「試合にはこのコスチュームで出てもらう。」
そう言って佐田がテーブルに投げたのは赤い小さな布のように見えた。
細いフレーム越しに有無を言わせない目が光る。
(
ショートタイツか・・・)
緒方大輔は絶望的な気分でその布を手に取った。
両手で広げてみるとやはりそれはショートタイツだった。通常のものに比べサイドがやけに短い。
いわゆるUスタイルのタイツよりはるかにハイレッグな仕様で作られている。競泳パンツと見紛うほどだ。
裏地はない。
緒方の表情に戸惑いを感じ取った佐田がさらに続ける。
「選択肢はない。君ははいい体をしているからな。そういうコスチュームで出れば客が喜ぶだろう。わかっていると思うがうちのお客様にはゲイの方が少なからずいるもんでね。」
「覚悟はしているさ。」
緒方は吐き捨てるように言うと乱暴に衣服を脱ぎ捨てた。
かつてのスタープロレスラーの筋骨逞しい身体が顕になる。下着も脱ぎ捨て全裸になる。
「サポーターは無いのか?」
佐田は「あるわけないだろ。」とでも言いたげに首を振る。
「ふうっ」と短くため息をつき、緒方は意を決したようにタイツに脚を通した。
太い下肢に引っかかる小さな布を強引に持ち上げる。
筋肉が盛り上がるケツに薄い生地が張り付き、端正なマスクに不釣合いな野生を想起させるゴツい男性器が三角の布に収まった瞬間、緒方の股間の奥に電流のように疼きが走った。
(ああっ・・・ これがショートタイツの感触か・・・っ!?)
緒方大輔、31歳 180cm 98kg
3年前まで日本最大のプロレス団体でスターレスラーとして活躍していた。
大学では柔道選手としてオリンピック候補になったこともある。
プロレスラーとしても柔道着で試合に臨んでいた。
その理由は、緒方にとって致命的に思えてしまうある弱点によるものだった。
緒方は、
試合中に必ず勃起してしまうのだった。
リング上で裸の男と密着し互の力を競い合う。そんな状況に緒方の「雄」は否応なく燃え上がる。
柔道時代はこれほどまでではなかった。柔道の組手に漂う厳格な空気、ましてや柔道着同士の闘いでは「雄」が発動する余地はほとんど無かった。
ところがプロレスではリング上に存在する「男臭」が格段に違う。
レスラーたちは己のの肉体を誇示するかのようないでたちで登場する。乳首はもちろんのこと股間の盛り上がり、尻の割れ目まで衆目にさらしながら汗まみれで闘いを繰り広げる。
そこは男同士の闘いの場であると同時に、ショーの舞台でもあるのだ。
そんな世界に憧れ、緒方はプロレスの門を叩いた。
人一倍の情熱と練習量で瞬く間にスター選手の仲間入りを果たした。野性的でありながら整った顔立ちも人気上昇に一役かっていた。
柔道着でリングに上がっていたのは、自分のいきり立つ男根を隠すためと相手の肌に直に密着して興奮が高まってしまうのを防ぐためであった。
試合後に、ひとりシャワールームで自慰にふけることで己の欲望をなんとか満たしていた。
それでもプロレスラーとしてリングに上がることができる日々に、緒方は満足していた。
あの日までは・・・
「先輩、今日はよろしくお願いします!」
地方巡業先の控え室、デビュー間もない後輩の不破晃司が挨拶に来た。
「おうっ、思いっきりぶつかってこいよ。若手は活きが良くなきゃつまんねぇからな。」
緒方は余裕で答えた。
今晩はTV収録もない地方興行で、緒方に用意された試合は前座の若手との対戦だった。
不破とはほんの一時選手寮で同じ釜の飯を食った間柄であり、なかなか骨のあるやつだなと緒方も目をかけていた。
やんちゃなガキ大将を思わせる風貌も密かに気に入っていた。
後輩レスラーは先輩の荷物の管理も行う。緒方の荷物を整理していた不破が何気ない様子で緒方に話しかけた。
「緒方さん、なんで道着なんですか?」
一瞬ぎくっとしながら顔に出さずに緒方が答える。
「学生の時柔道だったからな。それが一番しっくりくるんだ。」
「へぇーそうなんですか。でもせっかくプロレスラーになったのに。俺はやっぱりこれですね!」
不破が自分のカバンからショートタイツをとりだして緒方に見せる。新人らしい黒いタイツだ。
「パンツ見せてんじゃねえよ。」ぽーんっと不破の頭をはたくと緒方はそそくさとその場を離れた。
背後で不破が意地悪なガキ大将の顔をちらっと覗かせていることに気づかずに・・・
カーンッ
試合開始のゴングが鳴った。
緒方の今日の仕事は若手の威勢よさを引き出しながらも先輩の強さを見せしめる、そんなところだった。
地方巡業中には時にはゆるいマッチメイクが組まれる。ちょっとした骨休みだ。
不破は若手のお約束のドロップキックを頻発していた。高さも打撃力も若手としては申し分ないものだった。
ヘッドロックで捕まえたときに小声で「技が単調だぞ。」と告げた。
「うすっ」不破が足払いをかけてきた。甘い入りではあったが緒方は倒れてやった。
すかさずヘッドシザースを極めてくる不破。
(意外に効くな。)(こいついい身体になった。)太ももで顔を圧迫されながら緒方はそんなことを考えていた。
すると不破がヘッドシザースの体制のまま体を回転させた。
(何をする気だ?)緒方の頭を挟んだまま、ゴロゴロと回転する不破。
緒方は首が折れないように一緒に転がるしかなかった。そのうちに不破の股間部分が緒方の顔の正面になった。
仰向けの不破の股間に緒方の顔が押し付けられている形だ。
不破の男根をタイツ越しにはっきりと感じる。緒方の股間が熱くなった。
(調子にのるなよ)緒方はそのままの体制で不破を持ち上げながら立ち上がるとパワーボムの要領で不破をマットに叩きつけた。試合中に勃起してしまうのはいつものことだが、後輩相手に欲情してしまうとは・・・。それに今あいつはわざと股間を押しつけてこなかったか・・・!?
