深夜の港湾の倉庫群。
田代誠二はため息をつきながら懐中電灯を振りまわしていた。
「あ~あ、まだ2時か・・・・」
交代の時間まで1時間以上ある。
誠二は警備員のアルバイトの勤務中なのであった。
地下プロレスがブラック・パイルの支配下に落ち、新会長の黒杭嘉右衛門から新しい会員規約が伝えられた。
まず誠二が凍りついたのは会費の値上げであった。これまでの3倍以上になっている。
「今までだってなんとかやりくりして捻出してたのに・・・・」
しかも会場では強制的な賭け金徴収がある。きっとこれまで以上に取り立てられるのだろう。
ごく普通の会社員の誠二には痛すぎる状況だった。
こうして週末の深夜に倉庫の警備をしているのはそのためだった。
「脱会は無理っぽいもんな~。あ~あ・・・・」
誠二の個人情報は完璧に黒杭組に押さえられていて、すでに脅迫じみた通達も送られてきている。
この暗黒の生活が決定づけられたあの夜・・・・
緒方大輔が黒杭大凱に完膚無きまでに敗北させられたあの夜・・・・
その夜に思いを巡らせるとたちまち誠二の股間はむくむくと勃ってくる。
「ふう・・・これだもの。結局、僕は地下プロレスと一蓮托生ってことなんだな・・・・・」
コツコツと安全靴の音を立て、誠二は倉庫群の巡回に戻った。
頭の中では、あの夜全ての観客を絶望の淵に叩き込み、そして全ての観客に生涯忘れられないエクスタシーをもたらした緒方敗北劇を反芻しながら・・・・・・
鋼鉄製のフェンスが天井に上がりきると、不破と桐谷、そして暗黒仮面がリングに駆け込んだ。
「な、何をする気だ!」
長谷部と大岩が血相を変えて叫ぶが、夥しい数の黒杭組構成員に阻まれリングに上れない。
リング下でTHPWのレスラー達と構成員の乱闘が始まる。
バーンッーー!!!!!!!
鼓膜をつんざくような轟音で、男たちの動きが止まる。
リング上にはいつの間にか黒杭組長が立っていた。
その手には真っ黒に光る拳銃が握られている。リングのマットに黒々と穴が開き煙を上げている。
「静かにせんか。これから堕ちた英雄の凌辱の締めくくりが始まるのだ。」
暗黒仮面が失神してリングに倒れる緒方の髪を掴み羽交い絞めにして立ち上がらせる。
不破がペットボトルの液体を緒方の頭にかけた。
「はいはい、お目覚めの時間ですよ。緒方先輩。」
水をかけながら緒方の頬をピシピシと張る。
「っ・・・・・・・」
緒方が意識を取り戻した。
と、突然股間に重い衝撃が襲った。
桐谷のパンチが急所をえぐっていた。
暗黒仮面に取り押さえられ、腰を折ることもできない緒方の金玉に今度は不破のひざ蹴りがのめり込む。
「ぐは・・・・・」
再び失神した緒方を暗黒仮面がリフトアップし、コーナーポストに叩きつけるように投げ捨てた。
ボロ雑巾のようにひしゃげた姿勢で緒方がリングに墜落する。
緒方が3人にいいように暴行される様を、黒杭〝父子〟は静かな微笑みで見守っている。
「や、やめろー!!!!殺す気かーっ!!!!!!」
長谷部が涙で目を真っ赤にしてリング下で叫んでいる。
「おやおや、敗けて命があるとおもってたのかな。なんと呑気な。」
黒杭華衛門の残忍な笑みを見て、大岩の血の気が引く。
タイツの前から後ろから激闘の残滓である精液を滴らせながら、緒方が蹂躙されている。
虚ろな目はもはや焦点を結んでいない。
「ごくろうさん。そろそろたまっているものをスッキリさせたらどうだ。」
大凱が微笑む。
「はぁはぁ・・・そうっすか?じゃ、遠慮なく。俺もう我慢の限界かも・・・・・」
息を弾ませた不破が迷彩ボクサーからチンポを取り出した。
暗黒仮面と桐谷もいやらしい笑みを浮かべながら下半身を露出させる。
観客は、自分たちのヒーローがズタボロに凌辱される光景にショックで声も出せずにいた。
だが、同時に緒方が堕ちれば堕ちるほどいきり立つ己の男根を制御できず、混乱でパニックに陥りそうな自分を、リングを凝視し続けることでかろうじて保っていた。
リングでは、後ろから不破、前から暗黒仮面の男根を2本同時にケツ穴にねじ込まれ、暗黒仮面の肩の上の桐谷のチンポを口にぶち込まれた悲愴なヒーローの姿があった。
