〝悪魔の双生児〟タクヤとマサトのダブル・ブレーン・バスターがエンペラー権田の巨体を高々と持ち上げた。
当然、黒いショートタイツのサイドを掴んでいる。
最大限に伸ばされた薄い生地に、権田のイチモツが生々しく浮き上がる。
金玉が見えそうなほど鋭角に伸びたタイツの脇から陰毛が盛大にはみ出している。
地上のレスラーは陰毛処理をするが、地下レスラーはそんなとはしない。
少なくとも権田の陰毛は自然のままだった。
双子は権田の無様な姿を観客に鑑賞させるがごとく長い滞空時間をとった。
「オッサン、だいぶ頭に血が下がってきてるんじゃないか?」
「大丈夫。チンコに血が行くから頭にはあんまりまわってこないって。」
「そっか!淫乱オヤジだもんな。ゴンダさんは。」
一回り近く下の若造どもに小馬鹿にされても、いい返す気力もないほど権田は消耗していた。
パクパク開く口は酸素を取り込むのに必死で、虚ろな目の表情はまさに瀕死の魚だった。
お揃いの蛍光イエローのビキニタイツを履いたタクヤとマサトの肉体は、若さがはち切れそうなほど瑞々しく、輝いていた。
一方逆さに担ぎあげられている権田は肉体こそ逞しくビルドアップされているものの、精気が抜けたような表情のせいで非常に惨めに見えた。
「オッサン、チン毛丸見えー!スゲーみっともねーぞー!」
観客席から野次が飛ぶと、まわりからもゲタゲタと品のない笑い声が巻き起こった。
客席のその一画には、まるで漫画か昔の映画から出てきたような記号的なスタイルのチンピラどもが陣取っていた。
皆、客席のシートにはまともに座らず、背もたれに腰かけたり床に胡坐をかいたりしていた。
酒盛りをしているらしく、辺りにはビールやチューハイの缶が散乱し、つまみの乾きものや缶詰が散らかり放題になっている。
「男のチン毛なんて見せんなよー!Vラインのお手入れが雑なんじゃねーのー!?」
別のチンピラがスルメを咥えながら変な声色でおどける。
一層やかましい哄笑が沸き起こる。
かつてTHPWの王者として君臨し、まさに男が惚れる男であったエンペラー権田。
今や往時の威厳がかけらも残っていないことを象徴する光景だった。
チンピラどもの後方の席にひっそりと座っている昔ながらの会員たちは、権田のやられに興奮しながらも、以前のようにマスをかくこともできず、しかも場違いなタイミングの野次や笑い声のせいで試合に集中出来ずにいた。
もっとも、今の権田のやられは以前のような雄臭いやられではなく、ただの木偶のような味気なさをどうしても感じてしまう。
権田のやられがエロいのは、権田が強いからだ。
だが、最近の権田から「強さ」を感じることは難しい。
彼の試合は今日の2vs1のように常にハンディキャップ・マッチで、それでも最初の頃は果敢に立ち向かう権田の姿にグッとくる観客もいたが、そんなマッチメイクが何カ月も続くと流石の権田も心が折れてしまったようで、この頃は単なるサンドバッグのようになってしまっている。
しかも客席には、純粋に雄の闘いを楽しまない者どもがはびこるようになってしまった。
奴らの役割は会員に賭けをさせること。
一般会員は「THPW残留軍」にしか賭けられない。
負けることが解りきっている「残留軍」に賭けることを拒めば、チンピラの背後から黒いスーツの男たちが出てくる。
黒服に囲まれて、その後姿が見えなくなった会員がいるらしい・・・・
そんなうわさが一般会員の間にまことしやかにささやかれていた。
それでも脱会は許されない。
黒杭に乗っ取られたTHPWは、いやBPPWは会員たちにとって地獄になっていた。
そしてもちろんレスラーにとっても・・・・
長い長い滞空の末、権田の脳天が垂直落下式にリングに叩きつけられた。
