100年に一度といわれる大型台風直撃で、都内全域が交通マヒに陥っていた。
にもかかわらず、THPW地下闘技場には全会員が詰めかけていた。
今夜の試合が、今後の地下プロレスの運命を大きく変えるかもしれず、観客にとってもその勝敗は、自身の性生活にかかわる重大事であった。
バズーカ緒方が勝った場合、これまで通り鷲号会長率いるTHPWが運営を続け、黒杭組は撤退することになる。
賭け試合に大金をつぎ込む必要はなくなり、雄同士の熱くエロい試合に純粋に向きあうことができるようになるだろう。
一方、緒方がメガ・バズーカ黒杭に敗れてしまったら・・・・
鷲号会長は更迭され、黒杭組長が後任となりブラックパイルが地下プロレスを支配する。
これまで以上にギャンブルの要素が強くなることは間違いなく、裏社会の影響を少なからず受けるだろう。
そうなればここは、プロレスを見ることで股間を熱くする男たちの楽園ではなくなるだろう。
観客のすべてが、緒方の勝利を祈っていた。
会場が突如真っ暗になった。
一斉に静まり返る観客。
ゴングが一定の間隔をおいて打ち鳴らされる。
厳かな宗教儀式が始まるかのようだ。
会場の隅にスポットライトが当てられ、その対角線上にも同じく光の柱が斜めに立った。
両選手の同時入場だ。
東の入口に緒方の姿が浮かび上がる。ほとんど間をおかず黒杭も現れた。
ゆっくりと歩を進める緒方。
グレーのパーカーをフードをすっぽりと被った状態で、表情は読み取れない。
赤いショートタイツの股間のふくらみが、今夜はより艶めかしく見える。
小さな布に収まりきらないケツの肉をブリブリさせながらリングに向かっていく。
対する黒杭はいつも通り全身迷彩服のいでたちだ。
非情な兵士が美しい顔の仮面をつけているようなアンバランスさが、なんとも不気味な雰囲気を醸し出している。
あの涼しげな容貌の正体は、実は残虐な人間兵器なのだと観客は皆知っている。
ふたりがリングインすると、会場の天井から巨大な鉄の覆いが下りてきた。
ガシーン!と物々しい音を立て鋼鉄製のフェンスが着地する。
リングは完全に「鉄のかご」の中に収まった。
レフェリーがいない「かご」には、緒方と黒杭のふたりだけだ。
ゴングの音が止み、会場に照明が戻ってきた。
カンカンカーン!試合開始のゴングが打ち鳴らされる。
コールもなくいきなり始まった試合に呆気にとられていた観客たちだったが、徐々に我に返り声援を送り始めた。
喧騒に息を吹き返したような会場の中心で、男と男が睨みあっていた。
「緒方大輔・・・とうとう貴様をグチャグチャにできるのだな。待ちわびていたぞ。」
「そっくり返すぜ。お前には他にも借りが多すぎてな。まとめて完済させてもらう。」
ジリジリと間合いを詰める両者。
緒方のいきなりのハイキックを皮切りに闘いが始まった。
さっと腰を落としキックをかわした黒杭は足払いを仕掛ける。
縄跳びを跳ぶようにひょいっとそれをかわした緒方はくるっと回ってローリングソバットを黒杭の顔面に決めた。
「おーーーーー!!!!」
大歓声に沸く観客席。
間髪いれず、キックの嵐を黒杭に浴びせる緒方。股間のタイツが内包物を抑えきれずゆさゆさと揺れる。
両腕でキックをガードする黒杭は、とうとうコーナーに追い詰められた。
「ぅおらっ!死ねーっ!」
緒方が信じられない跳躍力で宙に浮かんだかと思うと、次の瞬間豪快なドロップキックが黒杭の顔面に炸裂した。
黒杭の首がコーナーポストの上で大きくしなった。
「いいぞーっ!緒方ー!」「やっちまえー!」歓声がひときわ大きくなる。
緒方は黒杭の髪を掴み頭部を腕でロックした。そしてそのまま高速ブレーンバスターでリングに叩きつけた。
緒方の動きが速い。山での特訓は緒方を野生動物に近付けていた。
再び跳躍する緒方。
仰向けに倒れる黒杭の視界で緒方の姿がトップライトに溶け、猛烈な勢いで再び光の中から現れた。
ニードロップが黒杭の首に落とされていた。
冷徹にエグい攻撃を続ける緒方。その目は憎悪の炎に燃えていた。
「いいぞ!緒方さん!その調子!」
フェンスの外で大岩がゲキを飛ばす。
隣に立つ長谷部は厳しい顔でリングを睨んでいる。
(油断するなよ・・・・相手は怪物だ。)
車椅子でVIP席から観戦する権田もまた、固い表情を崩していなかった。
「あいつには少しもダメージになってないぞ。緒方、もっと非情になれ!」
車椅子から立ち上がらんばかりの権田を新垣が必死に止めている。
長谷部や権田の心配は、緒方にとって百も承知だった。
技が決まりすぎる。自分が攻めていながらも黒杭の余裕を感じて、緒方に焦りが生じ始めていた。
(なにか企んでいる・・・・・)
ブラックパイルの卑劣なやり口には散々な目にあってきた。
リング外を警戒する緒方。不破と暗黒仮面がフェンスの外に立っている。何か特別な動きは確認できない。
長谷部、大岩、客席の権田達、そしてその反対側のVIP席を視界にとらえた緒方の胸の内で爆発が起きた。
(大悟・・・!)