それは奇怪で淫靡なオブジェのように、湯気を放ち、蠢いていた。
3人が果て、それぞれのイチモツを引き抜くと、どさっと緒方がリング状に倒れた。
「さて、最期の儀式を執り行うとしよう。」
大凱が合図をすると、天井からするするとチェーンが下りてきた。
不破たち3人がチェーンの先端を緒方の腕に巻きつけ固定する。
再びの合図でチェーンが巻き上げられ、緒方の足がリングから浮くか浮かないかのところで停止した。
大凱が緒方の背後に立つ。
「これまでTHPWを応援してくださった皆様に、きちんと時代が変わることを理解していただかなければならないだろ。
緒方。」
黒いタイツから大凱のモノが取り出され、再び緒方のケツ穴に挿入された。
凌辱の限りを尽くされた緒方のケツ穴は、もはやまったく締まりなく、にゅるっと挿入が完了した。
「貴様の象徴を葬り去る。」
大凱は緒方のタイツのサイドを掴むと猛烈にピストン運動し始めた。
緒方のタイツが後ろ上方に限界まで引っ張られ、睾丸、陰茎、亀頭がタイツ越しにくっきりと浮かび上がる。
大凱は犯しながらタイツを破り取ろうとしていた。
緒方の戦闘スーツ、強い英雄の象徴とも言える赤いタイツを、もっとも屈辱的に破壊することで、ヒーローの最期を観客に決定的に知らしめようというのだ。
「あぁ・・・・・・」
緒方から呻き声が漏れる。
本当の最期が近いことを知り、自分より強い雄に征服された屈辱がマックスとなり、緒方のチンポが最大限に勃起していた。
「ぅおらーーーーーっ!」
大凱の息も乱れ絶頂が近いことを示していた。
ビリビリ・・・・・
タイツの布が限界の音を立てる。
「あ、ああ・・・・あああ・・・・・」
「おらーっ、イクぞーっ!!!!あああ!!!!!」
大凱が射精した。
緒方の目が虚空の一点に焦点を結び、一瞬光ったかと思うと、白眼になった。
「うっ!」
緒方が射精し、すでに染みだらけのタイツからザーメンがほとばしった。
ビリッ!!!!
その瞬間タイツの右サイドが音を立てて裂け、精液を噴射する緒方の男根が露わになった。
地下プロレスの勇者、バズーカ緒方、緒方大輔はこうして敗れ去った。
「緒方はもう生きてないのかな・・・・・」
巡回に集中できない田代誠二は緒方の安否に思いをはせる。
あの後チェーンでグルグル巻きにされ運ばれていった緒方。
大岩もその後緒方に会うことはできていないのだと言っていた。
大岩瞬といい関係になった誠二は頻繁にメールをやり取りしていた。
色々考えたけど、俺は地下プロレスラーとして残ることにした。
いつかブラック・パイルを倒せるように頑張るよ!
元気なメールとは裏腹に、大岩のおかれた立場はそうとうキツイに違いない。
大岩の仲間の長谷部は清掃員として地下に残ることになったということだ。
誠二は大岩の力になれることは何でもしようと心に決めていた。
「いい気味だ・・・・」
大岩が珍しく毒のあることを言っていたのは、緒方の元恋人、朝倉大悟のことだ。
朝倉は黒杭の恋人になったのだと思っていたけど、どうやら黒杭のほうはそんなつもりは毛頭なかったらしい。
先日アメリカから「本命」がやってきたのだという。
当然、朝倉は捨てられるのかというとそうではなく、妾状態にされるらしい。
レスラーとしても復帰させられるそうなので、「俺と当たったら、痛い目にあわせてやる。」と大岩が息巻いていた。
それにしても緒方はなんて不幸な男なんだろう。
恋人を取られて、恋敵にプロレスで負けて、しかもその恋人はぞんざいに扱われて・・・・
「死んでも死にきれないな。」
口に出してみて緒方が死んでいることが前提になっている自分に驚く。
真夜中の埠頭は真っ暗だ。
ふと、先日見たDVDを思い出す。
深夜の倉庫警備員が遭遇する恐怖の体験。
ぶるぶるっ
大岩は首を激しく振ると、考えを頭から追い出そうとした。
ガタンッ
(な、なんだ今の音は・・・・・・)
海側の護岸の方から聞こえたようだ。
警備の職務を思い出し、誠二はそろそろと音のほうに向かっていった。
(・・・・・・!)
