THPWの事務局は、どんよりとした空気に覆われていた。
誰もが苦虫を噛み潰したような表情で俯いている。
精力的に動き回っているのは二人だけ。
負傷したレスラーの手当てに忙しいラー医師と、もうひとりは田代誠二だ。
「と、藤堂さん、お疲れ様でした。
足、大丈夫ですか?
あ、あの・・・・
こんな時になんですけど・・・・
きょ、競パン・・・・
僕の競パン返してもらってもいい・・で・・・すか?」
イ・サンウの水中四の字で痛めつけられた足を、さらにサソリ固めで折られる寸前だった藤堂。
ついには射精までしてしまい、救出された後もずっと無言だった筋肉男が顔を上げた。
「あ?お、おう・・・・
競パン、貸してくれてありがとな・・・・
これ、ちょっと汚しちまってな・・・
洗って返す・・・」
「いいんです!
洗わなくていいんです。
それ、ください。
今脱いで下さい!」
大岩があきれ顔で田代をつつく。
「誠ちゃん、ザーメン競パンが欲しいんだろ?
でも今はちょっとやめときなよ。
藤堂さんも疲れてるんだし。」
「そ、そうだよね・・・・
すみませんでした。藤堂さん。」
「いや、いいんんだ。
でもホントにいいのか?
こんな汚れたやつで。」
藤堂は無理やり穿いていたサイズの小さいアシックスを脱ぎ始めた。
「だいぶ伸びちゃったかもな・・・・」
足を痛めた藤堂は座ったまま競パンをずり下げていく。
皮膚に張り付いている時には透けていたハイドロCDが、本来のピンクを取り戻す。
藤堂の雄汁の臭いと塩素臭がぷーんと立ち込める。
苦労して脱がされた競パンは、藤堂の体温で軽く湯気が出ていた。
「あ、ありがとうございます!」
田代誠二は目をキラキラさせて藤堂の射精競パンをジップロックに入れた。
「変態。」
大岩が睨んでいるが、こればっかりはしょうがない。
「ごめん・・・瞬。
でもこんなお宝をゲットするチャンスを棒に振れないよ。
さて、と。
お次のお宝は・・・・
桜井さんのは破られてグドーが持ってっちゃったし・・・・
權田さんの失禁パンツはさっき回収したし・・・・
そうだ!
あれだ!」
いそいそと立ち去る田代と入れ替わりにラーが現れた。
「まったく・・・・
なんだよーあいつはー。
ボクの手伝いでもしてほしいよー。
でー?
藤堂ちゃん、足どう?」
ラーは先刻応急処置をしておいた藤堂の足の包帯を外しにかかる。
「だいぶ痛みは引いたようだ。
ラー先生のおかげだよ。」
「またまたー、皮肉を言わなくてもいいよー。
それよりもー、藤堂ちゃん、アレでしょー?
出しちゃったのは。」
ラーのいつにない真剣な眼差しに、藤堂も真面目な表情になった。
「うん・・・・そうだ。
アイツが・・・・
鮫島がいたんだ。」
「そっかー・・・・」
ラーがうなだれる。
藤堂とラーは、鮫島によるトラウマを克服するべく特殊な療法に取り組んできた。
今回の藤堂の射精は、それが無駄だったということになるのだろうか。
「いや、先生、治療の成果はあったよ。」
「えっ?」
「確かに俺は鮫島の姿を見てぶっ放しちまった。
でも、それは今までのとは違うんだ。
上手く言えないんだが…・
なんというか、能動的な射精というか、鮫島にやられちまったっていう感じではないんだ。
それに、鮫島があそこに現れたのは、実は俺を助けるためだったような気がするんだ。」
「助けるー・・・?」
サンウに足を折られそうになっている藤堂に、紫のモッコリを見せつけて去っていった鮫島。
あれのどこが助けるための行動だったというのか。
「まー・・・・
ボクにはハッキリ言って解からないけどねー。
でもー、藤堂ちゃんとサメっちの関係性がー、すこし変化したのかもねー。」
ラーは微笑むと包帯を取りかえ始めた。
「ちょっとー!センセイったらー!
もう、こんな時にアタシを呼ばないってどういうことー!」
突如けたたましい声が、重苦しい雰囲気の部屋に入ってきた。
「ゴリ子ーっ!?」
ピッチピチの看護師服を着たバルクマッチョ坊主はラーの後輩だった。
「ゴリとラーはスペクトルマンの時代から一心同体でしょー!」
ゴリ子は風貌とは裏腹に非常に優秀な看護師だった。
実にテキパキと、傷ついたレスラーたちの手当てをこなしていく。
意外な再会があった。
ゴリ子は、山の特訓場のオネエトリオの一人と男子高時代の同級生だったのだ。
桜井の周りにたちまち黄色い会話の花が咲き乱れた。
「やれやれ・・・・」
桜井は雑音に辟易しながらも、部屋の雰囲気が明るくなったことに安堵していた。
そして腫れあがった睾丸をさすりながら、自分の世界に埋没していった。
グドー・・・・
恐るべき奴だった。
あらゆる金的攻撃に対応するべく訓練を積んだ俺の金玉が、アイツのクローで潰されかけた。
あの快感・・・・・
これまでのものとはまったく違う。
もし今、アイツが目の前にいたら、俺は股間を突きだして言うだろう。
掴んでくれ、と。
もう一度・・・・もう一度アイツに掴まれたい。
俺の金玉力の全てをかけて、アイツの急所クローを受けてみたい。
たとえ男の核を握り潰されたとしても・・・・
腫れの引かない睾丸が疼きはじめ、桜井の陰茎は膨張していった。
「やだー!
桜井ちゃん、なにボッキさせてんのー!?
もしかしてゴリ子のヒョウ柄パンツに興奮?」
「アラ、透けてたかしらー?やだわー。」
看護師がケツを突きだし、白いズボンにブリーフラインを浮き立たせる。
キャー!と一層盛り上がるオネエたち。
「本当ですか!」
オネエの喧騒を凌ぐ大声は田代誠二だ。
「緒方さん、その競パン、僕にくれるんですか!?
やったー!
その大学マーキング競パン、オークションでもすっごく高いんですよね!
しかも緒方さんの直穿きだよ!
チョー嬉しいっす!」
「そんな奴のパンツが欲しいのか!」
オネエも黙る険しい声が響き渡る。
藤堂だ。
「だいたいそいつは俺らの仲間なのか?
なんでこの部屋にいるんだよ?」
部屋の隅の壁にもたれかかった緒方は顔を上げない。
「救急車で地上の病院に運ばれた朝倉は、黒杭側の人間だろ?
こいつも朝倉とセットじゃないのかよ?」
腰にタオルを巻いた権田がよろよろと立ち上がる。
「藤堂・・・・
違うんだ・・・・
ちょっと複雑な事情があるんだ・・・・」
「権田さん!
いくら権田さんの言うことでも俺は納得できません!
コイツは俺や桜井を見捨ててったんですよ。
そりゃ、俺たちが情けなかったのかもしれないけど、もし仲間だったらあれはないでしょう。」
桜井は無言で目を伏せる。
オネエ達のおかげですこし明るくなった部屋が、再び剣呑な空気に支配された。
「最終決戦の段取りが決まった。」
新たな風を運んできたのは部屋に走り込んできた長谷部だった。
つづく
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