「俺のタイツを返してくれないか?」
突然耳元に囁く声に、田代誠二は驚いて振り返った。
真後ろの席には誰もいなかった。
会場の大スクリーンではレスキュー太助が謎のスキンヘッドレスラーに血祭りにあげられている。
テロップでは「玉砕坊主グドー」と紹介されたその筋肉兵器は、太助を一方的に痛めつけていた。
極薄のオレンジのショートタイツは、太助が完全に勃起していることを隠すどころかかえって強調していた。
今では雄汁の先走りが亀頭の形をくっきりと浮き上がらせている。
肉体を破壊しながら、同時に雄の本能を昂らせる技術。
一流と呼ばれるプロレスラーが一流たる所以。
まして地下プロレスラーなら必須の資質。
グドーは太助を痛めつけ、そして〝犯して〟いた。
未だ正式に顔合わせもしていない『光の戦士』の一人が、『闇の戦士』によって陵辱されている。
この緊迫した状況の中、本来なら話しかけられてもなにも耳に届かないだろう。
だが、誠二にははっきりと聞こえた。
いや、脳に直接信号を送られたようにも感じる。
「俺のタイツを返してくれないか。」
あの声は・・・・
誠二にそんなことを言う男は一人しかいない。
真空状態で密封されたビニール容器に保存された赤いタイツ。
その持ち主は、それを穿いていた男は・・・・
「緒方さん・・・・・」
誠二は怒号が飛び交う会場の中、一人静謐の中に切り取られていた。
「ぅおらっ!」
グドーの手刀がグサグサと太助の筋肉にのめりこむ。
「俺の地獄突きはどうだ?極楽気分だろ?ぐわはっはっ!」
黒タイツの股間をイヤらしく見せつけるようにポーズをとりながら、一発一発間隔を空けて地獄突きが繰り出される。
その度に太助の身体は釣り上げられた瀕死の魚が甲板で弱々しく跳ねるように身をくねらせ、オレンジタイツの光沢が鱗よろしく 煌めくのだった。
腹、背中、肢、喉、顔面・・・・太助の筋肉は地獄突きの履歴を示すように変色し腫れあがった。
激しい動きで捲れ上がり、ケツにあらかた食い込んだタイツが男の深層を刺激する。
極楽気分の地獄突き・・・・
確かに今の太助にとって、グドーの手刀は昇天の核に向かって打ち込まれる杭のように、やがて来る途轍もない快感を予感させているのだった。
銃弾を食らうゾンビのようにリング上で舞う太助のケツに、片膝をついた坊主の狙いが定められる。
「ソモサンッ!」
「んぐはっ・・・・!」
手刀はついに太助の肛門に撃ち込まれた。
「あぐぅあああああ・・・・・」
刀は楔となり、雄の核に到達せんと激しく振動する。
鍛えられたケツの筋肉が痙攣し、神聖な雄の門を守ろうとする。
いや、迎え入れようとしているのか?
痙攣は全身に伝播し、ケツを捕らえられた太助は仁王立ちのままエビ反りになって悶絶する。
「んぐおああああああおああああああ!!!」
絶叫とともに大量の涎が太助の顎を伝い、大胸筋に滴り落ちる。
「ほう、まだイカないか。思ったより頑張るな。」
手刀がケツから抜かれると、太助はそのまま背後に倒れていった。
その髪を掴みグドーは無理やり太助を立たせる。
「まあここでイカれてはお楽しみが台無しだがな。」
グドーは太助の髪を掴んだままフェンス越しに移動した。
「藤堂!オマエの準備はどうだ?そろそろ3人で極楽往生しようぞ!」
フェンスの外では、藤堂が汗を滴らせながら震えていた。
血走った眼が向ける視線は、鮫島の紫のショートタイツと太助の怒張しきったオレンジの膨らみを忙しなく行きかう。
ピチピチ目のジャージが破けるかと思うほどに藤堂の股間も暴れていた。
「うおーっ!!!」
突然叫んだ藤堂はポロシャツとジャージを脱ぎ捨てた。
黒いケツ割れ一丁の雄臭い体躯が顕わになった。
「ぐわっははは!とうとうその気になったか!いいぞ!思う存分股間を揉みしだくがいい!シンユウの哀れな最期、妄想の情夫の下穿、オカズは申し分あるまい!ぐわっはっはっは!」
怪坊主の豪胆な笑い声がモニターを通じて地下施設全体に響き渡った。
「長谷部さん、あそこが何処だかわかりました!」
内線電話の声はポリスマン向井だ。
「でかした!」
パソコンの画面には複雑な地下施設のマップが開かれている。
「てっきり黒杭のエリアだと思っていましたが違うようです。どうやら相当昔に使っていた区画ですね。大規模な改築が行われてからはほとんど人が立ち入らくなった場所です。」
「あそこか・・・・」
「現在のデータでは詳細は負いきれませんがとりあえず入口はわかりました。俺たちも早速向かいます!」
内線の受話器を置いた長谷部は複雑な表情で押し黙っている。
「どうしたんですか長谷部さん!すぐ行かないと!」
桜井がせかす。
