
首だけを動かして後方に目をやると竜崎がエプロンサイドに立っていた。
なんと、上半身裸である。
老人とは思えない張りのある筋肉。
下半身に目を移して藤堂はギョッとした。
竜崎はショート・タイツのような緑色のパンツを履いていた。
明らかに勃起していると解る股間の膨らみが、薄そうな生地に不気味な照りを与えている。
「な・・・なんの真似だ・・・・」
思わず声が震える藤堂。
老人が自分を陵辱しようとしているのは間違いない。
竜崎は背後から藤堂の大胸筋に手を這わせてきた。
「そう心配するな。鮫島には会わせてやる。今日はワシも色々あってな。ちょっと若い頃を思い出したのじゃ。それで引き出しの奥からこんなものを引っ張り出して身に着けてみたのじゃ・・・・。」
「それは・・・ショート・タイツ・・・・・?」
「そうじゃ。実はな、ワシは昔プロレスラーだったのじゃ。地下のな・・・・・。」
「・・・・・・!?」
藤堂は驚きながらも、妙に納得していた。
年齢を感じさせない強靭な肉体、旺盛な精力。
元地下プロレスラーというのなら頷ける。
「まあワシの過去のことなどどうでもよいわい。ワシも時間があまりないのでな。ひとまずおぬしを掘らせてもらうぞ。」
「く・・・・!」
「ワシばかりが楽しむのもなんじゃから、おぬしにもとっておきのビデオを用意した。」
竜崎がリモコンをモニターにかざすと、そこには・・・・・・
「な・・・・!こ、これは・・・・・!?」
黒いショートタイツの藤堂が顔面血まみれで白いボックスパンツの鮫島に蹴られまくっている。
「そう、あの時の試合じゃ。」
鮫島の若い筋肉が、藤堂の完成された肉体を弄ぶかのように蹂躙していく。
リングに這いつくばりながらも必死に立ち上がろうとする藤堂。
残虐なスカッシュ・マッチと化したリング上の凄惨な光景に、観客がどよめいている。
もしかしたら常勝のチャンピオンが新参者に叩きのめされる姿を見て、自らの股間の熱さを制御できなくなっていたのかもしれない。
「おぬしは正真正銘の地下プロレスラーじゃな。ほれ見よ。王者の象徴、黒タイツが見事に盛り上がっておる。あれだけ痛めつけられても雄の本能が萎えないとは、流石じゃ。」
記憶の底に封印してきた光景が、映像としてまざまざと見せつけられている。
藤堂は軽いパニック状態に陥っていた。
「や、やめろ!!こんなものを見せないでくれ!!!」
「ふぉっふぉっふぉっ、口ではそう言っても眼は画面から離せないようじゃな。ん?ここもカチカチじゃぞ。」
竜崎の手が藤堂の股間に伸びる。 
もともとグレート・タスケのザーメンでカピカピになっていたタイツは、藤堂が鬼神たちに失神させられて射精したために、デロデロになっている。
粘液質に光るオレンジの隆起が、老人の手によって揉みしだかれる。
「んおっ・・・・ぐふ・・・・・」
思わず喘ぎ声を洩らす藤堂。
モニターでは仰向けにダウンする藤堂のタイツを引っ張り、わざとケツに食い込ませて残忍な笑みを浮かべる鮫島、うつろな目でケツをくねらせる血まみれの藤堂が映し出されている。
老人がオレンジタイツのケツを捲った。
「入れるぞ。」
硬く太いモノが藤堂の分厚いケツの肉をメリメリと音を立てるかのように分け入っていった。
「んぐあーーーーーっ!!!!」
藤堂の絶叫がだだっ広い部屋に反響した・・・・・・





「桜井勇治選手の入場です!」
コールとともに桜井の入場テーマ『誰がために』が大音響で流れ出した。
コテコテのアニソンは桜井の熱いプロレスにぴったりだ、とリング上で待ち受ける銀次郎は思う。
~サイボーグ戦士 誰がために闘う~
(桜井、お前は自分のために闘え。せめて今日だけは・・・・・)
今日を最後に猛者同盟を離れ、メジャー団体の桧舞台で闘うことになる桜井。
めでたく誇らしいことであるはずなのに、この虚しい気分はなんだ・・・・?
その理由は桜井自身も銀次郎も解っていた。
(全部この試合にぶつけろ。そして想いを葬り去るんだ。)
銀次郎は対角のコーナーの奥を見つめた。
カーテンの奥から桜井勇治が姿を見せた。
おーっ!!!!!!!!
野太い大歓声が響く。
桜井はカーテンの前で立ち止まり会場を見渡した。
青いリングシューズ、ニーサポーター、そして青いショートタイツ。
パセリ製の際どいカットのタイツを履いて客の前に出るのは初めてだ。
インナーを着けず直に履く薄い生地のタイツは、桜井の男を顕わに盛り上げていた。
リング上の銀次郎と眼が合う。
銀次郎は手に持った有刺鉄線バットを桜井に向けて突き出した。
最後の〝男の闘い〟・・・・・
桜井の股間に熱い血液が集中し、みるみる硬くなっていく男根がタイツの生地を押し上げていく。
おお~・・・・・・・・・・!!!!!
勃起タイツをまったく隠そうともせず、それどころか客に見せつけるように仁王立ちする桜井に、会場中から感嘆のため息が漏れる。
「すげー・・・・・」「男だ・・・・・・」「ごくっ・・・・・」
全身これ〝ザ・男〟と言える桜井の姿に、観客達は完全に息をのんでいた。
嘲笑や揶揄はまったく聞かれなかった。
花道、といっても3メートルほどの通路を、桜井はゆっくりと歩み出した。
割れ目がクッキリと食い込んだケツを堂々と振り歩く桜井の行く手には、有刺鉄線のジャングル、そして地獄の死刑執行人・銀次郎が待ち受けていた・・・・・・


つづく
付録 桜井の入場テーマ



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