「玉砕坊主、グドー参上。」
突如現れた僧侶姿の大男。
その尋常ならざる殺気に、鋼鉄製のケージに〝捕らわれた〟レスキュー太助と、リングから締め出された藤堂に緊張が走る。
「何者だ!」
「・・・・この世は闇。
どんなにキレイゴトで覆い隠しても人間の心に巣食う闇が滲み出すのを止めることはできんものよ。
ならばその闇に忠実たることが人の道。
己の暗黒面を極めてこそ人、すなわち『男』なのだ。
キサマらのような闇を否定する偽善者など男を標榜する資格すらない。
このグドーが成敗してくれるわ!」
「な、なにを!寝言は寝ていいやがれ!」
(こいつは黒杭組の刺客。〝闇の戦士〟だ)
瞬時に状況を読んだ太助は怪僧侶に掴みかかっていった。
「気を付けろ!太助!」
金網を掴んだ藤堂が叫ぶ。
(コイツ・・・・ただならぬ雰囲気を醸している・・・・イヤな予感がする・・・・)
「ハーッ!」
目にもとまらぬ俊敏さでグドーとの間合いを詰める太助。
山での特訓が、彼のスキルを格段にアップさせていた。
棒立ちの僧侶に先制のラリアットが炸裂すると思われた瞬間、
「ソモサン!」
鋭い一喝の声とともに錫杖が太助の鳩尾を射抜いていた。
「ぐぅえあっ・・・・・!」
胸を抑えてのたうち回る太助。
全身から汗が吹き出し新調したパセリ製のオレンジショートタイツにケツ筋の汗染みが浮き出る。
「ぅんぐおお・・・・・」
「太助ーっ!」
叫んだ藤堂はスティールケージの囲いにリングへの侵入口を求めて走り回る。
「ふん、痛いか?この杖の一撃は己の心に背いている者にことさら効くのだ。
キサマが正直ではない証拠だ。
そら、ソモサンッ!!」
錫杖の突きが、のたうつ太助の左腿に打ち下ろされた。
「ぐぎゃおぅっ!!!」
脂汗を全身から吹き出させたオレンジタイツがのたうち回る。
錫杖の上方の先端の金具がシャンシャンと禍々しい音を立てる。
「太助っ!タスケーっ!」
リングを何周しても侵入口は見つからない。
藤堂はついに金網をよじ登りだした。
「小癪な。ソモサンッ!」
「ぐわっ!」
金網に張り付く藤堂に錫杖突きが繰り出された。
思わず手を放し床に落下する藤堂。
(んぐわぉ・・・・・な、なんて衝撃だ・・・・金網越しでこの威力・・・・直接食らった太助は・・・・!?)
「ふん、キサマが藤堂か。本来はキサマを嬲り殺すはずだったのだが。
予定通りに事が運ばないのは己の精進が足りない故。
反省の念をこめてコイツを始末するまで。」
笠の下で残虐な目が光る。
「おっとその前に。」
極悪僧侶グドーが法衣を脱いだ。
それは一体どういう仕組みになっているのか、
ワンモーションで僧侶の姿がプロレスラーのそれに代わった。
「衣替えの術だ。」
最後に大きな傘が投げ捨てられた。
ワンショルダーのアニマルスタイルのタイツ。
ライクラの光沢を放つ極薄の生地は、漆黒だった。
極限までハイレッグに吊られたVラインからにょっきりと伸びる堂々たる大腿部。
リングに根を下ろしたかと思える地下足袋の上部には巨大な子持ちシシャモを思わせるカーフ。
ワンショルダーに片側を覆われた大胸筋に浮き上がる乳首の生々しさ。
そしてもう片方は、まさに生の乳首が黒々と存在感を放つ。
まさに破壊のために肥大させたとしか思えない獣じみた両腕、両肩。
パンパンに張り詰めた巨大な大殿筋は肉感的などという言葉では言い表せない煽情的な曲線を描き、
双丘のセンターに深く刻まれた深遠な谷には、黒いタイツがこれでもかと食い込んでいる。
そして鋭角に尖るVゾーンの先端はまさにもっっっこりと盛り上がり、それを視界に入れたが最後、何人たりとも不安を感じずにはおれない凶暴さを放つのだった。
しかも手入れされていない陰毛がハイレグタイツから奔放にはみ出しまくり、下肢の剛毛と境界線なく繋がっているのだ。
(な、なんというエロ坊主・・・・・!)