朝倉大悟が黒杭組長と並んで試合を見ている。
(そっち側にいるんだな・・・・・・・)
緒方の怒りがメラメラと燃え上がる。
黒杭に馬乗りになるとその顔面に拳を狂ったように打ちつけた。
「キサマは絶対許さねぇっ!!!!」
パンチの雨あられを両腕でガードしていた黒杭が、不意にブリッジの体制をとった。
その速さは尋常ではなかった。決して軽くはない緒方の体が前のめりに倒れる。
すかさず回転して立ちあがる緒方。振りかえった瞬間、思い掌底が緒方の胸にめり込んだ。
緒方の体はロープまで吹っ飛ばされ、大きくしなったロープは外側のフェンスにまで到達した。
ガシャーン!
フェンスにしこたま体を打ちつけられた緒方は、ロープの反動で跳ね返された。
待ち受けていたのは黒杭の膝だった。
鍛えあげられた腹筋にのめり込むひざ蹴り。
「ぐふっ・・・・」
胃の内容物が逆流し緒方の口から溢れる。
リングに這いつくばる緒方。
「聞くところによると、貴様は俺の遺伝子に学ぶため山籠りをしたそうじゃないか。」
黒杭のブーツが緒方の頭を踏みつけた。
「まったくの無駄だったようだな。失望したよ。もうちょっとはマシかと思っていた。」
ぐりぐりと頭を踏みつけられた緒方は、まだ立ち上がれなかった。
「さっさと終わらせよう。大悟も貴様の情けない姿を見てもつまらないだろうしな。」
「な、馴れ馴れしくよぶんじゃねぇ。」
「おやおや、この期に及んでまだ彼氏気取りか?大悟はとっくに俺の専用穴だぞ。」
黒杭のエルボードロップが背骨に落とされた。
「ぐはっ・・・・・・」
「ちなみに、外の連中は何もしないから安心しろ。貴様など俺一人で充分だ。」
黒杭は緒方の髪を掴んで無理やり立ちあがらせ、真っ逆さまに担ぎあげるとファルコンアローに緒方をマットに叩きつけた。
掴まれたタイツが腰骨のはるか上部まで引っ張られ、緒方の陰毛がはみ出している。
その状態でしばらく間を置き、緒方に屈辱を味あわせる黒杭。
地下プロレスではしょっちゅうチンポを出してるとは言え、このような状態で相手に陰部を晒されるのはやはり屈辱的だ。
「さて、貴様の最後の残虐ショーを客に見てもらおうじゃないか。」
黒杭は緒方の両足を抱えるとジャイアントスイングの要領でフェンスに叩きつけた。
ガシャーン!鋼鉄製の金網に緒方の皮膚が切り割かれる。
黒杭は足を持ったまま、コーナーを中心角にした反対の面に緒方を叩きつける。
ガシャーンッ!
地獄のスイングが何往復も繰り返された。
緒方はもはや頭部のガードさえとれず、その両腕はぶらーんと宙を泳いでいる。
上半身がみるみる血まみれになっていく。
「や、やめろーっ!」「殺す気か!」
客席から怒号が飛び交う。
「ふん・・・・」
黒杭は血まみれの緒方の体をリング中央に投げ捨てた。
「これくらいで終わりにはできないよな。スタア緒方さんの最期の試合だからな。特別サービスをしなきゃ。」
大の字に倒れ、虫の息の緒方。なんとか首をあげると、血に染まった視界に黒杭が見える。
黒杭は迷彩服のベルトを外していた。
上着のシャツを脱ぐと、まさに鋼の肉体が露わになった。
程よく日焼けしたその肉体は、男なら誰もが目を惹かれるであろう凶器のような体だった。
そして、迷彩ズボンが足元にストンと落ちた。
その下半身は・・・・
会場にいる全ての者の股間に衝撃を走らせたに違いない。
光沢のある薄い生地の漆黒のビキニタイツ。
その股間の盛り上がりはなんと形容したらいいだろう。
エロそのもの、人間の欲望を凝縮したようなモッコリだった・・・・・
ズボンを脱ぎ捨てた黒杭がゆっくりと緒方に向かって歩いてくる。
芸術作品とは違う、隠微を纏ったその肉体。
「グチャグチャにするぜ・・・・」
黒杭は緒方の股間を踏みつけた。
「半勃ちか?今にフル勃起で逝かせてやるからな。」
黒杭の逞しくエロいケツがVIP席から見える。
朝倉は胸が張り裂けそうになりながらリングの情景を見守っていた。
(大凱、もうやめてくれ・・・・・)
緒方は黒杭の異形の遺伝子に屈してしまうのか・・・
地下プロレスは暗黒社会に落ちてしまうのか・・・・
絶望の影が、嵐の気配も届かない地下深くの空間に充満し始めていた・・・・
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