東京都内は激しい嵐に見舞われていた。
交通機関はことごとくマヒし、都会の夜はいつもとは違った世界に変貌していた。
そんな暴れ狂う嵐の気配がまったく届かない地下施設のトレーニング・ルームで、緒方と朝倉は無言でうなだれていた。
どのくらいの時間、こうしていただろう。
緒方は意を決したように顔を上げ、朝倉を見た。
「大悟・・・・」
朝倉は床の一点を見つめたままだ。
「大悟、済まなかっ・・・・」
「なんで、謝るんだよっ!」
朝倉が顔を上げ、緒方の言葉を遮った。
「どうして大輔が謝らなきゃならないんだ。悪いのは俺の方なのに。」
「俺が大悟を助けられなかったから・・・」
「違う!そうじゃない。大輔が助けに来るまで持ちこたえられなかった俺が悪いんだ!」
対抗戦でメガ・バズーカ黒杭に犯され、2度までもイかされてしまった朝倉は、失神状態で担架に乗せられ、まる3日間地下施設の医療エリアで過ごしたのだった。
ようやく治療室を出た後も、彼は誰にも会おうとせず、自室に篭もりきりだった。
今夜、緒方の呼びかけにやっと応じ、二人が顔を合わせて話すのは何日ぶりだろう。
緒方は、朝倉を黒杭の魔手にかけさせてしまった自分の不甲斐なさに、烈しい自責の念に駆られていた。
(だが、大悟の負ってしまった傷の方がきっと深いんだ。大悟は自分の目の前で他の男に犯され果ててしまったことを痛恨の思いで噛み締めているんだ・・・・)
今すぐにでも朝倉を抱きしめ、傷ついた心と身体を癒してあげたかった。
緒方の腕が、朝倉の肩にそっと伸びてもう少しで触れようとした時、
「大輔・・・しばらく俺のことは放っといてくれ。」
急に立ち上がった朝倉は、トレーニング・ルームを出て行く直前一瞬だけ緒方と目を合わせ、
「すまない・・・大輔・・・・」
と小さく言うと廊下の闇に消えていった。
取り残された緒方は、朝倉の去った後の闇を見つめたまま、呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
「次のタイトル・マッチの結果で、、地下闘技場の実質的な運営権を決めるということでよろしいかな?」
THPWの上層部が一同に会した会議室で、黒杭嘉右衛門はふてぶてしい笑みを浮かべながら鷲号会長に詰め寄っていた。
理事としてこの場に出席している政治家や大企業の重役たちは、貝のように押し黙っている。
黒杭組の裏工作が功を奏しているのだった。
黒杭組長の横に立つ佐田の胸ポケットには、VIP席の暗がりで競パン一丁で自慰に耽る文部科学大臣、試合後のオークションでレスラーの脱いだタイツを大金で落札し、それを被ってもだえる宗教団体の教祖などが写った写真が束になって収められていた。
新支配人として会合に参加していた長谷部は、THPWが追い詰められてしまったという空気を痛いほど感じていた。
会長席で目を閉じ、無言を貫いていた鷲号会長の瞼が突如開いた。
「決断の時がきたようだな。」
ライディーン竜崎、地下プロレスの神・・・・
トレーニング・ルームに一人残された緒方は、壁の中央に飾られた逞しい男の写真にいつしか見入っていた。
完全無欠な必殺技を編み出し、その技に溺れた故にリングで命を落とした伝説のレスラー。
「どんな技だったんだ・・・?俺にその技を授けてくれ。ライディーン・・・・」
今の緒方の心は、メガ・バズーカ黒杭への憎悪ではち切れんばかりになっていた。
先輩のエンペラー権田は病院送りにされ、仲間の大岩は集団暴行を受け、かつての後輩の不破は洗脳され、そして・・・・そして大切な朝倉大悟をリングで陵辱されてしまった・・・・
「あいつを、地下プロレス最強の技で葬ることができたら・・・・!」
握り締めた拳に爪が突き刺さり血が流れ出していることにも気づかず、緒方はいつまでも写真をにらみ続けていた。
「・・・・・・・」
雷鳴の音・・・・?
深夜、自室のベッドでふと目を覚ました緒方は、たった今聞いたと感じた音に耳を澄ました。
(ここに外の音が届くわけないか・・・・)
一人で寝るベッドはやけに広く、寒々しかった。
朝倉が緒方の部屋に訪れることは、あれ以来一度もなかった。
胸を引き裂かれそうな寂寞感に飲み込まれそうになり、緒方は両頬をぴしゃっと張ると、立ち上がってキッチンに歩いて行った。
冷蔵庫からミネラル・ウォーターを出していると、また物音がした。
今度は気のせいではない。
(部屋の外・・・?)
自室のドアをそっと開け、外廊下の様子を伺う。
廊下の曲がり角を人影がよぎった。
(大悟・・・・?)
あのシルエットは大悟じゃなかったか?
緒方は急いで廊下を走り、角から人影のした方をのぞき見た。
(やっぱり大悟じゃないか!・・・・あの格好は、なんだ?!)
廊下を進んでゆく朝倉の後ろ姿は、白いリングシューズにニーパッド、白いショートタイツと、まるでこれから試合に臨むかのようだ。
緒方は何故か声をかけることができず、そのまま朝倉を尾けていった。
廊下を歩いていく試合姿の朝倉。
(この方向は・・・トレーニング・ルーム?)
緒方の推察通り、朝倉はトレーニングルームに入っていった。
(もしかしたら、大悟の気持ちが復調してきたのかもしれない・・・・)
深夜のトレーニング・ルームでタイツ姿で稽古することで、朝倉なりのリハビリを施そうとしているのか。
緒方は、自分も一緒に練習しようと、トレーニング・ルームのドアに手をかけた。
(いや・・・・今はやめておこう。)
朝倉も闇から抜け出そうと必死でもがいているのだ。
しばらくそっと見守るほうがいいだろう。
ドアに背を向け、立ち去ろうとした緒方の耳に信じられない声が聞こえた。
(・・・・・・!!!!な、なんだと・・・・・!!!!!)
今の声は、まさか、そんなはずはない・・・・・!!!!
トレーニング・ルームのドアを粗粗しく開け放った緒方の目に飛び込んできた光景は・・・・・!
「あ、あああ・・・ケツが熱い・・・スゲェ・・・ああああ・・・・」
白いショートタイツのケツの部分を捲り上げ、顕になったケツ穴に超極太の巨根を後背位でぶち込み、激しく腰を打ち付ける黒杭大凱と、自らも腰を振り白目を剥いて悶える朝倉の姿だった。
「おっと、これは思わぬギャラリーがお越しのようだ。」
あまりの衝撃に口もきけない緒方に、黒杭大凱は嘲るような笑を向けた。
「キサマの〝元〟恋人はリングでこんなふうにされるのが一番燃えるみたいだな。はははは!!!!」
朝倉大悟は自らの意思でここにきたのだ。
黒杭大凱に抱かれるために・・・・
「ぅあああああ!!!イク・・・・・イ、イク!!うっぐ・・・」
頭の中で核爆発が起きたようなショックに焦点もままならなくなった緒方の目に、純白のタイツ越しに飛び散る朝倉のザーメンが、スローモーションで映っていた・・・・・
つづく
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