太助の行方は杳として知れなかった。
玉砕坊主グドーとともに太助が消えた道場の天井には当然のように抜け道があった。
その抜け道は単に上階の廊下に通じていただけで、そこからの二人の動線をたどるための痕跡は何もなかった。
丹念な鑑識活動に加えて果ては警察犬まで出動したが手掛かりはつかめなかった。
(蛇の道は蛇、か・・・・・)
捜査を指揮したポリスマン向井のネイビーショートタイツのケツが憤りの皺をよせる。
警察が新たな捜査技術を獲得しても極道はすぐに対処方法を編み出してしまう。
永遠に続くイタチごっこだが、向井には極道が常に一歩先をいっているように感じてしまうのだった。
地下施設内での大規模捜査は打ち切られ、今はTHPWとBPPWのトップレベルでの交渉によって太助奪還の道を探るという方針が主流となっている。
だが黒杭嘉右衛門と鷲号会長が直接会談をもったという話は聞こえてこない。
どうやら黒杭組は交渉に応じる気などハナからないらしい。
(警察を舐めやがって。極道が・・・・・)
正義感に萌える警官プロレスラーである向井は単独で捜査を続けているのだった。
雄の欲望が創りだした〝地下宮殿〟とも言うべき広大な地下施設。
情念渦巻くその空間は複雑な男の心情そのままに異様に入り組んでいた。
しかも、おそらく太助が捕らわれているのは現在では使われなくなって久しい旧区画だ。
黒杭はいつのまにかこの区画を改造していたらしい。
新垣たちが必死で見つけた図面データもまったく役に立たなくなっていた。
もはや向井が頼れるのはカン。
警察官としてのカンだけではない。
雄の情念を嗅ぎ分け、突き止める、地下プロレスラーとしてのカンこそがこの状況では有効だと向井は信じていた。
(・・・・ここは臭う・・・・野郎の臭気がプンプンだぜ・・・・・・・・)
捜査を進めるうちにたどり着いたあるエリアに向井のアンテナが反応した。
薄暗い通路をさらに陰気にする左右の高い壁。
そこには延々とスプレーによる落書きがしてあった。
蔓?蔦?
ウネウネと伸びる曲線は無秩序で、そのとりとめのなさが有機物の繁殖を思わせる。
充分な採光の無い中では判然としないが、おそらく原色に近い色彩が用いられていると思われる。
どう考えてもまともな思考で描かれたとは思えない。
長い真っすぐな廊下の暗闇に閉ざされた果てまで、その奇怪な植物の〝アート〟が続く。
まるで廊下を歩く人間を、描いた本人の狂気にいざなうように。
芸術とは狂人の秩序であり、芸術のあるところには衆道の臭いが必ずある。
昇華された狂気は、運よく理解する者があれば芸術と呼ばれ、それを最初に理解する者は男色家である確率が高い。
たとえ異性愛者だったとしても、自分の本質の中に同性愛の片鱗も認められない人間に芸術など決して理解できない。
(だけどこれはちょっとぶっ飛びすぎだろ・・・・)
狂気の曲線に気分が悪くなってきた向井だった。
もう何フロア下ったろう。
タイツに無造作に突っ込まれた警察手帳には単独捜査の詳細を記してある。
だから藤堂たちのように迷ってしまうことはないが、一人きりでこのまま進むのはヤバい・・・・・
向井の危機管理能力がそう判断していた。
(一旦本部に戻って報告の後、応援とともに再突入、だな。)
向井は踵を返すと薄暗い通路を戻り始めた。
巨大な食虫植物から脱出するイメージが浮かぶ。
心なしか息苦しい。
現場では常に沈着冷静でいることを訓練された向井でさえ、この異様な環境下で情緒の安定を損ないつつあった。
進む先に人影を認めた時、向井はとうとう幻覚症状が出たのかと思った。