人の声が聞こえる。
護岸の上部から下を覗くと・・・・
(げっ!)
5,6人の男たち。
その中央にドラム缶。
男たちはそのドラム缶にせっせとセメントらしきものをシャベルで入れていた。
そしてそのドラム缶には、なんと人が入っているではないか。
(映画かよ!ドラマかよ!いやいや現実っす!)
誠二は激しく動揺しながらも、妙に冷静な手つきでスマホをポケットから取り出すと110番した。
現場から少し離れ通報を終えると、マニュアル通りに警備会社にも連絡を入れ、警察の到着を待った。
再び護岸から下を覗くと、セメントは6割がたドラム缶に詰められている。
中の人は首のすぐ下までセメントに埋まっている。
(ああ、早く警察来てくれないと・・・・死んじゃうよ・・・・)
「これも入れてやれとボスからの命令だ。」
男の一人がなにやら布切れらしきものをひらひらさせている。
30秒ほど見守っていた誠二だったが、ドラム缶の中の人間がとうとう頭までセメントに埋まった時、耐えきれずに叫んだ。
「警察だ!」
男たちがぎょっとして顔を上げる。
するとタイミング良くパトカーのサイレン音が聞こえてきた。
蜘蛛の子を散らすように男たちが逃げ出す。
パトカーは広い埠頭で現場を見つけだせないのか、なかなかサイレン音が近付いてこない。
「やばいやばい、死んじゃうよ。」
誠二は矢も楯もたまらず護岸をつたって下に下りた。
ドラム缶を渾身の力で押したがびくともしない。近くに堕ちていた足場管で梃子をつかってドラム缶を倒すことに成功した。
ドシャーッ
固まっていないセメントと、人間が流れ出る。
手足を縛られた全裸の男が激しくせき込んでいる。
「え・・・・・!?」
誠二は男を見て驚いた。
「お、緒方・・・・緒方さんっすか!?」
コンクリ詰めで東京湾に沈められようとしていたのは緒方大輔だった。
「君は・・・・大岩と一緒にいた・・・・?」
「田代誠二です。」
誠二は緒方を縛る紐を苦労して解いた。
パトカーの音が近付いている。
「助けてくれてありがとう。すまないが俺は警察は苦手なんだ。」
緒方は誠二の手を一回強く握ると海に飛び込んだ。
我に返った誠二があたりを見回すと、赤い布が落ちている。
拾い上げるとショート・タイツだった。右サイドが裂けている。
「こ、これはあの時の・・・・・・・」
「おーい!通報したのはあなたですか!?」
警察の声に反射的にタイツをポケットにしまった誠二は振り向いた。
「そうです。僕です。」
誠二は警察にありのままを話したが、緒方や黒杭組のことは黙っていた。
大岩に連絡すると、
「緒方さん・・・・!生きていたんですね!」と号泣した。
タイツのことはなんとなく言う機会を逸して、まだ言っていない。
緒方の消息はその後まったく途絶えている。
あんな状態で無事に岸にたどり着けたか・・・・・
だが、誠二にはこの暗黒の状態の中で、緒方がどこかで生きているかもしれない、ということが唯一の希望である気がしていた。
体液の染みがついた緒方のタイツは、誠二の自宅の冷凍庫に保管されている。
レスラーズ・ハイ 完
読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。
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毎回楽しみにしていました。
次回作も期待しています。
緒方さんは最後の最後まで幸せになれなかったですね・・・。
もうちょっと彼に救いをあげてほしかったかも。
それと朝倉君が好みだったので、その行く末がたったの3行で終わったのはちょっと悲しかった(^^;