「真日本プロレスTJPW」はお台場に自社ビルを構えている。
深夜枠とは言え地上波TVにレギュラー番組を持つ国内最大手のプロレス団体だ。
桜井勇治は、つい今しがた洒落たオフィスでそのTJPWへの入団契約を正式に交わしてきたのだった。
「我々は年末のビッグ・エッグ興行の目玉のひとつと考えているのだ。君のことを。」
笹口社長はそう言って、ゴツイ掌で桜井の両肩を叩いた。
(ついに俺はプロレス界のスターの仲間入りを果たすんだな・・・・・)
幼いころからの夢が今まさに実現しようとしている。
(ビッグ・エッグって・・・・。俺の親父でも言わねえぜ・・・・)
ゆりかもめの車窓からスカイツリーを眺めながら、桜井は苛立つ自分を持て余していた。
TVにも映るかもしれない試合で勃起は晒せない。
メジャーに移ったら、コスチュームをショートタイツから身体の線が出ないズボン系に変えようと考えている。
(ふう・・・・。)
何かが違う。自分が憧れていたプロレスラー像とは。
変なダボダボのパンツを履いた自分が、大観衆の声援を受けリングで闘っている。
その夢想は桜井の心を躍らせない。
(俺はスターなんだぞ。みんな俺の強さに魅了されている。華麗な技に酔いしれている・・・・・)
駄目だ・・・これっぽっちもアドレナリンが分泌されないみたいだ・・・・
桜井の心は、知らぬ間に暗いうらぶれた場末の居酒屋のリングに浮遊する。
誰もいないリングでショートタイツ姿の自分が〝ひとりやられ〟を演じている。
桜井の「自慰行為」は日に日にエスカレートしていた。
パイプ椅子を空中にほおり投げ、落下地点に横たわる。
予測不可能な角度で桜井の身体に激突するパイプ椅子。
それをヒールの反則攻撃と想像しながら痛みを受け止める。
『桜井、椅子攻撃の嵐に苦しんでいます!あーっついに膝から崩れ落ちたーっ!大ピンチだーっ!!』
ひとり実況は最近、声に出ていたりする。
ある時、股間にもろに椅子の足の部分が直撃し、目から火花が散るような衝撃に桜井は失神した。
視界が真っ白にフェード・アウトする瞬間、強烈なエクスタシーが股間に走り、ザーメンがタイツの中に盛大にぶちまけられるのを感じた・・・・・
「まもなく浜松町・・・・・」
車内アナウンスにはっと我にかえる。
見事にテントを張った短パンの前を、リュックで隠しながら桜井はモノレールを降りた。
(次はどんな方法でやろうか・・・・・)
すこしキョドりぎみの厳つい男が、前のめりになりながら人ごみの中に消えていった・・・・・
「今週の土曜、18:00、ZPW、うりうりランドプール、行けますか?」
金属的な声が告げる。
「プール?そんなとこでプロレスやんのか?ま、ZPWだからアリか。」
「ゾンビ・プロレスリング」、ZPWのスタイルを思い出し、藤堂は納得した。
「行ける。」
「海パン・・・・水着を持参するようにということです。」
「海パン?なんで・・・・?」
「・・・・・・・・、興行名〝夏の終わりにプールでプロレス大暴れ〟。情報は以上。」
(夏の終わりって・・・・、10月だぜ・・・・秋じゃん。)
藤堂は内心ため息をつきながら答えた。
「了解。」
いつものように電話はそこで終わるのかと思った。
「藤堂さん・・・・・」
無機質な声がまだ続いている。
電話の主、カムイは藤堂の地下時代からの付き合いだ。
素性は藤堂も知らないが、藤堂が地下を去る時にプロモーターを買って出てくれた。
地下プロレスの会員はほぼ富裕層で占められている。
カムイもそういった金持ちのヒマ人なのだろうと藤堂は推測していた。
だが、今では藤堂のプロレス活動に無くてはならない人間だ。
「藤堂さん、また地下でやる気はありませんか?」
「なっ・・・・・・」
いきなりの言葉に藤堂は二の句が継げないでいた。
「突然すみません。忘れてください。」
「ま、待て・・・・どうしてそんなことを言い出したのか教えてくれ。」
カムイはしばらく黙り、やがてトーンの下がった金属声が聞こえた。
