カタカタカタ・・・・・
忙しなくキーボードを叩く音がTHPWの事務局の重苦しい空気の中で唯一活気を帯びていた。
実況室から駆けつけてきた新垣裕之は、巨大な地下施設の旧区画の詳細データを求めて電子化された情報の海を彷徨っていた。
「ねー、まだ見つからないのー。おっそくなーい?」
同じく医務室からやってきたラーがせかす。
「そんなこと言ったって!相当昔のデータなんですよ。残ってるかどうかもわからないのに・・・・」
ラーはつまらなそうに新垣から目を離すと大型モニターを振り返った。
「あーあ、トードーちゃん、鮫島のパンツ持って震えてるよー。チョー勃起してるしー。」
「あ、あんた、なに呑気な事言ってるんですか!治療したのは先生でしょ!?」
「まあPTSDの緩和には努めましたよー。鮫島にーボロボロにやられてー敗けちゃったことがートードーちゃんのトラウマなわけだけどー、それはーまーなんとかねー。でーもー・・・・・」
「でもなんなんですか?まだ問題が残ってるんですか?」
「いやー、つまりー、トードーちゃんはー鮫島にー惚れちゃってる?んー、犯されたいとー思ってる?そーんな感じー。それはー、消せないよねー。恋、だもんねー、これはー。」
「恋・・・・・!?」
「そー、恋ー。それでもー恋はーこーいー。恋い焦がれた相手のパンツー、そりゃー情緒を狂わせますよー。新垣ちゃんだって権田君のパンツ嗅ぐでしょー?」
「な、な、何言って・・・・、あんた変態か!?」
「そーだよー。」
そこへ当の権田が入ってきた。
「長谷部さん、救出隊は!?あ、ヒロ。来てたのか。先生も。」
権田は新垣に軽くウインクすると長谷部のいる方へ行ってしまった。
先ほど試合を終えてシャワーも浴びる間もなく騒ぎが起き、そのまま来たのだろう。
汗に湿った食い込み黒ショートタイツのケツがブリブリと立ち去ると、ラーは新垣にイヤラシイ笑みを向けた。
「ほらねー。新垣ちゃん、今権田君の腰のあたりしか見てないもーん。まー権田君エロいからーしょうがないけどねー。」
新垣は赤面しながらPCに向き直った。
「今、向井と大岩が向かっている。罠である可能性もあって桜井には待機してもらっている。権田も残ってくれ。」
長谷部が応接スペースのモニターを見ながら権田に言う。
「わかりました。ん?桜井君、具合でも悪いのか?」
隣に立っている桜井の様子がおかしいのに権田が気付いた。
青いんだか赤いんだかわからないデスラーのような顔色で、桜井はガタガタと震えていた。
左手で右手を掴んでいる。
まるで言うことを聞かない右手を制するように。
「い、いや・・・・な、何でもないんです・・・・・そ、それより・・・太助・・・太助の玉・・・・玉が・・・・」
3人が見つめるモニターの中で、太助が断末魔の叫びをあげていた。
つま先立ちのリングシューズがほぼ宙に浮いている。
太助の体重は、首と急所の二点のみで釣り上げられていた。
いまだ出血夥しい額から血と汗が河となり首を掴むグドーの前腕に流れ落ちる。
急所を捕らえた大きな掌は中指が肛門にオレンジのタイツごとのめり込み、他の指は睾丸をグリグリと揉みしだく。
涎と血を吹き出しながら、苦痛に歪む太助の口が必死に酸素を求めている。
ようやく取り込まれたなけなしの酸素は、瀕死の太助の脳細胞をかろうじて機能させていた。
(だ・・・だめだ・・・かなわねえ・・・・俺は・・・・こいつに勝てなかった・・・・・)
睾丸に加えられる鈍く重い痛みが、自分が男として完全に敗北したことを太助に思い知らせる。
生殺与奪を文字通り〝握られた〟のだ。
金玉が万力でじわじわと圧迫され、やがてひしゃげてしまうイメージが浮かぶ。
もちろんこれまでそんな経験をしたことはない。
(桜井はあるんだろうな・・・・・)
バラバラになった意識のピースの中にはそんな想像も含まれていた。
霞む視界に自分を破壊する男の姿が映る。
目の前にあるのはスキンヘッドの頭頂部。
剥きだしにされた頭皮というのは、なんと卑猥なものだろう。
頭蓋の形を正確に再現する皮膚の艶めかしさ、まるで精液を吹き出しそうな毛穴の動物性。
(コイツが・・・・この男が・・・・俺を負かす男・・・・・)
肛門にめり込む太い指が荒々しく肉壁を刺激する。
男に征服された屈辱により、自意識がバラバラに解体され別のものに再構築された。
快感・・・・!?