たいしたダメージもなく不破は立ち上がるとあのワンパターンのドロップキックを放った。気が散っていた緒方はそれを受けてしまい後方のロープに倒れこんだ。跳ね返ったところを不破がベアバッグに捉える。
「おまえ本当に調子こいてんな。」あいた両手で不破の頭を掴み頭突きを食らわす。一瞬締め付けが弱まるがすぐに力を込め直してきた。思いのほか凄いパワーだ。緒方が再び頭突きをしようとしたその時、
「緒方さん、勃ってるでしょ?ビンビンっすね。」
「な、なにを・・・ぐぉっ!」虚をつかれた隙にベアバッグが完璧に決まってしまった。
「緒方さん変態っすね。俺も勃ってきちゃったっす。」
薄ら笑いすら浮かべながら緒方の腰をへし折らんばかりに締め付けてくる不破。
その若い力は宙に浮いた緒方の体を上下に揺さぶりはじめた。
「がぁっ・・」緒方の男根が不破のゴツゴツした身体に擦りつけられている。勃起を隠すための柔道着だったが、このような攻撃を受けるとそのゴワゴワした生地が却って陰茎への刺激を増幅する。
「ぅおおーーー!」道着の下にはケツ割れサポーターをはいていたが、今やそのケツ割れごと道着に男根が擦りつけられている。「今日はテレビ無いから、これくらい見えないっしょ。」あろうことか不破は緒方のはだけた道着から除く乳首をぺろっとひと舐めした。「あぅっ!」苦悶とも快感ともつかない声を思わずあげてしまう緒方。
(力が・・・力が入らない・・・くそっ)
不破は間違いなく緒方を陵辱しようとしていた。(いつバレたんだ・・?)緒方は苦痛(快感?)の中で答えの出ない問を反芻していた。
「緒方さん、やっぱり変態だったんっすね。感度いいし。」
不破は緒方の背中でがっちりとロックされた腕を微妙にずらすと緒方のケツの割れ目に指を入れようとした。しかし硬い道着のせいでなかなか上手くいかない。「ちっ、こんなの着てるからだよ。」穴を諦めた不破は緒方の臀部を掴んだり摩ったりし始めた。相変わらず身体は密着したまま上下に擦り合わされ続けている。
緒方は技を解くことができなかった。いや、解こうとしなかったのかもしれない。リング上でショートタイツ一枚の逞しい男に陵辱されている自分。これは密かに憧れていた世界そのものではないか!?
「
ぐわぁーーっ!!!」断末魔の声を上げ一気に緒方は果てた。
不破は射精して脱力した緒方の体をマットに投げ捨てると倒れた緒方の正面に仁王立ちした。下から眺めると黒いショートタイツ越しに不破の勃起した男根がくっきりと見える。(でかい・・・)すでに精を放った緒方だったが、不破のその雄臭い身体を今更ながら目の当たりにして勃起がおさまらない。
不破は抜け殻のようになった緒方をパイルドライバーで仕留めるとあっさりスリーカウントを奪った。
観客たちは急に戦意を喪失したように見える緒方を不思議そうに見つめていた。近くで見たならば柔道着の股間部分に染みが浮いているのが見えただろうが、遠目には白い道着にできた精子の白い汚れはそれほどは目立たなかった。
不破のタイツを突き破らんばかりに勃起した男根は、さすがに観客にも気づかれただろうか?今晩はTV収録がなく、雑誌記者も少なかった。翌週のプロレス誌にこの試合は取り上げられなかった。
地方での前座試合であり、セコンドにも見習いレスラーがいただけだった。
ただひとり、一部始終を間近で見ていたものがいた。レフェリーのスネーク長谷部だ。なぜレフェリーがスネークなのか誰も知らない。
この一件のあと、緒方はプロレス界を去った。射精を知る者は不破と長谷部しかいないはずだったが、これ以上メジャー団体でやっていく自信がなかった。
自暴自棄になった緒方は黒い世界に身を置き、ついには命を狙われる羽目に陥ってしまう。
絶体絶命の苦境に救いの手を差し伸べたのは、なんとスネーク長谷部だった。
長谷部の表の顔は日本最大手のメジャープロレス団体のレフェリーだったが、実は裏の顔があったのだった。
それは地下プロレスのプロモーター。黒い世界の黒いプロレス。
長谷部は黒い人脈を駆使して緒方の一命をつなぎとめることに成功した。
緒方への交換条件は地下プロレスラーとしてリングに立つことだった。
そして今、緒方は現役時代には決して身につけなかった深紅のショートタイツをはき、
はげしく男根をいきり立たせていた。
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