「今日は初日ということで、まずは会場の雰囲気を感じてもらおう。」
佐田は緒方のビンビンの股間を面白そうに眺めながら言った。
「試合は無いんだな。それじゃ・・・」とタイツを脱ごうとする緒方を佐田が制した。
「いやいやそのままでいいだろう。いきなり試合でその格好で出て行ったら入場の花道で射精しかねんからな。君は。
少し慣らしたほうがいいと思うがね。」
顔を真っ赤にして緒方が反論しようとしたとき
「おー、似合ってるじゃないか。ショートタイツ。いいよいいよエロいよー。」
能天気な声で入室してきたのはスネーク長谷部だった。
「長谷部さん・・・」
緒方にとって今や長谷部は命の恩人。胡散臭いこと甚だしいが、どこか憎めないキャラクターに緒方は好感を持ち始めていた。
「佐田さん、あとは私のほうで世話しますんで。どうもありがとうございました。」
長谷部が頭を下げると、ふん、と横柄な態度で頷き佐田は部屋を出て行った。
「おっと、もう時間だ行くぞ。今日はセコンドに付いてもらうからな。」
さっさと歩き出す長谷部を「ちょ、ちょっと・・・」と緒方は慌てて追う。なんとか脱ぎ捨ててあったTシャツをつかみスニーカーをつっかけた。
「朝倉大悟、今晩お前がセコンドを務めるレスラーだ。なかなかエロい体つきでいいぞー。」
Tシャツを頭からかぶりながら、緒方は早足で前を行く長谷部の声に耳を傾ける。
「そういえばお前は大輔だったな。大輔と大悟、大ちゃんズだな~。ぐぅははは!」
バカ笑いをしていた長谷部が前方の黒いカーテンの前で歩みを止めた。振り返った長谷部の眼は別人のように鋭かった。
「会場に入るぞ。」
「おう。」答えた緒方の声はどことなく震えていた。
長谷部に続いてカーテンをくぐり抜ける。そこは、
男たちの肉欲が充満する異様な空間だった。
客は満杯だった。作り付けのベンチに男たちがひしめき合っている。200人以上は入っていそうだった。
「ここには女は入れねえ。」
広さは大きめのライブハウスと言ったところか。味も素っ気もないコンクリート打ちっぱなしの壁。
5列のベンチに四方を囲まれた中央に、リングがあった。
客席の間の通路をリングに向かって進む。緒方の股間に遠慮のない視線が突き刺さる。
「あれ緒方じゃねえか。」方々で驚きの声が上がる。
緊張で一旦は萎えかけた男根に再び血液が集中し始めた。
「おっ勃てたな。みんなホモってわけじゃねえけど、
でかいチンポには男は惹きつけられるものだからな。
せいぜい拝ませてやれよ。」
リングサイドにたどり着くと長谷部は観客を見渡しながら話し始めた。
「ここの客は皆純然たるプロレスファンだ。ただし表のプロレスでは見られない試合を見たがってる。
ここの会費知ってるか?目ん玉飛び出すくらいたけえよ。」
「表のプロレスでは見られない試合・・?」
「要するに過激なやつな。別に真剣勝負の格闘技を見たいわけじゃない。プロレスっていう格闘技であって格闘技でない、ある意味いかがわしい空気の中での男の闘いに惹かれているんだな。表のプロレスだってそこが売りのはずだ。ここでは表より男をさらけ出さなきゃならない。雄の性のあられもない姿を見せつけるんだ。」
「ゲイじゃない客もいるのか?」「ノンケだってオスを感じたいやつもいるさ。」
突然リングにまばゆい照明が灯された。リングアナらしき男がリングに上る。
「いよいよ始まるぜ。THPWのショーの始まりだ。
Tiger’s Hole Pro-Wrestling THPW
人気プロレス漫画からとったと思われる安直なネーミングが、今の緒方には底知れぬ不気味さをもって響いていた。
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