もともと地下プロレスラーというものは雄の性を最大限に強調し、その美しさを見せつけるために容易に勃起する体質になっている。
男同士の肉体をぶつけ合い擦りつけ合い互いを打ち負かそうという行為は、実は性行為と紙一重であるという真実をプロレスという形で再現する。
それが、プロの地下レスラーの役割であり存在価値なのだ。
ならば今太助がグドーの攻めにより興奮を覚えるのは不自然なことではない。
だが・・・・、これは違う・・・・・。
これは性行為ではない。
捕食者と被食者の関係だ。
俺は食われる・・・・・・
弱肉強食の野性の世界でついに自分より強靭な獣にとどめの牙を立てられる瞬間、すべての雄は射精するのではないだろうか?
それは種の保存のための本能発動なのではなく、まさに性欲そのものの究極の姿なのではなかろうか?
強い雄に食われる快感・・・・
太助の朦朧とした思考はとりとめなく彷徨いつつも、ひとつの真実にたどり着こうとしていた。
それは終焉が近い印だった。
紫の布から立ち上る雄の臭気。
それは藤堂にはもはや可視のものになっていた。
誰よりも強い、という藤堂の男としてのアイデンティティーを粉々に砕いた男のショートタイツから発生する紫色の靄が、鼻孔より侵入し脳髄を痺れさせている。
その布が包んでいた下半身の完璧さがありありと蘇る。
「ぬんぅおぅおあおおおーーーーーっ!!!!!」
藤堂の再びの雄叫びに閉じそうになっていた太助の瞼が上がる。
紫色のショートタイツが藤堂の血管の浮く腕によってエキスパンダーのように引き伸ばされていた。
「いぐぉああぅおおおおおっ!!!!!!」
パセリ製のタイツは極薄で、しかも尋常でない収縮性と耐久性を備えている。
1メートル以上引き伸ばされても紫の布は破ける音ひとつ立てなかった。
藤堂の両腕が閉じると、タスキのように伸びていた布がショートタイツの形に何事もなかったように戻った。
「ふぅずわけるぬわーーーーーーーっ!!!!!!」
赤鬼のような形相の藤堂の両腕が再度いっぱいに広げられる。そして・・・・
バチッ!
風船がわれるような音を立て、ついに鮫島のタイツが真っ二つに引き裂かれた。
紫の布は藤堂の手を離れスローモーションで左右に散っていった。
「ぐふ・・・うう・・・はあ・・・・・・・・」
藤堂の片膝が崩れた。
たかが1枚のパンツを引き裂くのに全身全霊を傾けたのだ。
「か、勝った・・・・誘惑に・・・打ち勝った・・・・・」
うつむいていた藤堂の顔がキッと上がる。
煩悩から解き放たれた瞳が真っすぐにグドーを射抜く。
「俺は〝光の戦士〟だ。」
おーーーーーっ!!!!!
試合会場の超大型スクリーンで成り行きを見守っていた観客たちが一斉に歓喜の声を上げている。
黒いケツ割れ一丁で闇の戦士に啖呵を切る藤堂に、新たなTHPWのヒーロー誕生を確信したのだった。
太助を捕らえたまま憎々し気な表情で藤堂を見返すグドー。
グドーが感情を乱す場面は初めてだった。
「いいぞーっ藤堂ーっ!」「フラッシュ藤堂ーっ!」「フラーッシュ!」
「藤堂・・・・・・」
うるうる眼でモニターを見つめるのは長谷部だ。
「トードーちゃん・・・・・やぁーったねぇー・・・・・」
ラー医師がさっと新垣の視線を避けるように顔を逸らす。
新垣は何も声をかけず肩を震わすラーを見守った。
「でも・・・・まだ・・・まだ太助が・・・・・・」
桜井が隈の浮いた表情でつぶやく。
そう、藤堂が鮫島のタイツでオナニーしなかったというだけで、実は状況は何も変わっていないのだということに皆が気付いた。
「くぬう・・・!小癪な!折角極楽への道案内をしてやったのにこの愚か者が・・・!」
グドーが太助の身体を持ち上げた。
もはや完全に宙に浮いている。
当然、急所と肛門、首に全体重がかかる。
「ならばコヤツを昇天させるまで!愚かな偽善者はシンユウの最期を見届けて地獄に落ちるがいい!」
グドーの左手に力が籠められる。
オレンジタイツに覆われた太助の睾丸が指の力によって変形するのが見えるようだ。
「ぐぎゃぁあおぅあああああっ!!!!!」
涎と血をまき散らし太助が絶叫する。
肛門に刺さった中指がマシンのように小刻みに振動している。