「鮫島が・・・・・」
「えっ・・・・!」
「いえ、何でもありません。忘れてください。」
唐突に電話が切れた。
スマホを耳にあてたまま、藤堂は立ち尽くした。
(また鮫島か・・・・・・)
台風が接近する東京の街に雲がかかり、急に日が翳った。
藤堂には、それが背後に立つ鮫島の影のように感じられ、はっと振り向き誰もいない虚空を見つめ続けた・・・・・
《男を痛めつけてストレス発散したい野郎求む。当方、頑健な体につき少々のことではくたばらず。秘密厳守でやれる男限定。》
《日頃の鬱憤を、暴力で解消しませんか?俺の身体を使ってください。》
品川のネットカフェの個室で、ゴツイ男が背中を丸めて一心不乱にキーボードを叩いている。
無精ひげが浮かぶその表情は、なんの感情も表出していない。
ただ、目だけが爛々と燐光を放っているようにパソコンの画面を反射していた。
東京都下にある「うりうりランド」は普段家族連れやカップルでにぎわう遊園地だが、今日はむさくるしい男たちが大挙して押し寄せていた。
ZPW秋興行「夏の終わりにプールでプロレス大暴れ」目当ての観客たちである。
この団体はプロレスをとにかく楽しもうというコンセプトのもと、試合会場をホールに限定せず、それどころかリングすらもない場所でのゲリラ的な興行が受けている。
工事現場、キャンプ場、商店街などなど、この団体にかかればどんな場所もプロレス・ワンダー・ランドにされてしまう。
今日はプールとは言え、特設リングがあるだけマシだな、と藤堂は思った。
まあリングとは名ばかりで、50メートル大プールの中央にポリウレタンの巨大なボードがワイヤーで固定され、ぷかぷか浮かんでいるだけだったが。
コミック色が強いと思いきや、なかなか玄人っぽい基本のできたプロレス集団で、ファン層は圧倒的に男が多い。
まだ半袖で外出する陽気ではあっても、さすがにプールは寒かろうと藤堂は予想していたが、これまでの試合では海パン姿のレスラーたちが熱気あふれる試合で観客を沸かせ、湯気でも立ち上りそうな勢いだ。
藤堂のテンションも次第に上がってきた。
水着で出ろ、という指定なので藤堂はもちろん競パンを持参した。
90年代に製造されたもので、ネット・オークションで購入した。
学生時代にプールでのトレーニングに使用していたのですっかりクタパンになっていたが、当時よりサイズアップした下半身に丁度いい具合にフィットした。
エメラルド・グリーンのスピード。
股間の当て布は遠の昔に取れてしまい、濡れたら陰毛が透けることは間違いない。
(いやチンポも透けるかな・・・・・?)
Vラインからも毛がはみ出ていたが、藤堂はこれで出ることにした。
プールの中央のリングは観客から充分離れているし、TV中継があるわけでもない。
露出度の高い競パンでのプロレスは藤堂をわくわくさせた。
リング・インは一旦プールに入って中央の浮き島を目指す格好だ。
ウレタン・ボードに両腕の力でぴょんとジャンプして立ち上がった藤堂の姿に、観客達から「お~っ!」というため息にも似た声が上がる。
それはこれでもかというほど「男」を強調した男の姿だった。
筋骨隆々の逞しい身体を覆うものは、小さなエメラルド・グリーンの布のみだ。
その三角形の布の中央は、ある意味哲学的な膨らみをしてそれを見る者の心をざわつかせた。
対戦相手は半沢魚樹(ハンザワウオキ)というレスラーで、実はこれは本名だった。
「ふふ・・・・俺の名は伊達じゃないぜ。故郷の長崎では〝半漁人〟の愛称でプールを荒らしたスイマーさ。」
レーザー・レーサーを着こんだ肩が厳ついガタイは、確かにスイマーだった。
「そんなインチキ水着は認めない。俺にとってスピードとはミズノのスピードのことだ。」
「国産崇拝主義者だね・・・・。さてはTPPにも反対したクチだな。」
「ほざけ、競泳くずれが。せいぜいケツが破れないように用心することだな!」