「職務熱心で結構なことだな。」
シルエットが言葉を発し、幻覚でないことが分かった。
鮫島周星だった。
「随分ご無沙汰なお人に意外なところでお目にかかれた。」
向井は皮肉をこめて若者に言った。
あの騒動の最中はもちろん、その後も姿を見かけなかった鮫島。
光の戦士の一員でありながらいまひとつ心根が読めない男。
向井は最初から鮫島を信用しきれていなかったのだ。
「普段からタイツ姿だって噂は本当なんだ。パンイチのお巡りさんか。笑える。」
「君こそ随分先鋭的なセンスじゃないか?」
鮫島もタイツ姿だった。
パープル地にゴールドの曲線が不規則にデザインされているショートタイツ。
絶妙にに股間を強調するカットはおそらくパセリ製、向井はそうにらんだ。
「新しいのできたんで慣らそうと思ってさ。」
不遜な笑顔が若者の黒い感情を透かして見せる。
「俺を付けてきたのか?」
小僧っ子に尾行されて気付かないはずはないと思いながらも向井は聞いた。
「ちがうちがう、そうじゃない~、ってオッサンのカラオケかよ。」
筋骨隆々の童顔が自分の言葉にゲラゲラ笑った。
「俺はアンタを待ってたんだよ。ダチと一緒にな。」
「ダチ?」
気配を感じて振り向くと、いきなりスプレーを噴射された。
「ぐわっ!」
両目の激痛に思わず蹲る向井。
その後頭部に鈍器が振り下ろされ、そこで向井の思考が途切れた。
光を放ちながら膨張する緒方の筋肉。
「スーパーサ○ヤ人・・・・・!?」
もちろんそれは興奮状態の誠二が脳内で作り上げた光景だったのだが、緒方の身体がデカくなったのは現実だった。
つま先から頭の天辺まで、ありとあらゆる随意筋に急激に血液が送り込まれる。
脳内を駆け巡るアドレナリンが、緒方の男としての機能を最大限に高めていた。
「ク・・・ロ・・・ク・・・イ・・・タ・・・イ・・・・ガーーーーっ!」
食いしばった歯から絞り出されるような唸り声。
緒方の両目がカッと見開いた。
黒杭の人間凶器の先端が、ケツにタイツの上からあてがわれた。
ゆっくりとケツ穴に向けて挿入がはじまった。
黒杭の巨大なマラがケツをメリメリとこじ開けていく。
タイツの生地が、ケツ穴に吸い込まれてゆく。
(おああ・・・・っ!ケツが!ケツのアナが・・・・っ!)
ついに黒杭の亀頭がタイツを突き破り、ケツの深淵にぶち込まれた。
(んぬおあああああっ!!!!!)
前立腺に直撃するインパクトに、自らの男根から雄汁が噴き出たのが解かった。
股間に目をやるとタイツの薄い生地で濾過された精液が、噴水のように溢れだしている。
2度目の射精にもかかわらず、夥しい量のザーメンだ。
「俺もイかせてもらうぜ。」
黒杭のスリーパーに再び力が込められ、逞しい腰が猛烈なピストンでケツを打ち付けてくる。
(んのおあああぅああああ!マラが・・・・黒杭のマラが・・・・俺のケツを・・・・・!!!)
下腹深遠部で何かが爆発した。
黒杭が果てたのだ。
(タ、種付けされた・・・・!?この・・・俺が・・・・・・!?)
大量の粘液が挿入されたままのケツ穴からあふれ出しているのが解かる。
「まだまだ!!」
黒杭のピストンは止まらない。
猛々しい獣の暴力的な勢いで腰がケツに打ち付けられる。
中出しされたザーメンが潤滑油となってケツを抉る。
自分より強い雄に征服された屈辱感が、心を粉々に砕いている。
バラバラになった自我は散り散りにはならずに点描画のようになって心を形作っている。
黒杭の逞しい腕に首を決められ、微細な心の破片が光を放ち始める。
(こ、これは快感なのか・・・・!?俺は・・・・男に陵辱されて感じているのか・・・・・!?)