「んふぅおっ・・・・んぐあっ・・・・・ぐぎっ・・・んぬぃあ・・・・・」
激痛と快感に引き裂かれる太助の身体が激しく痙攣し始める。
「太助ーーーーーっ!!!!!!」
金網に張り付いた藤堂が大声で叫ぶと、苦痛に歪み切った太助の表情が一瞬弛緩し、こちらを見た。
(藤堂・・・・ありがとう・・・・・だけど・・・俺は・・・俺はもう・・・・・・)
「スゥオモサンッ!!!!!」
グドーの咆哮とともにその左手がグシャッと握られた。
「ぐふっ・・・・・!」
「太助ーーーーーーっ!!!!!!」
金玉が握りつぶされる音を聞いた・・・・・
狂ったように喚く藤堂の脳裏の片隅に、一生取り去ることのできない染みができた。
力強く握られた左掌は太助の二つの睾丸を破壊すると同時に、中指によって前立腺に激烈な鉄槌を打ち込んでいた。
オレンジのタイツを突き破らん如くに怒張したマラから、夥しい雄汁が滲み出し流れ落ちていった。
白目を向き口元が緩み切った太助の顔は、一目で意識がないことが解かる。
「おおっ!なんという良いお顔!まさしく極楽往生されましたなっ!」
どどぴゅっと音を立て、グドーのハイレグ黒タイツの股間から真っ白な粘液が吹き出した。
黒タイツを通してもなお衰えぬ勢いで、玉砕坊主の精液は太助の股間まで飛んで行った。
「おおおっ!雄汁が混ざっていく!なんという神々しい光景だ・・・・」
グドーは太助をマットにに下すと左腕を外した。
「た・・・太助・・・・・!?」
涙で真っ赤になった眼で藤堂が見たものは、どう考えても〝変形〟したとしか思えない太助の股間の膨らみだった。
二つの玉が絶妙なバランスでタイツに収まり男らしい丸さを形作っていた太助の股間は・・・・
見るも無残な有様に藤堂は思わず眼を逸らした。
「コヤツは思った以上に上物の獲物だった。俺の日頃の行いが良いからかもしれん。」
「な、なんだと!ふざけるなっ!太助を離せ!」
「んん、そのつもりだったが気が変わった。此奴は俺が貰う。」
グドーは軽々と太助を担ぐと天井にまっすぐ上昇していった。
「浮遊の術だ。」
巨体を吊るワイヤーが思いっきり見えていたが今はツッコんでる場合ではない。
必死で金網をよじ登る藤堂だったがあっという間にグドーと太助の姿は天井の闇に消えていった。
「太助ーっ!!!!」
藤堂の絶叫が異様に高い天井に空しく吸い込まれていった。
どーっ!という会場の盛り上がりの音を背に全裸の緒方大輔が立っている。
田代誠二は無言で容器から出した赤いタイツを手渡した。
緒方も無言でそれを受け取り、両手で顔の前に広げた。
魔性の三角形。
ショートタイツ、競泳パンツ、ビキニ下着、雄の感性を持つ者の理性を狂わせる呪いの形状。
誠二の方からは引き裂かれたケツの部分が見える。
緒方はしばしタイツを見つめていた。
そして筋肉隆々の脚がついにタイツに通された。
ダークレッドの生地が伸ばされると向こうの景色が見えるほど薄いことが解かる。
それが皮膚と密着することで透過性がある程度軽減されるのだ。
一体どういう仕組みの生地なのか誠二には見当もつかなかった。
ぴしゃっと音を立て緒方のケツにタイツが張り付く。
装着が完了したのだ。
今度は裂かれたケツは誠二から見えない。
そのかわり、あの、決して記憶から薄れることのなかった男の膨らみが目の前にあった。
〝完璧なもっこり〟
誠二の両膝がガクガクと震えだす。
(ああっ・・・・緒方さん・・・・俺・・・・イキそう・・・・・・・・)
緒方はタイツの感触を確かめるようにあちこち触って確かめていた。
やがて緒方は両腕を静かに下し、天を仰いで両目を閉じた。
「黒杭大凱・・・・・・」
「えっ・・・・?」
驚く誠二の目の前で、緒方の筋肉が膨張し始めた、ように見えた。
それはまるで光を放っているような・・・・・
(ま、まさか・・・・げ、幻覚だ・・・・・)
必死で目をこする誠二にも絶対に現実だと認識できたもの、それは、
凄まじい勢いで膨張していく緒方の股間だった。
つづく
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感激です。
続きが気になってしょうがないけど、無理せずに頑張って下さい。
(エロも時々入れてもらえるとありがたいかな。)