頭頂部をバウンドさせて、リングにうつ伏せに放りだされるマッチョ・ボディー。
タクヤがぴくりとも動かない権田のタイツを腰から掴み引っ張り上げた。
今度はタイツの後ろが引き伸ばされ、逞しいケツの割れ目に黒い生地が紐のようになって食い込んだ。
「ぎゃー!男のケツなんか見たくない見たくない!」
「でもアイツいいケツしてんなー!ケツだけだったらオレ、ヤれるかも。」
「げっ!オマエそういう趣味ー!オレのは勘弁して~!」
ケツを押さえて大げさに身をよじるチンピラに、またも下卑た笑い声が沸き起こる。
そんな客席のことなど意にも介さず、タクヤが権田の首を太ももに挟む。
タクヤのパイルドライバーは、脱力した権田が倒立姿勢を取らなかったため、腰からくの字に折れ曲がったままで無理矢理敢行された。
若く野蛮な力は権田の首を不自然な角度でマットに叩きつけた。
タイツが褌のように食い込んだケツを晒した状態で、まったく動かない権田。
「ゴンダさん、もう失神しちゃったのー?」
タクヤに抱えられたままの筋肉男にマサトがため息をつく。
「こんな地味なフィニッシュじゃあお客さんが納得しないよ。」
ピシャッと音を立てて蛍光イエローのタイツの食い込みを直しながら、マサトが権田の足を持つ。
「オレ達もまだ不完全燃焼だしな。」
タクヤがニヤニヤしながら立ち上がる。
2人は権田の両足をそれぞれ持つと左右に立ち、股を思い切り開脚させた。
「ううっ・・・・」
2人掛かりの股裂きにうめき声を漏らす権田。
「おっ、まだ意識あるねえ。そうこなくっちゃ。」
リングの真ん中で、かつての王者が逆さになって大股開きを晒している。
前は陰毛がはみ出し、後ろはTバックのようにデカケツが顕わにされている。
以前の権田ならこんな状況下であっても屈辱をバネにしてさらなる闘志を奮い立たせただろうが、今の権田はマットから自分の股間を見上げて虚ろな視線を泳がせるだけだ。
「ゴンダさん美味しそうなカラダしてんだから、もっとアピールしてあげなきゃね。」
「そうそう、男らしさをウリにしてる奴の情けない姿はみんなの御馳走だから。」
悪魔の双生児の目が残虐な光を帯びる。
唐突に、キックの嵐が始まった。
双子は権田の足を持ったまま、筋肉野郎の身体のあらゆる箇所を蹴り、踏みにじった。
腹に膝がのめり込む。
リングシューズのつま先が背中に打ち付けられる。
顔面にストンピングされ鼻血を噴きだす元王者。
黄色い悪魔たちに攻められるがままにビクビクと揺れ続ける権田は、まさにマッチョの姿をした人形のようだった。
両腕はだらんとマットに投げだされ、もはや生死すら判断できかねるほど生体反応が伺えない。
「いやいや・・・・すげーね・・・・・ちょっと・・・・」
さすがのチンピラどもも、リング上のあまりに凄惨な光景に言葉を失っている。
狂ったように権田を蹴りつける双子の目は完全にイッてしまっていた。
若者にありがちな抽象的な鬱憤が噴き出したのか、生来の嗜虐性が発揮されているだけなのか、いずれにしても、この常軌を逸した暴力を止める者はいない。
チンピラの後方で固唾を呑んで試合を見ている会員たちは思った。
(権田がついに殺される・・・・・)
ふいに、リング上の動きが止まった。
しゃー・・・・・ぼたぼた・・・・
静寂に包まれた会場に、液体が滴るような音がする。
権田が失禁したのだ。
タイツ越しに垂れ流される尿が、真っ直ぐに血まみれの顔面に降り注ぐ。
尿と血が混ざりあった異様な水たまりが権田の頭を中心に広がっていく。
「ぎゃーっはっはっはっは!」
タクヤの笑い声が響き渡り、ついで観客席にもけたたましい喧騒が沸き起こった。
「ゴンダさん、芸がないね~!こんな時は射精ぐらいしろよ。生存本能とかなんとかよく言うじゃん。」