金網から落ちた藤堂は立ち上がることも忘れて、フェンスの向こうの肉獣から目を離せないのだった。
「さて、」
顔面でさえ男根的なスキンヘッドが錫杖をコーナーに立てかける。
「コヤツはキサマの親友だと聞いている。〝親友〟?笑わせる言葉よ。
互いの劣等感を慣れあいで誤魔化し、その実腹の底では優越の材料を探り合う醜い関係。
それが嘘にまみれた世界での〝シンユウ〟という関係性の実態だ。
俺が闇の力でもってキサマらの欺瞞を暴いてやる。」
肉獣が瀕死のオレンジタイツに静かに歩み寄っていった。
「おー!また一段と逞しくなったんじゃないか~!」
完全にエロい眼差しの長谷部に大胸筋の硬さや大殿筋の張りを撫でまわされているのは
桜井勇治だ。
山深くにあるTHPWの特訓場で、ありとあらゆる金的の鍛錬、所謂〝金トレ〟を積んだ若きレスラーは、
数ヶ月前の中二病的なウジウジ感が一掃され、大人の雄の精悍さを纏っていた。
Tシャツに青いショートタイツ、リングシューズという出で立ちの桜井。
長谷部があくまでもさりげなさを装いながら股間に伸ばしてくる手を、
やんわりと制止する。
「俺の急所に触れるのは危険ですよ。」
さわやかな笑顔に見えるイケメンの眼が獰猛な獣の光を宿すのを感じ取った長谷部は、
素直に手を引っ込めた。
「す、すまん・・・つい・・・・」
ここは地下施設の一角を占めるTHPWの事務局内にある応接スペース。
桜井は明日の〝光の戦士〟ミーティングに参加するため、山から下りてきたばかりだった。
「他の連中はまだ来ていないんですか?」
「いや、藤堂はもともと施設内で〝調整〟してたし、向井は今は試合会場で警備に就いていて、
太助はさっき姿を見かけたな。鮫島はよくわからんがたぶんその辺にいるんだろ。」
「じゃあ俺が最後ですね。そういえば長谷部さん、俺、特訓場の滝である人を見かけたんですけど。」
突如、長谷部がせき込み始めた。
「んげほっ!げほっ!・・・んぐおぁ・・・・・」
どうやら飲んでいたお茶が肺に入ったらしい。
「大丈夫ですか?」
桜井がゴツい手で長谷部の背中をさする。
「す、すまん・・・・い、いや・・・・ちょっと・・・ちょっと驚いてしまってな・・・・・」
「驚く?じゃ、あの人は・・・、あの滝に打たれていた人のことを御存じなんですね?」
「・・・・・んん・・・・そ、それは・・・・・んー・・・・」
「長谷部さん、もう隠さなくたっていいじゃないですか。俺、解かっているんです。
あの滝に打たれていたショートタイツの男は、あの人は・・・・・」
ブボーン!!!
突然応接スペースの大画面モニターが起動した。
「な、なんだこれは・・・・!」
「太助・・・・!」
反射的に画面に目をやった二人はそこに映しだされる地獄絵図に絶句した。
レスキュー太助が血ダルマでリングに這いつくばっている。
ピクリとも動かないオレンジタイツのマッチョは、もはや意識があるのかどうかさえわからない。
「太助ーっ!」
金網に張り付いて叫ぶ藤堂の声は太助に届いているのか。
タイツ姿になったグドーはまさに筋肉兵器だった。
錫杖による凶器攻撃で動きを封じられた太助は、グドーの残虐エロ技の披露目のためのデモ・レスラーになったかのようだった。
肉体を痛めつけると同時に、確実に屈辱感を植え付けるポジションを外さないグドーの技さばき。
その効果が絶大なのは、太助が痛めつけられ絶叫しながらも完全に勃起していることから明らかだった。
「ぅおらっ!見下げた野郎だぜ!弱すぎる。キサマのような弱いヤツは俺のような強い男に踏みにじられながらアヘアへと汁を垂れ流すのがお似合いだぜ!完全な負け犬としてな!」
そして太助を甚振り尽くすグドーの股間は、一目見ただけで凍り付きそうなほど邪悪に盛り上っていた。
玉砕坊主グドーは真性のサディストだった。
「さて、そろそろフィニッシュといくか。この橙パンツは弱すぎる。
おっと藤堂、キサマのことを忘れていた。
どうだ、シンユウとやらが目の前でボコボコにやられヨガっている姿を見るのは。」
「こ、この野郎・・・・、俺とやりたいならとっととこのアミを外しやがれ!グチャグチャにしてやる!」
「ぐははは、上手い演技だ。シンユウの身を案じて怒れるヒーローってとこか?
だが、このグドーの心眼は誤魔化せない。キサマの本性は手に取るようにわかる。
ほれ、己の股間はどうなっている?まさか気付きていない訳はあるまい。」
「ぅぐ・・・・・・」
藤堂のジャージは、昼下がりの高校生のように盛大にテントを張っていた。
太助がズタボロにやられるのを見て猛烈な怒りを感じながらも、心の兄弟とも言える親友がエロ技に喘ぎ苦しむ姿が、その関係が深いからこそ己の疑似体験になってしまった藤堂は、意に反して興奮していたのだった。
〝地下プロレスラーの性〟故の昂ぶりとは言え、親友が蹂躙されている最中におっ勃てる自分に、反吐が出るほどの嫌悪感を感じる。
だが、いきり勃った男自身はひと擦りでイってしまいそうなほど膨張しきっているのだった。
「ぐははは、滑稽だ、愉快だ!