舌戦を繰り広げた両者が、ついに濡れたウレタン・ボードの上で組み合った。
夜の採石場。
作業員たちはふもとの町に引き上げ、しーんと静まりかえっている。
駐車場に1台だけ止まった車の中で桜井勇治は闇を見つめていた。
すると遠くからエンジン音が聞こえ、やがてライトの光が駐車場を照らした。
何分かの間隔を空け、都合3台の車が山を登って採石場の駐車場に現れた。
腕時計が10時を指した。
それぞれの車から黒い影が降り立つ。
3つの影を認め、桜井もドアを開け車外に出る。
4人は無言で暗闇の中を歩いて行った。
「ここが〝リンチ会場〟だ。」
桜井はそう言って、金網に設置されたスイッチをオンにした。
採石場が照明に明るく照らし出される。
そして黒い影の姿が明らかになった。
キャップを目深に被ったTシャツに迷彩ズボンの固太りの男、ワイシャツにスラックスの神経質そうなメガネ男、高校の制服と思しきブレザーに赤ネクタイの若い男。
そして桜井は青いショート・タイツにニーパッド、リングシューズ、そして頭にはプロレス・マスクという格好だった。
「ひゅ~。オニイサン随分刺激的だな。」「いいガタイ!」「もしかしてプロレスラー?」
「メールでも言ったが、お互いの素性は聞かないルールだ。たとえ俺が怪我を負っても君たちに責任は無い。」
「オッケー。じゃ遠慮なくやらしてもらうぜ。」「ほんとに無料だな?」「体育のゴリ先ムカツクぜ!」
3人が目をぎらつかせて桜井ににじり寄っていった。
桜井の青タイツは早くも先走りで染みが浮き上がっていた・・・・・
半沢はレスリング巧者のスイマーだった。
スイマーくずれと高をくくっていた藤堂は、慣れていない水に囲まれたリングで苦戦していた。
自慢のパワーでアルゼンチンに担ぎあげようとすると、浮島リングがぐらつきバランスを崩す。
その隙にすかさず背後に周った半沢が藤堂の後頭部に至近距離からのラリアットだ。
「おわっ!」
もんどりうって前に倒れる藤堂。
首が狭いウレタンボードからはみ出て水面を見下ろす形になる。
そこに半沢のギロチン・ドロップ。
藤堂の身体は首を中心に回転しながらプールに落下した。
水中では、やはり元スイマーの半沢に分があった。
1.5メートルほどの深さしかないプールだったが、身長180センチの藤堂の頭は30センチ下がっただけで水中に沈み、呼吸ができなくなる。
水中グラウンド・コブラが藤堂の身体をからめ捕る。
「がぼっ!ごぼっ!・・・・」
藤堂の呻きが泡となって水面に浮かんでいく。
「へへっブーメラン・マッチョさんよ、どうだいプール・デスマッチの味は?」
ようやく技から解放された藤堂がウレタンボードの縁につかまり激しく咳込む。
ひょいっと身軽にボードに上がった半沢はそんな藤堂の髪を掴み、リングに引き上げようとする。
「お客さん、楽しんでるーっ?」
おーっ!!!!!
半沢の呼びかけに野太い歓声が上がる。
「もっと楽しませちゃおう。」
上半身がようやくボードに上がった藤堂の競パンを掴む半沢。
「ほーら!ゴリ・マッチョのTバックだーっ!」
エメラルド・グリーンの競パンがふんどし状態になって、藤堂の身体がボードに戻された。
しこたま水を飲んだ藤堂は咳込み続け、競パンの食い込みを直すことすらままならない。
「後ろだけじゃ物足りない?そーか。じゃ、前も!」
半沢は藤堂の腰を後ろから抱えあげると、ウレタンボードをプールの縁と繋いでいるコースロープのワイヤーの真上にそのまま落とした。
「ぐわぁっ!!!!」
藤堂の金玉がワイヤーに付いている浮きに直撃した。
半ば失神しかけながら、再び藤堂は水中に沈んでいった。
口から鼻から塩素臭のする水が入り込んでくる。
(昔はこの臭いで何故か勃起したな・・・・・)
意識が遠のく中、藤堂はそんなことを思い出していた。
髪が掴まれ、凄い力で引き上げられた。
藤堂の肺が忙しく酸素を取り込み始めた。
「沈んだままくたばったら、お客さんに見えないだろ?ブーメラン・マッチョさん。」