「いやいや、ゴンダさんはションベンだよ。大凱さんにお漏らしさせられてからクセになっちゃったんだろ。」
悪魔の双子は尊敬してやまない黒杭大凱に次いで権田を失禁に追い込んだことに興奮を抑えられないようだった。
目を覆うようなマジリンチに一時は静かになっていたチンピラ達も大騒ぎで悦んでいる。
もともと小便などの排泄物ネタは大好きなのだ。
後部座席の一般会員だけが、この元王者の失禁劇を荘厳な出来事として噛みしめていた。
タクヤとマサトが権田の足を離す。
バターンッと音を立てて、仰向けに大の字となった権田。
「タクヤ、オレ、ションベンしたい。」
「あっ、オレもかも。しちゃう?」
双子は蛍光イエローのショートタイツの脇から男根を取りだすと、ダウンした権田に照準を合わせた。
「ふんっ!」
シャーッ
一回り近く年下の若造に尿を振りかけられる元王者。
血まみれの顔面、盛り上がる大胸筋の先端にちょこんと突起する乳首、自らの失禁で濡れたタイツに尖る半勃起の男根、権田の身体のあらゆる部分に尿が降り注ぐ。
「ふうっ。スッキリしたぜ。さてどうする?」
マサトが陰茎をタイツに仕舞いながらタクヤに聞く。
「随分痛めつけたしな~。オレ、我を忘れちゃったもんな。」
タクヤが尿まみれの権田をつま先でつつきながら答える。
「もうやめるか。いいだろ。こんなとこで。」
「そうだな・・・・、あっいいこと思いついちゃった。」
タクヤの顔に底意地の悪い微笑みが浮かぶ。
「オッサンのションベンまみれのパンツ、顔にかぶせね?」
「いいね、いいね~!オマエやって。」
「オレかよ!まあ思いついたのは俺だしな。しゃーねーか。」
タクヤが恐る恐るといった手つきで、じっとりと濡れたタイツに手をかける。
会場の後部座席にどよめきが起こる。
プロレスラーの誇りとも言えるショートタイツを脱がせようという暴挙に、プロレスに男性性の究極を求める会員が反応したのだ。
「や、やめろーっ!」
ひとりが弱々しく、だがはっきりと抗議の声を上げた。
すると周りからも同じように声が上がり始めた。
「やめろ!やめろ!やめろ!・・・・・・」
双子の掟破りの行為に、これまで鬱憤を貯め込んでいた一般会員がついにキレたのだ。
抗議のコールを聞き、タクヤとマサトは面白そうに観客席を見回す。
いつもは一般客に威嚇の目を光らせているチンピラたちは、一般客のあまりの勢いに強張ったうすら笑いを浮かべることしかできない。
「ふん・・・生意気な。カモどもが・・・・」
タクヤが再び権田のタイツのサイドを掴んだ。
今度はしっかりと掴んでいる。
「脱がすぞっ!」
タクヤが手先に力を込めたその時、
「ちょっと待ったぁーっ!!!」
会場に凛とした声が響き渡る。
と、花道を赤いマントを翻して走ってくる男がいる。
男はリング手前で「とおっ!」と叫ぶとひらりとリングに飛び乗り、瞬く間にコーナーポストの先端に立ち上がった。
「力が正義ではない。性器が力だ!」
紺色のショートタイツ姿の男は不安定な足場にもかかわらずビシッとポーズをとった。
(キマッタ・・・・!)
そう、男はポリスマン向井こと向井卓だった。
向井は呆気にとられるタクヤとマサトを一瞥すると赤マントをひらりと脱ぎながら宙返りをした。
ほとんど音を立てずにリングに着地する向井。
「タイツはプロレスラーの命。それを剥ぎ取ろうとはふてえ野郎どもだ。この俺様が成敗してくれる!」
「オ、オマエなんだよ・・・・!?」
マサトが訳が解らないといった表情で聞く。
(よくぞ聞いてくれた!)
向井は心の中でほくそ笑んだ。
「この世の闇を明るく照らす御天道様の使者、ポリスマン向井だ!」
くるっと振りかえった向井のケツには黄色い「POLICE」のプリントだ。
(またまたキマッタ!)