よし、俺だけスッキリしちゃ悪いな。キサマにも快楽のおすそわけだ。ほら。」
呆然とする藤堂の目の前で、金網の隙間から紫色の布が差し込まれた。
ぱさっと床に落ちたそれは、確認するまでもなく鮫島のショートタイツだった。
「ほら、拾って手に取れ。今からこの弱っちい橙パンツを〝地獄に昇天〟させるから、
俺と橙パンツ、そしてキサマと3人同時に闇に堕ちようではないか。ぐははははは!」
藤堂の膝がガクガクと震えだし、やがてそれは全身に広がった。
〝怒り〟なのか、それとも鮫島のタイツに〝欲情〟しているのか?
「そうだ、言い忘れていたが、この顛末は一部始終が地下施設のあらゆるモニターに映し出されている。
〝光の戦士〟とやらが闇に飲み込まれる瞬間をとくと見てもらおうぞ!」
「おい!あそこはどこだ!至急特定しろ!」
長谷部が内線電話で方々に指示を飛ばしている。
「太助、藤堂、今行くからな!頑張ってくれ・・・・!」
今にも飛び出していきそうな桜井を長谷部が必死で止める。
「やみくもに探しても駄目だ!この施設は恐ろしく広い。待つんだ。今は待つしか・・・・・!」
「アレアレ、コレハソウテイガイ。」
「アンタが仕組んだんじゃねえのかよ?」
「チガウチガウ!ボクハパンツヲシカケタダケ!」
「じゃあ、それすら利用された訳か。恐ろしいな、黒杭組さんってとこはよ・・・・」
「ソウ・・・・オソロシイトコロ・・・・・・クロクイハネ。」
サンウが鮫島の萎えかけた男根を口に含む。
「お、おい・・・・・」
それ自体独立した生き物のように亀頭を這い回る絶妙な舌使い。
「んうっ・・・おあ・・・・・」
再び硬さを取り戻す鮫島の男根に、サンウの目が怪しい光を放っていた。
THPWの公式リングのある大ホールでは観客たちが騒めいていた。
突如巨大スクリーンに映し出されたスカッシュ・マッチ。
謎の巨漢にオレンジタイツのマッチョがボコボコにされ、今まさに陵辱のクライマックスを迎えようとしている。
そしてケージの外の男臭い野郎。
二人が光の戦士であることがテロップで知らされると観客は歓喜の声を上げた。
だが、光の戦士は明らかに絶体絶命の窮地に立たされていた。
状況が解かってくるにつれ、観客たちの間に絶望が伝染していった。
ここでまた光が闇に敗れてしまう光景をみることになってしまうのか・・・・!?
あの、運命の日のトラウマが観客たちの心を騒めかせる。
「向井さん!まだ場所は特定できてません!」
大岩が走ってくる。
「そうか・・・・奴らめ、正々堂々とこのリングで勝負できないのかよ!極道め・・・・!」
向井のケツが怒りで収縮し、ネイビータイツのPOLICEの黄色いロゴが歪む。
「ふふふふ、父上の考えそうな卑劣な先制攻撃ですね。」
「ワシは卑劣と呼ばれることなどなんの呵責も感じないぞ。むしろ称賛と思えるわい。」
黒革のゴージャスな椅子に身を沈める黒杭嘉右衛門の視線の先には、
暗い部屋でそこだけライトアップされた巨大な水槽があった。
透明なガラスの向こうには、潜水マスクを被った黒ビキニ一丁の男が漂っていた。
彫刻のような完璧な肢体。
超ビキニ競パンに浮き上がる男根の逞しくも艶めかしい膨らみ。
水槽の脇のスピーカーから声が響く。
「まあ、雑魚は雑魚に任せておけばいいでしょう。
俺が、このメガバズーカ黒杭が本当に陵辱したいのはひとりだけ、ですからね。」
黒杭嘉右衛門の眉が動く。
「またそんなことを。お前、〝超成長液〟に浸かりすぎておかしくなってるんじゃないのか?あの男は今頃野垂れ死んでお・・・・・」
「あいつは生きています。必ずまた俺の前に現れる。俺に陵辱されるために、必ず。」
スピーカーからの声はボコボコッという泡の音とともに微妙な電子音を帯びている。
「緒方大輔・・・・待っているぞ・・・・。」
つづく
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俄然、ストーリーが面白くなってきました!。