リングに上げられた藤堂の姿は、濡れた競パンが乱れた状態で身体に張り付き亀頭の形がわかるほどで、陰毛ははみ出しまくっていた。
「ん~セクシー!それじゃフィニッシュといきますか。」
半沢は藤堂の両足を持ち、「おりゃっ!」とたちまち逆エビ固めを完成させた。
「ぐぅおっ!がは!・・・・・」
咳込む藤堂は、腰の強烈な痛みにもがき苦しみロープを求めるがこのリングにロープは存在しない。
「うぉらっ!ギブか?おら!背骨折るぞこら!」
「うぎゃ!ぐぎ!・・・・」
鯱鉾のように反り返るマッチョ・ボディ。
陰毛が透け、はみ出した股間が晒し物にされ、今にも泡を吹きそうな藤堂。
「ん・・・・?」
半沢は素足に温もりを感じて下を見た。
藤堂が失禁していた。
プールの水を散々飲み、いまや不自然に身体を捻じ曲げられた藤堂の膀胱が耐えきれなくなったのだ。
「はははは!ブーメラン・マッチョさん、お漏らしとは笑わしてくれるぜ。」
もともと濡れた環境での試合で、客からは藤堂の失禁は見えなかった。
半沢は逆エビを解いた。
「折角だからもっと恥辱にまみれてもらっちゃおう。」
仰向けにした藤堂の胸に馬乗りになった半沢。
「ふんっ!」と力むと、レーザーレーサーの股間から液体がにじみ出し、藤堂の顔面にボタボタと降りかかった。
「ははっ!どうだいションベンを顔面にかけられるなんて、なかなかできない経験だろ?」
その時、リキむ半沢のケツで「びりっ」と音がした。
レーザーレーサーが裂けたのだ。
「げっ!」
尻が丸見えとなった半沢は慌てた。
「そのインチキ水着はよく破れるんだよな。」
半沢が藤堂に目を戻すと、先ほどまでの半死半生的な表情と打って変わったニヤケ面があった。
「だから気をつけろって言っただろ。」
「げっ!なんだよお前元気じゃん。」
「俺が競泳くずれなんかに負ける訳ないだろ。たっぷりやられも堪能したし、そろそろ終わりにすっか!」
むっくりと起き上がった藤堂は恐ろしいパワーで、半沢の身体を逆さに持ち上げた。
「あわ・・・・あら・・・・」
「今日は勝ち負け指定がないもんで、悪いな。」
たっぷり滞空時間を取った後、藤堂が叫んだ。
「競泳は競パンを履けーボムッ!!!!」
ドガーン!!!!!
プールの水面が波打つほどの衝撃を伴い、パワーボムが半沢をウレタンボードに叩きつけた。
完全に伸びた〝半漁人〟の胸に片足を乗せ、エメグリ・ビキニの筋肉男が両腕を上げた。
ぅおおーーーーっ!!!!!!
大歓声の中、藤堂は考えていた。
(しかしこの試合、レフェリーも居ないしどうやって決着するつもりだったんだろう?)
「いいものを見つけたよ。」
メガネ男がチェーンをじゃらじゃらさせながら引きずってきた。
「おっいいね!」
迷彩ズボンが肩で息をしながら微笑む。
「プロレスラーさん、まだまだ痛めつけさせてね。」
ブレザーを脱ぎ、ネクタイをゆるめながら高校生が言う。
「もちろん・・・・こんなんじゃ俺も満足できないぜ・・・・・」
マスクの額から血を流し、ブルトーザーのバケットに倒れる青タイツの男は言った・・・・・・
つづく
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このような発想が出てくるのは、管理人さんもひとりプロレスオナニーしてますね?!
自分もハンマーやグレープフルーツ大の石を金玉や腹に落として、のたうちまわってます。もちろん前布をはずした竸パンで。「レフェリー!急所!急所!」とかいいながら金玉押さえて悶絶です。反則攻撃をあれこれ考えるだけでビンビンなるので桜井の気持ちよくわかります。
藤堂の試合にも急所攻撃が出て来て、今回は読み終わったらパンツがグショグショでした。今後の桜井、どんな攻撃で自分を痛めつけるのか楽しみです。ひとりでは限界があるので、ネットで相手探す気持ちもよくわかります。
これからも頑張ってください。楽しみにしてます。