「あ、ああ・・・わかった。だがあそこは危険だぞ。まるで迷路だ。」
「迷路だろうが何だろうが行かなきゃ!藤堂と太助が!」
「罠・・・・かもしれんぞ。」
「えっ!?」
「そもそもあんなところへ藤堂と太助が迷い込むのが不自然だ。知らぬ間に誘導されていたのかもしれん。」
「で、でもこのままでは・・・・・」
「ぐぎゃーっ!!!!」
すさまじい悲鳴にモニターを振り返る長谷部と桜井。
「な、なんだあの技は・・・・・!?」
片手のネックハンギングツリー、半分はその言い方が適当だろう。
グドーの凄まじい怪力は、決して小柄ではない太助の身体を右手のみで持ち上げていた。
呼吸のままならない太助の顔面が真っ赤に膨張している。
そして、左手は、
太助の股間をがっしりと握っていた。
「ふははは、俺が玉砕坊主と名乗っているのはこれが理由だ。玉を砕くのが好きなのだ。ぐははははは!」
グドーの巨大な手は親指、人差し指、薬指、そして小指で太助の睾丸をぐりぐりと圧迫する。
そして中指は、タイツの食い込んだケツの中止にのめり込んでいた。
玉と肛門を同時に攻められ、首も絞められている太助の男根はいまだ最高潮に勃起していた。
「この技で射精しなかった男はいない。どんな屈強な野郎であろうとも必ず白目を向いて昇天したものよ。」
グドーの左手に力が込められたのがスキャナーズのように浮き出した血管でわかった。
「ぎぐんなおあああーっ!!!!!」
泡を噴いて絶叫する太助。
「ほれ!もうこいつは持たないぞ!俺もいい感じだ。藤堂!Ready?」
横文字を使う僧侶。
全身がバイブレーターのようになって震えていた藤堂が鮫島のタイツを拾い上げた。
「そうだ!そいつを嗅げ!鮫島の男根の臭いが凝縮されているぞ。雄臭を堪能しながら股間を扱くのだ!ほら!極楽浄土はすぐそこぞ!ともに精子渦巻く三途の川を渡るのだ!」
地獄!?天国!?
桜井の視線はモニターに釘付けになっていた。
「・・・・あの技は!?・・・・・」
金玉ジャンキー桜井の男根がみるみるうちに硬くなっていった。
このまま太助の急所が握りつぶされるのを見ていたら自分までイってしまいそうだ。
目を逸らさなければ、そう心の危険信号が伝えている。
だが・・・・!
桜井の右手が知らぬ間に自分の急所にあてがわれていた。
二つの睾丸を胡桃のようにゴリゴリと擦り合わす。
激烈で、そして甘美な痛みが全身を痺れさす。
「ああっ・・・・・」
桜井の荒い鼻息に長谷部が気付いた。
「おいっ!目を覚ませ!」
『光の戦士』たちは己の性癖を克服するためそれぞれ特別訓練プログラムをこなしてきた。
その結果、肉体的には以前よりはるかに耐性が付き強靭になったが、感性が、欲望に対する感受性が研ぎ澄まされてしまったのでは!?
太助の断末魔の喘ぎ、藤堂の葛藤、桜井の玉ホリックの重篤ぶりを目の当たりにした長谷部は愕然とするのだった。
(光が・・・・闇に呑まれてしまう・・・・・・)
田代誠二は試合会場の外に設置されているコインロッカーの前にいた。
太助や藤堂から目を離すのは非常な決心がいることだったが、今はもっと大事なことがある気がしたのだ。
ロッカーにしまった自分のリュック。
その中にはいつも持ち歩いているあるものがある。
深夜の埠頭で、緒方大輔が処刑されんとする光景を目撃した時のことが思い出される。
誠二の機転により緒方は脱出し、残されたのがこれだ。
メガバズーカ黒杭の男根によりケツを突き破られたショートタイツ。
無敵だったバズーカ緒方がケツを犯されトコロテンで射精してしまった時に穿いていたタイツ。
普通だったら誠二の恰好のセンズリアイテムとなるのは必至のシロモノだが、
なぜか誠二にはそれをやったらオシマイという気がしていた。
恋人の大岩の先輩だから?
いや、違う。
バズーカ緒方は地下プロレスの誇りだ。
自分にとって最高最大のカリスマなのだ。
だからこそこのショートタイツには神聖な何かを感じてしまい、とてもじゃないがオナニーに使うなんてことはできなかったのである。
とは言え、これを手放す気にはなれなかった。
長谷部なり大岩なりに託すのが筋だったかもしれない。
でもこのタイツは、もはや誠二の安心の源というか、つまりお守り代わりになっていたのだ。
背後に強いオーラを感じた。
「緒方さんですね。」
誠二は振り返った。
そこには、記憶通りの、いやさらにエロ逞しくなった緒方大輔が全裸で立っていた。
つづく
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とくに金玉ジャンキー、玉ホリックという響きが気になって仕方がありません。