さぞかし驚いただろうとタクヤとマサトを再び振り向くと、なんと双子は憐れむような目で向井を見ている。
(なんだコイツら・・・・もしや俺を警察だとは思っていないのか・・・?)
ならば、と向井はタイツの中からケーサツ手帳を取り出した。
控えおろう!という意味を込めたつもりだが双子の反応はイマイチだ。
(くっ・・・・これだからゴロツキは・・・・)
黒杭組の構成員であるタクヤとマサトにとって警察は天敵だ。だが、地下プロレスのリングでパンツから手帳を出されてもそれが警察手帳だとは俄かには想像しづらい。
双子が向井の思うようなリアクションをとれないのは無理もないのだが・・・・
御天道様の使者がダッシュで突進した。
タクヤにラリアットをかまし、間髪入れずドロップキックがマサトに炸裂した。
そのもの凄いスピードと破壊力に、ようやく客席が(こいつは只者ではない・・・・)と気付き始めた。
不意打ちの猛攻にたまらずリング外に逃げたタクヤとマサト。
「な、なんだー!?この野郎!ただで済むと思うなよ!」
怒りに目を血走らせた2人がリングに戻ろうとすると、会場の入り口から警察官の制服を着た男たちが大挙して入ってきた。
「なんだなんだ・・・・・・!?」
客席のチンピラ達は思わぬ場所で天敵の姿を見て、明らかに動揺している。
双子はあっという間に大人数の警察官によって取り押さえられた。
「ふっふっふっ!これは所謂ガサイレだ。賭博場開帳図利罪の現行犯だな!」
リング上で仁王立ちになった向井が勝ち誇ったように宣言する。
会場内のあらゆる人間が青ざめた。
「なーんて!ジョーク、ジョーク!そんな野暮なことは言わないよ。だが、今後一切賭けプロレスは禁じる!」
チンピラ達の一画からは不満の声が控え目に聞こえたが、とりあえず逮捕されないことに安堵すっるほうが勝ったらしく、概ね大人しい反応だった。
「ど、どういうことだよ!こ、こんなことしていいのかよ!」
タクヤとマサトが精一杯の虚勢を張って叫ぶ。
「それはこっちのセリフだ。この世界に誇る法治国家の中で、ここはあまりに無法地帯すぎる。」
強大な国家権力を後ろ盾に、ネイビーのビキニパンツの男がやれやれといった感じでため息をつく。
「クソッ!」
双子は怒りに顔を真っ赤にして会場を出て行った。
担架がリングに運び込まれ、半失神の権田が乗せられた。
「権田さん、今までご苦労掛けました。大変な状況でよく頑張って下さいました。」
向井が権田の手を握る。
運び出される権田のタイツの膨らみを最後にそっと握り、向井は担架を見送った。
(もう奴らの好きにはさせませんよ。権田さん、一緒に闘いましょう。)
向井は心の中で呟くと、タイツに触れた手を嗅いだ。
(ションベン臭え・・・・・・)
「どういうことじゃ?」
地下施設に新たに作られた組長室の豪華なソファに座る黒杭嘉右衛門は、大画面モニターで会場での一部始終を見ていた。
「なぜワシのシマに警察が入り込んでおるのじゃ?」
直立不動の佐田は口をパクパクさせて大汗をかいている。
役に立たない支配人に鋭い一瞥をくれると、黒杭組長はモニター画面に目を戻した。
「鷲号が動いておるようじゃな。そしてあの男も・・・・・・・・」
老人は立ち上がると、支配人に命じた。
「鷲号をここに呼べ。」
はっ!と小声で答えると佐田は逃げるように会長室を出て行った。
「因縁・・・・・なのじゃな・・・・・・・」
黒杭嘉右衛門は目を閉じると、そっと股間に手をやり、何十年も「男」になっていない男根をそっと揉んだ。
つづく
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なってしまいましたね。
前回が王者からの転落だとしたら、今回の失禁は
どん底への転落って感じが…。
ファンも帰ってから泣きながら
マスかいてたんじゃないかと思うと
感慨深いですね。