オ・ガ・タ!オ・ガ・タ!オ・ガ・タ!・・・・・・・
観客席からの悲痛なコールが聞こえる。
フェンスの外に必死でゲキを飛ばしている長谷部と大岩。地下プロレスラーたち。
反対側のコーナーには暗黒仮面と不破、桐谷も見える。
VIP席にいるのは権田か?身を乗り出している。新垣が止めている。
こっちのVIP席は・・・黒杭組長。むかつくジジイだ。その隣には・・・・その隣は・・・・
オ・ガ・タ!オ・ガ・タ!オ・ガ・タ!オ・ガ・タ!オ・ガ・タ!オ・ガ・タ!
ああ皆が俺を応援している。俺は勝たなければ・・・・・俺は負けるわけには・・・・・・
「終わりだ、緒方大輔・・・・・ううっ!」
再びケツのボトムで大爆発が起きた。
前立腺で逆ビッグ・バンが起きたように全てがケツに吸い込まれ、またケツを中心に全ての世界が構築された。
(うあああああおおおおおおおおおぅおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!)
強烈すぎる快感とともに、マラから雄汁が迸るのを感じた。
永遠とも思える一瞬だった。ビリビリッ!
サイ○人の肉体を唯一覆っていた赤い布が千切れ飛んだ。
押さえつけられていた巨大な男根がブンッと音を立てタイツを誠二の方へ放り投げた。
タイツは誠二の顔面の上に着地した。
緒方の体温がまだ残っている。
誠二がミシンで塗った裂け目が再び引き裂かれ、また自分の元へ戻ってきた。
(また縫えってか・・・・・?)
「ぬおおおおおおおおっ!!!!!」
雄叫びとともに、緒方の男根の先端から白い粘液がエクトプラズムのように噴出した。
例によってスローモーションで弧を描いたそれは、当然のようにタイツを被った誠二の顔面を直撃した。
誠二が放心状態から覚めた時、緒方の姿はなかった。
千切れたタイツを被らされた上に顔射までされた誠二は、自分も射精していることにようやく気付いた。
下着代わりに穿いている競パンの中はぐちょぐちょだろう。
なにはともあれ、〝お守り〟がまた戻ってきたわけだ。
さらにパワーアップして・・・・・・
意識を取り戻した向井が倒れていたのはリングの上だった。
その空間にはリングしかなかった。
四方を壁に囲まれ、高い天井からリングのみを照らす照明がぶら下がっている。
「お目覚めっすね。お巡りさん。」
声の方向に首を上げると、ショートタイツ姿の男がコーナーにだらしなく寄りかかっていた。
サイドに金のラインが入った純白タイツ。
「だ、誰だ・・・お前は・・・・・?」
鈍痛の残る後頭部を抑えながら向井は立ち上がる。
「はーじめましてっすね。俺は不破晃司ってんですよ。以後お見知りおきを~。」
不破と名乗った男は坊主頭に複雑な模様の剃り込みを入れている。
白目と歯が黄色い。
「お前・・・ヤクやってるだろ?」
「さーすが!お巡りさん、もう絶好調っすよ~!」
不破は楽しくて仕方がないというようにケタケタ笑う。
向井の警察官としての正義感が燃え上がる。
「極道め!」
「慌てない慌てない。今から俺とサシで勝負させてやっから。まあまずは俺の作品を鑑賞してちょ。」
突如四方の壁がライトアップされた。
そこに描かれていたものは、巨大な花の内部・・・・・?
抽象的なデザインでありながら向井には咄嗟にそんなイメージが浮かんだ。
廊下の壁の蔦の中心部?
壁全体の背景は、奇怪な花弁を内部から見ているようだ。
ニョキニョキと床から延びる曲線は先端が丸く膨らんでいる。
複数の雄蕊が互いを牽制し、同時に誘い合っているような、現実にはあり得ない花。
「お巡りさん、気に入ってくれたかな?俺の苦心の作、〝花の間〟を。」
「花の間・・・・?」
不破の濁った眼球が毒々しい光を反射した。
「いくぜ・・・・!」
チンピラタイツが襲い掛かってきた。
つづく
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